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異世界転移をした彼女は女性の意識改革(服装改革)を行うことにした

2この世界での自分の役割を理解しました

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「どうしたのだ、カナデ。何やら騒いでいたようだが」

 カナデの声を聞いた護衛騎士の連絡により、カナデがいる部屋に再びエリザベスとソフィアがやってきた。

「ああ、すいません。つい、自分がこの世界にいる意味というか、この世界で私のやるべきこと、目標を再認識して、叫んでしまいました」

「そ、そうか。身体の調子とか、精神の病かと心配したが、大丈夫そうだな。それで、目標とはいったい何なのだ?」

 カナデはいまだに興奮状態だった。鼻息荒く、ソフィアたちに叫んだ理由を話し出す。その様子に二人は引いた様子だった。エリザベスが質問すると、カナデは待ってましたとばかりに回答する。




「よくぞ聞いてくれました。お二人は、私とした約束を覚えていますか。ほら、出会って間もなくした約束ですよ!この世界の女性の意識改革をしようっていうあれです!」

『ああ』

 二人はその時の様子を思い出して、苦笑する。女神から記憶を奪われたエリザベスだが、魔王と勇者に関してのみを奪われただけなので、カナデとの約束は覚えていた。ソフィアに関しては、女神は記憶を操作していないので、こちらも当然覚えていた。

「ああって、何ですか。あの約束はその程度だったんですか?私は違います。この世界に来た私の役割はそれだと思います!そのために、残りの私の人生を費やす覚悟で挑みます!」

『あははははははははは!』

「どうした、ホワイトにブラック。お腹でも壊したか?」

 カナデの言葉に返す言葉が見つからない二人に対して、女神たちの笑い声がカナデの頭に響き渡る。エリザベスは、突然にゃーにゃーとお腹を見せて転がり始めた二匹の猫に戸惑っていた。

 部屋にはカオスな空間が生まれていた。





「あ、あの。私たちは任務に戻ってもよろしいでしょうか」

 そのカオスな空間を壊してくれたのは、カナデの叫びを聞いて客間に真っ先に飛び込んだ騎士だった。しかし、その騎士の服装を見たカナデの叫びによって、その場は再びカオスな空間に逆戻りした。

「ここからかあああああああ!」

 騎士の性別は女性だった。女性騎士である彼女の服装は、カナデには目に毒だった。女性騎士と言えば、魔王討伐のために作られたパーティにいた女性騎士のイザベラも、破廉恥な格好をしていたが、彼女の場合は、そこまでの露出はなかったが。

「なんで、そんなに胸がきつそうなシャツを着ているのか聞いてもいいですか。それと、足下はなぜ、ミニスカなのかということも」

 彼女の服装は、二次元的には女性騎士の制服そのものだった。カナデも、ライトノベルなどの創作物で、彼女のような女性騎士を何度も見かけたことがある。しかし、見かけたからと言って、それを認めるほど、カナデは女性として落ちぶれてはいなかった。

 叫んだと思ったら、今度は真顔で質問された女性騎士は、どう対応したらいいのか、きょろきょろと視線をさまよわせながら考える。そして、エリザベスたちに視線が合うと、助けを求めて口をパクパクして訴える。二人はそっと首を横に振り、助けることはできないから、自分で考えろと目で指示を出す。

「これは……」

 助けがないとわかった女性騎士は、覚悟を決めて、改めてカナデと向き直る。そして、カナデの表情に驚いて、思わず本音を漏らしてしまった。

「これは、私の本意ではありません。私だって、こんな破廉恥な服装で任務をしたくないです。私だって、男性と同じようなものを着用したいです。ですが」

「皆まで言う必要はない。それは辛かったな。これからそんなことがないように、私が何とかしてやるから、今はただ、私の胸で泣きなさい」

 女性騎士が最後まで言葉をすることはなかった。途中で、カナデが女性騎士の頭を胸に抱え込んだからだ。ぎゅうとカナデが女性騎士を抱きしめていると、自然と女性騎士の身体から力が抜けていく。そして、今までの男性からの視線や悪口などのつらいことが思い出され、カナデの言う通りに泣いてしまった。





 女性騎士は、レオナと名乗り、カナデの言葉に触発されて、いろいろ職場での不満を話してくれた。

「先ほどは、カナデ様の胸の中で醜態をさらしてしまい、申し訳ありませんでした。その、カナデ様は、じょ、女性でいらっしゃられたのですね。いえ、エリザベス様がお心を許されているようなので、女性だとは思っていたのですが……」

 ひとしきり、泣き終えたレオナは、異世界で出会った誰しもが勘違いする、カナデの性別について触れた。カナデは慣れたもので、軽く肩をすくめるだけにとどめた。

「なぜか、私の服装や髪形から男と間違えられるんだよね。ここまで来たら、なぜかとか考えることも放棄したくなるけど。まあ、この世界の女性の特徴からしたら、仕方ないことかもしれないわね」

 カナデは自分の服装を改めて確認する。この世界の女性の服装の定番は、スカートだった。貴族階級の身分の高い女性たちは、ドレスを身にまとい、庶民たちはブラウスに膝丈のスカートを着用している、掃除や調理、貴族たちの世話をするメイドや侍女たちも言わずもがな、スカート姿で仕事をしている。そして、当然のように城を守護し、時には命を張って戦う女性騎士もミニスカートだった。

 それなのに、カナデはもといた世界の服装のままだった。ジーパンにチェックシャツ、パーカーを着ていた。髪型も多少伸びたとはいえ、男性よりも短いくらいのショート。この世界に女性たちは、大抵髪を伸ばしている女性も多かったので、間違えるのも無理はないだろう。

 それに、カナデはもともと、身体のラインが出る服が苦手だった。身体にフィットした服装で女性らしさを出すということはしていなかった。そのため、チェックシャツも余裕を持ったゆったりとしたサイズを着用していた。それなりに胸の大きさがあるカナデだったが、大きめのシャツを着ていたため、胸はそれほど目立っていなかった。




「レオナ、お前もか。とはいえ、我も最初は驚いたものだ」

「私は、初めからカナデさんが女性だとは気づいていましたけど。だって、服装から見たら、ただのダサい私服なだけで、女性だということはすぐにわかりますから」

 カナデが軽くスルーした問題を蒸し返すものがいた。わざわざ自分もカナデの性別を間違えたものだと話し出したエリザベスや、最初から気付いていたソフィアの発言だ。

「はあ、とりあえず、私のことはおいおい考えていくとして、まずは目に着いたあなたの服装から始めていきましょうか?」

 カナデは正直、女性の服装を変えて、意識改革をしようと意気込んではいたが、どこから手を付けていくかについては考えていなかった。ノリと勢いで宣言したに過ぎなかったので、レオナの登場はある意味、幸運だったと言えた。
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