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33あっという間の一年でした
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「遅い!それに、相変わらず私服が地味!」
目覚ましが鳴ると同時に目を覚ましたはずの私だが、大学に到着したのは、授業が始まる五分前となってしまった。どうにも、西園寺雅人の正体が気になって、なかなか朝の支度が思うように進まず、気づけば家を出る時間を大幅に過ぎていたのだった。
当然、大学に到着したのが授業開始五分前だったので、更衣室で着替える時間がなかった。そのため、珍しく家を出たときの恰好のまま授業を受ける羽目になった。
授業がある講義室に滑り込みで入室すると、すでに席はいっぱいとなっていた。部屋の中をぐるりと見渡すと、ジャスミンが私に気付いて手を振ってくれた。急いでジャスミンの元に向かうと、私の分の席を取ってくれていたらしい。ジャスミンの隣の席が不自然に空いていたので、おそらくそういうことだろう。有り難く座らせてもらうことにした。
「お、おはようございます」
講義室まで走ってきたので、息切れしていたが、少し落ち着いてきた頃合いに朝の挨拶をすると、ジャスミンに開口一番に叱られた。
「心配しましたよ。大学内でコスプレをしていない蒼紗さんはなんだか新鮮ですね。珍しいです」
ジャスミンの隣一つ分の席を空けて、綾崎さんが座っていた。私はちょうど、ジャスミンと綾崎さんの間に位置する席に座っている。ジャスミンには叱られ、綾崎さんには心配された。
「すいません。ちょっと、考え事をしていたら朝の支度が遅れてしまって」
「でもまあ、今日はレポートの提出だけで終わりみたいだから、運がよかったじゃない?提出だけで授業はないみたいだからね」
一限目の授業は、心理学だった。この授業はテストがなく、レポートと、普段の出席率などで単位を決めるそうだ。今日がレポートの提出日だった。私が講義室に入室してジャスミンと綾崎さんの間の席に腰を下ろして一息ついたころ、教授が部屋に入ってきた。何とか授業に間に合ってほっとした。教授が前々から話していた通り、今日はレポートを提出した人から退室してよいことになっていた。私たちは出来上がったレポートを教授に渡して、すぐに講義室を後にした。他の学生もレポートを提出すると、私たちと同様に講義室を出ていった。
講義室を出て、私はすぐに更衣室に向かった。大学内ではコスプレをすると決めているので、今の自分の恰好ではダメなのだ。普段の私は他人から地味だと言われても仕方ない恰好をしていた。今日は、黒いタートルネックに灰色のパーカーを羽織り、下はジーンズ、靴はスニーカーで、化粧も最低限にしか施していない。ジャスミンの指摘通り、地味な格好である。
二人を更衣室の外で待たせて、急いで持ってきた服装に着替えていく。今日は私がコスプレ生活をするきっかけとなった西園寺桜華の再現をしようと思ってこれにした。着替えを終え、それに見合った化粧を施して更衣室を出る。珍しく言い争いをせず、ジャスミンと綾崎さんは私を待っていた。
「蒼紗さんにしては、ずいぶん露出が激しい服装ですね」
綾崎さんが今日の私の服装について言及する。ジャスミンは、私の服装が何を意味しているのか理解したのか、不機嫌そうな顔になる。
「ああ、これは原点回帰ですよ」
西園寺桜華に初めて会ったのは、大学の入学式だった。そのときに来ていた服装を再現したのが今日の服装だ。真っ赤なチャイナ服にはもちろん、きわどいほどのスリットが入っている。西園寺桜のようにスタイルよく、格好よく決めることはできないが、それでも個人的には見られる程度にはなっていると思っている。西園寺桜華は金髪だったので、私も今日は金髪のウイッグを被って髪型をお団子にしている。ただし、入学式とは違う点があった。
「耳と尻尾があるのは、彼女の本性というわけ?」
ジャスミンの鋭い指摘に私は苦笑する。彼女と違う点は、頭とお尻あたりに狐の耳と尻尾がついている点だ。髪色と同じ、金色の耳と尻尾をつけることにした。
「なにせ、私の大学生活は狐から始まったと言っても、過言ではないですから」
「狐ですか。蒼紗さんと狐って、合いますねえ。よく似合っていますよ!」
事情を知らない綾崎さんが私に感想を述べる。
「ありがとう」
綾崎さんに返事をして、そのまま次の授業がある講義室へ向かう。レポート提出だけで終わってしまったので、次の授業までには時間があるが、二時限目はテストだったので、早めに講義室に入り、テスト勉強をすることにした。
ジャスミンは、今日は彼女にしてはおとなしい色合いの服装だった。深い緑色の爬虫類のうろこのような模様が入ったパーカーに、下も同じようにうろこの模様が入った茶色いひざ下の長さのスカートをはいていた。彼女は自分自身を表現したかったのかもしれない。
綾崎さんは今もケモミミ尻尾を継続中のようで、今日はネズミのような丸い灰色の耳を頭に生やし、とひょろっとした細い尻尾がお尻のあたりから生えていた。しかし、全身をネズミ色にそろえるということはなく、耳と尻尾以外は普通の恰好だった。白い丸襟のブラウスにピンクのカーディガン、紺色のスカートを履いていた。
「では、テストを始めてください。テスト三十分後から退出可能です。三十分が経過したら、私が合図するので、終わった学生は前に来て提出して、それで今年度の授業は終わりとなります」
うっかりしていた。西園寺雅人の一件などにより、今の時期がテスト期間だということを失念していた。失念していたからといって、この単位を落とすわけにはいかなかった。
次の授業は駒沢が担当していた。必修ではないが、選択科目の中の一つだった。この単位を落としても構わないのだが、そうすると、来年以降の取得する単位を増やさなければならない。せっかく半期も授業を頑張ったのに、単位が取れないのは悔しい。駒沢の授業で落とすというのも、嫌だった。散々駒沢の誘いを拒否していて落とすとか、恥ずかしすぎる。
テスト用紙が配布され、駒沢がテスト開始を伝えた。私は問題文を読み進め、回答を考えていく。
「問一 あなたが一番興味のある妖怪、妖とは何か。妖怪の簡単な伝承と、あなたがそれに興味を持った理由、出来事、きっかけを述べなさい」
「問二 問一で答えた妖怪、妖について、妖伝承の三つの分類のどれに当てはまるのか答えよ。その理由について、具体例を用いて、説明せよ」
「問三 もし、自分が妖怪と呼ばれることになったさいに、自分が取り得る行動について述べよ。なお、妖怪という範囲は妖怪の個体名称でも、妖怪という大きなくくりでも構わない」
テストは記述形式の問題が三問あり、そのほかに、授業で習ったことに対して、穴埋めの問題が数問並んでいた。解答時間は授業時間と同じ九十分である。
テストの内容は授業で説明されていた。このテストは資料の持ち込みが可能であったため、こっそりと辺りを見渡すと、真剣に資料と睨み立っている学生、あらかじめ回答を作ってきた学生は一心不乱に持ち込んだ資料を解答用紙にうつしている。誰も彼もが必死にテストに向き合っていた。さて、私はというと……。
テストの準備を忘れていた。他の学生のように資料を持ってきていないし、事前に回答も用意していなかった。万事休す。単位を落として、駒沢の笑いの種になってしまうのか。それだけは避けたかった私は、必死で回答を模索していた。
目覚ましが鳴ると同時に目を覚ましたはずの私だが、大学に到着したのは、授業が始まる五分前となってしまった。どうにも、西園寺雅人の正体が気になって、なかなか朝の支度が思うように進まず、気づけば家を出る時間を大幅に過ぎていたのだった。
当然、大学に到着したのが授業開始五分前だったので、更衣室で着替える時間がなかった。そのため、珍しく家を出たときの恰好のまま授業を受ける羽目になった。
授業がある講義室に滑り込みで入室すると、すでに席はいっぱいとなっていた。部屋の中をぐるりと見渡すと、ジャスミンが私に気付いて手を振ってくれた。急いでジャスミンの元に向かうと、私の分の席を取ってくれていたらしい。ジャスミンの隣の席が不自然に空いていたので、おそらくそういうことだろう。有り難く座らせてもらうことにした。
「お、おはようございます」
講義室まで走ってきたので、息切れしていたが、少し落ち着いてきた頃合いに朝の挨拶をすると、ジャスミンに開口一番に叱られた。
「心配しましたよ。大学内でコスプレをしていない蒼紗さんはなんだか新鮮ですね。珍しいです」
ジャスミンの隣一つ分の席を空けて、綾崎さんが座っていた。私はちょうど、ジャスミンと綾崎さんの間に位置する席に座っている。ジャスミンには叱られ、綾崎さんには心配された。
「すいません。ちょっと、考え事をしていたら朝の支度が遅れてしまって」
「でもまあ、今日はレポートの提出だけで終わりみたいだから、運がよかったじゃない?提出だけで授業はないみたいだからね」
一限目の授業は、心理学だった。この授業はテストがなく、レポートと、普段の出席率などで単位を決めるそうだ。今日がレポートの提出日だった。私が講義室に入室してジャスミンと綾崎さんの間の席に腰を下ろして一息ついたころ、教授が部屋に入ってきた。何とか授業に間に合ってほっとした。教授が前々から話していた通り、今日はレポートを提出した人から退室してよいことになっていた。私たちは出来上がったレポートを教授に渡して、すぐに講義室を後にした。他の学生もレポートを提出すると、私たちと同様に講義室を出ていった。
講義室を出て、私はすぐに更衣室に向かった。大学内ではコスプレをすると決めているので、今の自分の恰好ではダメなのだ。普段の私は他人から地味だと言われても仕方ない恰好をしていた。今日は、黒いタートルネックに灰色のパーカーを羽織り、下はジーンズ、靴はスニーカーで、化粧も最低限にしか施していない。ジャスミンの指摘通り、地味な格好である。
二人を更衣室の外で待たせて、急いで持ってきた服装に着替えていく。今日は私がコスプレ生活をするきっかけとなった西園寺桜華の再現をしようと思ってこれにした。着替えを終え、それに見合った化粧を施して更衣室を出る。珍しく言い争いをせず、ジャスミンと綾崎さんは私を待っていた。
「蒼紗さんにしては、ずいぶん露出が激しい服装ですね」
綾崎さんが今日の私の服装について言及する。ジャスミンは、私の服装が何を意味しているのか理解したのか、不機嫌そうな顔になる。
「ああ、これは原点回帰ですよ」
西園寺桜華に初めて会ったのは、大学の入学式だった。そのときに来ていた服装を再現したのが今日の服装だ。真っ赤なチャイナ服にはもちろん、きわどいほどのスリットが入っている。西園寺桜のようにスタイルよく、格好よく決めることはできないが、それでも個人的には見られる程度にはなっていると思っている。西園寺桜華は金髪だったので、私も今日は金髪のウイッグを被って髪型をお団子にしている。ただし、入学式とは違う点があった。
「耳と尻尾があるのは、彼女の本性というわけ?」
ジャスミンの鋭い指摘に私は苦笑する。彼女と違う点は、頭とお尻あたりに狐の耳と尻尾がついている点だ。髪色と同じ、金色の耳と尻尾をつけることにした。
「なにせ、私の大学生活は狐から始まったと言っても、過言ではないですから」
「狐ですか。蒼紗さんと狐って、合いますねえ。よく似合っていますよ!」
事情を知らない綾崎さんが私に感想を述べる。
「ありがとう」
綾崎さんに返事をして、そのまま次の授業がある講義室へ向かう。レポート提出だけで終わってしまったので、次の授業までには時間があるが、二時限目はテストだったので、早めに講義室に入り、テスト勉強をすることにした。
ジャスミンは、今日は彼女にしてはおとなしい色合いの服装だった。深い緑色の爬虫類のうろこのような模様が入ったパーカーに、下も同じようにうろこの模様が入った茶色いひざ下の長さのスカートをはいていた。彼女は自分自身を表現したかったのかもしれない。
綾崎さんは今もケモミミ尻尾を継続中のようで、今日はネズミのような丸い灰色の耳を頭に生やし、とひょろっとした細い尻尾がお尻のあたりから生えていた。しかし、全身をネズミ色にそろえるということはなく、耳と尻尾以外は普通の恰好だった。白い丸襟のブラウスにピンクのカーディガン、紺色のスカートを履いていた。
「では、テストを始めてください。テスト三十分後から退出可能です。三十分が経過したら、私が合図するので、終わった学生は前に来て提出して、それで今年度の授業は終わりとなります」
うっかりしていた。西園寺雅人の一件などにより、今の時期がテスト期間だということを失念していた。失念していたからといって、この単位を落とすわけにはいかなかった。
次の授業は駒沢が担当していた。必修ではないが、選択科目の中の一つだった。この単位を落としても構わないのだが、そうすると、来年以降の取得する単位を増やさなければならない。せっかく半期も授業を頑張ったのに、単位が取れないのは悔しい。駒沢の授業で落とすというのも、嫌だった。散々駒沢の誘いを拒否していて落とすとか、恥ずかしすぎる。
テスト用紙が配布され、駒沢がテスト開始を伝えた。私は問題文を読み進め、回答を考えていく。
「問一 あなたが一番興味のある妖怪、妖とは何か。妖怪の簡単な伝承と、あなたがそれに興味を持った理由、出来事、きっかけを述べなさい」
「問二 問一で答えた妖怪、妖について、妖伝承の三つの分類のどれに当てはまるのか答えよ。その理由について、具体例を用いて、説明せよ」
「問三 もし、自分が妖怪と呼ばれることになったさいに、自分が取り得る行動について述べよ。なお、妖怪という範囲は妖怪の個体名称でも、妖怪という大きなくくりでも構わない」
テストは記述形式の問題が三問あり、そのほかに、授業で習ったことに対して、穴埋めの問題が数問並んでいた。解答時間は授業時間と同じ九十分である。
テストの内容は授業で説明されていた。このテストは資料の持ち込みが可能であったため、こっそりと辺りを見渡すと、真剣に資料と睨み立っている学生、あらかじめ回答を作ってきた学生は一心不乱に持ち込んだ資料を解答用紙にうつしている。誰も彼もが必死にテストに向き合っていた。さて、私はというと……。
テストの準備を忘れていた。他の学生のように資料を持ってきていないし、事前に回答も用意していなかった。万事休す。単位を落として、駒沢の笑いの種になってしまうのか。それだけは避けたかった私は、必死で回答を模索していた。
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