辺境暮らしの付与術士

黄舞

文字の大きさ
15 / 133
第2章

第15話

しおりを挟む
途中少し残酷なシーンがあります。苦手な方は一つ目の場面転換(◇)の後の文を飛ばしてお読みください。文末にその部分のまとめを書きます。
◇◇◇◇◇◇


 石畳で舗装された街道を馬車は勢いよく走っていた。2人はセレンディアからサラの故郷の村オティスへ向け旅を始めていた。
 サラが故郷に帰省すると話した時、ソフィも同行したいと言ってきたのだ。セレンディアの孤児院で育ったソフィは故郷というものを持たないため、純粋な憧れと、サラの父親に興味があったためだ。
 実際は9割以上父親への興味が理由だった。

「それにしても運がいいわ。まさかSランクの冒険者が護衛してくれるなんてね」

 2人の他にもう1人同行しているシャルルが話しかけてきた。彼女はタイラントドラゴン討伐の際に移動と宿泊先としてお世話になった、大きな商会の会頭の娘だ。

「こちらこそ運が良かったですよ。まさかシャルルさんが私の故郷の隣町まで用があるだなんて」
「あの町、お酒が有名でしょ? その内の1つがここ最近王侯貴族にえらく人気でね。うちも取り扱ってはいるんだけど、中々手に入りにくくなってね。それで今回、間を挟まずに直接私が交渉に行くってわけ」
「あの町、そんな凄かったんですね」

 酒を飲まない2人にとってはよく分からない話だ。あんな苦い飲み物を好き好んで飲む人の気持ちがわからないからだ。それに次の日に調子が悪くなるなんて、もはやあれは毒の一種なのではないかまで思っている。

「それにしてもその歳でSランクなんてすごい快挙じゃない!」
「やっぱりそうですよね。実際私達もまだ実感よく湧かなくて。Sランクになれたのも色々有って、運が良かっただけですし」
「運がいいだけでなれるんなら、今頃巷にはSランクが溢れかえっているわよ」

 2人がセレンディアからオティス方面に向かう馬車を探していた所、偶然居合わせたシャルルが声をかけてきて、知らない仲でもないからこれからの予定を話すと、なんとシャルルもオティスの隣町まで用があるという。
 ほぼ直行便のようなもので、何度か乗り換えを覚悟していた2人にとっては金を払ってでもぜひ乗せていってほしい馬車だった。
 しかし、シャルルは運賃はいらない、代わりに護衛をして欲しいと言ってきた。
 普通Sランクの冒険者に護衛を頼もうとしたら、それなりの額を用意しなければならない。もちろん馬車の運賃など比べ物にならない。
 それを乗せる代わりにタダでというのだからなるほどシャルルも商売人だ。一方、2人は乗せてもらう以上護衛はするべきと思っていたから、特に報酬を渋られたという感情もなく、二の次もなく了承した。
 かくして、故郷までの気ままな女3人の旅が始まった。

「注意してください。前方に複数人、待機しています」

 セレンディアから数日経った、ある日の昼、舗装も荒く背の高い木々に生い茂った道に差し掛かった時である。サラが御者に突如注意を促した。
 どうやら盗賊に狙われたらしい。シャルルの馬車はなるほど大商会の名にふさわしい立派な見た目をしているから、そこに目をつけられたのだろう。

「ど、どうすればいいですか?」
「気にせず変わらずにそのまま進んでください」
「わ、分かりました」

 数分ほど進むと飛来物が馬車を引く馬に向かって飛んできた。矢ではない。石だ。
 恐らく盗賊は馬車も奪う対象にしているのだろう。矢では最悪馬が死んでしまうが、石が当たった程度では、死ぬことはない。
 そこら辺まで考えて行動してくるなど、それなりに場数を踏んでいるのかもしれない。しかし石はソフィがすでに用意していた水の玉に撃ち落とされた。
 それを合図に複数の男が林の陰から飛び出してきた。2人もすでに馬車から降り、男達と対峙した。

「へっへっへ。こいつはついてるぜ。まさかこんな立派な馬車を護衛しているのが、こんな若い女2人だけとはな。さては襲われないと高をくくって護衛料を渋ったか?見ろよあの剣。まるで安物じゃねぇか。ということは・・・がっ」

 何か話を続けようとしていた男はサラに殴り飛ばされ白目を向いて倒れ込んだ。更に、林の中からどさっと何か重たいものが地面に落ちたような音が数回聞こえた。
 林の中から2人を狙っていた盗賊の仲間をソフィが雷魔法を使って感電させたのだ。

「さてと、私今あまり機嫌が良くないから気を付けて口をききなさいよ? 黙って降伏すれば命までは取らないわ」
「ふざけんな! てめぇら! やっちまえ!」

 頭らしい男が明らかに林の方を向いて怒鳴った。しばしの沈黙・・・。
 頭はその後も何度か「どうした? てめぇら! 構わねぇ。やっちまえ!」と叫んでいたが、何が起こるわけもない。
 どうやら彼らには先ほどソフィにやられた男達の木から落ちた音は聞こえなかったようだ。
 ダメな寸劇でも見せられている気分になった2人は微妙な面持ちで、しょうがないとばかりに目の前にいる男たちを気絶させ、馬車に積んであったロープで逃げ出せないよう木に括り付けた。

 さすがに放置するわけにもいかないし、かと言って馬車にも乗せられない。ここに縛っておいて、次の町に着いたら衛兵にそのことを告げ、対処してもらうことになった。
 もし野生の動物や魔物に襲われて命の危険があったとしても、あちらはこちらの命を取るつもりだったのだ。自分が同じ結末になっても文句は言えまい。

 2人は再び馬車に乗り込むと再び旅を続けた。夕方には予定通り町に着き、シャルルは何か掘り出し物がないかと、市場に足を運び、その間に2人は町の詰め所に出かけ、盗賊のことを町の衛兵に伝えた。
 その後3人は宿で落ち合い、町の特産品だという豚肉料理に舌鼓を打ちながら楽しい夜を過ごした。



 それはゆっくりと近づいてきた。
 最初に気付いたのは林から2人を狙ってソフィに感電させられた男だった。林の陰から何かが近づいてくる。魔物かもしれない。
 大慌てで大声を出し、気絶している仲間たちを起こす。その声に何人かが目を覚まし、きょろきょろと頭を動かし状況を理解する。
 そうしている内にそれは姿を見せた。真っ黒い人影。
 男達は最初それを暗闇のせいで黒く見えてるのだと思った。しかし、近づくにつれ、そうではなく、姿そのものが漆黒に染まっているのだと気付く。
 大柄な人程度の形をしたそれは荒い鼻息を立てながら男達に近づく。
 男達は理解していた。この後の自分達の結末を。
 ある者は失禁し、ある者は恐怖の余りまた失神した。
 男の顔に鼻息が当たった。次の瞬間辺りには男達の断末魔がこだました。

 それはまたどこへともなく消えていった。ただ一つの感情、食べたいという気持ちを満たすために。

 翌朝、町から衛兵が盗賊達が縛られていると聞いた場所へやってきた。
 そこに着いた衛兵は怪訝な顔をした。話に聞いた場所には縛られているはずの盗賊達の姿どころか骨ひとつ落ちていなかった。
 辺り一面広がった血の跡を除いては。



 男達が円形に胡坐をかいて座っている。みな神妙な面持ちだ。ウィルが沈黙を破る。

「それで、何かいい案を思いついた奴はいねぇか?」

 今村では臨時の集会が開かれていた。議題は今年の領主に納める税についてだ。
 カインが隣町に行っている間に今年の納税額を決めるために領主代行が村に視察に来た。
 今年来た領主代行は去年まで来ていた老人とは違い、若い男だった。なんでも前の領主代行は寄る波に勝てず領主代行を退いたらしい。
 かなりの高齢だったから、年に数回とはいえ、村々を巡回することは体力的に難しくなったのだろう。
 問題は新しい領主代行が指定した納税額だった。なんと例年の3倍もの税を言い渡されたのだ。

 領主代行が言うには、この村の作物の育ち方は他の村や町に比べ、異常に良く、また、家畜の健康状態も良くそれから取れる羊毛なども良質のものだという。
 つまり、この村は他の村や町に比べ良質な生産を持っていると判断されたのだ。
 加えて、どうやら他の村や町の今年の作物の出来が例年に比べて良くないらしい。
 その結果その村や町の税は減らさねばならないから、そのしわ寄せがこの村に来て、例年の3倍などというバカげた額の納税になったのだ。

 当然、村長であるウィルはその場で抵抗したものの、逆に前領主代行が正当な評価をしなかったことをいいことに、今まで本来よりも少ない税しか納めなかったとして、増やしてもいいのだと脅され、それ以上何も言うことが出来なかったのだ。
 しかし、村で作る作物は例年通りの納税のためのもの以外はほとんど村で消費されるものしか作っていない。
 村で手に入らない物を買うために、わずかばかりの金を得るために少しだけ余分に作ってはいるが、領主代行が言うような他よりも高い値段で売ったことなどなく、足りない分を作物の代わりに金で納めようとしても、村の貯蓄はそんなにないのが現状だった。
 領主代行が言う納税をすれば間違いなく村は今年の冬を越せない。かと言って、納税を怠れば、最悪この村の存続に関わる。
 何か打開策がないか思案していたのだ。


◇◇◇◇◇◇
残酷シーンのまとめ:黒い何かが来て、盗賊達は食べられた
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...