後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞

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第3話【目標】

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 セシルは自然に手元に戻った槍をしっかりと両手で握ると、再びスキルの【三段突き】を使う。
 さっきよりも速く重い連撃がオーガを襲う!

 今度は明らかなダメージを与えたけれど、オーガは構わず上に掲げた棍棒を力の限り振り下ろす。
 しかし既にセシルはバックステップでその場を離れていて、棍棒は地面を叩きつけるだけだった。

 前屈みになったおかげで届くようになったオーガの顔めがけ、強力な一突き。
 目が潰され、怒り狂ったオーガはひたすらに棍棒を振り回す。

 大振りの攻撃を難なく避け、セシルは懐深くに入り込む。
 そしてがら空きの心臓目掛けて槍を突く。

 それがクリティカルヒットとなり、オーガは倒れた。

「ふぅ……なんだかよく分からないけど、逆に助けられちゃったな。ありがとう」
「いいえ。大したことはしてないもの。いくら強化薬の効果があったとはいえ、そのレベルでオーガをソロ狩り出来るなんてびっくりだわ」

「俺はセシル。このゲームは始めたばかりなんだ。でも君も凄いな。見たところ、小学生? なんか装備もキラキラしてるし。ゲームとしては先輩なのかな?」
「小学生!? あ、このアバターのせいか。あははは。違うよ。ノームはね、これで成人なんだよ。私は大学三年生だし。って言うか、ゲームなんだから見た目と中身は関係ないよね」

「え!? 年上!?」
「え?」

 何故かセシルは額に手を当てて、その場でうずくまってしまった。

 何これ、年上だったらなんだっていうの?
 ちょっと失礼じゃない?

「年上で悪うございましたね。あー、そんなこと言われるなら助けなきゃ良かった」
「あ、ごめんごめん。そういう意味じゃなくて……じゃないです。えっと、敬語使った方がいいですよね?」

 ふてくされる私に、セシルは慌てた様子で弁明してきた。
 顔はいかついドラゴニュートなのに、まるでうちで飼い始めた子犬みたいでなんか可愛いと思ってしまう。

「え? いやいや。いいよ。敬語なんて。さっきも言ったけどゲームなんだし年齢関係ないよ。暴言はありえないけど、話しやすい話し方でいいよ」
「ありがとうございます……じゃなかった、ありがとう。えっと、あ、名前は頭の上に出るんだっけ……って、レベル75!?」

「あー、うん。ちょっと色々あってねー」
「いや、なんでカンストがこんな所にいるの。あ、ということは助けるとかじゃなくて、そもそも必要なかったのかー」

 セシルはまた額に手を当ててため息をつく。
 この仕草は癖なのかな?

「ううん。助かったよ。私は【薬師】だから、一人じゃ戦闘ほとんど役に立たないし。それに、さっきイベントでもらった復活薬、わざわざ使ってくれたでしょ? 私を助けるために。正直、かっこよかったよ」
「あははは……なんか、照れるな。それにしても、なんでこんな所に居るの?」

 私は一瞬迷ったけれど、思い切ってユースケに今までされたことを洗いざらい話すことにした。
 それを黙って頷きながら聞いてくれたセシルは、全てを話し終わったあと怒りの声を上げた。

「何それ! ありえない!! それって全部サラさんのおかげだろ!? それなのに追放するなんて! とんだクズ野郎だ! むしろ離れて良かったよ!」
「ごめんごめん。セシルを怒らせるつもりはなかったんだ。でも最後まで聞いてくれてありがとう。少し気持ちが軽くなったよ」

 実際セシルに話し終えると、モヤモヤしていたのが減っていた。
 あまり人に悩みを打ち明けることがなかったから、こういうことが出来るのが素敵な事だと改めて実感する。

 セシルはまた手を額に当てて何かを考えている。
 それにしても今日会ったばかり、しかもゲームという仮想空間の中で知り合った私に、ここまで感情を見せてくれるのは素直に嬉しい。

 こんな人と一緒にゲームをやっていたら、もっと楽しかっただろうか。
 そんなことをぼんやり考えていたら、突然肩に手を置かれ、意識を目の前のセシルに戻される。

「サラさん。考えたんだけど、俺と一緒にクランを作らないかな? それでそのクソ野郎よりいいランクになれば、見返してやれるよ」
「え……え? どういうこと?」

「攻城戦で一位を獲るってのが、そいつの目標なんでしょ? だったら俺らでそれを達成してやろうよ。俺頑張るからさ。ダメかな?」
「えーっと……ダメ……じゃないかも?」

 こうして私は、本名も相手の姿かたちも知らない、分かっているのは年下だけという相手と共に、攻城戦で一位を獲るという目標を決めたのだった。
 捨てる神あれば拾う神あり、と言うけれど、これが落ち込んでいた私を拾ってくれたセシルとの出会いだった。



~その頃ユースケたちは~

「それで、今日の攻城戦のための薬が予定数、入りそうにないと?」
「あ、ああ! そうなんだ。悪いな。リディア」

 ユースケに話しかけているのはクランのサブマスターであるリディア。
 クランの運営や攻城戦の戦略など、頭を使うことは全てこのリディアが担当していた。

 リディアの職業は【大魔導】。
 広範囲攻撃魔法に特化した職業だ。

 アバターは魔法職に特性の高いエルフの女性で、蠱惑こわく的な顔立ちと妖艶ようえんな肢体は、本人曰く本物をベースにしているとか。

「まぁ。むしろ今までが異常だったとも言えますから。お抱えの【薬師】が二三人居ても難しい量でしたからね。ただ、そうなると明日の攻城戦は少し厳しいかもしれませんね」
「そんなことはないさ! ほら、今ランク一位のクランから一人移籍してくれたの、知ってるだろ?」

 ユースケは予定通りの薬を用意できなかったことに焦りながらも、内心はなんとかなると本気で思い込んでいた。
 このゲームを始めてから、今までずっとサラの薬の恩恵を受けていたので、感覚が麻痺していたのだ。

「そう言えば、やっとあの使幼馴染を脱退させてくれたんですね。あれは本当に目障りでしたから」
「ああ! まったく。ちょっと現実の知り合いだからって甘やかし過ぎたな! もう大丈夫だ。あいつとはきれいさっぱり関係を切ったから」

 ユースケはクランで自分の立場を優勢に保つために、サラのことは秘密にしていた。
 わざわざレベルの低い装備に見える装備アバターを着させ、レベルは非公開にさせた。

 さらに毎回サラが無償で提供する薬は、ユースケが個人の資産で買ったことにしていた。
 実際には買っていないし買う必要もなかったから、ユースケは最高級の薬の値段を知らなかったし舐めていたのだ。

(あんなに馬鹿みたいに高いなんて知らなかった……サラを手放したのは間違いだったか?)

 今更そんなことに気づいてももう遅い。
 既にサラの気持ちはユースケから完全に離れていたし、セシルとのクラン設立に向けて持ち前のやり込み気質を存分に発揮させようとしていたのだから。

 結果的に攻城戦は惨敗だった。
 クランのメンバーも今までの潤沢な薬の供給に甘えて、自己鍛錬をいつからか適当にやっていたからだ。

 薬が切れた途端に戦線は一気に崩れ、壊されると負けが確定するコアを壊されてしまった。
 今まで負けたことはあっても、コアを壊されての負けは初めてだった。

 ユースケはその結果に地団駄を踏む。

「くそっ! 何やってんだお前ら! 今日は中盤から全然ダメだったぞ!!」
「そんなこと言ってもさ。マスター。今日は薬が随分少なかったじゃない。ま、来週は元通りになるんでしょ? そしたら余裕っしょ」

 クランのメンバーの一人は、薬の供給が少なかったのが今回だけだと高を括り軽口を叩く。
 その言葉がユースケをさらに苛立たせた。

「うるさい!! 薬の力に頼るようなやつは今すぐここを出ていけ!! 向上心のないやつなんかこのクランにいらない!!」

 ユースケの叫び声が、クラン専用スペースに響き渡った。
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