補助魔法はお好きですか?〜研究成果を奪われ追放された天才が、ケモ耳少女とバフ無双

黄舞

文字の大きさ
1 / 52

第一話

しおりを挟む
「やった! やっと完成した!!」

 書類の束が乱雑に置かれている部屋の中心から、嬉々に満ちた声が響き渡った。
 声の主は、今まで机にかじり付くように、一心不乱に筆を走らせていた白髪の青年。
 その青年ハンスは、喜びの声と共に身体を起こし、勢い余って椅子ごと後ろに倒れてしまった。

「あいたたた……はっ! こうしちゃいられない。早速試さないと!」

 たった今、長年取り組み自ら作り上げた理論を使った全く新しい魔法を完成させた。
 机の上に置かれた檻の中にいる、小さな魔物に向け、その魔法を唱える。
 魔物というのは大小様々な危害、損害を人間にもたらす生き物たちの総称。
 ハンスは魔法を向けたのは、ベアラットと呼ばれる。
 毛の全くない姿をした、尖った前歯で何にでも食らいつく、小さいが獰猛な魔物だった。

 ベアラットはダンジョンだけでなく、街の地下を走る、下水道などでもよく見かける。
 繁殖力が高く、人の生活圏近くでも生息するため、常時討伐依頼が出されている。
 討伐依頼は駆逐することが多いが、ベアラットは捕獲も多い。
 その数の多さと、獰猛な魔物とはいえ一匹ではさほど驚異ではないことから、様々な実験に用いられていた。

「さて、と。まずは、こっちからかな」

 ハンスが呪文を唱えながら空中で手を動かす。
 光を帯びた指先を追うように、空中に魔法陣が刻まれた。

敏捷低減スロウ!」

 ハンスの声に応じて、魔法陣は一際光を強める。
 魔法陣を型取りながら、ベアラットに向け光線が飛ぶ。
 光がベアラットの腹部に当たると、そこには空中に描かれた魔法陣と同じ模様が浮かび上がる。
 その瞬間、檻の中でせわしなく動いていたベアラットは、まるで水中の中に放り込まれたように、緩慢な動きを見せた。

「おおお! 成功だ! やった! やったぞ!! とうとう俺も魔法を唱えることに成功した!」

 ハンスは喜びのあまり大声を上げ、手足をじたばた動かしていた。
 まるでとびきりお気に入りのいたずらが大成功した時の少年のような喜びようだ。
 その振動で積み重ねられた種類の束が落ち、その音に驚きビクッと身体を震わせる。
 ハンスはその場に誰もいないのに、恥ずかしさを誤魔化すように一度わざとらしい咳払いをした。

「あ、おほん! 落ち着けー。残りの魔法も試してみないと。でもなぁ。こっちはもしもの事があったらまずいしなぁ。魔物にかけるか? いや、でももし檻から出るようなことがあれば、俺の身の危険も……」

 ハンスは一人ブツブツと思考を声に出し考え込んでいる。
 思考を声に出すのは、ハンスの昔からの癖だった。

「やっぱり、魔物にかけよう。思わぬ副作用とかあるとまずいしな。さすがに人に向けてぶっつけ本番はないだろ」

 整理が付いたらしく、ハンスは先程とは違う呪文を唱えながら、同じように空中に異なる形の魔法陣を刻んでいく。

「出力は小さくした方がいいな。まずは、敏捷増加クイック!」

 先ほど同じように、魔法陣から光線が飛ぶ。
 異なる檻に入れられた、別のベアラットの背中に紋様が刻まれた。
 途端に、ベアラットはまるで抵抗を無くしたかのように素早く動き出す。
 制御が追いつかないのか、檻の格子に何度も身体をぶつけ始めた。

「おおお! こっちも成功だ! くぅぅぅ! 長かった! 本当に長かった!」

 ハンスは目の前で起きている事を、感慨深く噛み締めていた。
 七年間という長い年月をかけ、ハンスは、今までこの世界に存在しなかった、新たな魔法の分野を開発したのだ。

「まだまだ! 色々と試してみないとな」

 ハンスはウキウキしながら、実験動物である檻の中の魔物に次々と魔法をかけ、その効果を検証して行く。
 陽気な様子でも、効果に対して向けられる視線は研究者特有の鋭さを持っていた。

「なるほど、状態異常は複数かけることが出来るが、強化の方は基本的には一つが限界だな」

 魔物に使った魔法の効果、気になる点や改善の可能性を、事細かく書いた書類の束を見つめながらハンスは息を吐いた。
 自分が想像通りの結果も、自身の開発した新たな魔法体系が発展の可能性を十分に持っていることも、ハンスの胸を躍らせていた。

 ハンスは自分の開発した、新たな魔法に【補助魔法】と名付けた。
 そして近々開催される、魔術師大会に発表するための資料作りを開始する。
 これで、今まで無能の天才と揶揄していた魔術師達を、見返すことが出来るはずだとハンスは自分を鼓舞した。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...