ある化学者転生 記憶を駆使した錬成品は、規格外の良品です

黄舞

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1巻

1-1

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 章一――お前を雇ってくれるところなんて――


「おいハンス! この魔法薬、間違ってるだろ!? 用意するのは初級が十本じゃなくて、初級、中級、上級がそれぞれ十本ずつだ! 納期は明日だぞ! 分かってんのか!?」

 俺の所属するギルド【白龍はくりゅうかぜ】に怒声が鳴り響く。
 その矛先ほこさきはいつも通り、錬金術師アルケミストがよく着る服装をした黒髪黒目の男、つまり俺、ハンスに向かっている。
 場所はギルド長室。豪華ごうか調度品ちょうどひんがところせましと並べられている部屋だ。
 部屋にいるのは、俺を怒鳴りつけているギルド長のゴードンと、俺だけ。
 俺を擁護ようごしてくれそうな人などいないのだから、自分で弁明するしかない。

「しかしギルド長。指示いただいた時は、間違いなく作るのは初級魔法薬だけだと。この納入先は、いつも三種類を頼まれているので確認したはずです。ここにメモも――」
「なんだと!? 俺のせいだって言う気か!! この無能が!! くだらん言い訳している暇があったら、さっさと残りの魔法薬を作り始めろ!! 間に合わなくて損害が出たら、全部お前の責任だからな!!」
「ちょっと待ってください。発注を受けた時に始めれば間違いなく間に合いました。しかし、今からじゃとても……それに、その納入品の終了報告は随分前にしていたはずです。せめてその時に言ってもらえていれば……」
「なんだと? まだ言い訳をするのか? お前の替えなんていくらでもいるんだぞ」

 目が痛くなるような、ギラギラした装飾を身にまとったギルド長は、いつも通りのおどし文句を投げかけてきた。
 身寄りがなかった俺の才能を見出してくれて育ててくれたのは、間違いなくギルド長だ。
 その点については感謝している。
 逆に言うとここでの仕事を失ってしまえば、他に知識も何もない俺は、野垂のたれ死ぬ運命だというのも分かっている。
 そのことは、決まり文句のように続く、ギルド長のこの言葉でも物語っていた。

「ハンス。お前みたいな無能を使ってくれるようなところなんて、他にないんだぞ? そんなお前を使ってやってるんだ。感謝すべきなのに、お前といったらいつになったら役に立てるようになるんだ」
「すみません。急いで間に合わせます。徹夜になると思いますので、工房の使用許可をください」
「まったく! 工房を使うのだってタダじゃないんだぞ。間に合っても、今回の件はお前の落ち度だ。残業した分の経費はお前の分から引くからな」
「はい。分かりました。それで構いません」

 それだけ言うと、ギルド長は去っていく。
 俺は大急ぎで工房に向かい、足りない中級魔法薬と上級魔法薬を作り始めた。
 工房には様々な素材が無造作むぞうさに積み上げられていて、錬成に必要な器具が雑多に置かれたままになっていた。
 器具は俺の私物だが、他にこの工房を使う者もいないので、俺が使いやすいように置いているのだ。
 俺は素材の山から魔法薬に必要なものを選別し机に載せる。
 まずはこれをくだいて細かくして、魔法薬に必要な成分を取り出す作業をするのだ。
 しかし本来のやり方なら、とてもじゃないが間に合わない。
 いつも通り、俺は独自にアレンジした方式で、順に魔法薬を生成していく。
 まずは【酸性抽出】。
 俺が作った言葉で、これをやるのとやらないのとでは抽出の速度に大きな差が生じる。
 普通の方法、つまり一般的な抽出作業では素材を水でただひたすら煮るだけだが、酸性抽出では水にスライムの酸液を加える。
 これを加えることで、素材に含まれている魔法薬の成分が、格段に速く水の中へと溶け込む。
 十分じゅうぶんたら、今度はアルカリアの草の灰を加える。
 こうすることで、成分が容器の底にたまる。
 これが魔法薬の元となるもの。
 普通にやれば手に入れるために相当な時間がかかるが、酸性抽出ならばこのようにすぐに入手できる。
 問題は、素材自体の質が悪いと、邪魔な成分も含まれていて魔法薬には使えないということ。
 このまま作れば、魔法薬の品質が下がってしまう。
 そのため、ここからその不純物を取り除く作業が必要だ。
 俺は慣れた手つきで作業に取りかかった。


「ふぅ。なんとか間に合った」

 俺が魔法薬を作り終えたのは朝日が上ったあとだった。
 眠い目を擦りながら、納品しに行く。
 向かったのはいつも通りギルド長室。
 扉をたたき、返事を待ってから入る。

「ギルド長、なんとか間に合いました。中級魔法薬と上級魔法薬がそれぞれ十本です。確認をお願いします」

 俺はそう言って、作り終えたばかりの魔法薬をギルド長の目の前にある机に並べていく。
 ギルド長は魔法薬を一瞥いちべつすると、ふところから銀貨を一枚取り出し、こちらに向かって放り投げた。
 慌てて空中でつかみ取ろうとして失敗し、床に転がる銀貨をしゃがんで拾う。
 ギルド長は尊大な口調で言った。

「ギリギリだが、まぁ間に合ったんだから許してやる。お前は昔っからそうだ。俺がいないと、ろくに期限も守れないんだからな」
「あの、これは?」
「あ!? 今回の報酬だろ。分かんねぇのか? お前の首の上には何が乗っかってるんだ? 帽子の台か? いらねぇなら返せ」
「いえ、今回の報酬は金貨一枚だったはずです。これではとても……」

 銀貨百枚で金貨一枚の価値だ。
 銀貨一枚ではパン一個買うくらいしかできない。
 いくら徹夜で工房を使った分を差し引くとは言っても、これではあまりに少なすぎる。
 すると、ギルド長は露骨に優しげな顔をしてみせた。

「ハンス。いいか? これはお前に対しての親心だ。人間は間違いから成長していく。ここでお前を甘やかしたら、親代わりである俺が、お前の成長をさまたげてしまうことになるだろう? ……そんなことより、これが次の仕事だ。明後日までに精錬せいれん銅と精錬鉄を二十。さっさと始めろ」
「ちょっと待ってください。さっきまで徹夜でやっていたんです。明後日が納期だなんて……それに、他にも仕事は山積みなんです。今から始めたらまた徹夜ですよ!」

 実を言えば徹夜は昨日が久しぶりだけれど、深夜まで働いているのはここ最近ずっとのことだ。
 短い納期や今回のような指示ミスによる追加の仕事のせいで、休むことなく働いている。
 決まった休みがないのはどの職業でも一緒だけれど、さすがにこのまま続ければ倒れてしまう。
 俺の反論に、ギルド長は表情を一変させて不機嫌な顔になった。

「そんなの知るか。間に合わないのはお前が無能だからだろうが。文句があるなら他の働き口を探せ! どうせお前みたいな無能を使ってくれるようなところなんて――」
「分かりました。辞めます」
「あ!? お、お前! 今なんて言った?」
「辞めます。今まで僕みたいな無能を使っていただきありがとうございました。でも、もう無理です」

 正直、もう限界だった。
 育ててもらった恩はある。
 また、ギルド長が言うように、こんな俺を他に雇ってくれるところなんかないのだろう。
 それでも、俺はもうここで働いていく自信も気力も体力も全て失ってしまっていた。

「ば、馬鹿言うな。お前みたいな――」
「いいんです。心配してくれている気持ちは痛いほど分かります。でもこれ以上は無理ですし、ご迷惑もかけられません。それでは失礼します」
「お、おい! 一日くらい休みを取らせてやってもいいぞ! 休んだら来い! 分かったな!? 俺の優しい親心が分からないお前じゃないだろう!?」

 突然休みをくれると言いだしたギルド長だが、どういう風の吹き回しだろうか。
 だが、俺はもう決めたのだ。
 それにただでさえ迷惑をかけているのに、休みを取るなんて迷惑の上乗せになってしまう。

「いいえ。大丈夫です。それでは、今までありがとうございました。ギルド長もお元気で」

 俺は未練が残らないよう、走って部屋をあとにした。
 後ろではまだギルド長が何かを叫んでいたが、耳をふさぎ聞かないようにして全速力で駆けた。
 走って、走って、走って。
 流れていく街並みを気にもせず、行く当てもなく走り続けた。
 息が切れ、そこで立ち止まる。
 気がついた時には、俺は街の中心にあるダンジョンの入口まで来ていた。
 屈強くっきょうそうな探索者シーカーが、どんどん入口に入っていく。
 彼らはほとんどが武具を身に着けている。それほどダンジョン内が危険な場所だということだろう。
 ダンジョンはこの街の基幹産業であり、色々な意味で街の中心だ。
 その中には良質な素材となる植物や鉱石があり、そしてモンスターたちがいる。
 凶悪なモンスターたちも、見事討伐できれば、他では手に入れることのできない様々な素材に変わる。
「過去の遺物」と呼ばれるとんでもない宝物が見つかることもあり、多くの者がパーティを組んでダンジョンに挑むのだ。
 人々は彼らのことを探索者シーカーと呼ぶ。
 その探索者シーカーを支援するために、様々な職人が集まり、この街オリジンを形成している。
 探索者シーカーや職人連中をまとめあげるのがギルトだ。
 大小様々なギルドが多くの職人を抱え、探索者シーカーの無茶な要求にこたえている。
 俺がさっきまで所属していた【白龍の風】は、ギルドの中でも一、二を争う、総合ギルドだ。
 職人の集まりであるギルドには、単一の分野における職人が集まる専門ギルドと、異なる分野の職人がいる総合ギルドがある。
 当然ながら、一般的には総合ギルドの方が規模が大きい。
【白龍の風】には多くの探索者シーカーが所属し、また、多種多様な職人たちを抱えていた。
 と言っても錬金術師アルケミストは俺一人だったけれど。
 俺は探索者シーカーにつられて、ダンジョンの入口――通称『奈落』の前に近付いていた。
 最奥部さいおうぶがどうなっているかすら分からない、『奈落』の口がぽっかりといている。

「このまま一歩を踏み出せば、こんなちっぽけな人生を終わらせられるかな……」

 そんなことをつぶやきながら、俺はダンジョンの入口を見つめていた。
 戦闘技能を持たない俺がダンジョンに踏み込めば、間違いなく死が訪れるだろう。

「……!?」

 次の瞬間、俺の頭に今まで見たこともない情報がとめどなく流れてきた。
 あまりの情報量に目眩めまいがして、その場にうずくまる。
 ――白い薄手の外套がいとうのようなものを着た男たちが、大量に並べられたガラスの容器の前で何かをしている。
 正確に重さを計る器械や、容器の中にある小さな白い石棒みたいなものを自動で回す器械が見える。
 その後も様々な場面が俺の頭の中に現れては消えてゆく。

「こ、これは……そうか。思い出したぞ。俺はまた同じあやまちを……」

 頭に流れてきたのは、俺の前世の記憶だった。
 日本という、この世界とは異なる国で暮らしていた前世の俺はいわゆるブラック企業に就職し、無能と言われ続け、電車を待つホームに立ち、今と同じことを考えていた。
 結局、ホームから飛び下りることも、仕事を辞めることもできずに、俺は過労死してしまう。
 前世の俺の職業は――化学者ケミスト
 今いるこの世界にはない、地球という異世界の職業だ。
 しかし俺の今の職業、錬金術師アルケミストと似ている部分も多い。酸性抽出をはじめとする俺独自のアレンジは、前世の記憶が無意識のうちに浮かび上がり、踏襲した方法だったようだ。


 それからしばらくうずくまっていた時だ。

「どうした? 大丈夫か? それにその格好、とてもこれからダンジョンにもぐる格好じゃ……って、おい。うちの錬金術師アルケミスト様じゃないか。こんなところで何をしているんだ?」
「ソフィア? あ、いや。なんでもないんだ」

 背後から聞こえた心配しているような声の方を振り返ると、そこには【白龍の風】の筆頭探索者シーカー、″魔法剣のソフィア〟が立っていた。
 見た目の可憐かれんさとは裏腹に、屈強な男たちもかなわない、魔法と剣術を組みあわせた戦法が持ち味の探索者シーカーだ。
 トレードマークとも言えるくれない一色のフルプレートアーマーを装備し、腰には白く輝く長剣をげている。
 まだ街中だからだろうか、ヘルムの部分は腕に抱えていて、綺麗にまれた金髪と、人をきつける碧眼へきがん美貌びぼうあらわになっていた。
 周りを見渡しても他のパーティメンバーは見当たらない。
 しかし、俺みたいに気付いたらここにいたというのでなければ、彼女が意味もなくダンジョンの入口に来ることなんてない。今日は一人でダンジョンに潜るのだろうか。
 初心者の探索者シーカーなら、一人でダンジョンに挑むのは無謀と笑われるが、ソフィアほどの腕前ならたとえ単独で挑むと言っても笑う者はいないだろう。
 そんなことを考えながらソフィアの顔を見つめていると、何故か彼女のほおが赤く染まった。

「おい。ハンス。私の顔に何か付いているのか? そんなにじっと見るな」
「え? ああ。ごめん、ごめん。ソフィアはこれから一人でダンジョンに? というか俺の名前を知っていたんだね」

 無能とののしられるばかりの俺と違って、ソフィアは【白龍の風】のエースだ。
 俺が彼女を知っているのは当然。
 一方、ソフィアが俺のことを、しかも名前まで知っているとは正直驚きだ。
 ギルド長に言われて、普段から他のギルドメンバーが集まるところには近寄らないようにしていたので、顔を合わせたのも一、二度くらいだろう。

「うちのギルドでお前を知らない奴なんているのか?」

 ソフィアは不思議そうに言ったあと、言葉を続ける。

「私はちょっと魔法薬の素材を取りにな。正直なところ、うちで一から魔法薬を頼むと、他よりずっと高いだろ? だからせめて素材だけは集めて材料費を浮かせたいんだよ。それでもハンスが作る魔法薬は格別だからな。あれを一度使ったら、二度と他のやつのは飲めん」
「え? 魔法薬なんて誰が作っても一緒じゃないのかい?」

 魔法薬というのは、人の体に流れる魔力を回復してくれる薬だ。この世界の人間は、誰しも魔力を持っている。
 魔力は魔法の使用などで消耗する。大量に消耗すると疲労感が生じ、さらに使い続けると気絶してしまうことまである。
 魔力は時間の経過で回復するので、普通に生活する人は魔法を使ったあとに適宜てきぎ休憩すれば問題ないが、常に危険ととなり合わせの探索者シーカーはそうもいかない。ダンジョンで魔力切れを起こしたら、死に直結するからだ。
 また、探索者シーカーのために作られたと言っても過言ではないこの街では、魔法薬の種類に明確な区別がある。
 区分は初級、中級、上級の三つ。それぞれの魔法薬は、生成のための素材も決まっている。
 そのため、素材が同じならば出来上がる魔法薬の性能は一緒になると思っていたのだが……そうではないのだろうか。
 疑問を抱きつつ、俺はソフィアに続けて言う。

「それに、俺はもうギルドを辞めたんだ。俺みたいな無能はいらないって、前から散々言われていたしね。だから、これからギルドに発注したら新しく雇われた人が作ると思うよ」

 そう言った途端、ソフィアの顔が今度は青ざめた。
 まるでとんでもなく悲しいことが起こったような表情だ。

「な、なんだって!? それにハンスが無能だって!? 高いとは言ったが、あんな高品質の魔法薬を作れるハンスが無能なわけがないだろう!」
「え? いや……でも実際に毎日ギルド長に怒鳴られていたけど、ソフィアは知らないの?」

 俺の質問に、ソフィアは首を大きく横に振る。
 あまりに強く振るので、頭がもげてしまいそうだ。
 そういえば探索者シーカーがギルド長のところに直接来ることは、滅多にない。
 というか、ギルド長のところではその他の職人もほとんど見かけなかった。仕事の話はギルド長から直接受けるはずなのに。
 てっきり俺と時間がかぶってないのだろうと深く考えずにいたけれど、今考えてみればおかしな話だ。彼らは一体いつ、どこで仕事の話を聞くのだろう?
 そう思った俺は、ソフィアに尋ねてみた。
 すると、彼女は首をひねって答える。

「ギルド長から直接? そんなことはまずないぞ? 探索者シーカーだって職人だって、普通は受付窓口に行くんだ」
「そうなのかい? あまり受付には近寄るなってギルド長に言われていたから、俺は行かなかったな」
「とにかく! 辞めるなんて嘘だよな?」
「いや。辞めたのは本当なんだ。今更戻れないよ。あれだけ迷惑だと言われ続けてきて、辞めると言って飛び出したんだ。今更どんな顔で戻ればいいか。それに……」

 今の俺は正直なところ混乱していた。
 親代わりに俺を育ててくれ、言葉は厳しいが、俺みたいな無能を使ってくれていたギルド長。
 昔のギルド長は今よりもう少しだけ優しかった。
 だから俺がもっとしっかり仕事をこなしていれば、また昔みたいに優しい言葉を投げかけてくれる日が来る――そう信じて今まで頑張ってきた。
 ギルド長を信じたいという気持ちはある。
 しかし、先ほど思い出した俺の前世の記憶が、どうしてもその考えを揺らがせる。
 ギルド長の振る舞いは、日本で言うところのブラック上司のそれと同じだった。
 彼の態度は、とてもではないが自分に愛情を持っている者のものではないと、前世の記憶が主張している。
 ギルド長は果たして俺を子供のように、家族のように思ってくれていたのだろうか。
 それに、ソフィアの話によると、俺はどうやら他のギルドメンバーから隔離されていたらしい。まるで俺が余計な知識を得ないように、ギルド長がわざと俺を世間から遠ざけていたようにも思える。
 俺はしばらく考え、もう少しソフィアに尋ねてみることにした。

「ソフィア。魔法薬をギルドに頼むつもりだと言ったね? 何をどれだけ、いくらで頼む気だったんだい?」
「え? 別に普通だよ。上級を五本。金貨十枚だ」
「は……!?」
「え……?」

 俺は思わず目が点になり、口をだらしなく開けてしまった。
 その表情を見たソフィアも、困惑の表情を浮かべている。
 つまり上級魔法薬一本につき、金貨二枚が相場だってことだ。
 素材はソフィアが用意すると言っているのだから、彼女が言った金額はほぼ錬金術師アルケミストの作業料ということになる。
 どういうことだ?
 いくらもうけの全てが俺の報酬になるわけじゃないにしても、俺が今までもらってきた報酬は低すぎやしないか?
 一体ギルド長は、今までいくら稼いできたというのだろう。
 ギルド長に対する疑念が徐々に強くなっていく。
 もしかしたら、俺は辞めて正解だったのだろうか。
 今となっては、辞めると言った途端にギルド長が手の平を返したのも別の思惑を感じる。まるで、金のなる木を手放したくないとでも言うような……

「おい。本当に大丈夫か? なんか変だぞ?」
「うん? ああ。大丈夫だよ。それよりねぇ、ソフィア。その魔法薬、俺に注文しないかい? もし注文してくれるなら全部まとめて半額の金貨五枚、いや、金貨一枚で受けるけれど」

 俺は思わずそんな提案をしてしまう。
 ソフィアはとても驚いていた。

「なんだと!? 冗談だろう? ハンスの作る魔法薬は本当に品質がいいから、一本の値段が金貨二枚でも買うんだ。というか他のギルドに頼んだって、上級魔法薬は一本で金貨一枚はするぞ?」

 ということは、一般的な相場は金貨一枚ってことか……まぁでも問題ない。

「それはあのギルドで買ったら、でしょ? 俺がもらっていた報酬に比べれば、これでも十分すぎるほどさ」

 そう言うとソフィアはいぶかしげな顔を見せるが、嘘は言っていない。
 この前の依頼は初級、中級、上級の魔法薬がそれぞれ十本ずつで、報酬は結局たったの銀貨一枚だった。減額される前に提示された報酬でも金貨一枚だ。
 しかしソフィアは、上級魔法薬を五本の依頼で金貨を十枚も払おうとしていた。俺からすれば、上級魔法薬が五本ならば金貨一枚でも破格だ。

「そんなに安くなくても頼みたいところだが、ギルドを辞めたってことは、ハンスは今無所属なのだろう? さすがにこの街の法にれるのはな。しかしハンスの作った魔法薬以外飲みたくないしなぁ。うーん」
「あ、そういえばそうだったな」

 この街では、ギルドに所属していない者に仕事を依頼することは禁じられている。
 ギルドを守るための法であり、ギルドに所属する職人を守ることにもなる。


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