朔夜蒼紗の大学生活③~気まぐれ狐は人々を翻弄する~

折原さゆみ

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24予想外の来訪者

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「警察です。朔夜蒼紗さんのお宅でよろしいでしょうか」

 私は平穏に生きたいといつも言っているのに、神様はどうして、その些細な願いをかなえてくれないのか。近くに本物の神様がいるが、彼はかなえてくれなさそうなので、他の神様に願わずにはいられない。

「確かに、この家は私の家ですけど、警察の方が私の家に何の用事でしょうか?」


 このタイミングでインターホンが鳴ることに、嫌な予感しかしなかったが、インターホンの画面を見て、予感は確信に変わった。私自身に警察にお世話になるようなことをした覚えはない。そう思っていたが、一つ、私の罪を思い出す。

「ああ、でもこの特異体質がばれぬように、戸籍とかをいじらせてもらってはいますが」

 しかし、これは、私が一般人に溶け込んで生活するうえでやらなければならなかったことだ。私が市役所の人に能力を使って改ざんさせていたが、それがばれたとでも言うのだろうか。そんなことはありえないと思いつつも、それしか私の家に警察が来る理由が思いつかない。

 私は、どこぞの神様のように、人を殺すように他人をそそのかしてもいないし、他人に迷惑をかけた覚えもない。本当に何の用事で私の家を訪ねてきたのだろうか。いや、理由はなんとなくわかっていた。わかってはいたが、わからないふりをして警察の対応に当たることにした。

 とりあえず、見た目は警察の恰好をしているので、玄関で直接対応することにした。追い払ってもよかったが、いざとなれば能力を使ってお帰り願うこともできるので、用事が何かだけでも聞くことにした。玄関を出て、警察を名乗る男に自分が朔夜蒼紗だと説明する。

「あなたが朔夜蒼紗さんで間違いないですか」

「はい。私が本人ですけど」

「未成年監禁の罪で現行犯逮捕します」

「!」 

 声を上げる暇もなく、がしゃっと手首に手錠がかけられた。突然のことに戸惑い、動けないで警察官のなすがままにされていると、後ろからジャスミンと翼君が出てきた。幸い、翼君の姿はまだ、青年モードであり、大人として扱ってくれそうだ。


「待ってください。蒼紗がそんなことをするはずがありません!」

「そうです。それに現行犯逮捕といいますが、その未成年がこの場にいないではありませんか」

「それでは、家の中を確認してもよろしいでしょうか」

「それなら、逮捕状が……」

「面倒な奴だ。そんなものは我々には不要」

 いつの間にか、警察の数が増えていた。しかし、警察の服装をしているが、彼らは本物の警察だろうか。いきなり、数が増えているし、警察にしては、柄が悪い気がする。

「そこをどいてもらえますか。今から家宅捜査を始めます!」

 強引に私たちを押しのけて、部屋に入ろうとする警官たち。必死に押し戻そうとするが、数も多いし、何より、私たちよりガタイのいい奴ばかりで、彼らに圧し負けそうになった。






「あやつは本当に、容赦がないな。我を戻そうと躍起になっていると見える」

「九尾!」

「そう騒ぐでない。未成年を監禁とのことだが、この家に未成年の奴などいないぞ。探すのは結構だが、この家に踏み込んだ代償は高くつく。それでもいいのか」

 家に九尾がいることに驚いたが、さらなる驚きは、九尾が初めて見る姿をしていたことだ。いつものケモミミ少年ではないし、大学などに来る際に取っている青年の姿でもなかった。青年の姿をしていたが、白に近い金髪の髪を背中まで流し、背中からは名前の通りに九つに分かれた白い毛並みの尻尾が揺れていた。どうやら、あまり機嫌がよくないようだ。いつもへらへらと笑っている金色の瞳が笑っていない。

 九尾の姿に気圧されたのか、警官たちは、玄関に踏み込んでは来なかった。どうしようかと迷っている様子だったが、最終的に撤退を選んだようだ。しかし、最後に吐かれたセリフが私の心に突き刺さった。


「運がよかったな。そこの化け物め。だが、我々西園寺家から逃げ出せると思うなよ」

「ああ、お狐様。どうか、このような化け物のもとに居候なさらず、我々のもと、京都の西園寺家にお戻りください」

 一人が私を化け物呼ばわりし、もう一人も同じく私を化け物呼ばわりしていたが、九尾のことをお狐様と呼んでいた。それに、二人は西園寺家と言っていた。それはいったい……。


 西園寺家とかかわりがあるということがわかったが、それ以上のことはわからなかった。しかし、警察だと名乗った彼らが、本物ではなかったことは確かだった。去り際の言葉の他に決定的な証拠があった。

「消えた……」

 玄関から出ていった彼らを追いかけて、歩道に出たが、そこには人が誰もいなかった。いつもの道だった。誰も通っていない、静かな通りで、普段と変わらない道だけがあった。







 警察官らしき人々がいなくなったので、一安心かと思ったが、そうはいかなかった。その場にいたのが、私だけだったなら、特に問題視することはなかったのだろうが、その場にはジャスミンとゆきこちゃんがいた。

「ねねね、蒼紗。さっきのケモミミ美青年はもしかして……」

「尻尾ふさふさ!」

 ジャスミンもゆきこちゃんも九尾の姿に興味津々だ。恐れを知らないのか、二人は嬉しそうに九尾の尻尾を触っていた。さて、どう説明したらいいのだろうか。

「こら、我に気安く触るでない。これだから、この姿にはなりたくなかったのだ」

「話し方も声もあの狐だわ。それで、あの警官たちはいったいなんだったのかしら?」

「私も聞きたかったのですが……」


 ジャスミンが私の疑問を口にしてくれた。九尾はううんと悩むと、ジャスミンとゆきこちゃんの方を指さした。

「そこの二人に話すことはないだろう。とりあえずいったん、家に帰るがいい。雪娘の迎えも来たようだし、蛇女は、まあ、一人でも帰れるだろう」





「ピーンポーン」

またもや、インターホンが鳴る。玄関からリビングに戻っていた私たちだが、今度は一体誰だろうと、画面越しに来訪者を確認すると、今度の来訪者は雨水君だった。

「雨水です。そちらに雪子がいると聞いたので、迎えにきました」

「静流おにいしゃんだあ!」

 どたどたと雪子ちゃんが玄関にかけていく。慌てて私も後を追って、玄関を開ける。

「雪子、帰るぞ。悪いな、朔夜。結局、桜華が居なくなっても、迷惑ばかりかけている。落ち着いたら説明するが、今日は雪子を家に帰してやる必要がある」

「じゃあね。先生。また塾でお話ししようね!」

 雨水君は、私に会釈して雪子ちゃんの手を引いて、私の家から出ていった。残るはジャスミンだが、私の視線に気づくと、嫌そうに肩をすくめる。しかし、九尾も同じようにジャスミンを見つめていることに気付くと、ため息をついて、帰る支度を始めた。


「私をのけ者にするとはいい度胸をしてるけど、今日のところは帰ることにするわ。明日大学できっちりどういうことか説明してもらうから覚悟しなさい!」

 びしっと指を指されて宣言され、苦笑いを浮かべる私に、再度ため息をつき、ジャスミンも帰っていった。


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