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23君はいったい何者だ

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「来てやったぞ!」

「来なくていいんだけど、まあいいや、入りなよ」

 放課後、甲斐は部活を休んだと言って、白石の部屋にやってきた。明寿はミステリー研究部に入部していたが、今日は部活動がない日だ。家に授業が終わってすぐに帰宅していた。

 インターホンが鳴ったので、画面を確認すると、そこにはクラスメイトの甲斐が映っていた。昼休みの宣言通り、甲斐は明寿の家にやってきた。マンションまでやってきたクラスメイトを追い返せすのは気が引ける。それに、明寿は甲斐に聞きたいことがあった。

 しぶしぶ、明寿は甲斐を部屋に招き入れることにした。


「実は俺、白石と同じ【新百寿人】なんだ」

 玄関に入るなり、甲斐は驚きの言葉を口にした。突然すぎる言葉に明寿の頭は一瞬、思考が止まってしまう。しかし、すぐに冷静さを取り戻す。これは、明寿を【新百寿人】だと認めさせるための罠だ。自分が仲間だと思えば、油断して認めると思っている。

「甲斐君が【新百寿人】だって?いきなりそんなこと言われても、信じられないんだけど」

「自ら【新百寿人】って言っているんだ。これ以上に信じられることなんてないだろ。白石は嬉しくないのか?同じ仲間ができてさ」

 甲斐は話しながら、明寿の許可を得ず、部屋の床に置かれたクッションの上に座り込む。あまりにも図々しい態度にあきれてしまう。それでも、自分より若い(実年齢)男子の食事を心配してしまう。

「夕食はどうしたの?」

「まだ食べてない。話すこともたくさんあるし、白石と一緒に食べようと思って買ってきた」

 よく見ると、甲斐の座っている床の近くにコンビニの袋が置かれている。どうやら、今回も食事は用意してきたらしい。

 明寿はキッチンに目を向ける。部活がなくて早めに帰宅したが、夕食の支度はまだしていない。準備をする前だったので明寿は遠慮せず、甲斐の持参した夕食をもらうことにした。

 甲斐が夕食として買って着たのはカップ麺だった。明寿はお湯を沸かして、甲斐と白石との分のカップにお湯を注ぐ。タイマーは甲斐がスマホで設定してくれた。出来上がるまで3分かかる。

「それで、さっきの話だけど」

「そうそう、白石って、今日の昼休み【高梨先輩】を探していたよな」

 カップ麺が出来上がるのを待つ間に、明寿は先ほどの白石の話の真偽を確かめるために口を開く。しかし、当の本人は勝手に別の話題にすり替える。

「どうしてそれが」

「この前【高梨恵美里】先輩のこと、俺に聞いてきただろう?そこから推理した」

 そういえば、甲斐にそんなことを聞いたことを思い出す。その時は答えてもらえなかったが、甲斐は彼女について何か知っているのだろうか。

「そんな怖い顔で睨むなよ。あとでゆっくり話してやるよ。まずは飯だろ」

 どうやら、明寿の心は自分が思っていた以上に余裕がないらしい。明寿は自分の頬を触ってみるが、表情まではわからない。

「心配するなよ。俺は手を出していない」

 俺は。

 その言葉の真意を問いただす前に、甲斐が設定したスマホのタイマーが音を立てた。話しているうちに3分が経過していた。甲斐がスマホの設定を解除して音を止める。

「じゃあ、さっさと食べようぜ。これ、コンビニでたまたま見つけたけど、テレビで紹介してたや」

「甲斐君は高梨先輩の何を知っている?もしかして、君が彼女を」

 追い詰めたのか。

 明寿は無意識に甲斐に詰め寄っていた。甲斐の言葉を遮って自分の言葉を重ねる。至近距離で見つめられた甲斐は驚いていたが、すぐに冷たい視線を明寿に向ける。

 そのため、明寿は最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。

「だから、そんなに怖い顔するなって。ほら、麺が伸びるだろ」

「あ、ああ」

甲斐がいったん目を閉じて深呼吸する。目を開けると、いつもの陽気な甲斐に戻っていた。明寿はそこでようやく自分の行動を反省する。ゆっくりと甲斐から距離を取り、ソファが置いてある場所に移動する。

「甲斐君もこっちに来たら?机があった方が食べやすいでしょ」

「そうだな」

 甲斐は明寿の隣に座り、テーブルに乗ったカップ麺を食べ始める。

(自分が【新百寿人】だと言い張ったり、高梨先輩を知っていたり……。君はいったい何者だ)

 カップ麺を食べながら、甲斐の様子をちらりと横目でうかがうが、その様子は空腹でカップ麺を懸命に食べる普通の男子高校生にしか見えなかった。
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