朔夜蒼紗の大学生活③~気まぐれ狐は人々を翻弄する~

折原さゆみ

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4クリスマスの予定を立てましょう

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「今日は、来たるべき、リア充たちのクリスマスの予定について話し合いましょう」

 大学につくなり、突然ジャスミンが言い出した。挨拶もなしに唐突に発された言葉がこれである。

 最近は、クリスマスが近いということもあり、サンタのコスプレをして以来、特に面白そうな衣装が見つからず、連日、真っ赤なトレーナーやパーカー、カーディガンに真っ赤なスカート。首元や袖元に白いもこもこをつけて、サンタもどきな格好をしていた。ジャスミンも私に合わせて、真っ赤な服装をしていたため、いつも通り周囲から明らかに浮いた存在だった。

 しかし、それも飽きてきたので、今日はクリスマスツリーにでもなりきろうと思って、緑のトレーナーに黄色や赤、青などの星をつけ、白いもこもこを斜めにつけた。下は茶色いズボン。頭には緑のニット帽をかぶり、てっぺんには黄色い星形のボンボンを縫い付けた。

「おはようございます。今日はクリスマスツリーですか。蒼紗さんは何を着ても似合いますね。それに比べて佐藤さんのド派手で悪趣味な服装は何ですか」

 綾崎さんは、挨拶とともに私に服装についての感想を述べる。褒められるのはうれしいが、大抵、ジャスミンの服装に対しての嫌味を言うこともセットで、素直に喜べない状況である。

 ちなみに、ジャスミンも私と同じようにクリスマスツリーをまねてきたのだとわかるのだが、綾崎さんの言う通り、ド派手だ。緑の色がまず、蛍光緑である。深い緑色なのがツリーのもみの木のイメージに合うと思うのだが、彼女にとっては違うようだ。とりあえず緑という部分しか合っていない気がする。その上に飾りと称して、これまたショッキングピンクやレモン色のスパンコールをぎらぎらとあしらっている。白い雪をイメージした飾りは首元の白いマフラーで表現しているのだろう。下は茶色のひざ丈までのスカートで、足元はひざ丈もあるブーツを履いていた。

「気にしたらいけませんよ。そういえば、綾崎さんはクリスマスをどのように過ごすおつもりですか?」

「私ですか、そうですねえ。いつもは友達と一緒にケーキを食べたり、プレゼント交換をしたりしていたのですが、今年は……」

「そうですか。私は………」



「ちょっと、人の話を無視して、話を進めないで頂戴!聞いているわよね、蒼紗!」

 ジャスミンを無視して、一限目の授業を受けるために、講義室に綾崎さんと向かっていると、大声で叫ばれた。

「おや、ジャスミンもいたのですか?あまりにも派手な服装と、よくわからない言葉を発ししていたので、つい他人のふりをして通り過ぎてしまいました」

「私も蒼紗さんと同意見です」

 私と綾崎さんの言葉にジャスミンは深いため息をつく。ジャスミンは私たちに追い付いて、私の隣に並んで歩きだす。

「蒼紗って、私に対して、結構辛らつよね。ところで、綾崎さん。私の格好についてだけど、悪趣味とはどういうことかしら」

「そのままの意味です。そんなものを着て、よく蒼紗さんの隣を歩くことができますね」

「誰かさんと違って、私は蒼紗の趣味を全面的に受け入れて一緒につき合うことにしているの。だから、これは蒼紗の隣にいるために必要な服装なの。それに比べて、綾崎さんはどうなのかしら?普通の凡人が普通の恰好をして、どうして蒼紗の隣にいられるのかが、私には不思議でならないわあ」

「なっ!」

 また、いつもの口げんかが始まってしまった。毎回、話題に挙げられて恥ずかしい思いをする私の身にもなって欲しい。しかも、その口喧嘩を止めるのは私自身なのだ。

「はいはい。そこまでですよ。ところで、クリスマスの予定が何とかと言っていましたが、私は予定がありますので、一緒に過ごすことはできません」


「クリスマスに、蒼紗に予定が!この私をさしおいて、誰と一緒にクリスマスを過ごそうというのかしら。正直に言っら、今なら許してあげるわ」

 私の言葉に、ジャスミンは食いついてきた。綾崎さんも食い入るように私に身を傾けて、必死に私の言葉を聞き逃すまいとしていた。

「なぜ、ジャスミンに許してもらわなければならないかわかりません。ジャスミンには彼氏がいたはずですよね。私とではなく、彼氏と一緒に過ごせばいいだけではないですか?恋人がいるのなら、優先順位は恋人がいちば」

「何をおいても、『蒼紗(さん)が一番』よ」

 なぜか、ジャスミンと綾崎さんの言葉が見事にはもりを見せた。実は仲がいいかもしれないなと思うのは、気のせいではないのかもしれない。


 ちらりと、スマホで時刻を確認すると、すでに授業が始まる五分前となっていた。これから受ける授業は、大学の正門から一番遠い場所に位置する大講義室だった。急がないと授業に遅れてしまう。

「あと五分で授業が始まりますよ」

 二人に声をかけると、返事を聞かずに走り始める。二人も慌てて私の後を追って走り出す。


「何とか間に合ったあ」

 授業が始まる一分前にやっと目的地の大講義室にたどりつくことができた。先生はまだ来ていないらしい。セーフである。一限目は、心理学の授業で、教養科目で他の学部の学生もたくさん受講していて、すでに空いている席は少なかったが、何とか空いている席を見つけ、仲良く三人並んで座ることができたのだった。





「それで、改めて聞くけど、蒼紗は一体誰と一緒にクリスマスを過ごす予定なのかしら?」

 一限目の授業が終わり、二時限目は空きコマだった私たちは、昼時ではない、ガラガラの食堂に居座っていた。

「ジャスミンに話す必要はありません。プライバシーの侵害で訴えますよ」

 ジャスミンが再度、クリスマスの予定、誰と過ごすのかを聞かれ、答えたくなかった私はそう答える。

「それでは、いったい蒼紗さんは誰と一緒にクリスマスを過ごすのですか。家族、もしや、こ、こ」

「だから、私のことはいいですから、皆さん適当に私以外のだれかと」



「すまないが、蒼紗は我と過ごすことになっているので、一緒に過ごすのは無理だな。あきらめてくれ」

 まったく、私のまわりには厄介なものが多すぎる。こと、大学に入ってからそれが発覚した。

「でたな。狐野郎」

「相変わらず口が悪いな。蛇女」

 私たちの前に現れたのは、九尾だった。たまに、気が向いた時に、私たちが通う大学に顔を出すようになった。今日は翼君や狼貴君も一緒だった。九尾の後ろにいた二人は申し訳なさそうにたたずんでいた。いつものケモミミ少年姿ではなく、三人とも青年姿で、もちろんケモミミも尻尾も生えていない。

 その場にいた綾崎さんは、九尾たちとは初対面だったようで、いきなり現れたイケメン男性に驚いて固まっていた。

「私はただ、クリスマスは家で過ごす予定だったのですが……」

「その案は却下だ。冬休みは我たちと西園寺桜華の地元の京都に行くことになっている。これは決定事項だ。冬休みに入ってすぐに出発する予定で、少し長居をするつもりだ。お主たちが蒼さとクリスマスを一緒に過ごすのは無理だな」



『はあ?』

 思わずこぼれ出た言葉を九尾に拾われてしまった。そんな話は一度も聞いていなかったので、ジャスミンや綾崎さんも驚いていたが、私も驚きだった。

「ということで、それだけを伝えに来たわけだが、いつ来ても、大学というものは若い奴が多くて、面白いところだ。帰るぞ、翼、狼貴」

 本当にそれだけを言いに来たのか、他に目的があったのかはわからないが、それだけを言うと、その場から去っていった。

「何やら、京都で不穏な動きがあるようなので、その様子を見に行くそうですよ。西園寺グループが倒産して、いろいろあったみたいですから、その後始末もかねてということらしいです。それに付き合って欲しいということですよ」

 去り際に、翼君が、九尾がいきなり京都に行くといった理由をこっそり教えてくれた。

九尾は、西園寺家から解放されるために、西園寺さんを殺したようなものだ。その時に、前の塾の上司で会った瀧も死んだ。その瀧のせいで、翼君や狼貴君、その他大勢の人が亡くなってしまった。その後に、死神やらもやってきて、いろいろ大変な目に遭ったのだ。

 西園寺という言葉を聞いて、いろいろ思い出していると、翼君が九尾に対しての複雑な感情を口にする。

「僕は九尾には恨みもありますが、今生きていられるのは九尾のおかげでもありますから、殺したいとは思えども、殺せない複雑な感情があります」

 翼君はそう言い残して、九尾たちの後を追って、その場からいなくなった。綾崎さんは九尾たちがどこのだれかをジャスミンに問い詰めていた。


 面倒事が起こりそうな冬休みは目前に迫っていた。
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