しがない俺が手にした力でやれること

hagedaijin

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2.タダほど高いものはない、とは言いますが

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《君…君…。そこの君だよ。僕の声聞こえる?オーバー?》

!????何だ、今の声。
「山さん、今、俺になんか言いました?」
 身に着けた制服の左肩に装着している無線機で、近くの隊員に呼びかけた。
 今日の現場に同行し、300メートル離れた工事現場の中で、出入りするトラックの誘導をしている同僚の【山さん】。山崎幾三(やまさき いくぞう)65歳。

『…ん?いや俺は話してねぇが、混信じゃね?』
 山さんは今の”声らしきものを聞いていないようで不思議そうに返信した”

「そうですかーすいません、変なこと聞いて」

『気にすんなや。終業まであと3時間ぐらいだが、もう一踏ん張りだぞ』

「はっ、ありがとうございます。以上」
 気さくな山さんは何でもないことのように答えてくれたけど、組む人によったら邪険に扱われたり無視を決め込まれたりするから注意が必要だ。
 
 ということは俺の気のせいか……《イヤイヤ、君に話しかけてるのさ、楠 涼(くすのき りょう)君》

 はぁぁぁぁっ?
「ちょっ、誰だあんたは」

 俺は周囲を見回した。が、数メートル先で作業するブルドーザーの作業員がいるだけだった。
 そもそもドーザーが土をかき上げる騒音で中の声は、大声でもこちらには聞こえない。
 ましてや、むさくるしいヒゲ親父(おやじ)もといダンディーな兄貴に【天上の調べ】もかくや、ともいうべき涼(すず)やかな少年のような声が出せるわけがない。
 俺も【天上の調べ】ってのが、どんなだか聞いたことが無いので、イメージとして感じたわけだが。

《天上の調べ、ねぇ。人間ってやつは時として感が鋭(するど)いっていうか、何というか》

 見えない相手からの声は、当然のことながら身に着けた無線機から出た声ではなかった。
 俺の頭の中に聞こえているわけで……つい、

《『俺の頭の中で声がする』って言いたいだろ?その通り~単刀直入言う。声を出さずに聞け、人間》
 
 瞬間、耐えがたいほどの重圧が頭上から降りかかり、あわや転倒しかけた。
 学生時代に鳴らした柔道のたまものか、倒れこむのを何とか耐え上を見上げる。
 当然、その視線の先には雲流れる青空が広がるばかりで、危惧(きぐ)していた“霊”的なものも見えなかった。

《おいおい、あんな低級なもんじゃねーんだよ。お前たちの感覚で言うと【神?】【悪魔?】まっ、好きに呼べばいい。本題といこう。【力】欲しくないか?異世界モノ小説で定番の【力】。お前的には喉(のど)から手が出るほど欲しいだろ?》

 恥知らずにも【神】と【悪魔】を名乗る見えない存在。
 しかし、何にしても今の俺では手出しは無理だろう。
 知らず知らずのうちに上を向いていた視点が工事現場を俯瞰(ふかん)する視点に変わり、【自分の周囲の時が止まっている】のをまざまざと見させられた。

 空を飛んでいる鳥は羽ばたきも進みもせず止まり、うるさい騒音と化していたドーザーも不自然な形に土をかきあげたまま無音で止まっている。
 工事現場近くの1級河川上に架かる橋上の車は上下線とも止まり音すらしない。
 これらが単純に停止しただけなら説明もつくが、川の流れも波を立てたまま停止している風景は、いっそ滑稽(こっけい)ですらあった。

 こんな時、異世界モノ小説を読みふけっていた事がプラスに働いた事を喜べいいのか、毒されたと嘆くべきか…
 今現代、金縛り状態で苦笑いも浮かべられない俺が、手を出せる存在ではないことだけは、確かだ。
 俺は【悪魔】のような誘い文句の【神】なる存在に対して、承諾の意を……

《ああ、いいいい。端(はな)からお前の意見は聞かねぇ。望む力は何でも作れる【創造魔法】やるから好きにしな》
 だったら聞くな、と言いたいが重圧がそれをさせない。反論の余地もない、とはまさにこれだな。

 【ソウゾウ魔法】ってのは【創造】or【想像】のどちらであろうか?
 響きからすれば【想像】の方が利便性が高そうだ。

《じゃあな、人間。あと、てめぇが何事に巻き込まれようと当局は関知(かんち)しない、ってな》
 【神】は勝手に【力】を渡して去っていった。
 重圧から解放された俺は知らずにへたり込んでいたところを現場監督に見つかり、熱中症を心配されたのは別の話だ。

……………………………………………………………………………………  


 と、いうわけで体(てい)のいい【神々】の玩具にされた、と諦めた俺は奴の口車に乗り力を試してみることにした。
 仕事先から会社事務所で報告書類を手渡し帰宅した後、夕飯の前に風呂をすまし、同居する母親が手作りした夕食を美味しく頂きいた。
 今日の仕事内容で大変だったことや変わった出来事については話し、自室のある2階の角部屋に向かった。
 これ、すなわち…いつものルーチンワークなり。

 もちろん、【神】云々(うんぬん)については話さない。
 頭の中の心配されるのもなんだかなぁ、と思うわけで。


 【力】ねぇ……簡単に思いつくものは【異世界モノの定番中の定番】だろうか。
【異世界言語】【収納庫(アイテムボックス)】【鑑定】【四属性魔法】かな?

 異世界モノにつきもののステータスを知るための【鑑定】
 年齢的につらくなってきた体力の為の【身体強化】
 女性関係で役立つ【絶倫(ぜつりん)】。これがアルと無いとで回復力が違うんだろうな、と所望(しょもう)します。
 今のところ行く予定はないけどあれば超便利な【異世界言語】
 移動のための手段【転移】と【飛行】。便利そうなスキルの【縮地(しゅくち)】、短距離をスッと近づけるアレですね。
 なんでも無尽蔵(むじんぞう)に収納できて、入れたモノの時間が止まる【アイテムボックス】
 定番中の定番。地水火風の四元素と光闇の【魔法】……こんなもんかな。

 それに…俺は自身を見下ろす。ある箇所(かしょ)というか部分的に劣等感を持っている。
 親からもらった体ではあるから、改造するの良かないですたい。
 でも…正直なところ、現代科学において生誕した後の遺伝情報の書き換えなんてのは不可能である。
 ならば諦める、普通なら。でも、今の俺なら何とかできる。

 だから、部分的に或(ある)いは全体的に変身できるようなスキルを思い浮かべ、【形態変化】を作り出す。
 自身の元の体を基本枠に登録し、地球上及び異世界モノ定番の異種族(エルフ、ドワーフ、獣人)や獣、龍、竜、鳥等あらゆる形態に形を変えていくのだ。
 ここで重要なのは自身の想像力がモノを言う。
 これら伝説や神話、伝承上の怪物でさえ別枠に登録して、体を再構成できるスキルだ。
 もちろん、一部のみの変形もできる。これも重要。

 行動範囲の拡張ができるし、できることも増えたので、なかなかどうして…いい考えが浮かんだものだ、と自画自賛してみたが…自身の魅力がとぼしいのを力でねじ伏せてまでの変更、というのは考えてみると情けないことだと、いまさらながらに思い恥かしい限りだ。

 楽しいな。無為な人生で終わる、と自覚とともに怯(おび)えていた自分が馬鹿みたいじゃないか。
 どんどんスキルが思いつく。移動は何とかなるけど、いつでもナビが使えるとは限らないわけで……じゃあ、こんなスキルはどうだ……ああ、楽しい。覚めない夢なら続けばいい、【神】様ありがとうございます。


……………………………………………………………………………………
 
 涼(りょう)は【神】の思惑はどうであれ、いつ取り上げられ失うとしても、楽しめるうちは楽しもうと【ソウゾウ魔法】を駆使(くし)してスキルを生み出し、自身の強化に明け暮れた。
 夕飯後、就寝前の暇つぶしに午後9時ごろ始めたはずが……息抜きに2階の自室から1階のキッチンに降りてみると、唯一の家族である母親の姿は寝室に消え、時計の針は翌日の午前2時を半分くらい過ぎていた。
 自身の強化はどうあれ、今すぐに何かするつもりはないので明日の…いや今日の仕事に備えて2階の自室でベッドに寝転がり眠りについた。
 今日からの俺は昨日の俺と少し違うけど、だからどう変わるというのだろう?
 【力】に対する不安と期待に膨らむ高揚は、眠気に上書きされ意識は薄れていく……


 後から思い返してみれば、涼の生み出した数々のスキルは、この世界の規範にハマらず次元の壁を越えていく。
 やがて、別次元に存在する兄弟たる世界まで影響を与えていく。
 それは、最早(もはや)、【神】の制御を超えた存在に成りかねない程の規格外な【力】であった。
 かの【神】が望んだ以上に涼は力をつけ、やがて彼は……否(いな)、今はまだ語るまい。
 ただ、無為に過(す)ごし寿命を終えるだけだった彼に、無数の選択肢が誕生したことだけは確かだ。



……………………………………………………………………………………
……………………………………………………………………………………

「……おお~やってる、やってる。この時代の人間は順応性が高いというか、異常に無頓着(むとんちゃく)というか…」
 食い入るように映像を見やるのは楽しそうな声を上げる10代後半に見える少年。

「そやつがぬしの新しいオモチャかえ?」
 自身の爪を鑢(やすり)で磨きながら、チラ見する絶世の放漫な肉体を持つ美女。

「くだらん、我らを集めたかと思えば玩具自慢。貴様はいつも暇だな?」
 いつの時代のどこの国の鎧化も判別できない、黒い鎧に身を包んだ美丈夫(びじょうぶ)。

 虚空に視線を向けたまま、聞き取れない小さな声でブツブツ呟く、10歳未満の少女。
 持ち込んだ漫画に読みふけ、時々思い出し笑いを上げる、面の皮が厚そうな化粧をした年齢不詳のオネェ。
 人種も肌の色も年齢もばらばらの男女たち。

 ここは地上からも遠く、それでいてどこにあるのかはわからない無機質な空間。
 周囲は白い霧に囲まれ、上も白く床も白い何か。
 数人の男女が豪奢(ごうしゃ)で精緻(せいち)な彫刻を施された丸テーブルを囲み、装飾過多や独自の文様が描かれた椅子、質素ながら上品な浮遊する座布団など……それぞれが思い思いに腰を落ち着け、テーブル中央の中空に浮かぶ映像を注目するでなしに眺めていた。

 彼らにとって【人間】というのは、自らの暇つぶしの為の人形でしかなく、有史…否(いな)、今の人類が歴史を刻む前、かって存在した超古代文明崩壊に遡(さかのぼ)り彼らが、地上に及ぼした影響は枚挙のいとまがない。
 その超古代文明とて【鎧の男】と【オネェ】の間のかけ勝負の為に衰退を余儀(よぎ)なくされ、彼らの制御が及ばない広範囲破壊兵器により地上から姿を消して、数千年が過ぎている。
 このように、彼らが【人間】に介入したのはこれが初めてではない。

 だからなのか、彼らの自称リーダーが戯(たわむ)れに【力】を与えた一人間(いちにんげん)になど、今更興味をわくはずもなかった。
 彼らの長すぎる時間の中では【人間】の一生などというものは、ちり芥(あくた)のごとく些末(さまつ)なものでしかない

 最初から分かっていたことだ。こいつらは長い時間を過ごすうちに感情が抜け落ちていく。
【人間】に対して、いつからか興味を失っていた……百も承知だ。
 だが、このままではいずれ消滅を待つだけ…
 人間の時間に換算(かんさん)にして、数十億年も先だ。

 であればこそ、リーダーである自分だけは、何かしらのアクションを起こさねばならない。
 何故(なぜ)ならば、主神(しゅしん)である自分が皆を引率していかなければならない使命なのだ。

 ん?…使命……使命?…誰が決めた使命だ…はて……思い出せない。遠い昔に誰か…

 そこまで思考を遡(さかのぼ)っていたところで、思考はクリアになり何を考えていたのかを忘れた。
 はて?今何か……
 しばらく思考するも思い出せなかった。全知全能たる我らが思い出せない些末事など、さして重要ごとではないと意識を切り替える。思い出せないどころか、記憶から消去されていることに彼は、気づかなかった。

 ああ、そうそう無作為に選んだ【人間】に与えた力が暴走して、我ら神々に反旗を振りかざすまでを観察するんだった。
 そう、そのために皆を集めたというのに、どいつもこいつも興味薄弱(きょうみはくじゃく)で僕の苦労をわかろうとしない。
 我々【神々】は【人間たち】を教え導き、時には粛清(しゅくせい)の為に天候操作で天変地異を起こし数を減らし、またある時は稀少(きしょう)な種を早期に保存して繁殖(はんしょく)させ野に放つ、そう努めるのが使命である。
 その為の過程で【人間】で遊ぶのは余禄(よろく)の内なのだ。

 楠 涼(くすのき りょう)がスキルを生み出す光景を見ながら、主神たる少年はこれからについて夢想する。
 この【人間】はどう行動するか、力に溺(おぼ)れ暴走の果てに自分たちに反旗を翻すだろうか、それとも無駄な余生を送る駄犬なのか、どうなる?どうなる?
 どちらに転んでも選択しなくても、しばしの暇つぶしの種にはなるだろう。

 しかし、彼は自分たちが誰に使命を受けたのか覚えておらず、どうして【涼】に力を与えることになったなったのかも思い出せない。
 全ては霧の先に隠れ見通せず、思考に浮かぶそばから霧消する。
 ただ、永遠の時間を生き下界たる地上を眺(なが)め、種の保存に精を出す……それが彼らに課せられた使命であり【神の座】に就(つ)いた”代償(だいしょう)”なのだ。


%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%


 お読みいただきありがとうございます。不定期連載で待っていただくかもしれません。すいません。
 ネタは考えてまとめてはいるのですけど、こうして文章に起こすと書き足らない部分が見えてきます。
 精進ですね。
 副題追加しました。

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