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3本物のサンタに会えるそうです
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「先生は、サンタって本当にいると思う?」
三つ子の長男、陸玖(りく)君が私たち先生陣に質問する。
同じような内容の質問は、以前にもされたことがある。「○○って本当にいるのか、存在するのか」という質問で、その丸に入る言葉が変わっているだけだ。以前、塾の生徒が、死神の存在について私たちに質問した。サンタはいないと思うが、死神は実際にいたので、もしかしたら、サンタもいるのかもしれない。人外の存在も、案外身近に潜んでいることがある。
「そうだねえ。先生の家にサンタは来たことがなかったから、今も昔も信じたことはないかな」
子供のころから、私の家にサンタが来たことはない。プレゼントなどサンタからもらったことがない。親がサンタのふりをしてくれなければ、サンタの存在を信じることはできない。親の努力がサンタを信じる、信じない論に分けるのだろうと思っている。
「私はいると思いますよ」
そう言ったのは車坂だが、死神である車坂なら、本物のサンタを見たことがありそうだ。人々の空想上の存在である死神が存在しているのだから、同じような空想上の存在のサンタも実在していてもおかしくはないともいえる。
「信じる者のところにサンタさんは来るのだと思いますよ」
最後に発言したのは、翼君だ。翼君は元々は普通の人間だったので、おそらく、この発言からすると、子供のころに親が努力していたのだろう。サンタを信じる派だったと推測する。
「車坂先生はサンタを信じているの?そんなの居るわけないじゃん。いたとしても、どう考えても、不法侵入するただの赤い服着たおじさんでしょ」
車坂の返答が気に入らなかったようだ。次男の海威(かい)君が話し出す。
「ちなみに僕たちは全員、サンタなんか信じていないよ」
『そうそう』
三つ子としての意見を述べたのは、三男の宙良(そら)君だ。彼らと過ごす時間が増え、三人の区別がつくようになってきた。気を抜くと、三人が誰が誰だかわからなくなる時はあるが、おおむねわかるようになった。
それにしても、自分で質問しておいて、三つ子たちはサンタを信じない派らしい。
「どうしてですか?」
車坂が興味深そうに三つ子に質問を返す。彼にとっては信じない方が不思議なことのようだ。
「そんなの決まっているよ。だって、クリスマスに全世界の子供にプレゼントを配るなんて芸当を、ただの赤い服を着たおじさんができるわけないからだよ」
「それに俺、もう見ちゃったんだ。親が俺たちの枕もとにプレゼントを置いているところ」
「それでもさ、もし本当にサンタがいたら、いいよな」
長男と次男がサンタを信じていない根拠を示しだす。しかし、三男はまだサンタを信じてはいないけれど、いて欲しいという願望はあるようだ。
「先生たちに話していいかわからないけど、まあ、学校の先生よりはいいかな。なんか、この塾の先生って、普通の大人と違うっていうか」
先ほどの質問はどうやら、本題に入る前の前ふりだったらしい。改めて長男の陸玖君が私たちに、本題のサンタについての噂を話してくれるようだ。
それにしても、普通の大人と違う。そんな言葉を言われてしまうと、苦笑いが出てしまう。彼らの言葉は的を射ている。この塾の先生三人すべて、明らかに普通の人間とは違う。そもそも、一人は人外で、もう一人もすでに死んでいる。そして私も………。
私が思考している間に、陸玖君の話が始まった。
「実は、学校で本物のサンタを見たっていう話が広まっているんだ。実際に本物のサンタを見たっていう子が増えているらしいけど、会うためには条件があるみたいで」
陸玖の話によると、十二月に入ったある日、一人のクラスメイトが、クラス中に本物のサンタに会ったという、自慢話をしていたらしい。当然、中学生になってまでサンタを信じている生徒は少なかった。三つ子たちは現在中学一年生。サンタを信じる生徒が減りだすだろう年ごろだ。
話はそれだけでは終わらなかった。二日後、今度は違う生徒がサンタを見たと言い出した。そこから伝染するように、クラス中でサンタを見たという生徒が増え始めた。何人ものクラスメイトがサンタを見たというので、自分たちも気になって、どうやったら本物のサンタに出会えるのか、サンタに出会った生徒に直接聞いてみたらしい。
「サンタに会うための条件は、『自分のスマホを持っている子』だった。ほら、僕たちは三つ子でお金がかかるでしょう。携帯なんて買ってもらえないし、ましてや個人のスマホなんて、三台も用意できない。だから、僕たちはサンタに会うことができない」
陸玖君の言葉を次男の海威君が引き継ぐ。陸玖君のクラスだけでなく、その噂は学年にとどまらず、中学校全体に広まっていた。
『ははは』
サンタと出会う条件を満たすことができず、自嘲気味に笑う三つ子。三つ子の話に、車坂と翼君は深刻そうな顔で何かを考えている。私には、ただの噂で、見たことがあるといっても、たまたま赤い服を着たひげ生やしたお爺さんを見たというだけだと思うのだが、スマホという言葉に引っかかりを覚えた。
「それで、君たちはまだ、そのサンタとやらに出会えていないということかな?」
「だって、会える条件がスマホ持っている人なんだから仕方ない」
「僕たちは会えないけど、先生たちなら会えそうじゃない?」
「先生たち、普通の大人と違って、子供っぽいところがたまにあるから、きっとサンタも子供だと思って会ってくれると思うよ」
じっと、三つ子に見つめられ、なんとなく三つ子の言いたいことわかった。きっと、私たちに噂のサンタに会って来いという、遠回しなお願いをしているのだろう。
「ふむ。では僕たちがその噂のサンタに、君たちの代わりに会ってきましょう。一人では信じてもらえないかもしれないので、一緒に行きましょうか、宇佐美先生」
「はい、車坂先生」
「も、もちろん、私も行きましょう」
なぜか乗り気になる二人に私も負けじと参加を表明する。
「わーい。ぜひ感想を聞かせて」
「先生って、案外ちょろいよね」
「面白い大人だよ」
「はいはい。では、休憩時間も終わりましたので、今からはまた集中してテキストに取り組んでくださいね」
夢中で話していて気付かなかったが、時計を見ると、ずいぶん長いこと話していたことに気付き、慌てて勉強に戻るように三つ子に伝える。
『はあい』
三つ子は素直にテキストとノートを広げて問題を解きだした。
ふと服の腰辺りを何かに引っ張られる感じがして、下を見ると、ゆきこちゃんが私の服の裾を引っ張っていた。
「私もサンタ会いたい」
目は興奮してギラギラしているのに、私の裾を引っ張る指は恐ろしく冷たかった。まるで、氷を触っているような冷たさだった。
外を見ると、雪が振りだしていた。
三つ子の長男、陸玖(りく)君が私たち先生陣に質問する。
同じような内容の質問は、以前にもされたことがある。「○○って本当にいるのか、存在するのか」という質問で、その丸に入る言葉が変わっているだけだ。以前、塾の生徒が、死神の存在について私たちに質問した。サンタはいないと思うが、死神は実際にいたので、もしかしたら、サンタもいるのかもしれない。人外の存在も、案外身近に潜んでいることがある。
「そうだねえ。先生の家にサンタは来たことがなかったから、今も昔も信じたことはないかな」
子供のころから、私の家にサンタが来たことはない。プレゼントなどサンタからもらったことがない。親がサンタのふりをしてくれなければ、サンタの存在を信じることはできない。親の努力がサンタを信じる、信じない論に分けるのだろうと思っている。
「私はいると思いますよ」
そう言ったのは車坂だが、死神である車坂なら、本物のサンタを見たことがありそうだ。人々の空想上の存在である死神が存在しているのだから、同じような空想上の存在のサンタも実在していてもおかしくはないともいえる。
「信じる者のところにサンタさんは来るのだと思いますよ」
最後に発言したのは、翼君だ。翼君は元々は普通の人間だったので、おそらく、この発言からすると、子供のころに親が努力していたのだろう。サンタを信じる派だったと推測する。
「車坂先生はサンタを信じているの?そんなの居るわけないじゃん。いたとしても、どう考えても、不法侵入するただの赤い服着たおじさんでしょ」
車坂の返答が気に入らなかったようだ。次男の海威(かい)君が話し出す。
「ちなみに僕たちは全員、サンタなんか信じていないよ」
『そうそう』
三つ子としての意見を述べたのは、三男の宙良(そら)君だ。彼らと過ごす時間が増え、三人の区別がつくようになってきた。気を抜くと、三人が誰が誰だかわからなくなる時はあるが、おおむねわかるようになった。
それにしても、自分で質問しておいて、三つ子たちはサンタを信じない派らしい。
「どうしてですか?」
車坂が興味深そうに三つ子に質問を返す。彼にとっては信じない方が不思議なことのようだ。
「そんなの決まっているよ。だって、クリスマスに全世界の子供にプレゼントを配るなんて芸当を、ただの赤い服を着たおじさんができるわけないからだよ」
「それに俺、もう見ちゃったんだ。親が俺たちの枕もとにプレゼントを置いているところ」
「それでもさ、もし本当にサンタがいたら、いいよな」
長男と次男がサンタを信じていない根拠を示しだす。しかし、三男はまだサンタを信じてはいないけれど、いて欲しいという願望はあるようだ。
「先生たちに話していいかわからないけど、まあ、学校の先生よりはいいかな。なんか、この塾の先生って、普通の大人と違うっていうか」
先ほどの質問はどうやら、本題に入る前の前ふりだったらしい。改めて長男の陸玖君が私たちに、本題のサンタについての噂を話してくれるようだ。
それにしても、普通の大人と違う。そんな言葉を言われてしまうと、苦笑いが出てしまう。彼らの言葉は的を射ている。この塾の先生三人すべて、明らかに普通の人間とは違う。そもそも、一人は人外で、もう一人もすでに死んでいる。そして私も………。
私が思考している間に、陸玖君の話が始まった。
「実は、学校で本物のサンタを見たっていう話が広まっているんだ。実際に本物のサンタを見たっていう子が増えているらしいけど、会うためには条件があるみたいで」
陸玖の話によると、十二月に入ったある日、一人のクラスメイトが、クラス中に本物のサンタに会ったという、自慢話をしていたらしい。当然、中学生になってまでサンタを信じている生徒は少なかった。三つ子たちは現在中学一年生。サンタを信じる生徒が減りだすだろう年ごろだ。
話はそれだけでは終わらなかった。二日後、今度は違う生徒がサンタを見たと言い出した。そこから伝染するように、クラス中でサンタを見たという生徒が増え始めた。何人ものクラスメイトがサンタを見たというので、自分たちも気になって、どうやったら本物のサンタに出会えるのか、サンタに出会った生徒に直接聞いてみたらしい。
「サンタに会うための条件は、『自分のスマホを持っている子』だった。ほら、僕たちは三つ子でお金がかかるでしょう。携帯なんて買ってもらえないし、ましてや個人のスマホなんて、三台も用意できない。だから、僕たちはサンタに会うことができない」
陸玖君の言葉を次男の海威君が引き継ぐ。陸玖君のクラスだけでなく、その噂は学年にとどまらず、中学校全体に広まっていた。
『ははは』
サンタと出会う条件を満たすことができず、自嘲気味に笑う三つ子。三つ子の話に、車坂と翼君は深刻そうな顔で何かを考えている。私には、ただの噂で、見たことがあるといっても、たまたま赤い服を着たひげ生やしたお爺さんを見たというだけだと思うのだが、スマホという言葉に引っかかりを覚えた。
「それで、君たちはまだ、そのサンタとやらに出会えていないということかな?」
「だって、会える条件がスマホ持っている人なんだから仕方ない」
「僕たちは会えないけど、先生たちなら会えそうじゃない?」
「先生たち、普通の大人と違って、子供っぽいところがたまにあるから、きっとサンタも子供だと思って会ってくれると思うよ」
じっと、三つ子に見つめられ、なんとなく三つ子の言いたいことわかった。きっと、私たちに噂のサンタに会って来いという、遠回しなお願いをしているのだろう。
「ふむ。では僕たちがその噂のサンタに、君たちの代わりに会ってきましょう。一人では信じてもらえないかもしれないので、一緒に行きましょうか、宇佐美先生」
「はい、車坂先生」
「も、もちろん、私も行きましょう」
なぜか乗り気になる二人に私も負けじと参加を表明する。
「わーい。ぜひ感想を聞かせて」
「先生って、案外ちょろいよね」
「面白い大人だよ」
「はいはい。では、休憩時間も終わりましたので、今からはまた集中してテキストに取り組んでくださいね」
夢中で話していて気付かなかったが、時計を見ると、ずいぶん長いこと話していたことに気付き、慌てて勉強に戻るように三つ子に伝える。
『はあい』
三つ子は素直にテキストとノートを広げて問題を解きだした。
ふと服の腰辺りを何かに引っ張られる感じがして、下を見ると、ゆきこちゃんが私の服の裾を引っ張っていた。
「私もサンタ会いたい」
目は興奮してギラギラしているのに、私の裾を引っ張る指は恐ろしく冷たかった。まるで、氷を触っているような冷たさだった。
外を見ると、雪が振りだしていた。
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