え、待って。「おすわり」って、オレに言ったんじゃなかったの?!【Dom/Sub】

水城

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ささみジャーキーと大邸宅(3)

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 少年が、着替えに用意してくれてたのは浴衣だった。

 それは、ビジホなんかに置いてあるようなものとは違う、見るからに「良さげな」シロモノ。

 ……とはいえ。さすがにコレを着て帰るのもなぁ。

 そりゃ、いたたまれないやら恥ずかしいやらで、今すぐここから消え失せたいのは「やまやま」なのだが。

 服はもう洗われっちまってるだろうから、それを取りに来ないワケにはいかないし。そもそも、この浴衣を返しに来なきゃだし。
 なんなら、むしろ「また来る」って方が、きまり悪い。

 そんなこんなを考え考え、オレは浴衣を着込んで脱衣所を出た。
 そしてペタペタと廊下を歩く。

 ってか、マジ、デカい家だし。
 オレ、どこで待ってればいいんだろ――

「あの、こっちです」
 長い廊下の奥から声がした。

 ああ。
 声変わりは終わってんのかな。
 でも、まだ少し、揺らぎを残して。
 透明感も漲らせたままの、そんな「声」。
 
 ――彼の声。





 呼ばれて入った部屋は、ダイニングみたいなところだった。
 奥にキッチンが見える。

 この部屋もキッチンも、きちんと「普段に使われてる」場所って感じがした。

 勧めらるがまま、オレはダイニングチェアに座る。
「どうぞ」と、少年はお茶まで出してくれた。
 茶托に乗った綺麗な茶碗で。

 うん。
 多分、この屋敷の中では、ここはほんの「普段使い」の部屋なんだろうな。けど、床は艶やかに黒光りしていて、ダイニングテーブルは少し無骨だけどドッシリとした年代物だ。

 なんだろな。由緒ある地主の家かなんかなんだろうか?

 オレは遠慮がちに、出された茶をいただいた。

 沈黙。
 なんだか痛いほどに。

 茶碗の縁を透かすようにして、オレは少年をチラ見する。

 いくつくらいだろう? 
 高校生ではなさそうだ。
 やたら冷静沈着で、やたら慇懃な振舞いだけど。たぶん、まだ中学生。

 そんな印象を抱いたのは。
 おそらく彼の、頬と顎にほとんど髭も見えない、きめ細やかな肌の透明感のせいだろう――

 そして、キチンと襟のあるシャツを着てる。
 もちろん、綺麗にアイロン掛けされた服だ。

 あーあ、オレなんかさ。
 もう仕事のワイシャツですら、とっくにポリエステルの形状記憶しか着てないよ。

 あのデカ犬は、テーブルのそばに座っていた。
 あらためて見れば、メチャメチャ座高が高い。

 そんなオレの気持ちでも察したのかのだろうか。
 少年が、ひと言。

「ムギ、伏せ」と、静かに命じた。

 ドキンとする。「その声」に。
 オレは、またしても――
 
 ムギってヤツが、のそり、床に「伏せ」をした。
 そんな飼い犬に少年は、「Good Boy」と誉め言葉リワードを与えてやる。

 そして、犬からオレへと、視線を戻さぬままに、

「あの、オジさんって……もしかして」と、言い淀んで、また沈黙する。

 その先に続けたかったであろう「言葉」。
 それは、オレにも容易に推測がついた。
 けれど、それを横取りすることなく、ただジッと、彼の話の続きを待つ。

 どれくらい待っただろう。
 少年がやっと、ふたたび口を開いた。

「もしかして、その……Sub、なんですか……?」

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