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ファミレスの駐車場には、11時40分に着いた。時間はちょうど昼時、土曜日ということもあり、駐車場は混みあっていた。
「ここからは別行動の方がいいね。僕たちは姉さん達の後から店に入るから、ルリと2人、先に入って」
弟に言われ、黙って頷く。私はルリさんと一緒に店に入ることにした。
店内も家族連れや高校生などで賑わっていた。しかし、ざっと店内を眺めるが、彼らしい人物は見当たらない。まだ来ていないのだろう。
「まだ、彼は来ていないみたいです」
「では、心の準備ができますね。なんだか緊張してきました」
「……」
時間と場所は指定されたが、彼は店の予約はしていないはずだ。彼がそこまで律儀な性格だとは思えない。私は店員に3人で後からひとり来ると伝えた。席は満席で、ルリさんとレジ横の椅子に掛けて待つことにした。
ルリさんと2人で先にファミレスに来たはいいが、2人きりになると緊張して何を話していいのかわからない。そもそも、恋人のふりとは言われても、会ってまだ2日目の相手と親しく話すのは、コミュ障の私には難易度が高い。しかし、そこを乗り越えなくては今回の作戦が水の泡になってしまう。
ルリさんも緊張していると言っているが、表情からはまったく読み取れない。いつも通りのカッコいいモデルのルリさんがそこにいた。
「3名様でお待ちの高谷(たかたに)様、ご案内致します」
混雑はしていたが、15分程で私たちの名前が呼ばれた。ルリさんの本名は高谷瑠璃(たかたにるり)というらしい。普段は【ルリ】という名でモデル活動をしている。慣れない苗字で呼ばれてドキッとするが、ルリさんは店員ににっこりと微笑む。店員の女性は顔を真っ赤にしていたが、自分の役割を思い出し、慌てて私たちを空いた席に案内してくれた。
席に着くと、店員がすぐにお冷やとおしぼりを持ってきた。店員はルリさんをじいと眺めていたが、ルリさんの視線に気づくとすぐに去っていく。
「やはり、モテるんですね。ルリさんは」
「まあ、職業柄、ですかね」
ルリさんは謙遜していたが、職業柄、というのはあながち間違っていない。私だって私の容姿目当てで近付いてくる男性はたくさんいた。しかし、ルリさんは容姿も中身も完璧なので、寄ってくる人は私より多いはずだ。
「そんなモテモテの人に恋人役を頼むのは、今更ながら、なんだか気が引けます」
「本当に今更ですね。それで、あのクズ野郎が来る前に話を」
「誰がクズ野郎だ?優男さん」
「葛谷さん!」
ルリさんとの会話の途中で彼がやってきた。慌ててスマホで時刻を確認すると、11時55分。あと5分で待ち合わせ時刻の12時になる。時間に遅れてくると思ったが、会いたくないはずの相手との約束でも、しっかりと時間は守るらしい。
「その女が真(しん)の彼女?確かに顔だけはいいわね」
彼はなぜか隣に女性を連れていた。金髪に派手な化粧を施し、冬だというのに膝上丈のミニスカートを履いていた。こういう女性が好みということか。とはいえ、女性など連れてきてどういうつもりだろうか。
「そちらの方はどなたですか?僕はあなた1人で来るかと思っていたのですが」
「こいつが男を連れてくるのに、俺がひとりとかありえないだろう?そもそも、俺は前からこいつに言っていた。『俺は女を作るがお前に男はムリだ。ひとりの男に尽くすしかできない』って」
まさか、現在の彼女の前に堂々と浮気相手の女性を連れてくるとは。あまりの奇行ぶりに呆れて言葉が出てこない。
彼と浮気相手らしき女性は、私の隣に座ってきた。私、彼、女の正面にルリさんが座る形となった。
「それで、この男が浮気相手って、わけ……。えええええ!」
私を見下して見ていた女性は、ルリさんの顔を見た瞬間、席を立って瑠璃さんを指差した。そして、店内に響き渡るほどの大声を出す。どうやら、ルリさんを知っているらしい。超人気モデルなので、女性だったら知らない人の方が少ないかもしれない。
「も、もし、かして、モデルの」
「あまり大声を出さないでもらえますか?」
「は、はい……」
ルリさんの言葉に女性ははっと我に返り、弱弱しい返事をして席に着く。先ほど私たちに取っていた横柄な態度が嘘のように、恥ずかしそうに膝に乗せた手をすり合わせている。
「お客様、どうなされました?」
「いえ、ちょっと話が盛り上がってしまいまして。お冷やのおかわりをお願いできますか?」
「か、かしこまりました」
女性の大声に店員が慌てて駆け寄ってきた。店内が混みあっていて助かった。女性の声は目立っていたが、他の客の声も騒がしかったので、店内の客全員が私たちに注目することはなかった。とはいえ、私たちの近くの客の迷惑そうな視線はあったので、声の大きさには注意しなくてはならない。
店員に穏やかに事情を説明するルリさんに思わず見惚れてしまう。対応がスマートすぎする。私もこんな風にさらっとトラブルに対処できるようになりたい。
「さて、和やかに食事、という訳にもいきませんから、サッサと用件を話して、この場をお開きにしましょうか」
店員に向けていた笑顔を引っ込め、ルリさんは彼に対して冷たい視線を向けて言葉を発した。彼との電話で見た黒いオーラが背中に見える。
「まあ、そうだよな。いいぜ。お前の言い分を聞いてやる」
私たちの話し合い(別れ話)がスタートした。
「ここからは別行動の方がいいね。僕たちは姉さん達の後から店に入るから、ルリと2人、先に入って」
弟に言われ、黙って頷く。私はルリさんと一緒に店に入ることにした。
店内も家族連れや高校生などで賑わっていた。しかし、ざっと店内を眺めるが、彼らしい人物は見当たらない。まだ来ていないのだろう。
「まだ、彼は来ていないみたいです」
「では、心の準備ができますね。なんだか緊張してきました」
「……」
時間と場所は指定されたが、彼は店の予約はしていないはずだ。彼がそこまで律儀な性格だとは思えない。私は店員に3人で後からひとり来ると伝えた。席は満席で、ルリさんとレジ横の椅子に掛けて待つことにした。
ルリさんと2人で先にファミレスに来たはいいが、2人きりになると緊張して何を話していいのかわからない。そもそも、恋人のふりとは言われても、会ってまだ2日目の相手と親しく話すのは、コミュ障の私には難易度が高い。しかし、そこを乗り越えなくては今回の作戦が水の泡になってしまう。
ルリさんも緊張していると言っているが、表情からはまったく読み取れない。いつも通りのカッコいいモデルのルリさんがそこにいた。
「3名様でお待ちの高谷(たかたに)様、ご案内致します」
混雑はしていたが、15分程で私たちの名前が呼ばれた。ルリさんの本名は高谷瑠璃(たかたにるり)というらしい。普段は【ルリ】という名でモデル活動をしている。慣れない苗字で呼ばれてドキッとするが、ルリさんは店員ににっこりと微笑む。店員の女性は顔を真っ赤にしていたが、自分の役割を思い出し、慌てて私たちを空いた席に案内してくれた。
席に着くと、店員がすぐにお冷やとおしぼりを持ってきた。店員はルリさんをじいと眺めていたが、ルリさんの視線に気づくとすぐに去っていく。
「やはり、モテるんですね。ルリさんは」
「まあ、職業柄、ですかね」
ルリさんは謙遜していたが、職業柄、というのはあながち間違っていない。私だって私の容姿目当てで近付いてくる男性はたくさんいた。しかし、ルリさんは容姿も中身も完璧なので、寄ってくる人は私より多いはずだ。
「そんなモテモテの人に恋人役を頼むのは、今更ながら、なんだか気が引けます」
「本当に今更ですね。それで、あのクズ野郎が来る前に話を」
「誰がクズ野郎だ?優男さん」
「葛谷さん!」
ルリさんとの会話の途中で彼がやってきた。慌ててスマホで時刻を確認すると、11時55分。あと5分で待ち合わせ時刻の12時になる。時間に遅れてくると思ったが、会いたくないはずの相手との約束でも、しっかりと時間は守るらしい。
「その女が真(しん)の彼女?確かに顔だけはいいわね」
彼はなぜか隣に女性を連れていた。金髪に派手な化粧を施し、冬だというのに膝上丈のミニスカートを履いていた。こういう女性が好みということか。とはいえ、女性など連れてきてどういうつもりだろうか。
「そちらの方はどなたですか?僕はあなた1人で来るかと思っていたのですが」
「こいつが男を連れてくるのに、俺がひとりとかありえないだろう?そもそも、俺は前からこいつに言っていた。『俺は女を作るがお前に男はムリだ。ひとりの男に尽くすしかできない』って」
まさか、現在の彼女の前に堂々と浮気相手の女性を連れてくるとは。あまりの奇行ぶりに呆れて言葉が出てこない。
彼と浮気相手らしき女性は、私の隣に座ってきた。私、彼、女の正面にルリさんが座る形となった。
「それで、この男が浮気相手って、わけ……。えええええ!」
私を見下して見ていた女性は、ルリさんの顔を見た瞬間、席を立って瑠璃さんを指差した。そして、店内に響き渡るほどの大声を出す。どうやら、ルリさんを知っているらしい。超人気モデルなので、女性だったら知らない人の方が少ないかもしれない。
「も、もし、かして、モデルの」
「あまり大声を出さないでもらえますか?」
「は、はい……」
ルリさんの言葉に女性ははっと我に返り、弱弱しい返事をして席に着く。先ほど私たちに取っていた横柄な態度が嘘のように、恥ずかしそうに膝に乗せた手をすり合わせている。
「お客様、どうなされました?」
「いえ、ちょっと話が盛り上がってしまいまして。お冷やのおかわりをお願いできますか?」
「か、かしこまりました」
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店員に穏やかに事情を説明するルリさんに思わず見惚れてしまう。対応がスマートすぎする。私もこんな風にさらっとトラブルに対処できるようになりたい。
「さて、和やかに食事、という訳にもいきませんから、サッサと用件を話して、この場をお開きにしましょうか」
店員に向けていた笑顔を引っ込め、ルリさんは彼に対して冷たい視線を向けて言葉を発した。彼との電話で見た黒いオーラが背中に見える。
「まあ、そうだよな。いいぜ。お前の言い分を聞いてやる」
私たちの話し合い(別れ話)がスタートした。
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