Kiss

hosimure

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甘々なキス・11

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世の中は『年の差婚ブーム』、らしい。

テレビで見たけれど、女性は年上の男性を最初の夫として、抱擁力を求める。

そして男性は年下の女性に、最後の女としての役目を求めると言う。

…生々しい話だけど、そういうのもアリだと思う。

そう思ってしまうアタシ自身、年上の男性と付き合っているからかもしれない。

「でも…本当に恋愛として、成り立っているのかなぁ?」

大きなため息を吐く。

「どうかしましたか?」

けれど背後からあの人の声を聞いて、背筋をピンッと伸ばす。

「いっいえ、何でもありません!」

振り返れば、愛おしい恋人がそこにいる。

今日も執事服が良く似合っていて、思わずニヤけそうになる顔を必死に抑える。

「このお邸は広いですからねぇ。メイドのあなたが掃除するのも大変でしょう」

四十六歳の彼は、まだ二十三歳のアタシにとても優しい。

…でもアタシに限ったことではないんだけどね。

「いえ、これもお仕事ですから」

けれどアタシはニッコリ笑みを浮かべて、箒を持ち上げる。

今、アタシは一人で庭の掃除をしている最中だった。

「ところで何かご用事ですか?」

「ああ、そうでした」

あの人は柔らかな笑みを浮かべたまま、アタシの側に来る。

そして耳元でそっと、

「…今夜、私の部屋に十時に来てください」

「はっはい…」

低い声で囁かれ、思わず声が裏返ってしまう。

けれどあの人はにっこり微笑んで、邸に向かう。

「ふぅ…」

…あの人と恋人になって数ヶ月は経つけれど、こういうのは慣れないなぁ。

「まっ、相手が上手ってことだけど」

アタシはメイドとして、あの人は執事として、ここに住み込みで働いている。

大学を卒業したのは良いけれど、就職浪人となってしまったアタシに声をかけてくれたのが、あの人だった。

最初はメイドなんて…と思っていたけれど、お給料が良かったので、今では自然な作り笑みも得意になってしまった。

元々ウチの父親とあの人が友人同士で、小さい頃からあの人とは会っていた。

その頃はまだ、ちょっと渋い感じがするけれど、優しくて気のきく人だなぁ~って思っていただけだった。

それがこういう関係になったのは、あの人から告白されたから…。

「でも公にはできないしな」

執事のあの人が、メイドのアタシと付き合っていることは内緒。

広まれば、絶対よくない噂が流れる。

―執事が下っ端の使用人に手を出した―

何て噂が広まったら、あの人もアタシもここを辞めなくちゃいけない。

ここのご主人様は世間的にも有名な人だから、悪評がついた後、再就職するのは難しそうだ。

「まあ内緒なのは良いんだけどね」

あの人はとても人当たりが良くて、老若男女から人気が高い。

けれど歳が歳だから、アタックしてくる女の子はあまりいない。

それが安心するところだけど、やっぱり…秘密って辛いかも。

仕事を終えて、お風呂に入った後、アタシは再びメイド服を着る。

もちろん、洗ったばかりの綺麗なの、だ。

寝巻きで邸の中を歩くことは禁止されているし、私服であの人の私室に入るところを見られては、妙な噂が立てられてしまう。

だからあの人がアタシの部屋に来る時も、執事服。

…まあそれはちょっと萌えるから良いんだけど。

「何てバカなこと考えている場合じゃないわね」

もうすぐ十時になる。

あの人の部屋もアタシの部屋も個室だけど、やっぱり執事であるあの人の方が立派な部屋を与えられている。

「アタシも出世したら、良い部屋を貰えるのかな?」

そうすれば…あの人も堂々と部屋に来てくれるかもしれない。

今のままじゃ、どうしたって仕事の延長戦みたいな感じだし。

あの人の部屋の前で軽く身だしなみを整え、扉をノックした。

「どうぞ」

「失礼します」

礼儀正しく部屋の中に入る。

「あれ? まだ着替えていなかったんですか?」

部屋の中に他に人がいないことを確認して、口調を和らげる。

「ええ。ですが時間はピッタリなので、気にしないで良いですよ」

執事服を脱ぎかけって…妙に色気があって、参るなぁ。

…でもアタシがメイド服を脱ぎかけた姿って、ただたんにだらしない感じしかしない。

「さっ、こちらにおいで」

ベッドに腰掛けて、あの人が手招きする。

高鳴る胸を押さえながら、アタシは前に進み出る。

そしてあの人に手を掴んで引っ張られ、思わずその体に抱き着いてしまう。

…見た目とは反して男らしい体、何度触っても、やっぱり緊張する。

「ふふっ。可愛いですね」

あの人が浮かべる笑みはいつも見ているもの。

…けれどその眼に鋭い光が宿っているのを見て、思わず体が熱くなる。

「あっ…」

あの人の指がアタシの唇に触れる。

「さて、何か言いたそうな顔をしていますね?」

…イジワル、だ。

ここでお預けをくらわすなんて。

それともコレが年上の余裕さなのだろうか?

「キス…してほしいです」

そしていつも負けてしまうのは、アタシが年下だから?

「―良いですよ」

「んんっ…!」

けれどアタシのワガママを何でも聞いてくれるから、甘えてしまう。

情熱的なキスに、頭の中まで熱くなる。

気付けばあの人の膝の上に座っている格好になっていた。

けれど気にせず、アタシの頬を撫でてくる。

「あなたは本当に可愛いですね。それに優秀でもある。教育のしがいがありますよ」

「…調教、の違いじゃありませんか?」

「ああ、そうとも言えますね」

あっさりと肯定したよ…。

「もしかして他のメイドにも、アタシと同じことをしています?」

「心外ですねぇ。しませんよ、そんなこと」

真顔で本気で言っているので、それは信用しよう。

「どうもあなたは誤解しているようですが、こんなに年下の女の子と付き合うのははじめてなんですよ? しかも職場の部下ですし」

「じゃあ何で手を出そうと思ったんです?」

「…それは『何で告白したんですか?』の間違いでしょうに…。んっ、やっぱりありがちですけど、あなたが他の男に取られるのが嫌だったからですよ」

そう言ってアタシの手を恭しく取り、手の甲に口付けてくる。

今度はこっちが心外。

「一体いつからアタシに眼をつけていたんです?」

「……『いつから気になっていたんです?』と言いたいんですよね? 答えは残念ながらハッキリとはしていませんが、一緒に働いている時には愛おしい気持ちに気付いていましたよ」

「友達の娘なのに?」

「一応自制はしていましたよ? ですがまさかあなたが告白を受け入れてくれるとは思わなかったので」

「そっそれは…」

嬉しい―と素直に心から思ってしまったから。

だから告白を受け入れた。

恋人になって、甘い関係になって、毎日が楽しく過ごせてしまうほど、アタシもこの人のことが…。

「それは?」

意地の悪い笑顔を浮かべながら、間近でアタシの顔を見てくる。

「…やっぱり素敵な人だなぁって、憧れの気持ちを持っていましたからね。この人がアタシの恋人になるって考えただけで、嬉しくなっちゃったんですよ」

ちょっとぶっきらぼうに言って、今度はアタシの方からキスをする。

「ふふっ。なら両想いってことですね」

「…ですね」

でも正直、いつまで続けられるかは分からない。

やっぱりお互い、立場がある。

それにここの仕事も、慣れれば楽しい。

仕事を辞める気はお互いサラサラないだろうしなぁ。

「では明日にでも、ご主人様に報告しに行きますか」

「何か報告すること、ありましたっけ?」

ここ最近の仕事を振り返っていると、あの人は苦笑した。

「いえ、そうではなくてですね。仕事ではなく、恋愛の報告をしようかと言っているんですよ」

「……はい?」

それって今まさに、アタシが考えていたこと。

「でっでも良いんですか? 立場が悪くなったりとかしません?」

確かに同僚からバラすよりも、雇い主であるご主人様に一番最初に報告した方が良い。

「ウチのご主人様は別に恋愛を禁止していませんからねぇ」

「でっでも同僚達に何と言われるか…」

「気になります?」

アタシは素直に頷く。

気になるからこそ、今までこういう秘密の付き合い方をしてきたから。

「―大丈夫ですよ。あなたと付き合っているからと言って、私が何か変わったわけでもありませんし」

「…悪い噂が立つかもしれませんよ?」

「言いたい人には言わせておきましょう。…ああ、でもそれならいっそ、結婚しますか?」

「はあっ!?」

また突拍子もないことを…。

「別に夫婦で勤めることなんて、いくらでもあることです。恋人という不安定な関係よりも、しっかり夫婦という間柄になれば、悪い噂なんて立ちませんよ」

…いや、それでも少しは流れると思うけど。

でも確かに言われてみれば、結婚の方が落ち着くのは早いかもしれない。

「でも…」

「まだ何かありますか?」

人が悩んでいるのに、額や頬にキスしてこないでほしい…。

ちゃんと真面目に考えているのに、この人は…!

「ウチの父には、何て報告するんですか?」

はっきりとした声音で尋ねると、動きがピタッと止まる。

やっぱりこの人、仕事バカだ。

そっちのことは考えていなかったんだろう。

「ウチの父はアナタを信用して、ここに働かせているんですよ? それが一年しか経っていないのに、結婚とか言い出したら、怒りそうなんですけど」

「…そっちの問題がありましたか」

唸りながら、険しい表情を浮かべる姿を見ると、ちょっと可愛いって思ってしまう。

「まっ、そっちはおいおい。何せ二十歳過ぎれば、結婚は自由ですからね」

確かにそうだけど、でもその言い方って…。

「何かアタシが二十歳過ぎるまで、待っていたって感じの言い方ですね?」

「そっそんなことはありませんよ!?」

珍しく動揺を見せる。

アタシは深く息を吐きながら、改めてこの人との未来を考え始めた。

…でもまずは、ご主人様や同僚、そして両親の報告が先。

―アタシ、この人と結婚します。

ってね?

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