マージナル:平凡なβが、すべての運命を壊すまで

水城

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28.発出

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 別にどこも悪くはない。
 おれは元気なんだ。

 夜、ベッドに横たわる時にはそんな風に思っているのに――
 翌朝目覚めてみれば、ひどく身体がダルい。

 たぶん、よく眠れていないのだろう。
 いろんな夢を見ている気がする。朝になれば、どれもモヤの向こうに思い出せないような夢を。

 だからほとんど、学校に行けてない。遅刻して、昼前にやっと顔を出せるくらいで。
 熱っぽかったり眩暈がしたりで、予定の検診以外にも、病院に行く回数が増えていた。

 ダルさは「ホルモン剤」のせいもあるらしい。
 「少しまとめて、学校を休んでみる?」なんて。
 医者せんせいも、そんな提案を口にするようになった。

 冗談だろ。留年なんてゴメンだ――

 そんなおれの気持ちを見透かすように、

 「一、二年の学年のズレなんて、長い人生ではそう大したことじゃないのよ? ほら、留学なんかすれば普通のコトだしね」なんて。

 看護師さんも囁いてきたりしたりしてさ。
 
 そうやって部屋にいれば、ときどき酷くイライラしたりして。
 母さんが買い物に出た隙に、おれの指先は。

 ――そうだよ。
 このところペニスは、いつだって緩く勃起していていて。
 自慰が止まらない。

 その場所が痛みを覚えるほどの頻度で、おれはマスターベーションを繰り返していた。
 それでもなぜか、心底、満足できない気がするんだ。
 
 ジンジンと疼いて仕方がないのが、一体「どこ」なのか。
 指先は疲れ果てて、刺激に擦れ過ぎたペニスも、それ以上弄ることもできなくなって。

 おれは床のクッションの上で腰を蠢かせる。
 当たっているのは、陰嚢の奥。
 ほとんど尾てい骨に近い部分だった。

 なぜだか、ジワリとこみ上げてくる熱っぽさが後を引いて、腰の動きが止まらなくなる。

「あっ、あ……あ、っ……」
 短い声が、くちびるから漏れ出した。

 止められぬままに、ゴリゴリと擦りつけている場所が肛門であることに、おれももう、気づいていて。なのに――

 ドロリと。
 「その部分」から、熱いものが溢れ出すのを感じた。
 排泄物を失禁でもしたんじゃないかと、焦る気持ちに耳たぶが熱くなる。
 でも、そんな匂いはまったくなくて。
 ただ、やたらと甘ったるい何かが、空気中に充満していった。

 蠢かす腰のリズムに合わせて、ニチャリ、ニチャリと音が響く。
 腰骨を伝うように、どうしようもないキモチ良さがせり上がってきた。

 喘ぎ声が止まらない。
 腰を揺らしながら、ペニスに触れた。
 そしてすぐに指を離し、そのまま腹の上を伝って、胸の……乳首に触ってしまう。
 
 頭の中に一瞬、前にみたセックス動画の女の姿が浮かんだ。
 アクメ顔で男に乳首を舐られる横顔が。

 股間が痺れる。
 腹の奥がひたすらに熱くて、もどかしくて。

 玄関のカギが開く音が、遠く聞こえた。
 ドアの開け閉め。「ただいま」と、独り言めいた母親の声も。
 でもそれでも。

 頭の中は真っ白に焼き切れて、身体の自由がきかなくて。
 荒い呼吸、アンアンと止まらない嬌声。

 階段を上がってくる足音。

 こないで、こないで。

 ノック。

 ――かなちゃん? どうかした? かなちゃん。

 そして、ドアの外で息を飲む気配。

 そこに母さんがいるって、分かってる。
 わかってるのに、おれは。

 グチグチと尻を濡らしながら、床オナニーを止められずに、啜り泣きのようなイキ声を上げ続けていて。

 立ち込めてむせかえるオメガ臭の中で、おれは。

 羞恥とやるせなさとミジメさと。
 あらゆる自己嫌悪を噛みしめて。

 ああ、いっそ、もう死んでしまいたい――と。

 生まれて初めて、そんな希死念慮と。
 そして、空怖ろしい性的快感に、思考を乗っ取られていた。
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