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第三十五話
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ハンスがゆっくりとハーブティーを飲みながら、デザート楽しんでいると、ふとセレナと目が合った。
既にセレナは自分の皿に置かれていたデザートを平らげ、ハンスが食べ終わるのを待っている状況だ。
ハンスはセレナの目線が、チラチラと自分の皿の上に移っている事に気付き苦笑した。
おもむろに自分の皿の上のデザートを、大きめのサイズに切り分け、フォークとナイフで器用に持ち上げる。
セレナはその挙動を目で追いながら、ハンスがデザートを持ち上げた時には、口が半開きのまま見つめていた。
ハンスは思わず息を漏らすと、持ち上げていたデザートをセレナの皿の上に置いた。
セレナは一瞬何が起きたのか分からないという表情で、大きく見開いたままの目で、自分の皿の上からハンスへと視線を動かした。
ハンスは声を上げて笑いながら、セレナのことを見返す。
「あっはっは! 食べたいんだろう? いいよ。食べなよ。食べ物ってのは、一番美味しそうに食べる者に食べる権利があるのさ」
「いいんですか?! あ……いえ! 申し訳ありません!」
いいから、とハンスはセレナにもう片方のデザートも切り分けると、残り少なくなったカップに、ティーポットから再びハーブティーを注いだ。
セレナは先程の勢いほどではないが、顔を紅潮させながら、目の前のデザートを口に運んでいる。
今日は休みを作って良かった、とハンスは思った。
アベルと別れてからか、それとも冒険者育成施設に戻って、恩師と信じていた人物に裏切られ、成果を横取りされ、多額の借金を背負わされてからか。
もしかしたら、冒険者達に自分の価値が認められず、どこのパーティにも所属を断られてからかもしれない。
いつからか、ハンスの心は、酷く荒んでいた。
奴隷屋に呼び止められ、中へ誘われたのも、セレナを買ったことも、以前の自分ならば到底しないことではないか、とハンスは思っていた。
口ではセレナを「仲間」だと言い、上辺では対等な関係を築いていると思い込んでいた。
そう、思い込んでいただけなのだ。
セレナが服を見たいということも、デザートを食べたいということも、ハンスの頭には言われるまで浮かんでくることなど無かった。
しかし、今日のセレナを見ると、一般的な少女の誰もが望むものだと思えた。
金ならあるのだ、時間も作ろうと思えば作れた。
それなのに自分は、自分のしたい事だけを優先し、セレナが反論すると、自分の意見を通すために、「命令だ」とその時だけ主従関係を持ち出していたのだ。
ハンスは自分の独善を恥ぢ、これからはもっと対等な立場でセレナと対話をしていこうと思った。
ハンスが巡らせた思いなど、露知らず、セレナは満面の笑みで、デザートを完食していった。
ハンスは思考から現実世界へと舞い戻ると、セレナの頬に付いたクリームをからかいながら指摘した。
会計を済ませ、店の外に出ると、ハンスはセレナに問いかける。
「さて。お腹も満たされたことだし、次はどこに行きたいんだ?」
「えーとですね。次は、ハンス様が行きたい所に行きたいです!」
ハンスはセレナの返答に面を食らってしまった。
まさか自分が行き先を決めるなどとは思ってもいなかったため、回答するまでに随分の時間を空けてしまう。
「俺が行きたい所だって? 何処でもいいのか?」
「はい! あ、クエストは無しですよ。ちゃんと町の中を選んでくださいね」
「分かった。じゃあ、ついてきてくれ」
「はい!」
ハンスは目的地が分かっているような、しっかりとした足取りで進む。
セレナもハンスの横を歩速を合わせて歩く。
ハンスが立ち止まった先にあったのは 、ギルドの建物だった。
それを見たセレナは溜息をつきながら、ジト目でハンスを見る。
「ハンス様。クエストはダメだって言いましたよね?」
「違うんだ。ひとまず中に入ろう」
ハンスは説明するより実際に見せた方が分かりやすいだろうと、何も言わずに中へ入っていく。
セレナも仕方なく、ハンスに続き、ギルドの扉をくぐった。
既にセレナは自分の皿に置かれていたデザートを平らげ、ハンスが食べ終わるのを待っている状況だ。
ハンスはセレナの目線が、チラチラと自分の皿の上に移っている事に気付き苦笑した。
おもむろに自分の皿の上のデザートを、大きめのサイズに切り分け、フォークとナイフで器用に持ち上げる。
セレナはその挙動を目で追いながら、ハンスがデザートを持ち上げた時には、口が半開きのまま見つめていた。
ハンスは思わず息を漏らすと、持ち上げていたデザートをセレナの皿の上に置いた。
セレナは一瞬何が起きたのか分からないという表情で、大きく見開いたままの目で、自分の皿の上からハンスへと視線を動かした。
ハンスは声を上げて笑いながら、セレナのことを見返す。
「あっはっは! 食べたいんだろう? いいよ。食べなよ。食べ物ってのは、一番美味しそうに食べる者に食べる権利があるのさ」
「いいんですか?! あ……いえ! 申し訳ありません!」
いいから、とハンスはセレナにもう片方のデザートも切り分けると、残り少なくなったカップに、ティーポットから再びハーブティーを注いだ。
セレナは先程の勢いほどではないが、顔を紅潮させながら、目の前のデザートを口に運んでいる。
今日は休みを作って良かった、とハンスは思った。
アベルと別れてからか、それとも冒険者育成施設に戻って、恩師と信じていた人物に裏切られ、成果を横取りされ、多額の借金を背負わされてからか。
もしかしたら、冒険者達に自分の価値が認められず、どこのパーティにも所属を断られてからかもしれない。
いつからか、ハンスの心は、酷く荒んでいた。
奴隷屋に呼び止められ、中へ誘われたのも、セレナを買ったことも、以前の自分ならば到底しないことではないか、とハンスは思っていた。
口ではセレナを「仲間」だと言い、上辺では対等な関係を築いていると思い込んでいた。
そう、思い込んでいただけなのだ。
セレナが服を見たいということも、デザートを食べたいということも、ハンスの頭には言われるまで浮かんでくることなど無かった。
しかし、今日のセレナを見ると、一般的な少女の誰もが望むものだと思えた。
金ならあるのだ、時間も作ろうと思えば作れた。
それなのに自分は、自分のしたい事だけを優先し、セレナが反論すると、自分の意見を通すために、「命令だ」とその時だけ主従関係を持ち出していたのだ。
ハンスは自分の独善を恥ぢ、これからはもっと対等な立場でセレナと対話をしていこうと思った。
ハンスが巡らせた思いなど、露知らず、セレナは満面の笑みで、デザートを完食していった。
ハンスは思考から現実世界へと舞い戻ると、セレナの頬に付いたクリームをからかいながら指摘した。
会計を済ませ、店の外に出ると、ハンスはセレナに問いかける。
「さて。お腹も満たされたことだし、次はどこに行きたいんだ?」
「えーとですね。次は、ハンス様が行きたい所に行きたいです!」
ハンスはセレナの返答に面を食らってしまった。
まさか自分が行き先を決めるなどとは思ってもいなかったため、回答するまでに随分の時間を空けてしまう。
「俺が行きたい所だって? 何処でもいいのか?」
「はい! あ、クエストは無しですよ。ちゃんと町の中を選んでくださいね」
「分かった。じゃあ、ついてきてくれ」
「はい!」
ハンスは目的地が分かっているような、しっかりとした足取りで進む。
セレナもハンスの横を歩速を合わせて歩く。
ハンスが立ち止まった先にあったのは 、ギルドの建物だった。
それを見たセレナは溜息をつきながら、ジト目でハンスを見る。
「ハンス様。クエストはダメだって言いましたよね?」
「違うんだ。ひとまず中に入ろう」
ハンスは説明するより実際に見せた方が分かりやすいだろうと、何も言わずに中へ入っていく。
セレナも仕方なく、ハンスに続き、ギルドの扉をくぐった。
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