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第十話
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「いいかい? セレナ。俺達は冒険者だ。冒険者は魔物を倒して、その素材を売ったり、クエストを達成して金を稼ぐんだ。その装備だって、金がなけりゃ買えないし、宿をとるにも飯を食うにも金がいるんだ。何より俺は多額の借金がある。俺達はもっと強い魔物を倒さなくちゃいけない。ホーンラビットごときで四の五の言われても困るんだよ」
「でも……私には……」
「ふぅ。仕方がない。これは主人としての命令だ。断るとどうなるか分かるね?」
「すいません……私……」
ハンスは額に左の手の平を当てると、大きく首を振り、右手でパチンと指を鳴らした。
途端にセレナに全身を覆う言い様も無い苦痛が襲いかかった。
「う……うぅ……」
「セレナ。俺をあんまり困らせないでくれ。それにこれは君のためでもあるんだ。君は亜人なのに知らないのかい? 人間には無い、魔物の特性を」
あまり苦しめて、戦う体力まで削いではいけないので、ハンスは直ぐにまた指を鳴らし、セレナの従属化の効果を打ち消した。
苦痛から解放されたセレナは地面にへたり込む。その目には涙が溜まっていた。
「セレナ。頼むよ。本当はこんな事したくないんだ」
「わか……りました。私、頑張ってみます」
セレナは決心したのか、未だに上手く前に進めずに、跳躍と落下を繰り返しているホーンラビットに後ろから近寄り、持っているダガーナイフを振り上げた。
刃はホーンラビットの首の後ろに突き刺さり、先程まで飛び跳ねていたホーンラビットは動かなくなった。
「良くやってくれた。嫌な思いをさせてしまったね。でも、先程よりも少し身体が軽くなった気がしないか? ホーンラビットの魔素を吸い取ったはずなんだけど」
「え? そう言えば、先程ハンス様に受けた痛みが少し和らいでいるような……」
魔法の研究のため、ハンスは関係がありそうな研究を片っ端から紐解いた。
その中に書かれていた、驚くべき事実。
魔物にはどんな個体にも魔素と呼ばれる、エネルギーのようなものがあり、人間が魔物を倒してもそれは地面などに放出されるだけであるが、魔物が魔物を倒すと、相手の魔素を吸い取ることが出来るというのだ。
多くの魔物を倒すことにより、その魔物は強化され、時には別の魔物へと進化する事があるという。
それが魔物と人間を隔てる一つの特性であり、魔物の一種とされる亜人も例外ではなかった。
だが、遥か昔に書かれたであろうこの文献は、異端とされ、当時の人々の耳には届かなかったようだ。
一方で、人間側にも成長する手段が無い訳では無い。
魔素は人間や植物などを避け、鉱物に移りやすい。
冒険者の経験則で、魔物を倒す時に金属を身に付けていると、身体能力の向上がはかられると言われ、習慣として、冒険者証をぶら下げるチェーンには金属製の物を使うようになった。
人間は魔素を直接吸い取ることは出来ないが、魔素を浴びると、ゆっくりと肉体が変成され、やがて驚異的な実力を持つことが出来るようになる。
何れにしても、ハンスにとっては、今の所セレナが唯一の攻撃手段である。
そのため、早く多くの魔素を吸収し、病気を治し、別の強化魔法をかけれるようになってもらうのが先決だった。
セレナは自分の事なのに、まるで初耳のように驚いた顔をしながら、また、首を縦にブンブンと振るだけだった。
「とにかく、今度は直ぐに倒してくれよ。お、いたいた。今回の討伐対象のロックビートルだ」
ロックビートルは岩のように硬い甲殻を持つ、甲虫で、基本的には木の幹に張り付き、少しも動かずに敵が去るのを待つだけの魔物だ。
この甲殻は火打石のように、お互いを打ち付けると火花を散らす性質があるため、一般市民に重宝されていた。
「いいか? この魔物は本来ならハンマーのような打撃武器が無いと倒せない魔物だが、それでは折角の甲殻が粉々になって、あまり量が取れない。そこでだ」
ハンスはまた指を動かし、空中に魔法陣を描いていく。
セレナは相変わらず食い入るようにハンスの動きを目で追っていた。
「肉体軟化!」
木に張り付いているロックビートルの甲殻に魔法陣と同じ紋様が浮かび上がる。
動きがないため、今回の魔法にどのような効果があるのか見た目では分からず、セレナはどう反応すればいいか困った顔をしている。
「この状態異常は、肉体の強度を軟化させるんだ。弾力が出るのが欠点だけど。これで、普通なら通らない、そのダガーナイフがこいつの甲殻を貫ける。なるべく大きく切り出せる様に、そうそう。そこら辺がいいな」
「分かりました。えい!」
先程と異なり、見た目が可愛くない魔物には躊躇しないのか、セレナは勢いよくダガーナイフを、本来ならば硬くて刃など通るはずのないロックビートルの甲殻に突き刺した。
少し弾力のある感触を感じたものの、ダガーナイフはほとんど抵抗も感じないまま、ロックビートルの身体を突き抜け、木の幹に突き刺さった。
あまりの手応えのなさに、驚き、セレナは思わず持っていたダガーナイフを手放してしまった。
慌てて、柄を握り直し、引き抜くと、ロックビートルは絶命していたようで、そのまま地面に転がった。
「凄いです……なんの抵抗も感じませんでした……」
「はっはっは。ひとまずこの甲殻を切り出したら、補助魔法は解除しないとね。そうじゃないと、売り物にならない」
ハンスはそう言うと、セレナに甲殻を切り出させ、ギルドで借りてきた荷台に甲殻を乗せた。
その後も二人は、時折襲ってくるそれほど強くもない魔物を倒しながら、ロックビートルの甲殻を収集して行った。
「でも……私には……」
「ふぅ。仕方がない。これは主人としての命令だ。断るとどうなるか分かるね?」
「すいません……私……」
ハンスは額に左の手の平を当てると、大きく首を振り、右手でパチンと指を鳴らした。
途端にセレナに全身を覆う言い様も無い苦痛が襲いかかった。
「う……うぅ……」
「セレナ。俺をあんまり困らせないでくれ。それにこれは君のためでもあるんだ。君は亜人なのに知らないのかい? 人間には無い、魔物の特性を」
あまり苦しめて、戦う体力まで削いではいけないので、ハンスは直ぐにまた指を鳴らし、セレナの従属化の効果を打ち消した。
苦痛から解放されたセレナは地面にへたり込む。その目には涙が溜まっていた。
「セレナ。頼むよ。本当はこんな事したくないんだ」
「わか……りました。私、頑張ってみます」
セレナは決心したのか、未だに上手く前に進めずに、跳躍と落下を繰り返しているホーンラビットに後ろから近寄り、持っているダガーナイフを振り上げた。
刃はホーンラビットの首の後ろに突き刺さり、先程まで飛び跳ねていたホーンラビットは動かなくなった。
「良くやってくれた。嫌な思いをさせてしまったね。でも、先程よりも少し身体が軽くなった気がしないか? ホーンラビットの魔素を吸い取ったはずなんだけど」
「え? そう言えば、先程ハンス様に受けた痛みが少し和らいでいるような……」
魔法の研究のため、ハンスは関係がありそうな研究を片っ端から紐解いた。
その中に書かれていた、驚くべき事実。
魔物にはどんな個体にも魔素と呼ばれる、エネルギーのようなものがあり、人間が魔物を倒してもそれは地面などに放出されるだけであるが、魔物が魔物を倒すと、相手の魔素を吸い取ることが出来るというのだ。
多くの魔物を倒すことにより、その魔物は強化され、時には別の魔物へと進化する事があるという。
それが魔物と人間を隔てる一つの特性であり、魔物の一種とされる亜人も例外ではなかった。
だが、遥か昔に書かれたであろうこの文献は、異端とされ、当時の人々の耳には届かなかったようだ。
一方で、人間側にも成長する手段が無い訳では無い。
魔素は人間や植物などを避け、鉱物に移りやすい。
冒険者の経験則で、魔物を倒す時に金属を身に付けていると、身体能力の向上がはかられると言われ、習慣として、冒険者証をぶら下げるチェーンには金属製の物を使うようになった。
人間は魔素を直接吸い取ることは出来ないが、魔素を浴びると、ゆっくりと肉体が変成され、やがて驚異的な実力を持つことが出来るようになる。
何れにしても、ハンスにとっては、今の所セレナが唯一の攻撃手段である。
そのため、早く多くの魔素を吸収し、病気を治し、別の強化魔法をかけれるようになってもらうのが先決だった。
セレナは自分の事なのに、まるで初耳のように驚いた顔をしながら、また、首を縦にブンブンと振るだけだった。
「とにかく、今度は直ぐに倒してくれよ。お、いたいた。今回の討伐対象のロックビートルだ」
ロックビートルは岩のように硬い甲殻を持つ、甲虫で、基本的には木の幹に張り付き、少しも動かずに敵が去るのを待つだけの魔物だ。
この甲殻は火打石のように、お互いを打ち付けると火花を散らす性質があるため、一般市民に重宝されていた。
「いいか? この魔物は本来ならハンマーのような打撃武器が無いと倒せない魔物だが、それでは折角の甲殻が粉々になって、あまり量が取れない。そこでだ」
ハンスはまた指を動かし、空中に魔法陣を描いていく。
セレナは相変わらず食い入るようにハンスの動きを目で追っていた。
「肉体軟化!」
木に張り付いているロックビートルの甲殻に魔法陣と同じ紋様が浮かび上がる。
動きがないため、今回の魔法にどのような効果があるのか見た目では分からず、セレナはどう反応すればいいか困った顔をしている。
「この状態異常は、肉体の強度を軟化させるんだ。弾力が出るのが欠点だけど。これで、普通なら通らない、そのダガーナイフがこいつの甲殻を貫ける。なるべく大きく切り出せる様に、そうそう。そこら辺がいいな」
「分かりました。えい!」
先程と異なり、見た目が可愛くない魔物には躊躇しないのか、セレナは勢いよくダガーナイフを、本来ならば硬くて刃など通るはずのないロックビートルの甲殻に突き刺した。
少し弾力のある感触を感じたものの、ダガーナイフはほとんど抵抗も感じないまま、ロックビートルの身体を突き抜け、木の幹に突き刺さった。
あまりの手応えのなさに、驚き、セレナは思わず持っていたダガーナイフを手放してしまった。
慌てて、柄を握り直し、引き抜くと、ロックビートルは絶命していたようで、そのまま地面に転がった。
「凄いです……なんの抵抗も感じませんでした……」
「はっはっは。ひとまずこの甲殻を切り出したら、補助魔法は解除しないとね。そうじゃないと、売り物にならない」
ハンスはそう言うと、セレナに甲殻を切り出させ、ギルドで借りてきた荷台に甲殻を乗せた。
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