Kiss

hosimure

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学園のキス・2

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「お前、どういうつもりだ?」

「何がッスか?」

「この進路希望だ」

生徒指導室で、アタシの目の前にいる担任の先生は思いっきり顔をしかめて、アタシが書いた進路希望の用紙をピラピラと振って見せる。

そこに書いてあるのは、

『先生の奥さん』

という心から希望している進路だ。

「ふざけないで、どこの大学でも就職でもいいから書け」

「だーからぁ、本気ッス。アタシの気持ちはずっと先生に言ってたッスよ」

「その口調も止めろ…」

先生はただでさえくたびれた中年オヤジなのに、今は余計にくたびれ感が出ている。

先生とアタシが出会ったのは、中学一年の時。

ウチの学校は共学で中・高一貫、しかも寮住まい。

かなり厳しい進学校として有名で、アタシなんかは変わり種。

けれど運動も勉強も上位の方だから、別に文句は言われない。

…目の前にいる先生以外は。

先生は国語担当の教師で、中学一年の時、アタシは国語係だった。

教科の係は各クラス男女一名ずつ。

先生が使う資料を運んだり、宿題の提出物を回収して渡す役目をする。

――が、アタシのパートナーは当時、係をサボってばっかいた。

成績が思うように伸びなかったのと、アタシを敵視していた為、係の役目を押し付けやがった…!

でもそのことに気付いた先生が、パートナーを説得してくれたおかげで、何とか役目をこなしてくれるようになった。

一見はボサ~とした冴えないオッサンだけど、生徒のことをよく見て知っていてくれる。

そんな先生に惹かれたアタシは、中学一年から先生に迫っていた。

けれど年齢差が二回りも違ったせいで、最初は子供扱いだった。

まあ確かに十二歳の女の子に、三十六歳の男が告白されても、懐かれたとしか思えない。

だから思いきって高校に上がってすぐ、先生の部屋に夜這いに行ったのだ。

先生は、男先生専用の寮の一階の角部屋だったから、侵入は楽だったなぁ。

アタシも中等部の頃は二人部屋だったけど、高等部では一人部屋だから、抜け出しても結構バレない。

だから男子寮と女子寮が離れていても、夜中に密会する恋人は多い。

アタシと先生のように。

「アタシ、もう先生のせいで傷モノッスよ。責任取ってください」

「真夜中に夜這いしに来た女子高校生が何を言う」

あっ、怒った。

まあ確かに最初はそうだったけど…。

「でもそれから三年間は受け入れてくれたじゃないッスか」

「それはお前がいつまでも窓の外にいるからだろう!」

…おっしゃる通りで。

でもその気になれば、寮の部屋は空きがあるんだから移動することだってできた。

それをしなかったんだから、多少なりと脈はあるはず!

「でも先生も無用心ッスよ。窓に鍵かけないなんて」

「寮の敷地で危ないヤツが侵入するとは思わなかったんだ。お前みたいなヤツがいるとは予想外だったがな」

ヤレヤレといった感じで肩を竦める先生。

「…とにかく、お前は優秀な生徒だ。希望すればどこへだって行けるだろう? ふざけるのもいい加減にして、本気で進路を考えろ」

「何度も言わせないでほしいッス。アタシは先生の嫁になりたいッスよ。…それとも先生はこうやって女子生徒の気持ちを弄んでいたッスか?」

 ゴンッ!

「あいたっ!」

「…お前のその態度といい口調といい…頭の良いヤツはどこかおかしなもんだ」

おっ女の子の頭にゲンコツを落とすか、普通?

「大体、何で俺なんだ? 遊ぶのもここら辺にしといた方が良いだろう?」

先生の言葉で、アタシは首を傾げる。

「…まさか先生、アタシに弄ばれていると思っていたッスか?」

「そうじゃない! …ただ、擬似的な恋愛関係だっただけだろう?」

ムッ!

「何ッスか、それ? アタシは本気ッス! だから先生の部屋に夜毎、通っていたし…」

「それをここで言うなっ!」

小声で怒鳴って、先生はアタシの口を塞ぐ。

まあ確かに人気の少なくなった校舎の中とはいえ、誰が通り過ぎるか分からないしな。

「…でもアタシ、ずっと待っていったッスよ? 先生がちゃんと独身で恋人いないことを知ったから、迫ったんだし…」

「そもそも三十過ぎの男に迫るな。俺ももう四十二だぞ?」

「知ってるッス。アタシはもう時期、十八。結婚できるッス」

「親の承諾が必要だろう?」

…それもごもっとも。

「…じゃあ先生は何でアタシに付き合ってくれたんッスか? 遊びだったら遊びだったと、言ってほしいッス」

ウソ、本当は言ってほしくない。

けれど切るのならば、バッサリ切ってほしい。

変な期待を持たせずに、背中を押してほしいと思うアタシはワガママだな。

案の定、先生は困り顔で腕を組んで、ため息まで吐く。

「…正直言えば、こんなオヤジに懐いてくれるお前は可愛かった。まるで妹か娘が出来た気分だったしな」

それは知っている。一緒にいて、感じていたから。

「だから…と言うこともないが。お前が女として迫ってきた時は……その延長みたいなもんだと思った」

…つまりアタシの接触は、過激なスキンシップの一つと思っていたと。

「だけどお前は若いし、未来がある。可能性な無限大だし、俺なんかに構っているのが勿体無いと思ったんだ」

「むっ…」

「外の世界に出れば、お前にふさわしい良い男がすぐに見つかるさ。だから俺ことなんて…」

「むうっ!」

耐え切れずに叫んだアタシは突然立ち上がり、机に膝を載せて先生の両肩を掴み、くだらないことばかり言う唇を唇で塞ぐ。

「んんっ…! おっおい!」

 ガターンッ

そのまま先生は背中から床に落ちる。

あたしは先生が抱きしめて庇ってくれていたから、どこも痛くない。

…やっぱり優しい。

そんな先生の上に乗りながら、アタシは何度も先生にキスをする。

最初は抵抗していた先生だけど、途中から力が抜けたようになすがままになった。

唇がしびれるようになって、ようやくアタシは先生から離れる。

「…お前なあ」

困り果てた先生の顔、唇はアタシの唾液で濡れていた。

こういうところが妙に色っぽいんだよなぁ。

「だぁって先生、くっだらないことばかり言うから。アタシはこの恋心を一生のモノにしたい。死ぬ時だって持っていきたいと思っている気持ちを、バカにされたら怒るッスよ」

「うっ…」

少し怒ったように上から言うと、先生はますます困る。

そんな先生に、アタシはフッ…と笑いかけた。

「先生、知ってったッスか? アタシ、実は国語が苦手だったッスよ」

「…ああ、そう言えば一年の夏までは六十点台だったな」

「そうッス。でも夏に先生に惚れて、国語の教科書を大事にしたり、何度も読み返したりしたッス。そうすると、少しでも先生に近付けたように思えたッスから」

そうしているうちに、いつの間にか成績がトップになっていたのだ。

「思い込んだら一途! と言うのがアタシッスからね。…逃がさないッスよ」

ぎゅうっと先生に抱きつくと、とうとう観念したようにため息を吐く先生。

「…お前には本当に負けるよ」

「じゃあお嫁さんにしてくれるッスか?」

「ちゃんと大学に行くか、就職を決めれば、な」

「うがっ!?」

…ヒドイ、交換条件。

本当は専業主婦になりたかったのに…。

「んっ…。じゃあ大学に通って先生の資格を取って、この学校に戻ってくるッス。もちろん、国語の先生として。それなら良いッスよね?」

「お前…俺をクビにさせたいのか?」

「そうなったら、先生は専業主夫になれば良いッス!」

ニヤッと笑うと、先生は柔らかくあたたかく苦笑した。

「言ってろ」

そしてゆっくりとアタシの頭を引き寄せ、キスしてくれる。

――やっぱり恋愛は一途で、多少強引じゃなきゃね!
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