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24私たち、別れましょう
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「それで、そこのお前はモデルとか言っていたが、ああ、よく見たら見覚えがある。こう見えて、俺は元カメラマンだからな。そうか、真珠も元モデルだったな。よくもまあ、お仲間を連れてきたものだ」
「元カメラマン、ね。どうせ、女の子とモデルを食い散らかして収拾つかなくなって辞めた口ですね。いるんですよね。そういう、質の悪いカメラマンって」
話し合いは当然、和やかにとはいかなかった。開始早々、ルリさんと彼がバチバチと火花を飛ばしながら会話する。しかし、どう話し合おうと、彼の方が私たちに高圧な態度をとる限り、円満な別れ話にはならないだろう。やはり、理想は理想だった。
「ルリさん、もう帰りましょう。葛谷さん、私がここに来た用件はひとつです」
私たち、別れましょう。
彼の鋭い視線にひるみながらも、何とか言いたいことを言いきった。この言葉を自分の口から言えたことで、妙な達成感を覚える。彼に自分の意見をここまではっきり口にすることができたのは初めてだ。いや、前から自分の意見は彼に伝えていたが、どの言葉も彼に理解してもらえなかった。今回も無理かもしれない。でも、この言葉だけは撤回することはできない。
「あ、あの、ルリ、さん、本当に、この、女と、つきあって……」
私とルリさん、彼の他にこの場にもう一人いることをすっかり忘れていた。私の言葉の後に、ルリさんに視線を向けて、女性は私たちの関係を質問する。
「あなたも早いところ、この男と別れたほうが賢明ですよ」
「じゃ、じゃあ、こいつと別れたら、私と」
「ムリです。あなたが言ったのでしょう?僕と真珠さんが付き合っているのかと。その問いの答えは」
「あ、あの、ルリさん、わ、私の口から言わせてください!」
ルリさんばかりに話をさせては申し訳ない。そもそも、これは私と彼の話しなのだ。そして、私のルリさんに対する気持ちの問題だ。
「私とルリさんはお付き合いしています!」
つい、力が入ってしまい、大きな声が出てしまう。ルリさんを見た女性の驚きの声と同じで、店内にそれなりに響き渡る。慌てて自分の口を押えたが、既に遅い。視界の隅に店員がこちらに近付いてくるのが見えた。
「バカか。こんな大声出したら」
「ちょうどよかったです。僕からも改めて伝えさせてください。僕と真珠さんはお付き合いしています。ですので、あなたは今日、真珠さんと赤の他人になりました。言いたくありませんが、【元彼氏】ということになります」
では、ダイヤたちに報告しましょう。
話は終わったとばかりにルリさんは席を立つ。慌てて私も席を立つが、勢い余って転びそうになる。しかし、ルリさんが私を転ぶ前に支えてくれたので、恥をかかずにすんだ。
「気をつけてください。では、帰りましょう」
「は、はい」
「まあ、待てよ。その女の顔だけがいいというのなら、俺が他の女を紹介してやる。だから、真珠と別れるのは」
「真珠さんはあなたの彼女でも、家政婦でもありません。行きましょう」
ルリさんは私の手を掴み、その場から足早に離れていく。私もそのあとについていく。店を出る直前、店内を振り返ると、店員に事情を説明している彼の姿と、ルリさんの姿を目で追っている女性の姿が見えた。
「はああああああ」
店の外に出ると、ルリさんが地面に座り込み、大きなため息を吐く。それを聞いた私もどっと疲れが出て店の壁によりかかる。円満というにはほど遠いが、私の意思は彼に伝えることができた。
「その、今日は本当にありがとうござい」
「なかなか迫真の演技だったねえ。2人とも」
「お疲れ様です。今から、別の場所でお昼にしましょう。おいしいイタリアンの店、予約しておきました」
私の言葉は店から出て来たダイヤたちの言葉に遮られる。予定通り、私たちの様子をこっそりと見守っていたようだ。
「まさか、女連れで来るとは思わなかったな。本当に別れて正解だった」
「私、あの子のこと知ってる。最近、ショート動画でよく見るから。そこそこ人気のある子だけど……」
ダイヤとアリアさんが女性について話しているが、その話は不快になるのでやめて欲しい。ルリさんを見た瞬間、目の色を変えて急に態度を変えてきた。ルリさんに気に入られようとする態度が腹立たしい。
「姉さん、なんだか怖い顔になってるよ」
「と、とりあえず、場所を移動しましょう。あのクズ野郎たちが店を出てくる前に」
女性のことを考えて怖い顔になっていたようだ。慌てて顔を触ってみるが、自分の表情などわからない。
(これは、嫉妬なのかもしれない。でも、この気持ちは……)
自分の気持ちに気付きたくなかった。気付いてしまったら傷つくだけだ。そして、その傷はきっと、長い時間、私を苦しめるだろう。
アリアさんの言う通り、このままここで話していたら危険だ。私たちは会話もそこそこにして、急いで車に戻り、今度はアリアさんの運転で予約した店に向かうのだった。
「元カメラマン、ね。どうせ、女の子とモデルを食い散らかして収拾つかなくなって辞めた口ですね。いるんですよね。そういう、質の悪いカメラマンって」
話し合いは当然、和やかにとはいかなかった。開始早々、ルリさんと彼がバチバチと火花を飛ばしながら会話する。しかし、どう話し合おうと、彼の方が私たちに高圧な態度をとる限り、円満な別れ話にはならないだろう。やはり、理想は理想だった。
「ルリさん、もう帰りましょう。葛谷さん、私がここに来た用件はひとつです」
私たち、別れましょう。
彼の鋭い視線にひるみながらも、何とか言いたいことを言いきった。この言葉を自分の口から言えたことで、妙な達成感を覚える。彼に自分の意見をここまではっきり口にすることができたのは初めてだ。いや、前から自分の意見は彼に伝えていたが、どの言葉も彼に理解してもらえなかった。今回も無理かもしれない。でも、この言葉だけは撤回することはできない。
「あ、あの、ルリ、さん、本当に、この、女と、つきあって……」
私とルリさん、彼の他にこの場にもう一人いることをすっかり忘れていた。私の言葉の後に、ルリさんに視線を向けて、女性は私たちの関係を質問する。
「あなたも早いところ、この男と別れたほうが賢明ですよ」
「じゃ、じゃあ、こいつと別れたら、私と」
「ムリです。あなたが言ったのでしょう?僕と真珠さんが付き合っているのかと。その問いの答えは」
「あ、あの、ルリさん、わ、私の口から言わせてください!」
ルリさんばかりに話をさせては申し訳ない。そもそも、これは私と彼の話しなのだ。そして、私のルリさんに対する気持ちの問題だ。
「私とルリさんはお付き合いしています!」
つい、力が入ってしまい、大きな声が出てしまう。ルリさんを見た女性の驚きの声と同じで、店内にそれなりに響き渡る。慌てて自分の口を押えたが、既に遅い。視界の隅に店員がこちらに近付いてくるのが見えた。
「バカか。こんな大声出したら」
「ちょうどよかったです。僕からも改めて伝えさせてください。僕と真珠さんはお付き合いしています。ですので、あなたは今日、真珠さんと赤の他人になりました。言いたくありませんが、【元彼氏】ということになります」
では、ダイヤたちに報告しましょう。
話は終わったとばかりにルリさんは席を立つ。慌てて私も席を立つが、勢い余って転びそうになる。しかし、ルリさんが私を転ぶ前に支えてくれたので、恥をかかずにすんだ。
「気をつけてください。では、帰りましょう」
「は、はい」
「まあ、待てよ。その女の顔だけがいいというのなら、俺が他の女を紹介してやる。だから、真珠と別れるのは」
「真珠さんはあなたの彼女でも、家政婦でもありません。行きましょう」
ルリさんは私の手を掴み、その場から足早に離れていく。私もそのあとについていく。店を出る直前、店内を振り返ると、店員に事情を説明している彼の姿と、ルリさんの姿を目で追っている女性の姿が見えた。
「はああああああ」
店の外に出ると、ルリさんが地面に座り込み、大きなため息を吐く。それを聞いた私もどっと疲れが出て店の壁によりかかる。円満というにはほど遠いが、私の意思は彼に伝えることができた。
「その、今日は本当にありがとうござい」
「なかなか迫真の演技だったねえ。2人とも」
「お疲れ様です。今から、別の場所でお昼にしましょう。おいしいイタリアンの店、予約しておきました」
私の言葉は店から出て来たダイヤたちの言葉に遮られる。予定通り、私たちの様子をこっそりと見守っていたようだ。
「まさか、女連れで来るとは思わなかったな。本当に別れて正解だった」
「私、あの子のこと知ってる。最近、ショート動画でよく見るから。そこそこ人気のある子だけど……」
ダイヤとアリアさんが女性について話しているが、その話は不快になるのでやめて欲しい。ルリさんを見た瞬間、目の色を変えて急に態度を変えてきた。ルリさんに気に入られようとする態度が腹立たしい。
「姉さん、なんだか怖い顔になってるよ」
「と、とりあえず、場所を移動しましょう。あのクズ野郎たちが店を出てくる前に」
女性のことを考えて怖い顔になっていたようだ。慌てて顔を触ってみるが、自分の表情などわからない。
(これは、嫉妬なのかもしれない。でも、この気持ちは……)
自分の気持ちに気付きたくなかった。気付いてしまったら傷つくだけだ。そして、その傷はきっと、長い時間、私を苦しめるだろう。
アリアさんの言う通り、このままここで話していたら危険だ。私たちは会話もそこそこにして、急いで車に戻り、今度はアリアさんの運転で予約した店に向かうのだった。
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