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32ひとまず今日は休みましょう
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「ううん。あれ、ジャスミンのお姉ちゃんは?」
ジャスミンは帰っていったが、リビングにはゆきこちゃんが残っていた。ジャスミンを背もたれにして寝ていたが、ジャスミンが身動きできずに困っていたので、そっとソファに寝かせたのだった。
時計をちらりと見ると、すでに夜の九時を回っていた。ジャスミンたちが家に来てからかなりの時間が立ち、夜も更け、外は真っ暗である。ジャスミンの言う通り、家に帰った方がいい時間だった。とはいえ、一人で帰してよかっただろうか。ジャスミンとは言え、若い女性だ。不審者に遭遇して暴行されてはいないだろうか。大丈夫だとは思うが心配である。
「いや、心配は無用だ。お主もわかっているだろう?」
「わかってはいます。ジャスミンがその辺の不審者ごときに負けないことくらい。でも、夜道では何があるのかわかりません」
「はあ。主も存外、あの蛇娘を気に入っているということか。翼、主が心配らしいから、蛇娘が家に着くまでついてやれ」
「蒼紗さんが心配というなら、仕方ありません。では、家までの道のりを見守ってきます」
九尾に命令されて、翼君が、ジャスミンが家に帰るまでを見守ってくれることになった。姿を消す前の嫌そうな顔に少しだけ良心が傷んだが、それよりもジャスミンの安全の方が大事だったので、やらなくていいとは言えなかった。
「ジャスミンのお姉ちゃんは、帰っていったんだね。雪子も帰らなくちゃだけど……」
ゆきこちゃんのジャスミンの呼び方が面白いが、突っ込むことはしなかった。私も呼んでいるあだ名にお姉ちゃんがついているだけだ。それなのに、私以外の誰かがジャスミンと呼ぶのはなぜかしっくりこなかった。
「そういえば、ゆきこちゃんは、翼君、いや翼先生や九尾、狼貴君のことを普通ではない、変な人達だと思わないのですか?あるいは、彼らのことを疑問に思ったりしないのですか?」
ジャスミンの呼び方より、もっと重要なことを思い出す。ゆきこちゃんは何も言わなかったから気付かなかった。彼女は、九尾たちと一緒に逃げる際に空を飛んで帰ってきたり、九尾の本来の姿を見たりしていたはずだ。それなのにどうして何も疑問に思うようなそぶりを見せていないのだろうか。
「変な人ってどういう意味?普通にはない力を持っているというのなら、ゆきこも普通じゃないから、別になんとも思わないよ。むしろ、自分と一緒かなと思っているよ!」
当たり前のように九尾たちの存在を肯定しているゆきこちゃんに何と言っていいかわからなくなった私をみかねたのか、九尾がゆきこちゃんの帰りを促した。
「そこの雪娘は、狼貴、お前が送ってやれ。さすがに幼い娘を夜一人で帰らせるわけにはいくまい」
「わかった」
「お兄ちゃんがゆきこを家まで送ってくれるの?」
「そうですよ。お兄ちゃんの言うことをよく聞いて帰ってくださいね」
「はあい!」
こうして、ゆきこちゃんも狼貴君とともに家から出ていった。残されたのは、私と九尾と、車坂の三人だった。車坂は私たちがジャスミンやゆきこちゃんの帰りのことを話している間、ずっと無言だった。しかし、自分も帰った方がいいだろうと判断したのか、やっと口を開いた。
「皆さんお帰りのようなので、私も帰ろうかと思います。ですがその前に一つ忠告を」
「いつも忠告ばかりで、すでに一つ以上になっていて、何とも言えませんが、聞きましょう」
私の皮肉めいた言葉に介さず、車坂は真剣な表情で忠告を口にする。
「西園寺家と言っているあの男子ですが、もしかしたら九尾とおな」
「さっさと帰れ。死神。いろいろ報告せねばならないことが山積みだろう」
九尾が言葉を遮って強引に玄関まで追い出してしまった。
「では、これで私は失礼します。ああ、塾のシフトですが、しばらく、朔夜さんは休みにしておきました。今後の身の振り方を考える時間に充ててください」
別れ際、忠告をあきらめたのか、塾のシフトについて述べ、玄関から出ていく車坂だった。
「ということで、今日はもう遅い。我たちも休むとしようか」
私たちは、自分たちの部屋に向かい、寝る支度をした。自分の部屋に戻り、先ほどから車坂が私に伝えようとしていたことを考える。車坂は西園寺雅人の秘密を知っているようだった。その秘密は当然、九尾も知っているようだが、私には話したくないのだろう。車坂がその秘密を話そうとするたびに不自然に言葉を遮っていた。
「まさか、西園寺雅人は人間ではない、なんてことがあるのでしょうか?」
思わず出たつぶやきだが、これが本当だったとしたらただごとではない。そもそも、西園寺雅人は西園寺家の当主候補だった人間のはずだ。西園寺桜華が次期当主となることが決まっていたが、そうでなかったら、彼が当主候補になるはずだったと言っていた。人間ではないなんてことがあるわけがない。
何らかの能力を有していることは間違いない。しかし、それなら車坂の言葉を九尾が止める理由がわからない。
考えれば考えるだけわからなくなっていく。私は考えることを放棄した。今日はいろいろあって疲れている。今夜はしっかり休んでまた明日考えることにしよう。
ベッドに入り目を閉じると、すぐに眠気はやってきた。あっという間に眠りに落ち、次の日の朝、目覚ましが鳴るまで私は目を覚ますことなく、ぐっすりと寝ることができたのだった。
ジャスミンは帰っていったが、リビングにはゆきこちゃんが残っていた。ジャスミンを背もたれにして寝ていたが、ジャスミンが身動きできずに困っていたので、そっとソファに寝かせたのだった。
時計をちらりと見ると、すでに夜の九時を回っていた。ジャスミンたちが家に来てからかなりの時間が立ち、夜も更け、外は真っ暗である。ジャスミンの言う通り、家に帰った方がいい時間だった。とはいえ、一人で帰してよかっただろうか。ジャスミンとは言え、若い女性だ。不審者に遭遇して暴行されてはいないだろうか。大丈夫だとは思うが心配である。
「いや、心配は無用だ。お主もわかっているだろう?」
「わかってはいます。ジャスミンがその辺の不審者ごときに負けないことくらい。でも、夜道では何があるのかわかりません」
「はあ。主も存外、あの蛇娘を気に入っているということか。翼、主が心配らしいから、蛇娘が家に着くまでついてやれ」
「蒼紗さんが心配というなら、仕方ありません。では、家までの道のりを見守ってきます」
九尾に命令されて、翼君が、ジャスミンが家に帰るまでを見守ってくれることになった。姿を消す前の嫌そうな顔に少しだけ良心が傷んだが、それよりもジャスミンの安全の方が大事だったので、やらなくていいとは言えなかった。
「ジャスミンのお姉ちゃんは、帰っていったんだね。雪子も帰らなくちゃだけど……」
ゆきこちゃんのジャスミンの呼び方が面白いが、突っ込むことはしなかった。私も呼んでいるあだ名にお姉ちゃんがついているだけだ。それなのに、私以外の誰かがジャスミンと呼ぶのはなぜかしっくりこなかった。
「そういえば、ゆきこちゃんは、翼君、いや翼先生や九尾、狼貴君のことを普通ではない、変な人達だと思わないのですか?あるいは、彼らのことを疑問に思ったりしないのですか?」
ジャスミンの呼び方より、もっと重要なことを思い出す。ゆきこちゃんは何も言わなかったから気付かなかった。彼女は、九尾たちと一緒に逃げる際に空を飛んで帰ってきたり、九尾の本来の姿を見たりしていたはずだ。それなのにどうして何も疑問に思うようなそぶりを見せていないのだろうか。
「変な人ってどういう意味?普通にはない力を持っているというのなら、ゆきこも普通じゃないから、別になんとも思わないよ。むしろ、自分と一緒かなと思っているよ!」
当たり前のように九尾たちの存在を肯定しているゆきこちゃんに何と言っていいかわからなくなった私をみかねたのか、九尾がゆきこちゃんの帰りを促した。
「そこの雪娘は、狼貴、お前が送ってやれ。さすがに幼い娘を夜一人で帰らせるわけにはいくまい」
「わかった」
「お兄ちゃんがゆきこを家まで送ってくれるの?」
「そうですよ。お兄ちゃんの言うことをよく聞いて帰ってくださいね」
「はあい!」
こうして、ゆきこちゃんも狼貴君とともに家から出ていった。残されたのは、私と九尾と、車坂の三人だった。車坂は私たちがジャスミンやゆきこちゃんの帰りのことを話している間、ずっと無言だった。しかし、自分も帰った方がいいだろうと判断したのか、やっと口を開いた。
「皆さんお帰りのようなので、私も帰ろうかと思います。ですがその前に一つ忠告を」
「いつも忠告ばかりで、すでに一つ以上になっていて、何とも言えませんが、聞きましょう」
私の皮肉めいた言葉に介さず、車坂は真剣な表情で忠告を口にする。
「西園寺家と言っているあの男子ですが、もしかしたら九尾とおな」
「さっさと帰れ。死神。いろいろ報告せねばならないことが山積みだろう」
九尾が言葉を遮って強引に玄関まで追い出してしまった。
「では、これで私は失礼します。ああ、塾のシフトですが、しばらく、朔夜さんは休みにしておきました。今後の身の振り方を考える時間に充ててください」
別れ際、忠告をあきらめたのか、塾のシフトについて述べ、玄関から出ていく車坂だった。
「ということで、今日はもう遅い。我たちも休むとしようか」
私たちは、自分たちの部屋に向かい、寝る支度をした。自分の部屋に戻り、先ほどから車坂が私に伝えようとしていたことを考える。車坂は西園寺雅人の秘密を知っているようだった。その秘密は当然、九尾も知っているようだが、私には話したくないのだろう。車坂がその秘密を話そうとするたびに不自然に言葉を遮っていた。
「まさか、西園寺雅人は人間ではない、なんてことがあるのでしょうか?」
思わず出たつぶやきだが、これが本当だったとしたらただごとではない。そもそも、西園寺雅人は西園寺家の当主候補だった人間のはずだ。西園寺桜華が次期当主となることが決まっていたが、そうでなかったら、彼が当主候補になるはずだったと言っていた。人間ではないなんてことがあるわけがない。
何らかの能力を有していることは間違いない。しかし、それなら車坂の言葉を九尾が止める理由がわからない。
考えれば考えるだけわからなくなっていく。私は考えることを放棄した。今日はいろいろあって疲れている。今夜はしっかり休んでまた明日考えることにしよう。
ベッドに入り目を閉じると、すぐに眠気はやってきた。あっという間に眠りに落ち、次の日の朝、目覚ましが鳴るまで私は目を覚ますことなく、ぐっすりと寝ることができたのだった。
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