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25.透明な鎖、長い夜(2)
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東京からの役人への接待はもう済んで、すでに自邸に戻っているのだろう。
隆道の声は、尊に短くこう告げた。
「『離れ』に来なさい」と。
そうだ。
明日は休み――
行きたくない。あの場所へは。
なにより、今晩はもう疲れ果てているのだ。
けれど。
メールの文字とは全く違う。
低く深く、胆力のある音色での「命令」。
本能が、「それ」に逆らえない。
尊は椅子から立ち上がる。
夜着を脱ぎ、シャツとスラックスに着替えると、上着を持って部屋を出た。
*
「離れ」、すなわち防音の「音楽室」。
爆弾からの避難室としてつくられたその場所は、外界からのすべての攻撃より守られて。
外界からのすべての「助け」を拒んでいた。
誰も――
誰も、助けには来ない。誰も助けてくれない。
助けて「くれない」?
いや。
「助け」など求めない。求めたことなどない。
オレは藤堂家の後継者、嫡子のアルファ。
誰の助けも必要ない――
ドアノッカーを三回鳴らし、尊は重い扉を押し開けた。
腰窓の傍、いつもの椅子に座る父親の姿よりも何よりも、尊が真っ先に感じ取ったのは、甘い腐臭。
強すぎて、吐き気がこみ上げそうなほどに、それはむせかえっている。
酸っぱい唾液を飲み下す。
表情は、微塵も変えぬままに。
床に座り、ソファーの座面にもたれかかるオメガの姿――
ひどく若い。
いくらオメガとはいえ、華奢すぎる骨格だった。ひょっとすると、まだ中学生くらいなのかもしれない。
とろけきった瞳。
若すぎるオメガは、完全にヒートの「ただなか」にある様子だった。
ジーンズとセーターというシンプルな恰好だったが、そのオメガは、まだキチンと衣服は身に着けている。
だがすでにジーンズは、ジッパーから尻、そして腿にかけて濃いシミが広がるほどにまで、分泌液で濡れそぼっていた。
時折ビクンと、オメガが背筋を痙攣させる。
腰が揺れていた。
尻を床に擦り付けている。
自尊心も自制心もなくなった「人間」の姿。
尊には、それは「動物」よりも「醜く」思えた。
その嫌悪を、ひたすらに白い表情の下に押し隠して、尊は佇む。
息子の平静さに目をやり、ひとつ満足気に頷くと、隆道はゆっくり、チェスターフィールドチェアから立ち上がった。
父が、夕食の店で別れた時と同じスーツ姿だと気づく。
帰宅後、部屋着に着替えもせぬままに、この部屋に来たのだと分かった。
そして、オメガのシャツの襟首を引き掴み、座面の広い背のないソファーに座らせる。
「そのまま見ていなさい」
淡々と無色の声。
だが、隆道の語尾が、ごくかすかなビブラートに震えていることに、尊は気づく。
いつもよりも「酒が入っている」ようだな、と。
尊は、父親の様子を、するどい嗅覚で嗅ぎ取る。
隆道が、オメガの下半身からジーンズを引き脱がせて押し倒した。
尊は、視界を広げる。
目の前の「行為」が、部屋の風景の単なる一部となるように。
注視せずに済むように。
ムワリと、オメガ臭が広がった。
割り開かれた肉丘。
浮かび上がる白い肌。
まだ幼子の丸みと張りを残した尻肉。
赤ん坊のような肌の滑らかさが、オメガの「年若さ」を雄弁に物語っている。
うつ伏せにさせたオメガの背後から、隆道が肉塊を突き立てる。
グチュグチュと、粘液の音。
幼いオメガが、その姿とは不釣り合いに淫らな嬌声を上げた。
隆道が、ゆっくりと、だが着実に男茎を沈めていく。
深く奥まで穿って。
さらに奥深くまで押し入って。
ついにはオメガの尻の膨らみに、隆道の腰骨が打ち当たる。
擦り上げて捻い入らせ、ひたすら執拗に最奥をこじ開けさせてから、隆道が一気に腰を引き戻した。
悲鳴。
オメガが泣き出す。
激しいピストンが始まった。
肉が打ち当たる音。溢れ出てくる濁液。
あんあんあんあん……と、オメガがひたすらに啼き通す。
「あ、お…ちんちん、す…ご、いっ、きもちい、あっ、おっき…」
誰に教わったのか。それとも、勝手にくちびるが動くのか。
かろうじて声変わりは終わった様子の、しかしながら、まだ幼い母音の発声で。
オメガは男妾めいた猥語を繰り返した。
さっきからこみ上げて止まらない吐き気を、尊はひたすらに飲み下す。
胃が痙攣を始めた。
ああ、ペニスを扱いて射精でもできれば、この吐き気も紛れるかもしれないのに。
だが、それは許されない。
「この場」で、父が掌握するこの室内で。
尊が身勝手に法悦を得ることは許されていない。
逃げ場のない苦痛。
頬を白く凍りつかせながら、尊は気分の悪さを抑え込む。
すると隆道が、ふと息子へ視線を向けた。
「今晩はいいだろう、尊。わたしが一度射精したら、お前が自分を慰めることを許そう」
「わたしが一度射精したら」だと?
そんなもの、一体いつになる。
どれだけ待てと? このクソ遅漏。
無論、ただ「遅い」だけではないのだと。
「この男」は、父は。
「いつ出すか」など、そんなコトはどうとでもできるのだと――
尊はウンザリするほど知り尽くしていた。
どこまでも出さずに続けることも、逆に「すぐに達すること」も。
父にとってはどちらも容易いことだと。
他人からはそうと分からぬように、尊は奥歯を噛み締める。
吐き戻してしまわないように。
陰部を反応させないように。
くちびるを震わせないように。
この場から飛び出し、逃げ去ってしまわないように――
そして頭の中に思い描くのは。
梢の連雀の地鳴き。
頬を撫でる風。
吸い込む空気の冷たさ。
足裏に感じるグラウンドの起伏。
真っ直ぐに前を向き、走る姿の確かさ。
春日悠一の、走る姿――
東京からの役人への接待はもう済んで、すでに自邸に戻っているのだろう。
隆道の声は、尊に短くこう告げた。
「『離れ』に来なさい」と。
そうだ。
明日は休み――
行きたくない。あの場所へは。
なにより、今晩はもう疲れ果てているのだ。
けれど。
メールの文字とは全く違う。
低く深く、胆力のある音色での「命令」。
本能が、「それ」に逆らえない。
尊は椅子から立ち上がる。
夜着を脱ぎ、シャツとスラックスに着替えると、上着を持って部屋を出た。
*
「離れ」、すなわち防音の「音楽室」。
爆弾からの避難室としてつくられたその場所は、外界からのすべての攻撃より守られて。
外界からのすべての「助け」を拒んでいた。
誰も――
誰も、助けには来ない。誰も助けてくれない。
助けて「くれない」?
いや。
「助け」など求めない。求めたことなどない。
オレは藤堂家の後継者、嫡子のアルファ。
誰の助けも必要ない――
ドアノッカーを三回鳴らし、尊は重い扉を押し開けた。
腰窓の傍、いつもの椅子に座る父親の姿よりも何よりも、尊が真っ先に感じ取ったのは、甘い腐臭。
強すぎて、吐き気がこみ上げそうなほどに、それはむせかえっている。
酸っぱい唾液を飲み下す。
表情は、微塵も変えぬままに。
床に座り、ソファーの座面にもたれかかるオメガの姿――
ひどく若い。
いくらオメガとはいえ、華奢すぎる骨格だった。ひょっとすると、まだ中学生くらいなのかもしれない。
とろけきった瞳。
若すぎるオメガは、完全にヒートの「ただなか」にある様子だった。
ジーンズとセーターというシンプルな恰好だったが、そのオメガは、まだキチンと衣服は身に着けている。
だがすでにジーンズは、ジッパーから尻、そして腿にかけて濃いシミが広がるほどにまで、分泌液で濡れそぼっていた。
時折ビクンと、オメガが背筋を痙攣させる。
腰が揺れていた。
尻を床に擦り付けている。
自尊心も自制心もなくなった「人間」の姿。
尊には、それは「動物」よりも「醜く」思えた。
その嫌悪を、ひたすらに白い表情の下に押し隠して、尊は佇む。
息子の平静さに目をやり、ひとつ満足気に頷くと、隆道はゆっくり、チェスターフィールドチェアから立ち上がった。
父が、夕食の店で別れた時と同じスーツ姿だと気づく。
帰宅後、部屋着に着替えもせぬままに、この部屋に来たのだと分かった。
そして、オメガのシャツの襟首を引き掴み、座面の広い背のないソファーに座らせる。
「そのまま見ていなさい」
淡々と無色の声。
だが、隆道の語尾が、ごくかすかなビブラートに震えていることに、尊は気づく。
いつもよりも「酒が入っている」ようだな、と。
尊は、父親の様子を、するどい嗅覚で嗅ぎ取る。
隆道が、オメガの下半身からジーンズを引き脱がせて押し倒した。
尊は、視界を広げる。
目の前の「行為」が、部屋の風景の単なる一部となるように。
注視せずに済むように。
ムワリと、オメガ臭が広がった。
割り開かれた肉丘。
浮かび上がる白い肌。
まだ幼子の丸みと張りを残した尻肉。
赤ん坊のような肌の滑らかさが、オメガの「年若さ」を雄弁に物語っている。
うつ伏せにさせたオメガの背後から、隆道が肉塊を突き立てる。
グチュグチュと、粘液の音。
幼いオメガが、その姿とは不釣り合いに淫らな嬌声を上げた。
隆道が、ゆっくりと、だが着実に男茎を沈めていく。
深く奥まで穿って。
さらに奥深くまで押し入って。
ついにはオメガの尻の膨らみに、隆道の腰骨が打ち当たる。
擦り上げて捻い入らせ、ひたすら執拗に最奥をこじ開けさせてから、隆道が一気に腰を引き戻した。
悲鳴。
オメガが泣き出す。
激しいピストンが始まった。
肉が打ち当たる音。溢れ出てくる濁液。
あんあんあんあん……と、オメガがひたすらに啼き通す。
「あ、お…ちんちん、す…ご、いっ、きもちい、あっ、おっき…」
誰に教わったのか。それとも、勝手にくちびるが動くのか。
かろうじて声変わりは終わった様子の、しかしながら、まだ幼い母音の発声で。
オメガは男妾めいた猥語を繰り返した。
さっきからこみ上げて止まらない吐き気を、尊はひたすらに飲み下す。
胃が痙攣を始めた。
ああ、ペニスを扱いて射精でもできれば、この吐き気も紛れるかもしれないのに。
だが、それは許されない。
「この場」で、父が掌握するこの室内で。
尊が身勝手に法悦を得ることは許されていない。
逃げ場のない苦痛。
頬を白く凍りつかせながら、尊は気分の悪さを抑え込む。
すると隆道が、ふと息子へ視線を向けた。
「今晩はいいだろう、尊。わたしが一度射精したら、お前が自分を慰めることを許そう」
「わたしが一度射精したら」だと?
そんなもの、一体いつになる。
どれだけ待てと? このクソ遅漏。
無論、ただ「遅い」だけではないのだと。
「この男」は、父は。
「いつ出すか」など、そんなコトはどうとでもできるのだと――
尊はウンザリするほど知り尽くしていた。
どこまでも出さずに続けることも、逆に「すぐに達すること」も。
父にとってはどちらも容易いことだと。
他人からはそうと分からぬように、尊は奥歯を噛み締める。
吐き戻してしまわないように。
陰部を反応させないように。
くちびるを震わせないように。
この場から飛び出し、逃げ去ってしまわないように――
そして頭の中に思い描くのは。
梢の連雀の地鳴き。
頬を撫でる風。
吸い込む空気の冷たさ。
足裏に感じるグラウンドの起伏。
真っ直ぐに前を向き、走る姿の確かさ。
春日悠一の、走る姿――
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