辺境暮らしの付与術士

黄舞

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第2章

第17話

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 きっとひどい顔をしていることだろう。目の周りをマッサージしながらシャルルは大きな欠伸をした。
 結局昨日は2人に付き合い、村で一晩過ごすことになったのだが、案の定、シャルルは一睡もできなかった。

 死体がないからそれが夜中に動きだし襲われるなんてことがないことは理解していた。
 ましてや自分のすぐ横にはなったばかりとはいえ、Sランクの冒険者が2人もいるのだ。
 これでも対処できない危険などそうそうないだろう。

 とは言っても、いくら旅慣れていて、時には野宿をしたことがあるといっても、シャルルは生来のお嬢様だ。
 移動中に盗賊が襲ってきて、返り討ちに合い殺される場面にも遭遇したことはあるが、わざわざその現場を見ようなどとは思わなかったし、一刻も早くそんな場所からは立ち去りたいと思った。

 隣を見ると他の3人はすっきりした顔をしている。
 2人などは夜中の間交代で見張りをしていて睡眠時間も短いはずなのに、慣れているのだろう。大したものだ。
 意外に思ったのは御者として普段から共に行動している男だった。

 この村に泊まると言われた時、私と一緒にいやな顔をしていたのに、どうやら肝が据わっているのか、移動中居眠りするわけにもいかないと思ったのか、昨日はぐっすり眠れたようで、憎らしいくらいさわやかな顔をしている。

「さて、早速次の町に向かって、この村の現状を伝えないとね。ことがことだから領主にも伝えてもらわないと」
「あ、待って。朝食どうしようか?」

「うーん、どうせもう食べる人もいないことだし、この家の食べ物少し分けてもらおうか?」
「いいね。そうしよう」
「え・・・? あなたたちまさかそれを食べるの? 正気?」

 すでに台所に置いてあった、少し硬くなったパンを口にした2人を見てシャルルは額に手を当て、深いため息をついた。



「それで、村には一人も生存者はいなかったんだな?」
「ええ。あ! いいえ。一人、名前も知らないけど男が生き残っているわ。なんでも朝から森に出かけていたとかで。戻った時には今の惨状だったから命からがらこっちとは反対の町に逃げてきてたの。その男から初めに話を聞いたのよ。それで見に行ったら本当に今伝えたことが起きてたの」

「うーむ。にわかに信じられないが、Sランクの冒険者の君達がそんなウソをつく理由も思いつかないしな。とりあえず、その村の確認に何人かと、領主様への伝令も出そう。ただ、領主様の街はここから遠いからまず最初に連絡が届くのは領主代行様だろうな」
「ええ。頼むわ。まだ近くに潜んでいるかもしれないから気を付けてね」

「そのことなんだが、どうだろう。出来れば村まで同行してもらいたいんだが。可能なら、領主様か領主代行様の使いがこちらにやってくるまで滞在もしてほしいんだが」
「それは私達に依頼を出すっていうこと?」
「む・・・それは・・・その・・・」

 村を離れ次の町にやってきた3人は、真っ先に詰め所に向かい、村の惨状を伝えた。
 絶対無いとは言い切れないが、1日にして村ひとつ丸々村人が死体も残さず消えることなど荒唐無稽な話だったが、幸い初めにSランクの冒険者であることを冒険者カードを見せて知らせておいたので、信じてもらえた。

 ちなみに冒険者カードはギルドが発行している全国共通の識別カードで、ランクが上がるにつれ、高度な偽装防止加工が施されるため、Sランクを偽るのは至難の業だった。

 話を伝えた衛兵の気持ちはよく分かる。単純に恐ろしいのだろう。
 対して大きくないこの町には衛兵がいるものの数も質も大したことはなく、村ひとつ滅ぼすことの出来る魔物の相手を出来るとは到底思えなかった。

 ダメもとで2人に言ってみたのだろう。しかし、依頼を出すのかと聞かれれば答えに窮する。
 Sランクの冒険者2人に正式な依頼を出すとなると一般人には目が飛び出るような金額が必要だ。
 恐らく詰め所の衛兵全員の給料を使っても足りない。

「冗談よ。いいわ。同行してあげるし、辺りに潜んでいないか巡回もしてあげる。乗りかかった船だしね。それにこの辺りは私の故郷でもあるし。安心して、報酬はいらないとは言わないけど出せる分だけでいいわ。ということで、ごめんね? ソフィ」
「いいわよ。あなたのおせっかいもこれが初めてじゃないもの」

 サラの返事に信じられなかったのか、衛兵は目を白黒させている。
 普段は人見知りで引っ込み思案のくせに、クエストのような冒険者に関わるようなことに関しては何故か、サラは積極的で自信に満ちていた。
 そして何よりおせっかいを焼くことが多かった。

 ソフィが一緒になる前にも同郷の冒険者がいるパーティに冒険者のイロハを教えたという話を聞いたことがあるし、ソフィと一緒になってからも色々なことに首を突っ込んでいた。
 普段物静かな子が自分の得意分野になると途端に人が変わったように元気になるようなものかとソフィは内心笑っていた。

「それで、シャルルはどうする? 私達はここで領主の使いが来るまでここで原因を探るけど。突き合わせる訳にはいかないし、置いて行ってくれて構わないわ」
「そうね。これから伝令を送ってその使いが来るまでとなるとそれなりの日数が必要でしょうから、悪いけど私達は先に進ませてもらうわ。遅れて到着して目当ての酒がなかったじゃあ目も当てられないもの。ごめんね。でもこれも商売なの」

「ううん。全然かまわないわ。今までありがとう。おかげでずいぶん早く移動できたわ。この先も気を付けてね」
「ええ。あなたたちも」

 シャルルは2人の代わりの護衛になってくれそうな人を探しに行く、と酒場の方へ歩いて行った。
 2人は元来た道を衛兵とともに戻って行った。



「やっぱりひとまずいくつか見本を持って、町に相場を調べに行った方がいいな」

 カインは輪になって座る男達に向かってそう言った。
 高額な納税をどうするか話し合った後、村にあるものを色々調べ、再び集会を開いていた。
 結論として、やはり、もともと自分達が食べる分だけを作るのが目的である作物は、多少高くついても金になるほど量が無く、木材も伐採し、乾燥させ、加工していては今年の納税に間に合わないだろうということになり、唯一金になりそうなのは村で取れた羊毛だけだった。

 羊毛はもともと特産物の多くないこの村の唯一といっていいほどの商品だった。
 春先に刈った羊毛を夏の間に紡ぎ、それを秋に織物や編み物にしたものもしくは毛糸をそのまま売って金を作り、その金で町で村の日用品などを買うのだ。

 今までこの羊毛の価格は毎年変えずにこちらの言い値で買い取ってもらっていた。
 よく考えると言い値を決めたのはもう何十年も前の話だ。物価も変わっている。
 今まで懇意の商人に全て買い取ってもらっていたのだが、一度も言い値を断られたことはなかった。

 結局、交渉が上手だろうということで、カインが相場を調べる者に抜擢された。確かにこの村の人達は人が好過ぎる。
 疑うことを知らずほとんどのことをそういうものかと受け入れる懐の大きさがあるが、交渉事には向かないだろう。
 まぁ、そのおかげで自分がこうやってこの村で平穏に暮らせているのだがとカインは思った。

 さすがに一人では不安だろうということで、ロロを一緒に連れていくことになった。
 戻ってきて間もないが、気心の知れたカインとの旅は妙に安心感がありまた楽しいため、ロロは喜び勇んで同行を承諾した。

 そこまでのんびりもできないが、売り物として相場を調べるためには実際の物があった方がいいだろうと、村の女達はいつもより少し早いが、糸紡ぎと織物をこなし、作られた毛糸の束といくつかの織物や編み物を大きめのカバンに入れ、カインとロロは村を出た。
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