朔夜蒼紗の大学生活~幽霊だって勉強したい~

折原さゆみ

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動かぬ証拠②

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「私は一体何をしていたのかしら。」

 
 佐藤さんが目覚めたようだ。地面に横たわっていたので土や草で服が汚れている。さて、どうしようか。佐藤さんに、今起きていることを正直に話してしまおうか。

 話す前にとりあえず、佐藤さんがどこまで今回のことを知っているか聞いてみることにしよう。




「こんにちは、佐藤さん。朔夜ですが、あなたが今ここにいる理由はわかりますか。」


「私がここにいる理由、確か寺の前を通ったら知らない男に声をかけられて、その後言い争いになってそれから………。というか、なぜ蒼紗がここにいるの。確か私はその知らない男と二人で話していたはずで。ところでどうして私の服がこんなに汚れているのかしら。」

 
 どうやら気を失う前までの記憶はあるようだ。この状況をどうやって説明しよう。



「私はたまたまここを通りかかっただけです。たまたま通りかかったら佐藤さんが倒れていたので、心配で声をかけたまでのことです。」


「そうなのね。私の他に男はいなかったかしら。確か、男に何か注射器のようなものを突き刺されたような気がしたけど。」


「佐藤さんしかいませんでしたよ。ところで、大学を休んでいたようですが、休んでいた間、何をしていたのですか。」


「休んでいた間………。私は大学を休んでいたのね。そういえば、私は誰かにさらわれたような気がする。そして、逃げようとして、この寺の前を通りかかった気がする。なぜだろう。そのあたりの記憶があいまいで思い出せない。」


 佐藤さんも現状をよく理解できていないようだ。これは困った。今日はこのままいったん家に帰るべきだろうか。瀧さんたちの動向は気になるが、佐藤さんを連れたまま行動するのはまずい気がする。ここに居ては、いつ地下に向かった瀧さんたちが戻ってきて、鉢合わせになるかわからない。佐藤さんが目覚めていて、私がその場にいることがばれたらさらに状況がややこしくなる。


「こんなところで話しているのもなんですから、場所を変えましょう。」


「それもそうね。前から気になっていたのだけど、蒼紗はなぜ、話し方が敬語なのかしら。私たちは同い年のはずでしょう。普通に話してくれてもいいのに。友達でもあるのだし。」


「それはそうかもしれませんが、これが私の普段の話し方なので気にしないでください。」


 佐藤さんといったんこの場を離れることにした。寺を離れて、しばらく世間話をしたのち、私と佐藤さんは家に帰ることにした。



「また明日、大学で会おうね。蒼紗。」

「また明日。」


 




 佐藤さんが見えなくなるまでその場にたたずみ、それからまた寺の方向を目指して歩き始めた。



 寺に戻ると、そこには誰もいなかった。ほっとして、瀧さんたちが入っていった寺の床に空いた穴を見てみる。どうやらまだこの中にいるらしい。それとももう用は済んで外に出ているのか。どちらにせよ、今この場にいないのは確かである。



「朔夜先生だ。どうしたの。こんなところで。今日は塾の日ではないし、勉強は塾でやることで、ここではやらないよね。」


 声をかけてきたのは、今日の午前中に塾で勉強を教えていた幽霊である。確か、この声は翼君である。


「たまたま通りかかっただけ。翼君こそ、どうしてこんなところにいるの。というか、翼君たちはどこに住んでいて、塾での勉強以外は何をしているの。」

 
 驚いて、ついいつもの敬語が抜けてしまった。いい機会なので幽霊たちがどこに住んでいるのか、普段何をしているのか聞いてみよう。




「知らないでここに来たの。ここが僕たちの住んでいる場所だよ。僕たちはここで目覚めて瀧先生に出会って、瀧先生の勧めで塾に通って勉強しているんだよ。」


「そうなんだ。じゃあ、瀧さんはよくここに来るの。それと、ここの穴の中には何があるかわかるかしら。この中に瀧さんと私の友達が入っていったのだけど、私が入っていいものか気になっていたの。」


「瀧先生はよく来るよ。たぶん2、3日に一回はここに来るよ。ここにきて僕たちの様子を見に来るよ。それと、この穴の中は………。」

 



 そこで翼君は言葉を切った。穴の中から話声が聞こえる。私はとっさに翼君の腕をつかんで穴から離れ、寺の床下に身を隠す。話し声は徐々に大きくなる。翼君は幽霊であったので、腕をつかむことはできず、空をつかむことになったが、翼君は私の意図を汲んでくれて、私と一緒に寺の下に身を隠した。

 この時やっと翼君は幽霊なんだと実感した。そんなことをのんきに思っていたのだが、寺から出できた人を見て私は言葉を失なった。




「ここで目覚めた子供は皆、記憶がないから、心配しなくても大丈夫ですよ。すぐにその身体にもなれますよ。これから一緒に成仏できるように頑張って勉強しましょうね。桜華さん。」

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