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異世界転移をした彼女は女性の意識改革(服装改革)を行うことにした

1戻ってきました!

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「ここはいったい……」

 カナデは自分が置かれている状況を理解できないでいた。自分は確か、魔王と勇者、女神と悪魔と一緒にいた。そして、女神たちの判断によって、この世界に残ることができたはずだった。

「目覚めたか。まったく、いつまで寝ているのやら。今日起きなかったら、無理やりにでも起こそうかと思っていたぞ」

「え、エリザベス様!」

「何を驚いている?カナデ、お前は一カ月前に、この城の前で倒れておったのだぞ。それを助けてやったのがわれだ」

「一カ月……」




 カナデは、魔王との戦いからすでに一カ月が経過していることに驚いた。周りを見渡して初めてここが城の内部ということに気付いた。客人を泊めるための部屋なのだろうか。カナデはベッドの上にいた。エリザベスは、カナデが寝ているベッドのそばの椅子に腰かけていた。

「お主は一カ月の間、コンコンと眠り続けていたよ。どんなに部屋がうるさかろうが、外で騒がれようが、お構いなしに眠っていた」

「にゃー」

 エリザベスの言葉を肯定するかのようなタイミングで、猫の鳴き声がカナデの近くで聞こえた。その猫は、真っ白い毛並みで、瞳は黄金色、キラキラと不思議な光をたたえていた。

「ああ、おいで」

「にゃー」

 猫はおとなしく、エリザベスのもとに近寄り、足下に頬をすり寄せる。

「その猫はいったい……」

『わらわだ。面白そうなことをお主が考えていたから、猫になって見守ってやることにした』

『わらわもいるぞ。女神との戦いが終わり、今度は何をして退屈をしのごうと思っていたところだったが、女神と同じで、お主が面白そうだと思ってな。わらわも猫になることにした』

カナデのつぶやきに答えたのは、エリザベスではなかった。つい一か月前に、カナデたちをこの世界に残すと決めた、女神と悪魔の声だった。




「女神と悪魔……」

 二人の声はカナデの脳内に直接響き渡った。聞き覚えのある声だったが、肝心の二人の姿が見当たらない。きょろきょろと辺りを見渡すカナデに、エリザベスが不審そうに見つめる。

「どうした?目覚めたばかりでまだ気分が悪いのか?」

「いえ、あの、エリザベス様、その猫は一体どこで拾ったのですか?」

「ホワイトとブラックのことか?この子たちは、カナデが倒れていたところにいたのだ。カナデを心配そうに見守っていたし、おとなしかったので、われが面倒を見ることにした」

いつの間にか白猫の他に、もう一匹の猫がその場に現れた。その猫は、白い猫とは対照的に、全身を真っ黒な毛におおわれ、瞳は血のような真っ赤な色をしていた。

『先ほど、わらわたちは猫になって、お主を見守ると言っただろう。白い方がわれで、黒い方が悪魔だ。ちなみに、わわらたちの言葉はカナデにしかわからない。他の者たちには猫が鳴いているようにしか聞こえないから、気を付けた方がいいぞ』

「にゃーにゃー」

「この猫たちが女神と悪魔……」

「名前はわれがつけてやったのだ。カナデにずいぶん懐いているようだのう。カナデに向かって鳴いているな。目覚めてうれしいのだろうか」

 目を細めて二匹の猫を見つめるエリザベスには、確かに女神たちの言葉は猫の鳴き声として聞こえているようだ。

「白と黒だからって、ホワイトとブラックは名前が安直すぎはしませんか?」

「そうか?こやつらもそれで納得しているからよかろう」

 カナデはエリザベスのネーミングセンスを疑ったが、それを追求することなく、自分の今の状況を考えることにした。




「それで、私が眠っている間に何かこの世界は変わったのでしょうか……」

 カナデは、ひとまず、自分がもといた世界ではなく、またこの世界に自分が残っていることを理解した。そして、自らがこの世界でやるべきことを思い出す。

「女性の意識改革」

 カナデはつねづね、異世界転生・転移物の女性の扱いに不満を持っていた。そのため、どんなに話が面白くても、女性の扱いに不満が出て、なかなか物語を本気で楽しめないでいた。そんな自分が転生者となって、異世界にいるのというのなら、やるべきことは一つだった。そのために、まずは情報収集をして、現状を知らなければならない。

「特に変わったことはないな。それにしても、その猫たち、カナデによくなついているな」

「変わっていない……」

 エリザベスの言葉にカナデは首をかしげて考える。仮にも一カ月前、カナデたちは魔王を倒そうとしていたのだ。そして、女神と悪魔の戦いも終わりを告げて、魔王も勇者もこの世界からいなくなったはずだった。それなのに変わったことがないとは、いったいどういうことだろうか。

『それもそのはず、魔王と勇者の記憶は、わらわたちが消去したからな』

「えっ!」

「どうした?ホワイト、そんなに鳴いて、お腹でもすいたのか?」

 女神である白猫のホワイトが、エリザベスの言葉の補足をするが、エリザベスには白猫がにゃーにゃー鳴いているようにしか聞こえていない。

「あれ、でも私のことは覚えていますよね」

『それは、わらわたちが、お前をこの世界に残しておこうと思って、わざと記憶を残しておいたからだ』

 今度は悪魔である黒猫のブラックが女神の説明を補足する。

「変わったことと言えば、彼女たちが自らの故郷に帰ったな。私の護衛をしてもらっていたんだが、この二匹の猫が来てから、護衛はいらないと思えるようになってな。暇を出した」

「護衛……」

『お前が魔王討伐で一緒だったパーティメンバーの女性たちだな。魔王がいなくなった後、エリザベスの護衛をしていたそうだが、わらわたちが追い出した。とはいえ』





「トントン」

 話をしていると、扉をノックする音が聞こえた。エリザベスが入れと指示を出すと、扉が静かに開かれ、懐かしい人物と再会することになった。

「ソフィアです。カナデさんが目覚めたと聞きましたので、様子を見に来ました」

「ソフィアさん!あなたも故郷に帰ったのでは」

「私の故郷をカナデさんはご存じですよね。戻ると思いますか?」

「えっと……」

「ソフィアは、私の専属ヒーラーになってくれたのだ。まあ、われが怪我をするようなことがあっては国の一大事だが、いても問題はないとも思って、採用した」

 カナデとソフィアの気まずい空気を読んだのか、エリザベスが、ソフィアがここに居る理由を説明する。説明を終えたエリザベスの言葉に、ソフィアはカナデに一礼する。

「改めまして、ソフィアと申します。以後お見知りおきを」

「こ、こちらこそ、よ、よろしくお願いします」

「ふふ、相変わらず、カナデさんは素直でよい方ですね。そういえば、エリザベス様、公務の方はよろしいのですか?」

「うむ、そうだったな。カナデが目覚めたので、つい話し込んでしまった。では、われは一度公務に戻るが、カナデはまだ休んでいた方がいい。ソフィア、来てもらってすぐで悪いが、一緒に来てくれるか」

「もちろんです」

 では、と二人はあわただしくカナデのいる部屋から出て行った。

『二人に置いていかれて寂しいか?』

『人間とは面白いな』

 女神と悪魔が話しかけてくるが、カナデは別のことで頭がいっぱいで、彼女たちの言葉を聞いていなかった。

「ソフィアもエリザベス様もいる。そして、私のことを覚えているということは、あの約束も……」

『おい、きいているの』





「バチン」

 カナデは気合を入れるために、自らの頬を叩いた。彼女たちとした約束を果たすときがきた。そうと分かれば、すぐにでも行動に移す必要がある。

『だ、大丈夫か。まだ、起きたばかりだから、頭が混乱……』

「私はもう、大丈夫です。すぐにでも行動を開始したいと思います。女神さんたちは、私に協力してくれますか?」

 カナデの瞳は、目標ができたことで、ぎらぎらと輝いていた。

『なんか、妙なやる気だが、これは協力してよいのだろうか』

『ま、まあ、物は試しということもある。こやつの話を聞いてからでも、協力は遅くないだろうよ』

 女神と悪魔、今はホワイトとブラックが話し合っているのが聞こえないのか、カナデは自らの目標を大声で宣言する。

「この世界の女性の意識改革を私は行うぞおおおおおおおお」


「どうされました?」
「何事だ!」

 大声で叫んだカナデに、扉の前で控えていた護衛の騎士たちが驚いて、慌ててカナデがいる部屋に入ってきた。防音がなされているはずの扉越しにも、カナデの声は聞こえたらしい。

 こうして、カナデの新しい人生が改めて幕を開けたのだった。
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