マージナル:平凡なβが、すべての運命を壊すまで

水城

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25.透明な鎖、長い夜(1)

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 土曜の授業が終わってすぐ、学校に直接、迎えの車が来た。

 これまでに、もう幾度もあった「シチュエーション」。
 かつては、周りの子どもたちから「浮いた」感じがして、きまり悪い思いをしたこともあった。

 だが、それはひどく昔の話。
 ごく幼い頃のこと。

 周囲と違って「当然なのだ」と。
 今は分かっている。

 オレは藤堂家の長男でアルファなのだから。

 十一で初兆ラットが来て、その後はもう、イヤというほど思い知らされ続けているのだ。
 父に――





 竹内が、スーツを持ってきていた。
 どうやら、今日は「学生服つめえり」ではNGらしい。

 昼過ぎからの、父のオフィスでの会合。
 東京の省庁の人間が来ると聞いていた。
 窓の外を打ち眺めながら、尊は、昨夜に一読した資料を、ザッと記憶の中に走らせる。

 「尊さまには、キチンとした昼食の時間がお取りできないので」と。
 車中で口にできる簡単なものを、竹内が準備していた。

 事務所のビルに到着し、用意された小部屋で着替え、身だしなみを整える。

 その後の打ち合わせは、午後中、長時間に及んだ。

 藤堂隆道にとって、彼らはかなり「重要な相手」だったらしい。
 引き続き、わざわざ夕食の場までセッティングされていた。

 尊も「食事」にまでは付き合わされる。
 その後、二件目が酒の席となり、「まだ若輩者ゆえ」との理由で解放された。

 竹内は隆道に付き添っていたから、運転手の車で、尊はひとり、自宅に戻る。

 自室のバスタブ、その熱い湯の中で身体を伸ばしながら、
 「長い一日だったな」と、思わず溜息を洩らす。

 ひどく疲れた気がしていた。
 そもそも「体調がいまひとつ」な週だったのだ。

 身体でも動かせば、多少、気が晴れるかもしれない……と。
 時間ができた放課後に、校舎裏の古いグラウンドで走ってみた。

 春日悠一と――

 「二グラ」に足を踏み入れた瞬間、春日の「不機嫌さ」を、ありありと感じた。
 「邪魔だ」「出ていけ」と言わんばかりの気配を。

 だがあえて、それを無視し、「くっついて」走ってやるのは、なかなかに愉快で、尊は「ランニング」を満喫した。
 
 「いい脚をしているな」と、そう感じた。
 もちろん、「春日悠一が」……だ。

 フォームもいい。
 長身を生かした、しっかりと広いストライド。
 タイムも、そう悪くなさそうで。

 なのになぜ、陸上部を辞めたりしたのか。
 
 だがすぐに、「その理由」が「分かった」気がした。
 「なんとなく」ではあったのだが。

 そして、尊が二度目に「二グラ」に押しかけた時には、悠一はまったく、イラ立ちを示さなかった。

 完全なる平常心。
 まるで尊など、どこにも存在しないかのように、自分自身に、トレーニングに集中していた。

 その走る姿は、やはりひどく確かで美しく。
 視界の端で悠一を追いながら、尊は、

 「退部時は、それなりに惜しまれたんだろうに」と。
 そんなコトを考えた――

 風呂から上がり、着替えた尊は、自室のラウンジチェアに腰を下ろす。
 冷たい炭酸水のグラスにくちびるをつけたところで、手元のスマートフォンが振動した。

 通話の着信。
 それは、父、隆道からだった。


 
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