辺境暮らしの付与術士

黄舞

文字の大きさ
114 / 133
第5章

第111話

しおりを挟む
 空には雲ひとつなく波は穏やかで心地よい風が吹いていた。
 船出には良き日だと、その場に集まった者達は口々に声を上げた。

「サラさん、皆さん。ご無事で! ここで皆さんの帰りをお待ちしてます!」

 アイリは旅立つサラやカイン達に向け激励を飛ばし、無事を祈った。
 その他の造船に関わった者達もシバやカイン達に声をかけた。

「いいか? 俺がいない間もサボるんじゃねぇぞ。お前達で船の一艘くらい作っとけ!!」

 シバの言葉に造船所の者達が『おぅ!!』と答える。
 カインはコハンと一緒に船にかけた付与魔法の綻びがないか最終確認をしている。

 やがてカインがシバに向かい大きく首を縦に振った。
 シバとコハンは船倉に設置された魔道核へと降りていき、互いに手のひらを魔道核に当てた。

「よいか? それでは始めるぞ?」
「ああ!」

 シバの返事にコハンは魔道核に魔力を込め始めた。
 以前と同様にその魔力に応じて魔道核は眩く輝いている。

 シバが念じると、独りでに帆が開き、船腹に設置された何本ものオールが、一斉に漕ぎ始めた。
 やがてカイン達を乗せた船は沖へ向かって進み始めた。

「ひとまず、出だしは順調のようだな。しかし驚いたな。船員の居ない船が動くなんてなぁ」

 事前に説明を聞いていたが、実際に見るのは初めてだったアオイは、目を輝かせながら遠ざかる陸地を眺めていた。

「魔道核って凄いですよね。全てを自由自在に自分の意思で動かせるなんて」
「守るべき人が増えると隙ができるからね。俺としてはありがたいよ」

 ソフィの言葉にアオイはそう返した。
 他の皆も魔道核による船の操作、というのを目の当たりにして物珍しそうに眺めていた。

 シバとコハンが特訓した結果、既に二人は魔道核の性能を余すことなく理解していた。
 その一つが乗り物の完全操作。

 船倉に居るシバではあるが、この性能の力で船の中はもちろんのこと、外の様子も分かる。
 また船のいたるものを自在に操ることが出来る。

 リヴァイアサンと戦うにあたり、非戦闘員である船員達の安全確保がカインの悩みの種だったが、シバとコハン二人で魔道核による操作が可能なため、その憂いは払拭することが出来た。
 シバとコハンも船内から出る必要が無いため、船さえ無事なら二人の安全も確保できる。

「あ! 見て! なんて生き物かしら?」
「あれはバレーンと呼ばれる動物だな。この街の人の話によると幸運を運ぶ魚だと呼ばれているらしい。あんな大群で見れるのはそれこそ珍しいんじゃないかな?」

 サラの指差す先には船ほどの大きさはあろうかという巨大な魚が群れで泳いでいるのが見えた。
 時折水上に顔を出しては、頭の上にある穴から飛沫を上げている。

「大きいわね……襲ってきたりしないのかしら?」
「これも街の人の受け売りだが、大人しい性格をしているらしい。こちらからなにかしなければ人や船を襲うことはまずないらしいよ」

 バレーン達はまるでカイン達の乗る船を先導するように、進行方向の先を悠々と泳いでいた。

「そういえば、バレーンにはこんな話があってね。彼らは海の中で歌い、その歌で仲間達と意思疎通を図っているらしい」
「まぁ。なんか素敵ね。あら? なにか聴こえない?」

 サラは耳を澄ます。バレーンのいる方角、進行方向から微かに歌声のようなものが聴こえてくる。
 悲しいような嘆きにも似た女性の歌声にも聞こえる。

「これがバレーンの歌声かしら? すごく物悲しい……まるで何かに嫉妬した女性の歌にも聞こえるけれど」
「そんなはずは……さっきの話はあくまで空想で、バレーンの歌声なんて聴いた事がある人などいないといっていたのに……」

 アオイは怪訝な顔をして歌声のする方を睨んだ。
 しかしアオイの目には優雅に泳ぐバレーンの群れ以外特に気になるものは見えなかった。

「カインさん! あの大きな魚の群れもしくはその先に気になるものは視えるか?」
「特に無いですね。ただ、この聴こえてくる歌声のような音の発信源はあの魚では無さそうです。魚とは距離がそれほど変わっていないのに、歌声は先ほどからどんどん大きくなっている気がします」

 カインの言葉に他の人達は不穏な空気を感じた。
 一方、船は順調に進み程なくして目的の地域にたどり着くところまで来ていた。

「見て! あそこに居るの!!」

 先ほどのバレーンを見つけた時とは打って変わり、緊張した声色で進行方向の水面に浮かぶ複数のものを指差した。
 青い海に藍色の藻のようなものが無数に浮かんでいる。

 近付いて見るとそれは全て人の髪の毛だった。
 アイリが描いた絵と同じ、カイン達がベヒーモスの角を街へと運ぶ際に見かけた女性。

 その女性と全く同じ顔をした女性が、海の中に浮かび顔を出し口をぱくぱくと動かしている。
 その口の動きに合わせて先ほどから聞こえる歌声が奏でられていた。

 まるでそれは船乗り達の中で言い伝えられる、歌声によって人を惑わせ、海の中へと引きずり込む女性の姿をした魔物のようだった。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる 「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。 ※こちらの作品は、カクヨムと小説家になろうでも公開しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

無能だと追放された「雑用係」のハル、現代の知恵(ライフハック)を駆使したら、呪われた魔王城が聖域化して伝説の賢者と呼ばれ始めた

ユネ
ファンタジー
「君のような無能な掃除係は必要ない!」 勇者パーティーからゴミのように捨てられた雑用係のハル。だが彼女には、前世で培った【家事のプロとしてのライフハック】があった。 ​移り住んだのは、誰もが恐れる『呪われた魔王城』。しかしハルにとっては、ただの「掃除のしがいがある大型物件」に過ぎなかった! 重曹とクエン酸で呪いを浄化し、アルミホイルで魔物を除け、ジャガイモの皮で伝説の鏡を蘇らせる。 ​魔法より便利な知恵で、お城はいつの間にか世界一快適な聖域に。 一方、ハルを失った勇者たちは、汚部屋と化した拠点と自らの無知に絶望することになり――。 ​これは、一人の「掃除好き」が知恵と工夫だけで異世界に革命を起こし、最高のスローライフを手に入れるまでの物語。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...