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44京都へ一人旅
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バレンタインという、今まで体験したことのないイベントごとをして、大いに楽しんだ私は、京都への一人旅の計画を着実に進めていた。
「本当に一人で行くことにしたようだな」
「そう、だから、今回の一人旅を邪魔しに来ないでくださいね」
「邪魔などせん。ところで、一人旅ということは、この家を空けるということになるが、われたちを置いていって、家の心配はせんでいいのか?」
私は自分の部屋でパソコンとにらめっこをしていた。後ろには九尾が私のベッドでゴロゴロしながら、くつろいでいた。
「私の留守中に何かする予定でもあるのですか?」
「別に、そんな野蛮なことをするわけなかろう。ただ、われたちも随分信用されているものだ。何せ、われらは人間ではない、お主たちから見れば、異形のものといえる存在だ。そんな存在を簡単に信じるのは、どうかと思うがな」
「完全には信用していませんが、私の家をどうこうするつもりがないことはわかります。だから、私が家を空けても大丈夫です。それを言うなら、私だって、すでに人間の理から外れて、すでに何十年となっています。案外、お似合いなのかもしれません」
「ふん、お似合いなどと抜かす奴があるか。一人で言って、さっさとけじめをつけてこい。家のことはわれではなく、あやつらが何とかしてくれるだろう。心配せんでいいさ。何せ、元人間だから、その辺の管理はうまくやってくれるだろうさ」
後ろを振り返ると、偉そうなことを言っているのは、ケモミミ美少年だ。そんな少年がゴロゴロとしている。そして、なぜか私のスマホを両手でいじっていた。怪しまれるようなものはないが、他人にスマホをいじられるのは恥ずかしい。しかし、私のスマホには指紋認証も暗証番号も設定されていて、本人以外に開けないはずなのだが。とはいえ、相手は人外の存在。私のスマホのロックを解除することは可能なのだろう。深く考えることはやめた。
「おもしろいのう、最近はこの機械で何でもできるのか」
ふむふむと言いながらも、スマホをいじる手はとめない。九尾はいったい、何を見ているのかと覗き込めば、私がよく見ているコスプレショップのサイトだった。そこには、普段私が見ているものではなく、成人向けの露出度の高い、布面積が妙に少ない服がたくさん並んでいた。
「こっけいだな」
「そんなものを私のスマホで見ないでください」
さっと九尾からスマホを取り返し、今まで見ていただろう、怪しい服装の履歴を削除した。
「暇つぶしにはなったな。では、われもいろいろやることがあるのでな。旅行といって、あまり羽目を外すなよ」
何をしに来たのかわからないが、満足したのだろう。さっさと九尾は私の部屋から出ていった。
三月の初めに、私は京都に二泊三日の一人旅に出発した。新幹線で京都駅までつくと、事前に調べていた西園寺グループの本社がある場所まで徒歩で移動した。冬休みに一度行ったことがあるので、場所は覚えていた。
「確か、ここに本社の入ったビルがあったはずですが……」
記憶と地図を頼りにそこにたどりつく。しかし、お目当ての建物はあったが、周りをフェンスで囲まれていた。どうやら解体作業中であり、そこには解体途中のビルがあるだけだった。
私は大学生で春休み中だが、世間に春休みなどない。解体作業をしている工事の人がいたので、思い切って話しかけてみた。
「あの、すいません。ここって、いつから解体作業をしているのですか?」
「そうだねえ。確か、年明けからかな。何せ、急に工事が決まったもんだから、現場の人間が大変なんだよねえ。お嬢さんは観光で京都に来たのかい?」
実年齢はすでにお嬢さんという年でもないが、お嬢さんと言われると、いつでもうれしいものである。
「急に決まったんですか?」
私が解体途中のビルに興味を示したので、工事の関係者らしき男性は、小声でビルの内情をこっそりと教えてくれた。
「このビルに興味があるようだね」
時刻はちょうど昼休みに入っていたらしい。工事関係者の男性がぞろぞろとフェンスで囲まれた場所から出てきた。私が話しかけた男性が場所を変えようかと言ってきたので、私はおとなしく男性についていく。近くに公園があったので、そこのベンチに私たちは腰かける。
男性は、私の質問に答えてくれるようだ。答えてくれなくても、私の能力を使えば答えてくれるのだが、なるべくなら能力は使いたくはなかった。
「先ほどのビルですけど、西園寺グループの本社ですよね」
「そう。あんな大きな会社が夏頃に倒産だって聞いて、驚いたよ。それで、すぐに解体作業の計画がなされて、工事が始まったのが、年明けだったんだ」
男性が工事にまつわる話をしてくれた。その中に今回の事件の原因になりそうなものが含まれていた。
「解体作業を始めていくと、面白いものが発見されたらしい。僕は直接見たわけではないけど、ビルを壊していたら、地下にこんなものがあったらしいよ」
男性が両手で発見されたものを表現する。工事関係者がビルの地下で見つけたのは、小さな狐の石像だった。その石像の周りには、石像を祀るための祭壇があり、中央に石像が飾られていたそうだ。
狐の石像。九尾たちに関係がありそうだ。石像と彼らの関係を詳しく知りたかったが、そんなことを工事関係者の男性に聞くことはできない。
「いろいろ話してくれてありがとうございます」
話を聞き終えた私は、お礼を言って、その場を去ろうとしたが、男が急にうめきだしたのをみて、慌てて引き返す。
「く、くるし」
呻きだした男は身体をかきむしり、苦しみだした。
「お、おれは、何もわる、くな」
それ以降、男が動くことはなかった。脈を図るが、すでにこと切れていた。あたりを見渡すが、ちょうど誰もおらず、男がこと切れた瞬間を目撃されることはなかった。
「本当に一人で行くことにしたようだな」
「そう、だから、今回の一人旅を邪魔しに来ないでくださいね」
「邪魔などせん。ところで、一人旅ということは、この家を空けるということになるが、われたちを置いていって、家の心配はせんでいいのか?」
私は自分の部屋でパソコンとにらめっこをしていた。後ろには九尾が私のベッドでゴロゴロしながら、くつろいでいた。
「私の留守中に何かする予定でもあるのですか?」
「別に、そんな野蛮なことをするわけなかろう。ただ、われたちも随分信用されているものだ。何せ、われらは人間ではない、お主たちから見れば、異形のものといえる存在だ。そんな存在を簡単に信じるのは、どうかと思うがな」
「完全には信用していませんが、私の家をどうこうするつもりがないことはわかります。だから、私が家を空けても大丈夫です。それを言うなら、私だって、すでに人間の理から外れて、すでに何十年となっています。案外、お似合いなのかもしれません」
「ふん、お似合いなどと抜かす奴があるか。一人で言って、さっさとけじめをつけてこい。家のことはわれではなく、あやつらが何とかしてくれるだろう。心配せんでいいさ。何せ、元人間だから、その辺の管理はうまくやってくれるだろうさ」
後ろを振り返ると、偉そうなことを言っているのは、ケモミミ美少年だ。そんな少年がゴロゴロとしている。そして、なぜか私のスマホを両手でいじっていた。怪しまれるようなものはないが、他人にスマホをいじられるのは恥ずかしい。しかし、私のスマホには指紋認証も暗証番号も設定されていて、本人以外に開けないはずなのだが。とはいえ、相手は人外の存在。私のスマホのロックを解除することは可能なのだろう。深く考えることはやめた。
「おもしろいのう、最近はこの機械で何でもできるのか」
ふむふむと言いながらも、スマホをいじる手はとめない。九尾はいったい、何を見ているのかと覗き込めば、私がよく見ているコスプレショップのサイトだった。そこには、普段私が見ているものではなく、成人向けの露出度の高い、布面積が妙に少ない服がたくさん並んでいた。
「こっけいだな」
「そんなものを私のスマホで見ないでください」
さっと九尾からスマホを取り返し、今まで見ていただろう、怪しい服装の履歴を削除した。
「暇つぶしにはなったな。では、われもいろいろやることがあるのでな。旅行といって、あまり羽目を外すなよ」
何をしに来たのかわからないが、満足したのだろう。さっさと九尾は私の部屋から出ていった。
三月の初めに、私は京都に二泊三日の一人旅に出発した。新幹線で京都駅までつくと、事前に調べていた西園寺グループの本社がある場所まで徒歩で移動した。冬休みに一度行ったことがあるので、場所は覚えていた。
「確か、ここに本社の入ったビルがあったはずですが……」
記憶と地図を頼りにそこにたどりつく。しかし、お目当ての建物はあったが、周りをフェンスで囲まれていた。どうやら解体作業中であり、そこには解体途中のビルがあるだけだった。
私は大学生で春休み中だが、世間に春休みなどない。解体作業をしている工事の人がいたので、思い切って話しかけてみた。
「あの、すいません。ここって、いつから解体作業をしているのですか?」
「そうだねえ。確か、年明けからかな。何せ、急に工事が決まったもんだから、現場の人間が大変なんだよねえ。お嬢さんは観光で京都に来たのかい?」
実年齢はすでにお嬢さんという年でもないが、お嬢さんと言われると、いつでもうれしいものである。
「急に決まったんですか?」
私が解体途中のビルに興味を示したので、工事の関係者らしき男性は、小声でビルの内情をこっそりと教えてくれた。
「このビルに興味があるようだね」
時刻はちょうど昼休みに入っていたらしい。工事関係者の男性がぞろぞろとフェンスで囲まれた場所から出てきた。私が話しかけた男性が場所を変えようかと言ってきたので、私はおとなしく男性についていく。近くに公園があったので、そこのベンチに私たちは腰かける。
男性は、私の質問に答えてくれるようだ。答えてくれなくても、私の能力を使えば答えてくれるのだが、なるべくなら能力は使いたくはなかった。
「先ほどのビルですけど、西園寺グループの本社ですよね」
「そう。あんな大きな会社が夏頃に倒産だって聞いて、驚いたよ。それで、すぐに解体作業の計画がなされて、工事が始まったのが、年明けだったんだ」
男性が工事にまつわる話をしてくれた。その中に今回の事件の原因になりそうなものが含まれていた。
「解体作業を始めていくと、面白いものが発見されたらしい。僕は直接見たわけではないけど、ビルを壊していたら、地下にこんなものがあったらしいよ」
男性が両手で発見されたものを表現する。工事関係者がビルの地下で見つけたのは、小さな狐の石像だった。その石像の周りには、石像を祀るための祭壇があり、中央に石像が飾られていたそうだ。
狐の石像。九尾たちに関係がありそうだ。石像と彼らの関係を詳しく知りたかったが、そんなことを工事関係者の男性に聞くことはできない。
「いろいろ話してくれてありがとうございます」
話を聞き終えた私は、お礼を言って、その場を去ろうとしたが、男が急にうめきだしたのをみて、慌てて引き返す。
「く、くるし」
呻きだした男は身体をかきむしり、苦しみだした。
「お、おれは、何もわる、くな」
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