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19.トライアングル・スクランブル(3)
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「よぉ」
ピロティの靴脱ぎ場。
マフラーを巻いた詰襟の横顔に、悠一は低く声を掛ける。
「昨日、休んでた? なんか……熱あったとかって、一組のヤツから聞いた」
そんな問いかけ――
悠一にとって「それ」は、「勝手な」気まずさを乗り越えて、いつもどおり奏に声を掛ける「理由」にできた。
「うん、そうなんだ」
奏がフワリと笑う。
「……でもさ、熱は全然。すぐ下がった」
たしかに、顔色はそう悪くなさそうだった。
そして奏は、軽く首を傾げながら、
「それより、春日の方はどうなの。大丈夫なのかよ? バス停でひっくり返っちゃってさ」と問い返してくる。
別に、なんともねぇって、と、ボソリ応じる悠一。
奏は上履きに履き替えながら、
「そっか、良かった。なんだろな? おれたち、揃ってカゼでもひいたかな」と歩き始めた。
階段を上がっていく。
二年の教室は三階。
「そうだ、春日」と、廊下で奏が振り返る。
「今日とかに……多分、完成すると思うんだ、だから」
唐突だった。
だがすぐに、奏が「自分の絵」のコトを言っているのだと、悠一は理解する。
――走る自分の姿をモデルにした「絵」が、描き上がるのだと。
「時間あったら、見に来なよ。うん、いつもくらいの時間でさ」
そう言って「じゃ」と片手を上げ、奏は、一組の教室へと入っていった。
*
「……どう、かな?」
問いかける奏の声は、思い切り照れくさそうで。
長い睫毛を伏せ、悠一と目を合わせないまま俯いていた。
数メートル先のキャンバス。
ふたり以外、誰もいない美術室。
悠一には、すぐに口にできる言葉がなかった。
こんなにジッと、こんなに長い時間。
一枚の絵画を見つめたことなど、初めてかもしれない。
痺れるような、圧倒感――
「うん」
悠一が、低く声を漏らす。「スゲェ、な……」
「気に入ってくれた?」
「ああ」
一呼吸の後、ひとことだけ、悠一が応じる。
「そっか……よかった」
奏の声が、明るく弾けた。
そして、正面から悠一を見上げ、
「ホント、ありがとな、春日」と――
ブワリ、笑う。
そして、イーゼルに近づいて絵を外し、奥の棚へとしまった。
*
「なあ、春日」
グラウンドの部活の声が響くなか、奏は、校門を抜けながら、隣を歩く悠一を見上げた。
「そういえば、春日って、そもそも絵は好きなの?」
「いや、まあ……特別には」
悠一が、漂うようなやわらかさで応じると、
奏が何かを思いついたように、まばたく。
「じゃあ、さ。今度、土曜とか、一緒に絵を見にいってみる? そうだな、市立美術館とか、どう?」
突然の提案だった。
土曜か……と、悠一はすこしだけ考え込む。
特に、今時点で「手伝い」は頼まれていないし。
日中だったら、まず大丈夫だろう。
そう考えを巡らせて、悠一は、
「いいぜ、行こうか」と即答した。
「よぉ」
ピロティの靴脱ぎ場。
マフラーを巻いた詰襟の横顔に、悠一は低く声を掛ける。
「昨日、休んでた? なんか……熱あったとかって、一組のヤツから聞いた」
そんな問いかけ――
悠一にとって「それ」は、「勝手な」気まずさを乗り越えて、いつもどおり奏に声を掛ける「理由」にできた。
「うん、そうなんだ」
奏がフワリと笑う。
「……でもさ、熱は全然。すぐ下がった」
たしかに、顔色はそう悪くなさそうだった。
そして奏は、軽く首を傾げながら、
「それより、春日の方はどうなの。大丈夫なのかよ? バス停でひっくり返っちゃってさ」と問い返してくる。
別に、なんともねぇって、と、ボソリ応じる悠一。
奏は上履きに履き替えながら、
「そっか、良かった。なんだろな? おれたち、揃ってカゼでもひいたかな」と歩き始めた。
階段を上がっていく。
二年の教室は三階。
「そうだ、春日」と、廊下で奏が振り返る。
「今日とかに……多分、完成すると思うんだ、だから」
唐突だった。
だがすぐに、奏が「自分の絵」のコトを言っているのだと、悠一は理解する。
――走る自分の姿をモデルにした「絵」が、描き上がるのだと。
「時間あったら、見に来なよ。うん、いつもくらいの時間でさ」
そう言って「じゃ」と片手を上げ、奏は、一組の教室へと入っていった。
*
「……どう、かな?」
問いかける奏の声は、思い切り照れくさそうで。
長い睫毛を伏せ、悠一と目を合わせないまま俯いていた。
数メートル先のキャンバス。
ふたり以外、誰もいない美術室。
悠一には、すぐに口にできる言葉がなかった。
こんなにジッと、こんなに長い時間。
一枚の絵画を見つめたことなど、初めてかもしれない。
痺れるような、圧倒感――
「うん」
悠一が、低く声を漏らす。「スゲェ、な……」
「気に入ってくれた?」
「ああ」
一呼吸の後、ひとことだけ、悠一が応じる。
「そっか……よかった」
奏の声が、明るく弾けた。
そして、正面から悠一を見上げ、
「ホント、ありがとな、春日」と――
ブワリ、笑う。
そして、イーゼルに近づいて絵を外し、奥の棚へとしまった。
*
「なあ、春日」
グラウンドの部活の声が響くなか、奏は、校門を抜けながら、隣を歩く悠一を見上げた。
「そういえば、春日って、そもそも絵は好きなの?」
「いや、まあ……特別には」
悠一が、漂うようなやわらかさで応じると、
奏が何かを思いついたように、まばたく。
「じゃあ、さ。今度、土曜とか、一緒に絵を見にいってみる? そうだな、市立美術館とか、どう?」
突然の提案だった。
土曜か……と、悠一はすこしだけ考え込む。
特に、今時点で「手伝い」は頼まれていないし。
日中だったら、まず大丈夫だろう。
そう考えを巡らせて、悠一は、
「いいぜ、行こうか」と即答した。
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