マージナル:平凡なβが、すべての運命を壊すまで

水城

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4.藤堂尊は意識する。(1)

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 放課後、藤堂尊が父である藤堂隆道に連れていかれたのは、地元の観光協会と商工会議所の「やや気楽な」会合だった。
 
 話題は、この週末のビールフェスタ関係のこと。

 ――なるほど。

 まだ「未成年」の自分は、「アルコールの付き合いはできない」ということを、暗示めいて匂わせるための「詰襟」か……と、尊は理解する。

 「未成年の飲酒」など、それこそSNSで露見でもしたら、目も当てられない「面倒事」だ。
 絶対に巻き込まれるワケにはいかない。

 まあ、数十年前なら、高校生に酒を飲ませるなんざ、むしろ「気の利いたこと」ぐらいに思われていたんだろうが?
 そんな価値観を変えないままのオヤジどもも、まだまだ絶滅はしていないからな――

 「ビールフェスタ」自体は、すでに開催日を目前にしたイベントだった。
 具体的な運営の話などは、もちろん既に煮詰まっている。
 会合ではもっぱら、各ブルーワリの「台所事情かねまわり」やら補助金関係の「裏事情」やらの「情報共有」が主眼だった。

 わざわざ、「こんな場」に連れてこられたのは、「雑談」の中に、尊が聞いて記憶しておくべき話題があると、父がそう思っているのだということ。

 尊とて、そんなことは百も承知だった。

 そう。
 大事なのは「裏」。
 「表向き」の情報など、スマホでパソコンで、すぐ手に入る。
 だが、生の「噂」だけは、その場でないと得られない。
 
 まあ、ジジイたちの「噂話」なんぞ、ホント、どうしようもない、ウザったいコトだがな。
 
 そんな鼻白む「本心」は涼しい眼差しの下に隠し、尊は一応、あらゆる話題に耳を澄ませ続ける。

 ――どうしますかね。今日が通夜とかって。
 ――まあ、耳にしたからには、顔出さないワケにもいかんど。

 ふと、筋道の見えない会話の断片が、尊の耳に飛び込んでくる。

 ――色々と世話になったづら、商工会でも。
 ――それももう、十年二十年前のコトや。
 ――しかしまあ、義理事だぃね。

「尊」と、耳もとで呼ばれた。
 ひどく低くて、圧力の高い隆道の声。

 「そろそろ、去る潮時だ」という合図。

 ごく「さりげなく」場を抜けたいのだと思われる父のため、あまり目立ちすぎないように。
 けれども、周囲の人間に、尊はピシリとした一礼を残した。

 隆道の後をついて、尊は車へと向かう。
 父の「秘書」の竹内が、後部座席のドアを開いて待っていた。

 隆道が乗り込んだ後、その横に尊が座る。
 運転手がいる車だ。助手席は竹内の定位置だった。

「竹内、礼服のネクタイ」

 隆道が言えば、竹内がスッと、車のダッシュボードから漆黒のネクタイを取り出した。

 隆道のスーツはダークブルー。通夜に出るなら、むしろこの程度の服装の方が「駆け付けた」感がでて、無礼にはならない。

 行き先も告げていないのに、車は滑るようにしてどこかへ向って行く。

 礼装のネクタイに締め直しながら、隆通が、尊を一瞥もせぬままに、
「ああ、お前は「そのまま」で大丈夫だな、尊。制服でちょうど良かった」と口にした。

「どなたの通夜で?」
 尊が問う。
 
「お前は知らん男だ」

 ごく直截にそう応じ、ネクタイの結び目を調整しながら隆道は続ける。

「まだ、お前が生まれる前だな……このあたりの商売人では『顔役』だった男だ」
 
 ネクタイ整え終えた隆道が続ける。
 
「ああ、そうだ、尊。お前もそろそろ、『無駄』に能力を使わず、余力を残すということを覚えてもいい頃だ」
 
 無言のままの尊に、父はさらに畳みかけた。 
「重要度の低い話に『容量』を取られるな。覚えておくべき情報を取捨選択しろ」

 「助言」と言うには、あまりにも偉そうな「命令」だった。だが、それも「いつものコト」だ。
 だから、父への返答をはぐらかすようにして、尊はシレッと、こう口にする。

「……『その人』の通夜に、ワザワザ、父さんが出向くのには理由が?」

 だが隆道は、

「あの男には、市会に出始めた頃、世話になったからな」と、ごく殊勝な理由を口にするだけだった。

 そして車は、とある斎場の車寄せに滑り入って停車した。
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