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第3章
第39話
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早朝、3人が寝静まった後、カインは1人あの時の出来事を思い出していた。
カインが視力を失い、オティスの村にたどり着くことになったあの日だ。
オークキングを倒したあの時、確かにカインはあの日の魔物が近くにいると感じた。
いや、果たしてあれは魔物なのだろうか。もっと得体のしれない何かという気がして、考えると傷が癒えたはずの両目に疼きを覚える。
◇
そのクエストはそれほど難しいものではないはずだった。
少なくとも、すでに調べつくされた遺跡にゴブリンの群れが巣を作り、それを駆逐するだけの簡単なクエストなはずだった。
ゴブリンは人の子供の身長を持った2足歩行の魔物で、とがった耳、ぎょろりとした大きな瞳、不恰好に曲がった鼻、大きく裂けた口を持った、個々の能力は低く、さして驚異のない初心者の冒険者が討伐対象とするような魔物だった。
個々では脅威はないが、群れを作りやすく、また、村などを襲い家畜を盗んでいく習慣があるため、小規模でも群れが発見された場合は、討伐対象としてクエストが発動された。
群れだとしてもせいぜい中級に至る前のパーティに簡単に討伐される相手だった。
当時まだDランクとはいえ、すでに頭角を現していたカイン達のパーティにとっては、苦労するとは思えないようなクエストだったのだ。
案の定、遺跡に入るとちらほらと現れるゴブリンをほとんど危険もなく屠りながら、群れの中心があるといわれた場所目掛けて進んでいた。
しばらく進むと唐突にそれは現れた。
何処から現れたのか、まるで空間を渡ったのかのように唐突に姿を現したそれは、何の前触れもなく不可視の攻撃を繰り出してきた。
最初に気付いたのはいつも周りの状況に気を人一倍配っていたカインだった。
違和感、そうとしか呼べない感覚に突き動かされ、カインは先頭に立っていたルークをタックルするように押しのけた。
その瞬間空間が裂け、カインの両目を掠り血しぶきが上がった。
おそらくカインが動かなければ、ルークは胴体で2つに分かれていただろう。
勢いよく起き上がるが、両目はその役目を果たせない状態になっていた。
「カイン!」
声のする方にあわてて首を振る。滴っていた血が飛び散り、ルークの右ほほから耳にかけて斑点をつける。
ルークは自分よりも背の高いカインを無理やり引き寄せると、ミューが自分の肩にカインの腹を乗せるような形で担ぎ、走り出した。
敵の攻撃はなおも続いているようで、何かが破裂するような音が鳴り響いていた。
「転移陣だ! 転移陣まで逃げろ!!」
担がれながらカインが叫ぶ。
転移陣とはこの遺跡に設置された過去の遺物で、ちょうど今4人がいる所からそう遠くないところに設置されている魔方陣だった。
この魔方陣は、上に乗ると、この世界のどこかに飛ばされるというトラップのような存在だった。
調べた学者たちによると、飛ばされる場所は方向も距離もばらばらで統一性がなく、任意に行きたい場所を選ぶ方法はまだ発見されていなかった。
少なくとも今対峙している魔物は、自分達の敵う相手ではない。
また、逃げても追ってくることを考えると、このまま通常の出口、つまり地上までの道のりを無事に移動できるとは到底思えなかった。
カインは一縷の望みにかけたのだ。
死ななければ、また全員集まれるだろうと。
カインの目から流れる血を擦り付けられ、真っ白なミューの鎧は首元から胸元にかけて真っ赤に染まっていた。
逃げる最中も敵の襲撃を受けながら、何とか4人は無事に転移陣までたどり着いた。
「いいか? これに乗れば何処に飛ばされるか分からない。でも皆集まる場所は分かっているはずだ」
「これしか方法がないんだな?」
ない、とカインが答えると、ララがカインの目の当たりに手を当て、泣きそうな顔をしている。
「カンちゃん・・・。目が・・・」
「大丈夫さ、ララ。そのうち良くなるさ」
誰もが分かる嘘を言うとカインは3人に分からないよう、小さな声で呪文を唱え始めた。
「いいか? 入るぞ?」
「ああ」
まずルークが陣の中央に立ち、続いてすぐにカインを担いだミュー、ララが入る。
ルークが入った瞬間から転移陣の文様が青白く光り、その輝きを増していった。
そこでカインは見えないが近くにいるであろう3人に向かって、唱えておいた強化魔法をかけた。
いつも通り、頭痛と吐き気が襲ってきた。3人は驚愕した顔でカインを見ている。
「すまない。転移できたとしても俺はこの目では長くは持たないだろう。出来る限りの魔法をかけておいた。どうにか君達は無事に生き延びてくれ」
「ばかやろう! てめぇ! 少しの希望すら残さねぇってのか!!」
他の2人も不満を言おうとしていたが、すでに転移は始まっており、4人の身体は徐々に境界があいまいになっていた。
4人を襲った魔物は、4人が転移した直後に姿を現し、4人がすでにいないことを確認すると、何事もなかったかのように元居た場所へ戻っていった。
◇
その後4人は別々の場所に飛ばされたが、カインはオティスの近くで、今は亡き妻に助けられ一命を取り留め、残りの3人はしばらく時間がかかったものの、コルマールに集結し、現在に至る。
3人の話によると、転移後強化を受けた効果はいつまでも消えることなく、未だにその恩恵を受けているのだという。
色々試した結果、カインが渡した信頼の証がその力の源だということが分かった。
半永久的に強化魔法の効果が維持されることは考えにくい。
3人が出した結論は、未だに生きているカインが、この証を媒体として3人に定期的に強化魔法をかけているのだろうということだった。
何故生きているのに姿を現さないのか、説明できなかったが、何か理由があるのだろうと、いつか姿を現してくれるまで待つことにするとリーダーのルークは決めた。
その上で、自分達が本来の実力以上の力を得ていることはカインの強化魔法のおかげであることは、疑いようもない事実であるから、カインから何らかの連絡があるまでは、これまで通りパーティの一員として扱い、成果も報酬もきちんと行きわたるようにしたのだという。
カインはその話を聞いて、もう一度3人の付けているミスリル製のピアス、ネックレス、リングを確めた。
結果、どうやらあの時唱えた強化魔法は、3人だけにかかったのではなく、この装備にもかかっていたことが分かった。
しかも3つともカインの血がご丁寧に付着した後だったらしく、永続化がなされていた。
どう説明したもんかな・・・と、カインは息を吐いた。
◇◇◇◇◇◇
すいません。
時差を忘れてて予約が1時間後になっていました。
本日帰国です。
カインが視力を失い、オティスの村にたどり着くことになったあの日だ。
オークキングを倒したあの時、確かにカインはあの日の魔物が近くにいると感じた。
いや、果たしてあれは魔物なのだろうか。もっと得体のしれない何かという気がして、考えると傷が癒えたはずの両目に疼きを覚える。
◇
そのクエストはそれほど難しいものではないはずだった。
少なくとも、すでに調べつくされた遺跡にゴブリンの群れが巣を作り、それを駆逐するだけの簡単なクエストなはずだった。
ゴブリンは人の子供の身長を持った2足歩行の魔物で、とがった耳、ぎょろりとした大きな瞳、不恰好に曲がった鼻、大きく裂けた口を持った、個々の能力は低く、さして驚異のない初心者の冒険者が討伐対象とするような魔物だった。
個々では脅威はないが、群れを作りやすく、また、村などを襲い家畜を盗んでいく習慣があるため、小規模でも群れが発見された場合は、討伐対象としてクエストが発動された。
群れだとしてもせいぜい中級に至る前のパーティに簡単に討伐される相手だった。
当時まだDランクとはいえ、すでに頭角を現していたカイン達のパーティにとっては、苦労するとは思えないようなクエストだったのだ。
案の定、遺跡に入るとちらほらと現れるゴブリンをほとんど危険もなく屠りながら、群れの中心があるといわれた場所目掛けて進んでいた。
しばらく進むと唐突にそれは現れた。
何処から現れたのか、まるで空間を渡ったのかのように唐突に姿を現したそれは、何の前触れもなく不可視の攻撃を繰り出してきた。
最初に気付いたのはいつも周りの状況に気を人一倍配っていたカインだった。
違和感、そうとしか呼べない感覚に突き動かされ、カインは先頭に立っていたルークをタックルするように押しのけた。
その瞬間空間が裂け、カインの両目を掠り血しぶきが上がった。
おそらくカインが動かなければ、ルークは胴体で2つに分かれていただろう。
勢いよく起き上がるが、両目はその役目を果たせない状態になっていた。
「カイン!」
声のする方にあわてて首を振る。滴っていた血が飛び散り、ルークの右ほほから耳にかけて斑点をつける。
ルークは自分よりも背の高いカインを無理やり引き寄せると、ミューが自分の肩にカインの腹を乗せるような形で担ぎ、走り出した。
敵の攻撃はなおも続いているようで、何かが破裂するような音が鳴り響いていた。
「転移陣だ! 転移陣まで逃げろ!!」
担がれながらカインが叫ぶ。
転移陣とはこの遺跡に設置された過去の遺物で、ちょうど今4人がいる所からそう遠くないところに設置されている魔方陣だった。
この魔方陣は、上に乗ると、この世界のどこかに飛ばされるというトラップのような存在だった。
調べた学者たちによると、飛ばされる場所は方向も距離もばらばらで統一性がなく、任意に行きたい場所を選ぶ方法はまだ発見されていなかった。
少なくとも今対峙している魔物は、自分達の敵う相手ではない。
また、逃げても追ってくることを考えると、このまま通常の出口、つまり地上までの道のりを無事に移動できるとは到底思えなかった。
カインは一縷の望みにかけたのだ。
死ななければ、また全員集まれるだろうと。
カインの目から流れる血を擦り付けられ、真っ白なミューの鎧は首元から胸元にかけて真っ赤に染まっていた。
逃げる最中も敵の襲撃を受けながら、何とか4人は無事に転移陣までたどり着いた。
「いいか? これに乗れば何処に飛ばされるか分からない。でも皆集まる場所は分かっているはずだ」
「これしか方法がないんだな?」
ない、とカインが答えると、ララがカインの目の当たりに手を当て、泣きそうな顔をしている。
「カンちゃん・・・。目が・・・」
「大丈夫さ、ララ。そのうち良くなるさ」
誰もが分かる嘘を言うとカインは3人に分からないよう、小さな声で呪文を唱え始めた。
「いいか? 入るぞ?」
「ああ」
まずルークが陣の中央に立ち、続いてすぐにカインを担いだミュー、ララが入る。
ルークが入った瞬間から転移陣の文様が青白く光り、その輝きを増していった。
そこでカインは見えないが近くにいるであろう3人に向かって、唱えておいた強化魔法をかけた。
いつも通り、頭痛と吐き気が襲ってきた。3人は驚愕した顔でカインを見ている。
「すまない。転移できたとしても俺はこの目では長くは持たないだろう。出来る限りの魔法をかけておいた。どうにか君達は無事に生き延びてくれ」
「ばかやろう! てめぇ! 少しの希望すら残さねぇってのか!!」
他の2人も不満を言おうとしていたが、すでに転移は始まっており、4人の身体は徐々に境界があいまいになっていた。
4人を襲った魔物は、4人が転移した直後に姿を現し、4人がすでにいないことを確認すると、何事もなかったかのように元居た場所へ戻っていった。
◇
その後4人は別々の場所に飛ばされたが、カインはオティスの近くで、今は亡き妻に助けられ一命を取り留め、残りの3人はしばらく時間がかかったものの、コルマールに集結し、現在に至る。
3人の話によると、転移後強化を受けた効果はいつまでも消えることなく、未だにその恩恵を受けているのだという。
色々試した結果、カインが渡した信頼の証がその力の源だということが分かった。
半永久的に強化魔法の効果が維持されることは考えにくい。
3人が出した結論は、未だに生きているカインが、この証を媒体として3人に定期的に強化魔法をかけているのだろうということだった。
何故生きているのに姿を現さないのか、説明できなかったが、何か理由があるのだろうと、いつか姿を現してくれるまで待つことにするとリーダーのルークは決めた。
その上で、自分達が本来の実力以上の力を得ていることはカインの強化魔法のおかげであることは、疑いようもない事実であるから、カインから何らかの連絡があるまでは、これまで通りパーティの一員として扱い、成果も報酬もきちんと行きわたるようにしたのだという。
カインはその話を聞いて、もう一度3人の付けているミスリル製のピアス、ネックレス、リングを確めた。
結果、どうやらあの時唱えた強化魔法は、3人だけにかかったのではなく、この装備にもかかっていたことが分かった。
しかも3つともカインの血がご丁寧に付着した後だったらしく、永続化がなされていた。
どう説明したもんかな・・・と、カインは息を吐いた。
◇◇◇◇◇◇
すいません。
時差を忘れてて予約が1時間後になっていました。
本日帰国です。
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