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 オレは慌てて携帯電話を手に取った。
『綾、どうした?』
「どうしたもこうしたもあるかぁ! カーテン閉めろ! 丸見えだろうがっ!」
 怒鳴ると光雅は一瞬首を竦めた。そしてすぐに振り返り、こっちを見て苦笑した。
『ああ、忘れてた。ゴメンゴメン』
「いいから閉めろって! 恥ずかしいだろうがっ」
 電話で話をしながら、カーテンを閉めるようジェスチャーをする。
『はいはい』
 光雅は言われた通り、カーテンを閉めた。
 ほっと一息ついたが、次に言われた言葉で再び心臓が高鳴った。
『―ねぇ、綾。興奮した?』
「はあっ?」
 そりゃちょっとは欲情したけど…って違うっ!
「羞恥心がねーのか、お前は」
『アハハ。綾も早く着替えなよ』
 そう言って電話は切られた。
 …あ~もう、何か疲れた。このままベッドに入って、眠ってしまいたいぐらいに。
 でもすぐに光雅はやって来る。
 重い体と気持ちを何とか奮い立たせ、オレは制服を脱いで、私服に着替えた。
 リビングに戻る頃には、すでに私服姿の光雅がいた。
「今晩は何食べたい?」
「…ハンバーグ。でっかいヤツ」
「分かった。待ってて」
 エプロンをして、嬉しそうにダイニングへ立つ。
 オレはそのままソファーに座り、テレビを着けた。
「そう言えば、今日は宿題出た?」
「出たけど休み時間に終わらせた」
「後で見せて。答え合わせするから」
「…ああ」
 光雅は料理だけではなく、オレの家庭教師までしてくれる。それどころか掃除や洗濯まで喜んでしてくれるんだから、好きなヤツには尽くすタイプなんだな。
 …光雅にはじめて告白されたのは、中学に入って間もない頃。
 半ば強引に青輪学院に入学させられ、オレは不機嫌だった。だから入学式が終わった後、両親を学院に残して、走ってマンションまで戻って来た。
 そしてすぐに部屋に閉じこもったが、当時は暖かな春の日だった為、オレは窓を開けていた。
 窓は開けるとベランダに通じていて、光雅はそこを乗り越えて、オレの部屋に入って来た。…数十メートルの落下を恐れず。
 そして不機嫌なオレとは違って、ニコニコと微笑んでいた。
「嬉しいよ。また綾と一緒なんて。この一年、ずっと寂しかった」
「…オレはヤダ」
 むつくれた顔でそっぽを向いたオレの背中を、光雅は抱き締めた。
「ボクは凄く嬉しい。綾と一緒にいることが、何より楽しいことだから」
「何で…オレなんだよ?」
 疑問に思い、振り返ったオレの唇に、光雅はキスをした。
「えっ…」
「だって綾は他の人とは違う。ちゃんとボクを見てくれるし、向き合ってもくれるから。相手をしてくれるから、大好きなんだ」
 その時、オレははじめて光雅の感情を知った。
 いついかなる時だって、光雅はオレを優先してきた。それはウチの両親のせいだと思っていたけど、本当は違っていたんだ。
「他の人はボクの容姿とか、成績を通じて見てくる。そんなの嬉しくもなんとも無いのにね」
 …いや、苦笑しながら同意を求められても困る。オレには全く身に覚えの無いことだから。
「でもボクは綾だけで良い。綾さえいてくれれば、後はどうだって良いんだ」
 切ない告白をしながら、強く抱き締めてきた。
 ―あの時、嫌がることも出来た。けれどオレは抵抗しなかったんだ。その告白を、嬉しいと思ってしまったから…。
「だから綾、キミもボクだけを見て」
「光雅…」
「キミがボクだけを見るようにしてみせるから。そうせざるおえなくしてみせる」
 力強く言い放った言葉に、不安が過ぎった。
 今現在を思えばそれは予感だったんだろう。
 それでもオレは、光雅を拒まなかった。再び近付いてくる唇を、目を閉じて受け入れた。
 あの時からこうなることは分かっていた。分かっていて光雅を受け入れたんだから、オレは自虐趣味でもあるんだろうか?
 最初光雅を見た時、本当にキレイなコだと感動した。そしてこの人と一緒にいられるのは、幸せだとも感じた時もあった。…たった一ヶ月間だけの話だったが。
 それでも後悔はしていないんだから、やっぱりオレは光雅のことを…。
「どうかした? 黙っちゃって」
 急に背後から抱き締められた。
「…疲れて、腹減っただけ」
「もう出来てるよ。こっちに運ぼうか?」
「いや、そっちに行く」
 テーブルセットにはすでに、夕食の準備が整っていた。
 けれど光雅が腕を解いてくれないので、身動きができない。
「何だよ? 宿題なら後でも良いだろう?」
「宿題はいつでもいいんだけど…。綾、何悩んでいる?」
「オレはお前のことでしか、悩まない」
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