6 / 69
4.藤堂尊は意識する。(2)
しおりを挟む
[6]
祭壇のしつらえは、なんというか……やや「微妙」だった。
明確な「タブー」ではない。
けれど、クリスチャンの葬儀では「菊の花」、「蓮の花」のたぐいは、極力使わない。
今回の祭壇も、全部ユリで揃えられればよかったのだろうが、おそらく本数が足りなかったのだろう。どことなく、ありものの白い花を「なんとか寄せ集めた」ような印象を受けてしまう。
とはいえそれも、「普通」の参列者ならば、特にどうとは思わないであろう、そんな些細な「違和感」に過ぎなかったのだが。
基本、クリスチャンの御葬儀は教会で行われる。
「通夜」も、正式にはやらないものらしいが、日本では、その代わりのようにして「前夜祭」という名で会葬者を呼ぶことも多い。
しかし、今回はそれとも、また少し違っていた。
ともかく、遺族側の「教会側に『主導権』を渡したくないという態度」が、折に触れてミエミエだった。だからといって、故人を無視し、自分たちの都合で仏式の葬儀を強行することもできずにいる――
一事が万事、そんな感じだった。
斎場の看板も「通夜」とせず「追悼式」と、何やら微妙なものだったし、牧師さん、神父さんの御祈りやら御ミサやらもない。
教会であれば本来整っているはずの、様々な小道具なども、葬儀社単独の手配では手薄になりがちだ。
むしろ、最初から無宗教の葬儀ならば、「それ用」の凝った設営ができる。
会場に故人の思い出の品々や写真を並べたり、指定のBGMを流すことだってよくある。
けれども、今回はなにもかもが中途半端で曖昧だった。
会場に対する悠一の印象が、総じて「微妙」だったのは、そんな事々が重なってのこと。
おそらく、故人の教会の知り合いなのだろう。
会場の片隅で両手を組んで祈りを捧げる数人の人だまりの存在も、なんともしっくりとこない。
ともかく悠一には、すべてのことが、どことなく「座りが悪く」感じてしまい仕方がなかった。
会の運びとしては、会葬者に一輪ずつ、棺へ献花してもらうようになっていて、悠一は、来場者にその花を渡したり、数や状態を確認する配置についていた。
すると突然、会場の気配がグワリと転じた。
それを背中で感じながら、悠一はさりげなく、ゆっくりと振り返ってみる。
理由はすぐに分かった。
――アルファだ。
それにしても、メチャメチャな「オーラ」だな。
見るからに「偉そう」な五十代のオッサンと……あ、後ろにいるのは……うちの高校の制服じゃん?
アイツは、ニ組の藤堂、藤堂尊。
……じゃあ、あのオッサンが「藤堂隆道」か。
そんな風に、悠一は状況を把握した。
この小さな街では、オメガもそうだが、アルファの数もそれほどではない。
とはいえ、アルファらしき会葬者も、今日、これまでに一人くらいは見かけている。
しかし、藤堂親子は、まるで「別格」だった。
「オメガ差別」など、今どき――特に若い世代では「表立って」する者などほとんどいない。それは事実だ。
けれども、アルファが「スクールカースト最上位である」というのもまた「事実」だった。
そして「それ」は、これからも変わることはないだろう。
せいぜい、学年に二、三人いるかいないか。
稀有でありながら、すべてにおいて恵まれた立場の人間。
それがアルファだった。
いわゆる上流階級、「貴族」みたいなもの――
だからこそ、ごく「平凡」な「多数派」である悠一にすれば「アルファ」など「自分とは特に関わりのない連中」という認識しかなかった。
「スタッフ」として会場全体を見渡す。
そんな「さりげない」目線のまま、悠一は、視界の境界上に尊を映した。
藤堂尊を学内で見かける時はいつも、悠一は、その圧倒的なオーラに「怯まされる」気がした。
同級だというのに、とても同い歳には見えないような、そんな印象を抱いていた。
特段に、威張り散らすような態度を取られているワケでもないのに――
けれども今。
悠一の目には、斎場のただ中で「詰襟姿」の尊は、ダークスーツに喪服姿の大人たちの中では不思議と……ほんのわずかだったが、どこかしら「幼げ」に映った。
献花用のユリのかたわらに佇む悠一に、ふと、藤堂尊が視線を向ける。
ふたりの目と目が合った。
尊が、悠一に向かって、ごく軽く会釈する。
ふうん……?
藤堂のヤツ、俺が「同じ学校だ」って気づいてやがるのか。
悠一は、それを意外に思う。
「藤堂尊」とは、部活も委員会も「かぶった」コトはなく、どこにもなにも「接点」などない。
別に、同じクラスになったこともなければ、話をしたこともないのにな?
すると、斜めうしろから、母親が悠一にそっと近づいてきた。
「悠一、アンタ、そろそろ帰っていいから」と耳打ちされる。
たしかに、来場する人の流れも、少し落ち着きを見せている。
何より、悠一もまだ学生の身。明日も朝から学校だ。
路線バスがあるうちに戻るなら、今がちょうど、そのタイミングだった。
母親の言葉に黙って頷き、悠一は静かに持ち場を離れると、そのまま裏へと回る。
いつもどおり「夕食代わり」に取り分けられている「仕出し」の折詰め。
その包みをスルッと取り、悠一は裏口から外へ出た。
駐車場を突っ切って、通りへと向かおうとしたところで、自動販売機の横、街灯の真下に誰かが佇んでいるのに気づく。
目を凝らせば、それは、缶コーヒーを手にした藤堂尊だった。
祭壇のしつらえは、なんというか……やや「微妙」だった。
明確な「タブー」ではない。
けれど、クリスチャンの葬儀では「菊の花」、「蓮の花」のたぐいは、極力使わない。
今回の祭壇も、全部ユリで揃えられればよかったのだろうが、おそらく本数が足りなかったのだろう。どことなく、ありものの白い花を「なんとか寄せ集めた」ような印象を受けてしまう。
とはいえそれも、「普通」の参列者ならば、特にどうとは思わないであろう、そんな些細な「違和感」に過ぎなかったのだが。
基本、クリスチャンの御葬儀は教会で行われる。
「通夜」も、正式にはやらないものらしいが、日本では、その代わりのようにして「前夜祭」という名で会葬者を呼ぶことも多い。
しかし、今回はそれとも、また少し違っていた。
ともかく、遺族側の「教会側に『主導権』を渡したくないという態度」が、折に触れてミエミエだった。だからといって、故人を無視し、自分たちの都合で仏式の葬儀を強行することもできずにいる――
一事が万事、そんな感じだった。
斎場の看板も「通夜」とせず「追悼式」と、何やら微妙なものだったし、牧師さん、神父さんの御祈りやら御ミサやらもない。
教会であれば本来整っているはずの、様々な小道具なども、葬儀社単独の手配では手薄になりがちだ。
むしろ、最初から無宗教の葬儀ならば、「それ用」の凝った設営ができる。
会場に故人の思い出の品々や写真を並べたり、指定のBGMを流すことだってよくある。
けれども、今回はなにもかもが中途半端で曖昧だった。
会場に対する悠一の印象が、総じて「微妙」だったのは、そんな事々が重なってのこと。
おそらく、故人の教会の知り合いなのだろう。
会場の片隅で両手を組んで祈りを捧げる数人の人だまりの存在も、なんともしっくりとこない。
ともかく悠一には、すべてのことが、どことなく「座りが悪く」感じてしまい仕方がなかった。
会の運びとしては、会葬者に一輪ずつ、棺へ献花してもらうようになっていて、悠一は、来場者にその花を渡したり、数や状態を確認する配置についていた。
すると突然、会場の気配がグワリと転じた。
それを背中で感じながら、悠一はさりげなく、ゆっくりと振り返ってみる。
理由はすぐに分かった。
――アルファだ。
それにしても、メチャメチャな「オーラ」だな。
見るからに「偉そう」な五十代のオッサンと……あ、後ろにいるのは……うちの高校の制服じゃん?
アイツは、ニ組の藤堂、藤堂尊。
……じゃあ、あのオッサンが「藤堂隆道」か。
そんな風に、悠一は状況を把握した。
この小さな街では、オメガもそうだが、アルファの数もそれほどではない。
とはいえ、アルファらしき会葬者も、今日、これまでに一人くらいは見かけている。
しかし、藤堂親子は、まるで「別格」だった。
「オメガ差別」など、今どき――特に若い世代では「表立って」する者などほとんどいない。それは事実だ。
けれども、アルファが「スクールカースト最上位である」というのもまた「事実」だった。
そして「それ」は、これからも変わることはないだろう。
せいぜい、学年に二、三人いるかいないか。
稀有でありながら、すべてにおいて恵まれた立場の人間。
それがアルファだった。
いわゆる上流階級、「貴族」みたいなもの――
だからこそ、ごく「平凡」な「多数派」である悠一にすれば「アルファ」など「自分とは特に関わりのない連中」という認識しかなかった。
「スタッフ」として会場全体を見渡す。
そんな「さりげない」目線のまま、悠一は、視界の境界上に尊を映した。
藤堂尊を学内で見かける時はいつも、悠一は、その圧倒的なオーラに「怯まされる」気がした。
同級だというのに、とても同い歳には見えないような、そんな印象を抱いていた。
特段に、威張り散らすような態度を取られているワケでもないのに――
けれども今。
悠一の目には、斎場のただ中で「詰襟姿」の尊は、ダークスーツに喪服姿の大人たちの中では不思議と……ほんのわずかだったが、どこかしら「幼げ」に映った。
献花用のユリのかたわらに佇む悠一に、ふと、藤堂尊が視線を向ける。
ふたりの目と目が合った。
尊が、悠一に向かって、ごく軽く会釈する。
ふうん……?
藤堂のヤツ、俺が「同じ学校だ」って気づいてやがるのか。
悠一は、それを意外に思う。
「藤堂尊」とは、部活も委員会も「かぶった」コトはなく、どこにもなにも「接点」などない。
別に、同じクラスになったこともなければ、話をしたこともないのにな?
すると、斜めうしろから、母親が悠一にそっと近づいてきた。
「悠一、アンタ、そろそろ帰っていいから」と耳打ちされる。
たしかに、来場する人の流れも、少し落ち着きを見せている。
何より、悠一もまだ学生の身。明日も朝から学校だ。
路線バスがあるうちに戻るなら、今がちょうど、そのタイミングだった。
母親の言葉に黙って頷き、悠一は静かに持ち場を離れると、そのまま裏へと回る。
いつもどおり「夕食代わり」に取り分けられている「仕出し」の折詰め。
その包みをスルッと取り、悠一は裏口から外へ出た。
駐車場を突っ切って、通りへと向かおうとしたところで、自動販売機の横、街灯の真下に誰かが佇んでいるのに気づく。
目を凝らせば、それは、缶コーヒーを手にした藤堂尊だった。
13
あなたにおすすめの小説
ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果
SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。
そこで雪政がひらめいたのは
「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」
アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈
ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ!
※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。
お世話したいαしか勝たん!
沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。
悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…?
優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?!
※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。
八月は僕のつがい
やなぎ怜
BL
冬生まれの雪宗(ゆきむね)は、だからかは定かではないが、夏に弱い。そして夏の月を冠する八月(はつき)にも、弱かった。αである八月の相手は愛らしい彼の従弟たるΩだろうと思いながら、平凡なβの雪宗は八月との関係を続けていた。八月が切り出すまでは、このぬるま湯につかったような関係を終わらせてやらない。そう思っていた雪宗だったが……。
※オメガバース。性描写は薄く、主人公は面倒くさい性格です。
交際0日婚の溺愛事情
江多之折(エタノール)
BL
死にたくはない。でも、生きたくもない。ふらふらと彷徨う根無し草は、世界の怖さを知っている。救いの手は、選ばれた者にだけ差し伸べられることも知っている。
だから緩やかに終わりを探して生きていた。
──たった数回の鬼ごっこを経験するまでは。
誠実すぎて怖い人は、4回目の顔合わせで僕の夫となる。
そんな怖がりな男と誠実な男の、結婚生活の始まり。
■現実だけど現実じゃない、そんな気持ちで読んでください。
■家庭に関してトラウマを抱えている方は読まない方が良いと思います。
番に囲われ逃げられない
ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。
結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。
拾ってくれたスパダリ(?)が優しすぎて怖い
澪尽
BL
生来、内気で自分に自身を持てない性格の朝哉は、入学当初の騒動によりいっそう内に籠るようになっていた。
家族は彼とは正反対の明るい人々ばかりで何となく居所がなく、その事件に関しても理解を得られない。
そんな彼を憐れみ、ほとんど単なる同居人か家政夫同然の名ばかり≪彼氏≫として扱ってくれていた女性も、愛想が尽きたのか朝哉がバイトをクビになったのを機に唐突に家を追い出されてしまう。
途方にくれた朝哉が最寄りのコンビニに向かうと、そこには憧れの男性の姿が。
どういう偶然なのか、会うたびに朝哉と同じような格好をしている彼。
名前も職業も何も知らないけれど、週に二度は出くわしてしまうため、なんとなく目で追うようになって半年。
ひょんなことから彼のもとで暮らすこととなるが、それと同時に、あの≪騒動≫の影がふたたび日常を蝕むようになり…?
包容力高めの美人お兄さんの手で気弱&卑屈な大学生くんが前向きになっていく話。
もし、運命の番になれたのなら。
天井つむぎ
BL
春。守谷 奏斗(α)に振られ、精神的なショックで声を失った遊佐 水樹(Ω)は一年振りに高校三年生になった。
まだ奏斗に想いを寄せている水樹の前に現れたのは、守谷 彼方という転校生だ。優しい性格と笑顔を絶やさないところ以外は奏斗とそっくりの彼方から「友達になってくれるかな?」とお願いされる水樹。
水樹は奏斗にはされたことのない優しさを彼方からたくさんもらい、初めてで温かい友情関係に戸惑いが隠せない。
そんなある日、水樹の十九の誕生日がやってきて──。
隣の番は、俺だけを見ている
雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。
ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。
執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。
【キャラクター設定】
■主人公(受け)
名前:湊(みなと)
属性:Ω(オメガ)
年齢:17歳
性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。
特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。
■相手(攻め)
名前:律(りつ)
属性:α(アルファ)
年齢:18歳
性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。
特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる