辺境暮らしの付与術士

黄舞

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第5章

第115話

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 リヴァイアサンは耳を塞ぎたくなるほどの声を上げながら、その巨体をよじらせた。
 その影響で大小様々な波が引き起こされるが、シバのまさに体の一部として舵を取る船は、巧みにその波を捌いていく。

 痺れからすぐに解放されたリヴァイアサンの双眸は、久しく感じたことの無い痛みを与えた一人の少女に向けられる。
 その隙を狙ってゼロにまたがったサラが、リヴァイアサンへと近付き、こちらも強度と切れ味を最大限に強化した長剣でその眼球を切り付けた。

 再び咆哮しながら首をくねらせるリヴァイアサン。
 ゼロはぶつからないよう即座にその場から離れ、次の攻撃のタイミングを探る。

 突如リヴァイアサンは頭から海中へと潜った。
 しばしの沈黙の後、海中から再び顔を見せたリヴァイアサンは首を高く持ち上げる。

 その全てを飲み込みそうなほど大きな口を目いっぱいに開けた。
 そこから放たれたのは高圧で吹き出された海水だった。

 海水でできた巨大な槍のごとく、それはカイン達の乗る船に向け一直線に伸びた。
 辛くも直撃を逃れた船だが、その打ち付けられた海水によって発生した水流によって翻弄される。

 カインとソフィがほぼ同時に魔法を唱えた。
 カインの付与魔法で強化された帆にソフィの放った風が勢いよく吹き付ける。

 船はまるで見えない手に押されるように、乱水流から勢いをつけて抜け出した。
 恐らくあのままでは徐々に中心に引き寄せられ、最後は恐ろしい圧力の海水の直撃を受けていただろう。

 全ての海水を吐き出したリヴァイアサンは再び海へと潜る。
 しばらくして顔を見せると先ほどと同様に口から海水を吐き出した。

 先程と違うのは、今度はまるで水弾のように単発で何度も吐き出すところだ。
 水弾といってもそれは船ほどの大きさと、先ほどと変わらぬ勢いがある。

 船に当たればただでは済まないだろうし、空を旋回するゼロに当たれば一溜りもないだろう。
 器用に蛇行しながら海水の弾を避ける船だが、リヴァイアサンにもそれなりの知恵があるらしく、行く手を阻むように連続した弾を吐き出してきた。

 とうとう避けきれなくなった弾が上空から迫る。
 アオイはコハンから渡された薬品が入った瓶を空中へと投げ付けた。

 水弾に当たった瓶は割れ、中に入った粘性の高い液体が海水に混ざる。
 瞬間爆発音が聞こえ海水は跡形もなく蒸発した。

 船とカイン達に吹き付けたのは熱風のみだった。

「咄嗟に投げたが、話以上にとんでもない威力だな! 錬金術というのも馬鹿にできん!!」
「何を投げたの?」

「よく分からんが、なんでも錬金術では欠かせない『触媒』というものらしい。水の触れるとその水を瞬時に消し去るほどの威力があるのだとか」

 アオイはこの日のためにコハンからよく分からないものをいくつか受け取っていたが、今投げたのもその一つだった。
 アオイは知らなかったが、運良く薬の量が水弾の海水の量に対して十分以上にあったため問題はなかった。

 もし海水の量が多すぎれば、沸騰した熱水の弾を浴びることになり、事態はより悪化していただろう。

「さすがコハンさん! 私の姉弟子なだけあるわね!」


 ソフィは嬉しそうに呪文を唱え始める。
 何より厄介なのはリヴァイアサンが海に潜ってしまえば、こちらから一切手出しができなくなってしまうことだった。

「青は碧。揺蕩うは水の女王。その身は震え、久遠の時を紡ぐ。我、汝に求むは永久の沈黙!」

 詠唱の終わりと共にソフィは舷から海中向かってに身を投げた。
 海面に触れる瞬間、魔法を発動させた。

 ソフィの右手が触れた海面からリヴァイアサンに向かって、海水が凍りついていく。
 やがてリヴァイアサンの身体ををすっぽりと覆い尽くすまでその氷床は続いた。

 自由な身動きが取れなくなったリヴァイアサンは水面から出た首をのたうちながら咆哮する。
 遅れて急拵えの足場に降り立ったアオイは、その身体目掛けて愛用の剣を振るう。

 アオイの剣もまた、カインによってミスリルのコーティングが施され、強度と切れ味を増強させる付与魔法がかけられていた。
 そこにアオイの技術が加わる。それは先日戦ったベヒーモスの角さえ一刀両断させた秘技だった。

「ばかな!?」

 痺れる腕を堪えながらアオイが驚愕の声を上げる。
 アオイの放った剣撃はリヴァイアサンの肉に達することなく、外皮に防がれ傷一つ付けることが出来なかった。

「アダマンタイトよりも硬いというのかっ!」

 この世界で最高の硬度を持つとされるアダマンタイト。
 それを研ぐにも削るにも同じアダマンタイトを用いるしかないとされている。

 そのアダマンタイトを削ったベヒーモスの角は、少なくともその最高硬度の鉱石と同等かそれ以上の硬度を持つことを示していた。
 しかしリヴァイアサンの外皮はそれすらも上回る硬さを持つというのだ。

 それはこの世界の人間が知る物質の中には、リヴァイアサンを傷付けることが出来る物が存在しないことを示していた。
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