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第九話 逃走劇
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森を裂く雷鳴が、夜空に一瞬の白さを刻む。
バラランガの追撃は凄まじかった。
森を駆けるたびにその身体から雷光が弾け、触れた木々を黒焦げに変え、土を抉り、空気そのものを灼く。
ガルフとダグラスは巧みに騎竜を操り、必死に逃走を続けていた。
背後から迫る紫電の脅威は容赦なく、木々の間を縫うように逃げても、雷撃が次々と周囲を破壊していく。
騎竜の蹄が湿った土を跳ね上げ、二人が手綱を握る手に力がこもる。
ロイドとマッシュも振り落とされないよう、かつ、操縦の邪魔にならないようにバランスをとった。
森の暗がりの中、紫電の閃光が木々のシルエットを浮かび上がらせ、まるで悪夢のような光景が広がっていた。
「これ以上引きはがせないのか!?」
ロイドは、騎竜の背で身体を揺らしながらも必死に声を張り上げる。
風が耳元で唸り、木々の枝が顔をかすめて痛みを走らせる。
背後ではバラランガの咆哮が響き、そのたびに地面が震え、鳥たちが驚いて飛び立つ音が森にこだました。
「時間稼ぎは続行だ! 森の奥でなんとか時間を稼ぐしかねぇ! 開けた場所に出たら終わりだ!」
ガルフが応え、手綱を強く引いて騎竜の向きを微調整する。
騎竜の息が荒くなり、口から白い息が吐き出されるが、その足取りはまだ力強かった。
マッシュが懐から瓶を取り出し、声を張り上げながら後方に投げた。
「これでも食らえ!!」
瓶が地面に接触した瞬間、そこを起点に急激に周囲の温度を下げ、凍てつく氷が蔦のように広がっていく。
マジックポーションと呼ばれる、様々な魔法の効果を宿す薬瓶だ。
魔法が使えない者でも扱える優れ物だが、使い切りで、それなりに値が張るため、ここぞという時に使われる。
氷の蔦は四人を追うバラランガの足先を凍らせた。
ロイドは振り返り、バラランガの姿を確認する。
紫電を纏った神獣は、マッシュの投げたマジックポーションの効果で動きを止めた。
見た目通り、力は強くないらしく、強引に引きはがすことは難しいようだ。
その間にガルフたちは体制を整え、一呼吸の中でダグラスは詠唱を終える。
「大地よ。隆起せよ」
地面に足元を貼り付けられたバラランガの周囲から土壁がせり上がり、ドーム状に囲む。
「長くは持たんぞ!」
ダグラスの言葉が真実であることは、すぐに結果として現れた。
土で出来た壁に紫色の雷光が走り、土埃をあげながら瓦解を始める。
その瞬間を狙い、ガルフは騎上から、ハルバートを土壁ごとバラランガに突き刺した。
金属製のハルバートで直接触れば感電は免れない。
絶縁体とまではいかないものの、土越しに叩きつけるように繰り出された突きで、バラランガは体勢を崩した。
「ちっ! これでもビリッとくるぞ」
減衰された雷の威力を柄から受けたガルフは悪態をついた。
そのまま追撃せずに、再び逃走を始める。
何度か危険な状況がありながらも、時間稼ぎを目的とした逃走は上手くいっていた。
しかし、バラランガの追撃は衰えることなく続き、とうとう大きな変化が訪れた。
森の地面はでこぼこで、根や岩がところどころに突き出している。
騎竜はその障害物を器用に避けながら進んでいたが、高く盛り上がった根に足を取られ、ダグラスとマッシュの乗る騎竜が大きく揺れ、マッシュの身体が浮きそうになった。
その瞬間、バラランガが一啼きし、紫電が二人が乗る騎竜の後方を直撃した。
雷光が地面を抉り、衝撃波が騎竜とマッシュの背を押す。
「ぐあっ!」
マッシュの叫びが響き、騎竜から弾かれる。
騎竜はバランスを崩したものの、そのまま走行を続けるが、転がるように地面に叩きつけられたマッシュはその場に取り残されたままだ。
後ろからはバラランガが迫る。
「マッシュ!」
ガルフは叫び、手綱を強く引いて騎竜を止める。
「戻るぞ! マッシュを助ける!」
ガルフが叫び、ロイドを乗せた騎竜を旋回させ、マッシュとバラランガの間へと急ぐ。
ダグラスがバラランガの前に土壁を形成させるが出来上がる前に雷により破壊される。
ガルフは騎竜を止めもせずに自ら飛び出しながら、両手でしっかりと握りしめたハルバートを振るう。
ロイドは慌てて手綱を手繰り、強く引き寄せ衝突を免れた。
(どうする!? 逃げるなら今しかないか!?)
ロイドは葛藤していた。
元々逃げるタイミングを探っていた。
ガルフが降り立ち、今はロイドが桐生の手綱を握っている。
騎竜の繰り方に疎いロイドだが、逃げるだけならできるかもしれない。
マッシュは打ちどころが悪かったのか、まだ一人で立ち上がれずにいる。
ダグラスも騎竜を繰りながらの詠唱をやめ、騎上ではあるもののガルフとの連携を繰り広げていた。
「くそっ!!」
ロイドは騎竜から降り、ガルフから少し離れた場所から拾った枝をバラランガに向けて投げつけた。
攻撃を目的としたものではなく、バラランガの気を散らせることが目的だ。
弧を描きながら飛んだ枝は、バラランガのちょうど目にぶつかり、紫電に弾かれ爆ぜた。
バラランガは邪魔くさそうに頭を振る。
その隙を狙い、枝を投げると同時に駆け出していたロイドは、愛剣でバラランガの足を切り付けた。
赤い血が飛び、バラランガが苦痛の叫びをあげた。
「足だ! 地面に近い足を狙え!!
バラランガの身体に纏う紫電は、足先にはない。
可能性に気が付いたのはマッシュが放ったマジックポーションでバラランガが足止めされた時。
確信までには至らなかったが、今の一撃で確信へと変わった。
「おう!!」
短く合図をして、攻めあぐねていたガルフが攻勢を見せる。
的確に足先のみを狙った連撃に、バラランガは露骨に嫌がった。
ダグラスも先ほど戦法を変え、地面から浮かび上がらせた土を複数の小さな槍上にしたものを上方からバラランガへと撃った。
ガルフの攻撃をいなすことに集中すると、ダグラスの放った土槍の雨に身を切られる。
前足を攻めるガルフに対し、ロイドは後ろに回り込み後ろ足を攻めた。
「いいぞ! このまま弱らせるぞ!」
マッシュは先に倒れたまま動かない。
気を失ったマッシュを担いで逃げるにしても、バラランガの動きを封じてからでないと逃げられない。
様々な不測の事態に見舞われたが、今度こそ希望の道筋が見えた――そう思った矢先だった。
「ぐあっ!」
これまで無作為に放たれていたバラランガの雷が、明確に思考性を持ちダグラスを襲った。
雷光に肩を焼かれ、吹き飛ばされダグラスが地面に倒れる。
「ダグラス!」
ガルフが叫びながら、ハルバートを手に突進する。
「俺が相手だ! 来い!」
長い柄を振り回し、雷光の隙間を縫って一撃を放つ。
ハルバートの斧頭がバラランガの側面を打ち抜き、血飛沫を上げながらバラランガは薙ぎ倒される。
紫電が反発し、ガルフは弾かれて地面を転がるが、彼はすぐに膝をついて立ち上がる。
「が……っ、まだ終わらねぇぞ!」
折れた木に凭れながら、ハルバートを地面に突き立てて身体を支える。
その目に宿る闘志は消えていなかった。
「お前らを死なせるわけにはいかねぇ!」
再びハルバートを振り上げ、バラランガの前脚に渾身の一撃を叩きつけた。
しかしその一撃は躱され、体当たりをもろに受ける。
感電で生じた引力により、まるでスローモーションのように、ガルフの身体が宙を舞う。
(やべぇ……!)
バラランガの視線がロイドを捉えた。
全身の毛がさらに逆立ち、空気が軋むような音が響き始める。
紫電の濃度が増し、次の攻撃が殺意を帯びているのが分かった。
ロイドの身体が勝手に動く。
愛剣を構え、バラランガに向かって駆け出していた。
(ここで死ぬのか、俺は……)
逃げる隙はもうなかった。
あらゆる方向に雷撃が走り、隠れる場所すら失われている。
せめて攻撃の手を休めず時間を稼ぐ。
それが今できる最善だった。
「くそっ!」
振り下ろされた雷光を、ロイドは剣で受け止めた。
当然、防げるはずもない。鉄の刃に雷が走り、腕を焼き、肩を砕く。
膝が崩れ、視界が揺れる。
懐から捨てるのを忘れた、空の瓶が転がり落ちる。
(動け、まだだ……)
剣から手が離れそうになるのを無理やり握り直す。
バラランガは動きを止め、ロイドを見下ろしていた。
ロイド一人だけが残り、バラランガと対峙していた。
マッシュは最初にやられ、ガルフとダグラスは彼を助けるために戦ったが、二人とも失神。
森の中での逃走劇は完全に破綻し、時間稼ぎすらままならない状況に追い込まれていた。
(また選択を誤ったか……俺の人生、少しはまともにならねぇのかよ……)
バラランガの額の宝石と同じ輝きを放つ深紅の瞳が冷たく輝き、ロイドを見つめていた。
バラランガの追撃は凄まじかった。
森を駆けるたびにその身体から雷光が弾け、触れた木々を黒焦げに変え、土を抉り、空気そのものを灼く。
ガルフとダグラスは巧みに騎竜を操り、必死に逃走を続けていた。
背後から迫る紫電の脅威は容赦なく、木々の間を縫うように逃げても、雷撃が次々と周囲を破壊していく。
騎竜の蹄が湿った土を跳ね上げ、二人が手綱を握る手に力がこもる。
ロイドとマッシュも振り落とされないよう、かつ、操縦の邪魔にならないようにバランスをとった。
森の暗がりの中、紫電の閃光が木々のシルエットを浮かび上がらせ、まるで悪夢のような光景が広がっていた。
「これ以上引きはがせないのか!?」
ロイドは、騎竜の背で身体を揺らしながらも必死に声を張り上げる。
風が耳元で唸り、木々の枝が顔をかすめて痛みを走らせる。
背後ではバラランガの咆哮が響き、そのたびに地面が震え、鳥たちが驚いて飛び立つ音が森にこだました。
「時間稼ぎは続行だ! 森の奥でなんとか時間を稼ぐしかねぇ! 開けた場所に出たら終わりだ!」
ガルフが応え、手綱を強く引いて騎竜の向きを微調整する。
騎竜の息が荒くなり、口から白い息が吐き出されるが、その足取りはまだ力強かった。
マッシュが懐から瓶を取り出し、声を張り上げながら後方に投げた。
「これでも食らえ!!」
瓶が地面に接触した瞬間、そこを起点に急激に周囲の温度を下げ、凍てつく氷が蔦のように広がっていく。
マジックポーションと呼ばれる、様々な魔法の効果を宿す薬瓶だ。
魔法が使えない者でも扱える優れ物だが、使い切りで、それなりに値が張るため、ここぞという時に使われる。
氷の蔦は四人を追うバラランガの足先を凍らせた。
ロイドは振り返り、バラランガの姿を確認する。
紫電を纏った神獣は、マッシュの投げたマジックポーションの効果で動きを止めた。
見た目通り、力は強くないらしく、強引に引きはがすことは難しいようだ。
その間にガルフたちは体制を整え、一呼吸の中でダグラスは詠唱を終える。
「大地よ。隆起せよ」
地面に足元を貼り付けられたバラランガの周囲から土壁がせり上がり、ドーム状に囲む。
「長くは持たんぞ!」
ダグラスの言葉が真実であることは、すぐに結果として現れた。
土で出来た壁に紫色の雷光が走り、土埃をあげながら瓦解を始める。
その瞬間を狙い、ガルフは騎上から、ハルバートを土壁ごとバラランガに突き刺した。
金属製のハルバートで直接触れば感電は免れない。
絶縁体とまではいかないものの、土越しに叩きつけるように繰り出された突きで、バラランガは体勢を崩した。
「ちっ! これでもビリッとくるぞ」
減衰された雷の威力を柄から受けたガルフは悪態をついた。
そのまま追撃せずに、再び逃走を始める。
何度か危険な状況がありながらも、時間稼ぎを目的とした逃走は上手くいっていた。
しかし、バラランガの追撃は衰えることなく続き、とうとう大きな変化が訪れた。
森の地面はでこぼこで、根や岩がところどころに突き出している。
騎竜はその障害物を器用に避けながら進んでいたが、高く盛り上がった根に足を取られ、ダグラスとマッシュの乗る騎竜が大きく揺れ、マッシュの身体が浮きそうになった。
その瞬間、バラランガが一啼きし、紫電が二人が乗る騎竜の後方を直撃した。
雷光が地面を抉り、衝撃波が騎竜とマッシュの背を押す。
「ぐあっ!」
マッシュの叫びが響き、騎竜から弾かれる。
騎竜はバランスを崩したものの、そのまま走行を続けるが、転がるように地面に叩きつけられたマッシュはその場に取り残されたままだ。
後ろからはバラランガが迫る。
「マッシュ!」
ガルフは叫び、手綱を強く引いて騎竜を止める。
「戻るぞ! マッシュを助ける!」
ガルフが叫び、ロイドを乗せた騎竜を旋回させ、マッシュとバラランガの間へと急ぐ。
ダグラスがバラランガの前に土壁を形成させるが出来上がる前に雷により破壊される。
ガルフは騎竜を止めもせずに自ら飛び出しながら、両手でしっかりと握りしめたハルバートを振るう。
ロイドは慌てて手綱を手繰り、強く引き寄せ衝突を免れた。
(どうする!? 逃げるなら今しかないか!?)
ロイドは葛藤していた。
元々逃げるタイミングを探っていた。
ガルフが降り立ち、今はロイドが桐生の手綱を握っている。
騎竜の繰り方に疎いロイドだが、逃げるだけならできるかもしれない。
マッシュは打ちどころが悪かったのか、まだ一人で立ち上がれずにいる。
ダグラスも騎竜を繰りながらの詠唱をやめ、騎上ではあるもののガルフとの連携を繰り広げていた。
「くそっ!!」
ロイドは騎竜から降り、ガルフから少し離れた場所から拾った枝をバラランガに向けて投げつけた。
攻撃を目的としたものではなく、バラランガの気を散らせることが目的だ。
弧を描きながら飛んだ枝は、バラランガのちょうど目にぶつかり、紫電に弾かれ爆ぜた。
バラランガは邪魔くさそうに頭を振る。
その隙を狙い、枝を投げると同時に駆け出していたロイドは、愛剣でバラランガの足を切り付けた。
赤い血が飛び、バラランガが苦痛の叫びをあげた。
「足だ! 地面に近い足を狙え!!
バラランガの身体に纏う紫電は、足先にはない。
可能性に気が付いたのはマッシュが放ったマジックポーションでバラランガが足止めされた時。
確信までには至らなかったが、今の一撃で確信へと変わった。
「おう!!」
短く合図をして、攻めあぐねていたガルフが攻勢を見せる。
的確に足先のみを狙った連撃に、バラランガは露骨に嫌がった。
ダグラスも先ほど戦法を変え、地面から浮かび上がらせた土を複数の小さな槍上にしたものを上方からバラランガへと撃った。
ガルフの攻撃をいなすことに集中すると、ダグラスの放った土槍の雨に身を切られる。
前足を攻めるガルフに対し、ロイドは後ろに回り込み後ろ足を攻めた。
「いいぞ! このまま弱らせるぞ!」
マッシュは先に倒れたまま動かない。
気を失ったマッシュを担いで逃げるにしても、バラランガの動きを封じてからでないと逃げられない。
様々な不測の事態に見舞われたが、今度こそ希望の道筋が見えた――そう思った矢先だった。
「ぐあっ!」
これまで無作為に放たれていたバラランガの雷が、明確に思考性を持ちダグラスを襲った。
雷光に肩を焼かれ、吹き飛ばされダグラスが地面に倒れる。
「ダグラス!」
ガルフが叫びながら、ハルバートを手に突進する。
「俺が相手だ! 来い!」
長い柄を振り回し、雷光の隙間を縫って一撃を放つ。
ハルバートの斧頭がバラランガの側面を打ち抜き、血飛沫を上げながらバラランガは薙ぎ倒される。
紫電が反発し、ガルフは弾かれて地面を転がるが、彼はすぐに膝をついて立ち上がる。
「が……っ、まだ終わらねぇぞ!」
折れた木に凭れながら、ハルバートを地面に突き立てて身体を支える。
その目に宿る闘志は消えていなかった。
「お前らを死なせるわけにはいかねぇ!」
再びハルバートを振り上げ、バラランガの前脚に渾身の一撃を叩きつけた。
しかしその一撃は躱され、体当たりをもろに受ける。
感電で生じた引力により、まるでスローモーションのように、ガルフの身体が宙を舞う。
(やべぇ……!)
バラランガの視線がロイドを捉えた。
全身の毛がさらに逆立ち、空気が軋むような音が響き始める。
紫電の濃度が増し、次の攻撃が殺意を帯びているのが分かった。
ロイドの身体が勝手に動く。
愛剣を構え、バラランガに向かって駆け出していた。
(ここで死ぬのか、俺は……)
逃げる隙はもうなかった。
あらゆる方向に雷撃が走り、隠れる場所すら失われている。
せめて攻撃の手を休めず時間を稼ぐ。
それが今できる最善だった。
「くそっ!」
振り下ろされた雷光を、ロイドは剣で受け止めた。
当然、防げるはずもない。鉄の刃に雷が走り、腕を焼き、肩を砕く。
膝が崩れ、視界が揺れる。
懐から捨てるのを忘れた、空の瓶が転がり落ちる。
(動け、まだだ……)
剣から手が離れそうになるのを無理やり握り直す。
バラランガは動きを止め、ロイドを見下ろしていた。
ロイド一人だけが残り、バラランガと対峙していた。
マッシュは最初にやられ、ガルフとダグラスは彼を助けるために戦ったが、二人とも失神。
森の中での逃走劇は完全に破綻し、時間稼ぎすらままならない状況に追い込まれていた。
(また選択を誤ったか……俺の人生、少しはまともにならねぇのかよ……)
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