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10.なんで?
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「意味が分からない」
そうとしかいいようのない「情欲」だった。
「突き動かされた」としか言いようのない激しさ。
その後の夕食での記憶は、曖昧にかすんでいて。
精液にまみれた部屋着を、自分が一体いつ、どうやって処理したのか、悠一自身、もはやハッキリとは思い出せなかった。
目覚めた翌朝。
それは三連休の初日で、遠い空をした澄み渡る天気だった。
そんな蒼い空を、自室の窓から眺めやる悠一の気持ちは、ひどくモヤついていた。昨日の無理な体勢での自慰のせいで、膝頭が軽く痛み、腰がどんよりと重い。
いつもより遅い時間の朝食。
めずらしく家族そろっての食後は、休日の朝にありがちなバラエティ兼ニュース番組が流れているテレビを、ボンヤリ見やる。
そんな「家族団欒」といって言えなくもないような小一時間を過ごしてから、悠一は立ち上がった。
部屋に上がり、ジャージとウィンドブレーカーを着込んで、また降りてくる。
「どこ、行ってくるんだいね」
居間でテレビを見ていた母親が、廊下を歩く悠一へと視線を向けた。
「別に」
素っ気なく応じ、玄関先でシューズを履く悠一の背後に、母親が歩み寄ってきた。
「ちょっとその辺、走ってくるだけだから」
悠一は、振り返ってそう言い添える。
納得したように頷いて、「そうね、昼には帰っといで」と言い置くと、母はまた居間へと戻っていった。
*
特に行く当てもない、軽いジョグ。
外の空気を吸って身体を動かせば、気持ちも軽くなるのではないか。
そんな思いつきだった。
気づけば、悠一の眼前には城が見えている。
近づくにつれ、いつもと違う様子を感じた。
休日とはいえ、午前中にしては意外なほど「ガヤついて」いる。
――イベント?
ああ、「酒盛り」か。
悠一は軽く溜息を漏らす。
ここ数年恒例の「ビールフェスタ」だ。
この地域は「水」がいい。
小さなブルーワリーが盛んに作られるようになったのは、醸造関係の国の規制が緩和されてからだと聞く。
観光資源として、街でも地ビールには力を入れているし、なにより、街の大人たちにとっても、相当に楽しみなイベントになってる感じだった。
とはいえ、「参加できない身」としては、昼から飲んでる陽気な集団というのは、ちょっと「鬱陶しい」っていうのも正直なところ――
ジョグの足は止めぬまま、悠一はスルリと方向転換する。
さて、どこへ行こうか。このまま走れば、大学病院の方向だ。
じゃあ、まっすぐ温泉の方に行こうか。
タオルは首元に巻いている。足湯くらい浸かってもいいかもしれないし。
そんな考えを巡らせながら、悠一はちょっとした「ショートカット」しようと、まだ観光客もまばらな神社に足を踏み入れた。
さすがに、境内のド真ん中をつっきるのは憚られる。
できるだけ隅を走ろうと、ちょうど木々の方へと駆け入った時だった。
大きなケヤキの陰に「誰か」がいた。
というか「カップル」だ。
というか。
キスしていた。それも、かなり「きわどい」ヤツ。
駆ける足には、ちょうど軽く勢いがついていたところで、カップルの男女とも、悠一の足音に気が付いてしまう。
コッソリ立ち去るには、いまさら何もかも遅すぎた。
ヤバい、相当、気まずい……。
思わず立ち止まった悠一は、込み上げた唾液を飲み下そうとした瞬間、むせこんでしまう。
そして、そのカップルの片割れは――
藤堂尊だった。
*
尊のキスの相手。
その女は、かなり年上に見えた。
休日だからだろう、そこまでカッチリとした身なりではなかったけど、なんだか高そうな服で、見るからにキャリアウーマン的な印象だったから。
一方で、尊の方は、ジーンズにスニーカーという気軽な服装だった。
とはいえ、スニーカーは多分ハイブランドのモノ。
ナイロンジャケットは、カジュアルなスポーツスタイルとはいえ、スッキリとスタイリッシュなデザインだ。
尊に、自分の存在がしっかりと認識されていることは、悠一にも手に取るように分かっていた。
だが――
相手の女は、もう見るからに……完全に「蕩け切ってしまって」いて。
それは「無防備」なんてものを通り越し、むしろ「淫ら」と表現した方がピッタリくるほどの様子だった。だから悠一は――
尊に向かって、どんな態度を取ればいいのかを見失う。
とにかく何もかもが、あまりにいたたまれなかった。
やっとのことで、「会釈」とも「俯き」ともいい難い、ごく曖昧な首の動きだけを尊に向ける。
そして悠一は、踵を返し、速度を早めて走り出した。
やみくもに木々をぬい、悠一は神社の外へと抜ける。
そのまま、通りを横切ろうとしたところで、グッと肩を掴まれた。
「……オイ、春日。飛び出すと危ないぞ」
悠一の耳元で低い声がした。
藤堂尊の声だった。
「意味が分からない」
そうとしかいいようのない「情欲」だった。
「突き動かされた」としか言いようのない激しさ。
その後の夕食での記憶は、曖昧にかすんでいて。
精液にまみれた部屋着を、自分が一体いつ、どうやって処理したのか、悠一自身、もはやハッキリとは思い出せなかった。
目覚めた翌朝。
それは三連休の初日で、遠い空をした澄み渡る天気だった。
そんな蒼い空を、自室の窓から眺めやる悠一の気持ちは、ひどくモヤついていた。昨日の無理な体勢での自慰のせいで、膝頭が軽く痛み、腰がどんよりと重い。
いつもより遅い時間の朝食。
めずらしく家族そろっての食後は、休日の朝にありがちなバラエティ兼ニュース番組が流れているテレビを、ボンヤリ見やる。
そんな「家族団欒」といって言えなくもないような小一時間を過ごしてから、悠一は立ち上がった。
部屋に上がり、ジャージとウィンドブレーカーを着込んで、また降りてくる。
「どこ、行ってくるんだいね」
居間でテレビを見ていた母親が、廊下を歩く悠一へと視線を向けた。
「別に」
素っ気なく応じ、玄関先でシューズを履く悠一の背後に、母親が歩み寄ってきた。
「ちょっとその辺、走ってくるだけだから」
悠一は、振り返ってそう言い添える。
納得したように頷いて、「そうね、昼には帰っといで」と言い置くと、母はまた居間へと戻っていった。
*
特に行く当てもない、軽いジョグ。
外の空気を吸って身体を動かせば、気持ちも軽くなるのではないか。
そんな思いつきだった。
気づけば、悠一の眼前には城が見えている。
近づくにつれ、いつもと違う様子を感じた。
休日とはいえ、午前中にしては意外なほど「ガヤついて」いる。
――イベント?
ああ、「酒盛り」か。
悠一は軽く溜息を漏らす。
ここ数年恒例の「ビールフェスタ」だ。
この地域は「水」がいい。
小さなブルーワリーが盛んに作られるようになったのは、醸造関係の国の規制が緩和されてからだと聞く。
観光資源として、街でも地ビールには力を入れているし、なにより、街の大人たちにとっても、相当に楽しみなイベントになってる感じだった。
とはいえ、「参加できない身」としては、昼から飲んでる陽気な集団というのは、ちょっと「鬱陶しい」っていうのも正直なところ――
ジョグの足は止めぬまま、悠一はスルリと方向転換する。
さて、どこへ行こうか。このまま走れば、大学病院の方向だ。
じゃあ、まっすぐ温泉の方に行こうか。
タオルは首元に巻いている。足湯くらい浸かってもいいかもしれないし。
そんな考えを巡らせながら、悠一はちょっとした「ショートカット」しようと、まだ観光客もまばらな神社に足を踏み入れた。
さすがに、境内のド真ん中をつっきるのは憚られる。
できるだけ隅を走ろうと、ちょうど木々の方へと駆け入った時だった。
大きなケヤキの陰に「誰か」がいた。
というか「カップル」だ。
というか。
キスしていた。それも、かなり「きわどい」ヤツ。
駆ける足には、ちょうど軽く勢いがついていたところで、カップルの男女とも、悠一の足音に気が付いてしまう。
コッソリ立ち去るには、いまさら何もかも遅すぎた。
ヤバい、相当、気まずい……。
思わず立ち止まった悠一は、込み上げた唾液を飲み下そうとした瞬間、むせこんでしまう。
そして、そのカップルの片割れは――
藤堂尊だった。
*
尊のキスの相手。
その女は、かなり年上に見えた。
休日だからだろう、そこまでカッチリとした身なりではなかったけど、なんだか高そうな服で、見るからにキャリアウーマン的な印象だったから。
一方で、尊の方は、ジーンズにスニーカーという気軽な服装だった。
とはいえ、スニーカーは多分ハイブランドのモノ。
ナイロンジャケットは、カジュアルなスポーツスタイルとはいえ、スッキリとスタイリッシュなデザインだ。
尊に、自分の存在がしっかりと認識されていることは、悠一にも手に取るように分かっていた。
だが――
相手の女は、もう見るからに……完全に「蕩け切ってしまって」いて。
それは「無防備」なんてものを通り越し、むしろ「淫ら」と表現した方がピッタリくるほどの様子だった。だから悠一は――
尊に向かって、どんな態度を取ればいいのかを見失う。
とにかく何もかもが、あまりにいたたまれなかった。
やっとのことで、「会釈」とも「俯き」ともいい難い、ごく曖昧な首の動きだけを尊に向ける。
そして悠一は、踵を返し、速度を早めて走り出した。
やみくもに木々をぬい、悠一は神社の外へと抜ける。
そのまま、通りを横切ろうとしたところで、グッと肩を掴まれた。
「……オイ、春日。飛び出すと危ないぞ」
悠一の耳元で低い声がした。
藤堂尊の声だった。
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