新百寿人(しんびゃくじゅびと)

折原さゆみ

文字の大きさ
22 / 48

22体調不良

しおりを挟む
 高梨は明寿の前に姿を現さなくなった。明寿はそれでも毎日、彼女が来るのを期待して、昼休みは四階の空き教室にお弁当をもって足を運ぶ。

(さすがに自殺、はしていないですよね。そんなことがあれば、学校で噂になりますから)

 高梨が空き教室に姿を見せなくなって一週間、明寿はついに高梨の様子を確認することにした。

 昼休み、この高校に入ってから初めて、明寿は教室で昼食を取ることにした。甲斐は驚いた顔をしていたが、明寿と一緒に昼食を取ることを歓迎した。

「やっと、俺の言葉が白石に通じたみたいでうれしいよ」

「ちょっと、やらなくちゃいけない用事を思い出したんだ」

 自分の机で黙々とお弁当を食べていたら、後ろの席の甲斐が絡んでくる。明寿はさっさと弁当を食べ終えて、高梨のいる三年生の教室に行ってみようと考えていた。

「用事?ああ、それで弁当をかき込んでいるのか。俺もその用事についていっていいか?」

「……」

 甲斐がついてきてはまずい。明寿は無視を決め込んで、弁当箱を片付けて教室を無言で出て、三年生の教室がある三階に向かった。



「高梨先輩はいますか?」

「高梨?彼女ならここ一週間ぐらい、体調が悪いみたいで学校に来ていないよ。君、一年生だよね。高梨に何の用事?ていうか、君と高梨はどういう関係?」

 高梨の学年はわかるが、クラスまでは把握していない。三年生は八クラスあるので、明寿は一組から順番に教室を訪ねることにした。

明寿が三年一組を訪ねると、すぐにクラスメイトの女子が高梨のことを教えてくれた。八クラス分を回らなくてはならないかと思っていたが、その必要はなくてほっとする。高梨は三年一組だった。

「エエト……」

 高梨のクラスメイトに問いかけられた質問に、明寿は言葉に詰まってしまう。自分たちの関係は他人から見たらどのように見えるのか。高梨は部活に入っていないことは既に本人から聞いている。部活の先輩、後輩という関係は使えない。

「ようやく見つけた。三年の教室にいたのかよ。ほら、さっさと俺たちの教室に戻ろうぜ」

 答えに悩んでいる明寿に突然、聞き覚えのある声がかけられる。

 明寿が声のした方を振り向くと、そこには明寿のクラスメイトの甲斐が不機嫌そうに立っていた。どうやら、甲斐は明寿を探していたらしい。

「そうだね。先輩、情報提供ありがとうございます」

 明寿は高梨のクラスメイトにお礼を言って廊下を歩きだす。甲斐のストーカーじみた行動は気味が悪いが、彼のおかげでクラスメイトの質問に答えずに済んだ。明寿は高梨の情報を教えてくれた先輩にお礼を言って、教室を離れる。わざわざ明寿を追いかけてきた甲斐のことは無視して、速足で廊下を歩いていく。

(体調不良と言っていたけど)

 高梨が体調不良だというのは本当だろうか。初めて出会ったあの日、命を絶とうとしていた高梨。もしかして。

(いやいや、だから自殺だったら、噂になるはずだから。悪い方に考えすぎだ。とはいえ、男子が女子の体調不良のお見舞いに行くのは難しいな)

 そもそも、明寿は高梨の家を知らない。そして、連絡先も交換していないことを思い出す。明寿自身はスマホの使い方に慣れておらず、連絡を交換するという発想が出てこなかった。高梨の方からも、連絡先を交換しようという話は出なかった。クラスメイトの様子を見ていると、スマホで連絡先を交換しあうのは普通で、メッセージのやり取りを頻繁にしているのを見たことがある。

 それを横目で見ていたのに、どうして高梨との連絡先交換に至らなかったのか。明寿は自分の過去の行動を振り返るも、今更どうしようもない。

「なあ、三年生の教室に行ったのって、昼休みに教室にいない理由と関係があるのか?」

 考え事をしながら歩いていたら、後ろからついてきた甲斐に話し掛けられる。

「甲斐君に話す必要はないよね?」

「酷いなあ。俺たち、友達だろう?」

「どうだろうね」

 歩いているうちに明寿たちは教室にたどり着く。教室の手前で明寿はようやく甲斐の方に振り向いた。甲斐はあきれたような表情で大きな溜息をはいた。

「今日こそ、お前の家に行くから」

 そのまま明寿より先に教室に入っていく。返事を聞かないところは相変わらずの性格だ。明寿は、返事をあきらめて甲斐の後に続いて教室に入っていく。昼休みがもう少しで終わりという教室は、クラスメイトの雑談の声で賑わっていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

皆が望んだハッピーエンド

木蓮
恋愛
とある過去の因縁をきっかけに殺されたオネットは記憶を持ったまま10歳の頃に戻っていた。 同じく記憶を持って死に戻った2人と再会し、再び自分の幸せを叶えるために彼らと取引する。 不運にも死に別れた恋人たちと幸せな日々を奪われた家族たち。記憶を持って人生をやり直した4人がそれぞれの幸せを求めて辿りつくお話。

一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む

浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。 「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」 一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。 傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語

すれ違う心 解ける氷

柴田はつみ
恋愛
幼い頃の優しさを失い、無口で冷徹となった御曹司とその冷たい態度に心を閉ざした許嫁の複雑な関係の物語

処理中です...