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38.fallen(3)
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[61]
カフェオレを、飲み終えたか飲み終えないか、そのくらいの時。
気づけば、奏はテーブルの上で悠一の指先を握りしめていた。
おれ、匂ってる。
悠一だって、もう気づいてるはず。
「恥ずかしい」という気持ちが消えたワケじゃない。
けれど、そんなものは喰い尽くされてしまう。
欲望に。オメガの本能に。
「上、行きたい?」
悠一が、ボソリと訊いた。
奏は黙って頷く。
こうやって、悠一の方から訊かせてしまう。
後にはいつだって、ひどい罪悪感にさいなまれるのに、おれは、なんて――
きたない。
みにくい。なさけないオメガ。
こんな風にだけは、絶対なりたくなかったのに。あんなに怖かったのに。
今はもう。
考えられない、悠一がくれる快感以外のことは。
悠一のくれる「慰め」しか「赦し」しか。
「……て、し、て……ゆうい、ち…」
キモチヨクして、イカせて。
欲しくて、狂いそう――
駆け上るようにして、古く急な狭い階段を上がって、ふたりは悠一の部屋に飛び込んだ。
扉を閉めて、ベッドまでも我慢できずに奏が制服のベルトを外す。
滑り落ちるスラックス。
詰襟も脱ぎ捨てれば、暖房の入っていない部屋の空気が、ヒヤリと背中に沁み込んだ。
「かなで……ストーブ、つけるから」
宥める声で、悠一が言う。
「や、っ…いや、まてな…ゆうっ…ち」
奏が悠一の両腕にしがみつく。
それをすこしだけ押しとどめて、悠一がファンヒーターのリモコンを入れた。
カシンと着火する音。わずかに煤っぽい匂い。
悠一に抱きついて身をよじる奏の下腹部で、粘液がグチチ……と水音を立てた。
奏に抱き着かれたまま、悠一はベッドに倒れ込む。
そのまま下着に手を入れ、奏の腰へと指を滑らせた。
「すげぇ…濡れてんな……」
独り言めいて悠一が呟けば、奏の内にも、さすがに羞恥がこみ上げる。
でもそれでも、痺れは止まらない。
内側で蜜液が分泌されて、それは熱っぽく、胎外へと溢れ出してきた。
だから――
悠一の指先に、そっと肉襞をなぞられれば、後孔はヒクヒクと物欲しげに蠢いてしまう。
悠一は、ただ黙って、焦らすように解してくる。
「いい、いい……ゆう、いち、きもちい…ぃ」
奏は、悠一のうなじに鼻先を擦りつけた。
密着する身体。
鼠径部に触れる悠一の雄の部分。その硬さと熱を、奏はありありと感じ取る。
おれも触ってあげれば、悠一だって気持ちいいに違いない。
そう思って、この前は自分のペニスとすり合わせた。
でも……。
悠一、あまり悦んでなかったのかな。
ぼんやりと頭の中で、そんな思考を渦巻かせているうちに、奏の「場所」へと悠一の指が挿入される。
「っ……あ、ぁっあ、あっ…」
ブワリと熱液めいて広がる快感。
悠一の指は、そのまま深く挿し入れられて、もう焦らすことなくすぐさま、奏の蕩ける「場所」を抉りあげた。
電流のように突き上げる刺激。
奏は、悲鳴にすらならない息の震えを喉の奥にくぐもらせた。
悠一の指先はもう、完全に奏の悦楽の部分を知り尽くしていて。
時折のすこし乱暴な、すこし強すぎるほどの刺激すらも完璧だった。
気づけば、奏はトロトロとザーメンを漏れ出させている。
悠一は、声を押し殺すかのように、必死に奥歯を噛みしめていた。
そして時折、堪えきれなくなったようにして、奏のうなじに頬をきつく寄せ、その匂いを嗅ぐ。
「……いれ、て…」
奏が震える声を絞り出す。
「…え? はいって…るけど」
「ちが…う、ゆういち、を…ゆういちを…いれて、ゆ…いちのペニス」
……かなで?
息を飲む悠一に、奏が続けた。
「ゆういちの、ほしい、いれて……い、れ…てっ」
混乱した悠一の動きが止まる。
手首を掴んで、奏が悠一の指を引き抜いた。
「ほし、い、ゆう…いち、を、ちょうだい」
「ばか…なに言って、そんな」
蕩け切ったまなざしで見上げてくる奏から、悠一は必死に目をそらす。
「して、して…して…し、て」
タガを外しきって、奏が縋りついた。
そして、悠一の男茎をスラックスから引き出して、自らへと引き寄せる。
「やめ……っ、かな、で…っ」
悠一は、身体を引き離そうと奏を押し返した。
けれど、本気の力は出せなかった。
掴んだ奏の両肩が、ひどく華奢に思えて。壊してしまいそうに思えて。
そして、自身の先端が、ぬるりとあたたかな「部分」に触れたことを感じ取り、悠一は、
「だめ…だ、そのまま、じゃ……まって、かなでっ」
と必死に止める。
「だめ、じゃない…っ、おれ、まだ…だから、かんぜんには…なってな…くて」
「奏、おちつけっ…て」
「よくせい…ざい、飲んでるし、だから」
そのまま、悠一の雄を自らに導いて、奏が腰を沈める。
悠一はギリギリの理性を総動員させて、逃れようと身じろいだ。
そんな悠一の腰へと、奏が両脚をきつく絡みつかせる。
「あ、ゆういち、あつ…い、はいって、る…はいって…」
見開かれた奏の目の、瞳孔がワッと開いていく。
それ以上、抗うことは悠一にもできなくて――
奏を仰向けに押し倒してのし掛かった。
もうどうしようもなくこらえきれず、奥深くまで腰を押し当てる。
続けて、ガツガツと乱暴な抽挿を始めた。
「あ、ゆぅい…ち、すご、きもちぃ、きもちいい」
悠一の激しい腰の動きに合わせて、あんあんあんあんと、止まらない甘ったるい嬌声が続く。
きもちいい、きもちいい。
うしろ、きもちいい。
だってもう――
それしかかんがえられない。
*
「指」が気持ちいいのなら。
たぶん、もっと欲しいものは……あるはずで。
「そんな要求」が生じることを、想像しなかったワケじゃない。
したかった。もちろん俺だって。
奏を慰めた後は、ひとり夜に。
なんどもなんども自分を宥めて、奏の匂いの残るシーツに、きつく顔を埋めて。
――その時に、何を思い描いていたのか。
でも。
「それ」は絶対ダメだ……と決めていた。
これまでのことは、奏を「慰める」ための行為で。
ヒートに差し掛かって、どうしようもなくなってる奏を「助けたい」から始めたことで。
そうだよ。
こうするようになってから、奏は随分、元気になっただろ。
調子を崩して寝込むことも少なくなってきた。
けれど――
いつのまにか、俺たちは「それ」ばかりするようになった。
奏が「セックス」を求めてきた時。
それもなんの準備も……避妊もしないままの俺を求めてきた時。
踏みとどまれなくて「流されてしまった」自分自身に失望したし、なによりも。
悲しかった。
奏は「俺」を求めたのか。
ただ欲望に抗えなかったからなのか。
でもそれでも、奏はただ甘美な誘惑でしかなくて。
俺はもうすべてが、どうでもいいとすら思えて。
どうなってもいいと。
奏を抱けるなら。それで――
狂いそうなほど、夜ごと妄想した「その行為」。
現実は想像を凌駕していた。
指先では知り尽くしていたはずの「その場所」をペニスで犯す悦楽は、何もかもを押し流してしまうほどの快感で。
声を抑えることもできず、みっともなく涎を垂らして喘ぎ続けた。
ただガツガツと餓えた獣じみた腰の動きを続けて、奏の内側を貪り続けて、何度目かの絶頂に達した時。
ふと耳もとに蘇ったのは――声。
男も女も変わりはしない――特にオメガは。
電話一本で、高級ホテルの一室が用意され。
年上の女からのセックスの懇願を、爪の先の微かな動きめいてあしらって。
完璧に磨き抜かれた身体を見せつけられた。
彫刻みたいな。
見とれそうなほどの――
そんなアルファの男の声。
――したくならねぇのかよ?
そう囁く、低く身体に響く声が。
*
悠一と奏は墜落するように眠りに落ちていた。
カチンと、ストーブのタイマーが切れる音で、ふたりは目を覚ます。
身体を繋げたままだったコトに気づいて。
ふたり、寝返りも打てぬまま、ひどくきまり悪く黙りこくって。
そんな沈黙の後、悠一が、小さな咳払いとともに、ゆっくりと腰を捻って自らを奏から抜き取った。
自分がどれだけの回数、奏の内で「果てた」のか。
そんなことにハタと思い至って、悠一が床へと手を伸ばし、ティッシュの箱を手繰り寄せる。
「ありがと」と、それを受け取ってザッと自分を清めながら、奏がポツリ、
「えっと、その…よかった…? 悠一」と口にした。
「そんなこと」を訊かれるとは、思ってもみなくて。
悠一は困惑を隠せぬ表情で頬を赤らめる。
「……悠一、へいき?」
ひどく心配そうに、労わるような奏の声。
「だから…っ」
悠一が、燃えるように熱くなった頬を両手で擦りながら、言葉をもつれさせた。
「いいとか……よくないとか…そんなん…」
「よくない」ワケないだろ。
あんだけサカってガッついてて。
「……ごめん。おれが……いつも、おれがねだるから、悠一にムチャばっか言って…」
「なんで謝んだよ、バカ」
どうしようもない感情がこみ上げて。
思わず悪態めいた言葉を口にして、悠一が、
「イヤだったら、しねぇよ……」と言い淀む。そして、
「あのさ、奏」と少しだけ声を固くした。
「なに?」と、瞬きで応じた奏に、悠一が続ける。
「キス……していい? 俺、オマエとキス…したい」
曖昧な許諾のような沈黙。
悠一は、奏の両耳から指を滑り込ませた。
そして奏のくちびるを、自分自身へと引き寄せる。
フワリ、やわらかく滑らかな奏のくちびるを、自らのくちびるで感じ取って、ゆっくりと舌先で舐め回す。
続けて、さらに角度をつけて、より深くくちびるを重ね合わせた。
頼りなく閉じられたままの奏のくちびるを、舌でゆっくりこじ開ける。
けれども、前歯に邪魔されて、その先には進めなくて。
悠一は、奏の細い顎先を掴んで軽くゆする。
薄く開いた場所から、少し強引に舌を挿れた。
奏の身体が、少しこわばる。
けれどもそれが「快楽」のしるしではないことに、悠一は気がついてしまう――
悠一は、そこでキスを止めた。
そして、ひとつちいさく、奏の睫毛にチュッと短いくちづけを落とす。
「…ごめ…ん、悠一、なんかおれ…くすぐったくて」
奏が言いづらそうに言葉を漂わせる。
「別に……謝るなって」
ただ短くそう応じて、悠一は奏の身体に毛布を、そっと掛け直した。
カフェオレを、飲み終えたか飲み終えないか、そのくらいの時。
気づけば、奏はテーブルの上で悠一の指先を握りしめていた。
おれ、匂ってる。
悠一だって、もう気づいてるはず。
「恥ずかしい」という気持ちが消えたワケじゃない。
けれど、そんなものは喰い尽くされてしまう。
欲望に。オメガの本能に。
「上、行きたい?」
悠一が、ボソリと訊いた。
奏は黙って頷く。
こうやって、悠一の方から訊かせてしまう。
後にはいつだって、ひどい罪悪感にさいなまれるのに、おれは、なんて――
きたない。
みにくい。なさけないオメガ。
こんな風にだけは、絶対なりたくなかったのに。あんなに怖かったのに。
今はもう。
考えられない、悠一がくれる快感以外のことは。
悠一のくれる「慰め」しか「赦し」しか。
「……て、し、て……ゆうい、ち…」
キモチヨクして、イカせて。
欲しくて、狂いそう――
駆け上るようにして、古く急な狭い階段を上がって、ふたりは悠一の部屋に飛び込んだ。
扉を閉めて、ベッドまでも我慢できずに奏が制服のベルトを外す。
滑り落ちるスラックス。
詰襟も脱ぎ捨てれば、暖房の入っていない部屋の空気が、ヒヤリと背中に沁み込んだ。
「かなで……ストーブ、つけるから」
宥める声で、悠一が言う。
「や、っ…いや、まてな…ゆうっ…ち」
奏が悠一の両腕にしがみつく。
それをすこしだけ押しとどめて、悠一がファンヒーターのリモコンを入れた。
カシンと着火する音。わずかに煤っぽい匂い。
悠一に抱きついて身をよじる奏の下腹部で、粘液がグチチ……と水音を立てた。
奏に抱き着かれたまま、悠一はベッドに倒れ込む。
そのまま下着に手を入れ、奏の腰へと指を滑らせた。
「すげぇ…濡れてんな……」
独り言めいて悠一が呟けば、奏の内にも、さすがに羞恥がこみ上げる。
でもそれでも、痺れは止まらない。
内側で蜜液が分泌されて、それは熱っぽく、胎外へと溢れ出してきた。
だから――
悠一の指先に、そっと肉襞をなぞられれば、後孔はヒクヒクと物欲しげに蠢いてしまう。
悠一は、ただ黙って、焦らすように解してくる。
「いい、いい……ゆう、いち、きもちい…ぃ」
奏は、悠一のうなじに鼻先を擦りつけた。
密着する身体。
鼠径部に触れる悠一の雄の部分。その硬さと熱を、奏はありありと感じ取る。
おれも触ってあげれば、悠一だって気持ちいいに違いない。
そう思って、この前は自分のペニスとすり合わせた。
でも……。
悠一、あまり悦んでなかったのかな。
ぼんやりと頭の中で、そんな思考を渦巻かせているうちに、奏の「場所」へと悠一の指が挿入される。
「っ……あ、ぁっあ、あっ…」
ブワリと熱液めいて広がる快感。
悠一の指は、そのまま深く挿し入れられて、もう焦らすことなくすぐさま、奏の蕩ける「場所」を抉りあげた。
電流のように突き上げる刺激。
奏は、悲鳴にすらならない息の震えを喉の奥にくぐもらせた。
悠一の指先はもう、完全に奏の悦楽の部分を知り尽くしていて。
時折のすこし乱暴な、すこし強すぎるほどの刺激すらも完璧だった。
気づけば、奏はトロトロとザーメンを漏れ出させている。
悠一は、声を押し殺すかのように、必死に奥歯を噛みしめていた。
そして時折、堪えきれなくなったようにして、奏のうなじに頬をきつく寄せ、その匂いを嗅ぐ。
「……いれ、て…」
奏が震える声を絞り出す。
「…え? はいって…るけど」
「ちが…う、ゆういち、を…ゆういちを…いれて、ゆ…いちのペニス」
……かなで?
息を飲む悠一に、奏が続けた。
「ゆういちの、ほしい、いれて……い、れ…てっ」
混乱した悠一の動きが止まる。
手首を掴んで、奏が悠一の指を引き抜いた。
「ほし、い、ゆう…いち、を、ちょうだい」
「ばか…なに言って、そんな」
蕩け切ったまなざしで見上げてくる奏から、悠一は必死に目をそらす。
「して、して…して…し、て」
タガを外しきって、奏が縋りついた。
そして、悠一の男茎をスラックスから引き出して、自らへと引き寄せる。
「やめ……っ、かな、で…っ」
悠一は、身体を引き離そうと奏を押し返した。
けれど、本気の力は出せなかった。
掴んだ奏の両肩が、ひどく華奢に思えて。壊してしまいそうに思えて。
そして、自身の先端が、ぬるりとあたたかな「部分」に触れたことを感じ取り、悠一は、
「だめ…だ、そのまま、じゃ……まって、かなでっ」
と必死に止める。
「だめ、じゃない…っ、おれ、まだ…だから、かんぜんには…なってな…くて」
「奏、おちつけっ…て」
「よくせい…ざい、飲んでるし、だから」
そのまま、悠一の雄を自らに導いて、奏が腰を沈める。
悠一はギリギリの理性を総動員させて、逃れようと身じろいだ。
そんな悠一の腰へと、奏が両脚をきつく絡みつかせる。
「あ、ゆういち、あつ…い、はいって、る…はいって…」
見開かれた奏の目の、瞳孔がワッと開いていく。
それ以上、抗うことは悠一にもできなくて――
奏を仰向けに押し倒してのし掛かった。
もうどうしようもなくこらえきれず、奥深くまで腰を押し当てる。
続けて、ガツガツと乱暴な抽挿を始めた。
「あ、ゆぅい…ち、すご、きもちぃ、きもちいい」
悠一の激しい腰の動きに合わせて、あんあんあんあんと、止まらない甘ったるい嬌声が続く。
きもちいい、きもちいい。
うしろ、きもちいい。
だってもう――
それしかかんがえられない。
*
「指」が気持ちいいのなら。
たぶん、もっと欲しいものは……あるはずで。
「そんな要求」が生じることを、想像しなかったワケじゃない。
したかった。もちろん俺だって。
奏を慰めた後は、ひとり夜に。
なんどもなんども自分を宥めて、奏の匂いの残るシーツに、きつく顔を埋めて。
――その時に、何を思い描いていたのか。
でも。
「それ」は絶対ダメだ……と決めていた。
これまでのことは、奏を「慰める」ための行為で。
ヒートに差し掛かって、どうしようもなくなってる奏を「助けたい」から始めたことで。
そうだよ。
こうするようになってから、奏は随分、元気になっただろ。
調子を崩して寝込むことも少なくなってきた。
けれど――
いつのまにか、俺たちは「それ」ばかりするようになった。
奏が「セックス」を求めてきた時。
それもなんの準備も……避妊もしないままの俺を求めてきた時。
踏みとどまれなくて「流されてしまった」自分自身に失望したし、なによりも。
悲しかった。
奏は「俺」を求めたのか。
ただ欲望に抗えなかったからなのか。
でもそれでも、奏はただ甘美な誘惑でしかなくて。
俺はもうすべてが、どうでもいいとすら思えて。
どうなってもいいと。
奏を抱けるなら。それで――
狂いそうなほど、夜ごと妄想した「その行為」。
現実は想像を凌駕していた。
指先では知り尽くしていたはずの「その場所」をペニスで犯す悦楽は、何もかもを押し流してしまうほどの快感で。
声を抑えることもできず、みっともなく涎を垂らして喘ぎ続けた。
ただガツガツと餓えた獣じみた腰の動きを続けて、奏の内側を貪り続けて、何度目かの絶頂に達した時。
ふと耳もとに蘇ったのは――声。
男も女も変わりはしない――特にオメガは。
電話一本で、高級ホテルの一室が用意され。
年上の女からのセックスの懇願を、爪の先の微かな動きめいてあしらって。
完璧に磨き抜かれた身体を見せつけられた。
彫刻みたいな。
見とれそうなほどの――
そんなアルファの男の声。
――したくならねぇのかよ?
そう囁く、低く身体に響く声が。
*
悠一と奏は墜落するように眠りに落ちていた。
カチンと、ストーブのタイマーが切れる音で、ふたりは目を覚ます。
身体を繋げたままだったコトに気づいて。
ふたり、寝返りも打てぬまま、ひどくきまり悪く黙りこくって。
そんな沈黙の後、悠一が、小さな咳払いとともに、ゆっくりと腰を捻って自らを奏から抜き取った。
自分がどれだけの回数、奏の内で「果てた」のか。
そんなことにハタと思い至って、悠一が床へと手を伸ばし、ティッシュの箱を手繰り寄せる。
「ありがと」と、それを受け取ってザッと自分を清めながら、奏がポツリ、
「えっと、その…よかった…? 悠一」と口にした。
「そんなこと」を訊かれるとは、思ってもみなくて。
悠一は困惑を隠せぬ表情で頬を赤らめる。
「……悠一、へいき?」
ひどく心配そうに、労わるような奏の声。
「だから…っ」
悠一が、燃えるように熱くなった頬を両手で擦りながら、言葉をもつれさせた。
「いいとか……よくないとか…そんなん…」
「よくない」ワケないだろ。
あんだけサカってガッついてて。
「……ごめん。おれが……いつも、おれがねだるから、悠一にムチャばっか言って…」
「なんで謝んだよ、バカ」
どうしようもない感情がこみ上げて。
思わず悪態めいた言葉を口にして、悠一が、
「イヤだったら、しねぇよ……」と言い淀む。そして、
「あのさ、奏」と少しだけ声を固くした。
「なに?」と、瞬きで応じた奏に、悠一が続ける。
「キス……していい? 俺、オマエとキス…したい」
曖昧な許諾のような沈黙。
悠一は、奏の両耳から指を滑り込ませた。
そして奏のくちびるを、自分自身へと引き寄せる。
フワリ、やわらかく滑らかな奏のくちびるを、自らのくちびるで感じ取って、ゆっくりと舌先で舐め回す。
続けて、さらに角度をつけて、より深くくちびるを重ね合わせた。
頼りなく閉じられたままの奏のくちびるを、舌でゆっくりこじ開ける。
けれども、前歯に邪魔されて、その先には進めなくて。
悠一は、奏の細い顎先を掴んで軽くゆする。
薄く開いた場所から、少し強引に舌を挿れた。
奏の身体が、少しこわばる。
けれどもそれが「快楽」のしるしではないことに、悠一は気がついてしまう――
悠一は、そこでキスを止めた。
そして、ひとつちいさく、奏の睫毛にチュッと短いくちづけを落とす。
「…ごめ…ん、悠一、なんかおれ…くすぐったくて」
奏が言いづらそうに言葉を漂わせる。
「別に……謝るなって」
ただ短くそう応じて、悠一は奏の身体に毛布を、そっと掛け直した。
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