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第1章

第16話【たまにはゆったり】

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 どこまでも続くきれいで幻想的な洋風の街並み。
 行き交う人は各々の自慢の装備を身に付けていて多種多様だ。

 イストワールに戻った俺は、一息つくということもあり、初めて街を眺めていた。

「よく考えたらこの街にどんなものがあるのかすら分からないな。金だけあってもどこ行けばいいか分からないってのは辛いな……そうだ!」

 俺はさっそくメッセージを送る。
 相手はロキとヒミコ。内容は「俺のお祝いするから来ないか」だ。

 自分を祝うために人を呼び出すのもなんだが、きちんと費用は全額俺が出すことは明記してある。
 金ならいくらでもあるからな。こんなことが言えるなんてゲームはすばらしい!

 ヒミコからの返事は直ぐに来た。
 今すぐ来てくれるそうだ。

 ロキから返信が来ないので、俺からアトリエに迎えに行くと伝える。
 土地勘がないから、待ち合わせも一苦労だからな。

 見知ったアトリエに着くと、ヒミコが笑顔で迎えてくれた。
 作り物の見た目だとわかりつつも、やはり美少女の微笑みは何ものにも変え難い価値がある。

「ショーニン!! 迎えに来てくれてありがとう!もう、すでにドキドキが止まりませんわ!!」

 心無しか顔を紅潮させているように見える。
 そんなにタダで遊べるのが嬉しいんだろうか。自分だってかなりの金持ちのくせに。

 まぁ、今日は色々と教えてもらう気だから、ヒミコにもお礼と言ってはなんだけど、充分楽しんでもらおう。
 それにしてもロキからの返信が無いな……インはしてるみたいだけど。

「お、きたきた。あれ? まじか。タイミング悪かったか」
「どうしたんですの?」

 俺はロキからの返信を見て、思わず声を上げてしまった。
 内容を見ることが出来ないヒミコは不思議そうにこっちを見ている。

「いや。何でもない。所で、二人なんだけど大丈夫かな? 今日はロキは忙しくて来れないみたいだ」
「まぁ。うふふ。意外とショーニンは場馴れしているのですね。ええ。もちろんですわ。私も最初からそのつもりですもの」

 ん? ヒミコはロキが今日忙しいことを知ってたのかな?
 そうならそうと言ってくれればいいのに。別に明日でも俺は問題なかったんだけどな。

 しかし、せっかく乗り気になってくれているヒミコに、今から明日にしようとは言いづらい。
 俺も今日はゆっくり楽しむ気分になっていたから、そのまま二人で出かけることにするか。

 まぁ、ロキとは今度別で行けばいいか。
 その時もう一回ヒミコを誘ってもいいしな。

「それで! 今日はどこへ連れてってくださいますの?」

 ヒミコは期待のこもった目で俺を見つめてくる。
 これは相当高級な所に連れて行ってもらえると思っているな。

「そうだなぁ。とびきり楽しい場所へ! と言いたいところだけど、残念ながら街のことはよく知らなくてさ。ヒミコのおすすめ、行きたい場所へ連れてってよ。言った通り金に糸目はつけなくていいからさ」
「え!? 私の行きたい場所でいいんですの?」

「ああ。行きつけの場所でも、逆に行きたかったけど、まだ行ったことないところでもどこでもいいよ。俺にとっては全部楽しみな場所だからさ」
「まぁ……なんて素敵なんでしょう」

 ヒミコはかなりのやり込みプレイヤーだし、アトリエを見た感じでも、ガチ勢でありかつエンジョイ勢でもありそうだからな。
 ヒミコのおすすめなら信用して大丈夫だろう。

「それじゃあ、お言葉に甘えて。まずは私のお気に入りの場所を紹介しますわ!!」
「おう。よろしく頼むよ」

 ヒミコの歩幅に合わせて俺は隣を歩く。
 身長がかなり小さめなヒミコだが、スキルか装備の効果か、歩くスピードはそこまで遅くない。

 そして、前回同様、ヒミコは俺の右手をしっかりと握っている。
 会った時もそうだが、よほど動物好きのようだ。

 獣人の俺は手まで艶のある毛で覆われているからな。
 顔を撫で回されるより手ぐらいですんで助かるってもんだ。

「ここですわ。ここのハーブティーとケーキのセットが絶品ですの! 中の雰囲気もイチオシですのよ!」
「へぇ。なんというか、いい雰囲気だな」

 現実なら店先を通るのも少し早歩きになってしまいそうな、趣きのある店構え。
 中に入ると、いっそうその気持ちを強めるような、豪華でかつ嫌味を感じさせない上品な作りの店内に目を奪われる。

『いらっしゃいませ。お客様。こちらへどうぞ』

 NPCと思われるメイド服を着た店員が俺たちを店内の席へと案内する。
 重厚な作りのテーブルと座り心地のいいソファ。なぜかソファの配置は向かい合わせでなく、ほぼ隣同士だ。

「うふふ。いつもいい事があった時にはここでお気に入りのハーブティーと、季節ごとに変わるケーキを楽しみますの」
「へー。楽しみだなぁ。この前ヒミコにごちそうになったお茶も美味しかったから、期待大だよ」

「まぁ。口がお上手ですね。でもいつも一人で来ますから、ショーニンと一緒に、しかもごちそうになるなんて夢のようですわ」
「ああ。いいんだ。色々と良くしてもらったお礼の意味もあるし。ほんとに気兼ねなく好きなものを頼んでよ。えーっと、何がいいのかな」

 自慢じゃないが、俺は人生でこんな店に入ったことは一度もない。
 つまりどうすればいいのか全く分からない。

 とにかくヒミコが絶賛するお茶とケーキが食べれればいいかな。
 しかし、こんなにヒミコがおごってもらうことを嬉しがるとは思わなかったな。

「そういえばさ。最近気づいたんだけど、レベル高いやつはあんまり自分のアバターいじらない奴が多いんだな。やっぱり見た目より性能重視なのかな?」
「どういうことですの?」

「いや。ほら。インフィニティタウンにいる時は分からなかったけど、イストワールに来てからはさ。なんというか、キャラの顔の造作が適当な奴が多いじゃん。んで、見たら大体高レベルなやつばっかなんだよ」
「えーっと、それはつまり?」

「まぁ、こう言っちゃ悪いけど、顔の設定適当だよな。あ、ヒミコは違うぞ。めっちゃ可愛いからな。ヒミコくらい可愛い顔のプレイヤーなかなか見ないよ」
「まぁ……さすがにそれは……ストレート過ぎて照れますわ」

 俺の言葉にヒミコは顔を真っ赤に染めて、うつむいてしまった。
 なるほど。やっぱり、ヒミコは自分の顔の設定にかなり頑張ったと見た。

 自分の作品を褒められると嬉しいを通り越して恥ずかしいってところかな。
 俺はもう一人の知り合いのイケメンを思い浮かべる。

 あいつもかなり手をかけたに違いない。
 今度会ったらサラッと褒めてやるか。

「ショーニンはさすがに、ベータ版から参加してるプレイヤーのアバターは本人の容姿を元に作成されているってご存知なんですよね? いやですわ。もう。こんなこと真顔で言われたら、私……」

 は……?

 今なんて言った?
 ベータ版からのプレイヤーは本人の容姿を元にしている?

 いやいやいや。嘘だろ?
 アバター作る時にめちゃくちゃいじれたじゃん。

 っていうか俺、見た目人ですらねぇし。
 うわ。俺もしかしてめっちゃくちゃ恥ずかしいこと言った?

「えーっと……もちろん知ってたよ。あははははは……」

 笑ってごまかすしかない俺をヒミコは上目づかいで見てくる。
 うわ。なんか急にすごく恥ずかしくなってきたぞ。

『お待たせ致しました。こちら、当店自慢のハーブティーと、季節のデザート盛り合わせでございます』

 店員が空気を読まず、いや、むしろ読んでか、絶妙なタイミングで頼んでいたものを運んでくる。
 机に置かれていく、淡い青色のティーポットと薄口のティーカップ。

 そしてテーブルの中央には取り分けて食べるタイプの見た目も食欲を誘うデザートの盛り合わせ。
 せっかく二人なのだからと、色々なものを食べれるこれにした少し前の俺が憎い!

「さ、さあ! ケーキも来たことだし。食べようか。いやぁ! 美味しそうだな!」

 うわずった調子の俺の声は、二人しかいない店内に妙に響いた。
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