後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞

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第34話【総戦力戦】

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「うん! だいぶこの薬を作るのも慣れてきたね! これなら少し余裕がもてそう!」

 前回のクランメンバーの狩りのおかげで、素材も潤沢に溜まり、作る回数も増えた。
 そのためスキルの効果により、効率よく薬を生産することができるようになってきた。

 さらにセシルたちの好意によりクランの専用スペースに設置されている【調合部屋】の効果も、それに拍車をかける。
 これで少しだけ自分の趣味、まだ作ったことの無い薬を探す時間が出来た。

「簡単なやつでも毒薬系は後回しにしちゃってるからなぁ。なんか素材余ってるので色々遊んでみるかな」

 私は鼻歌を歌いながらイベントリを見渡す。
 その中の【プラーの実】と【アシッドスライムの粘液】、その他にいくつかの素材を選ぶ。

 【プラーの実】の説明文には『熟した実は様々な食材に使われる』とだけ書かれているけれど、実際に持つとまだ青いのが分かる。
 薬に使う場合には【猿酒】と混ぜたりするのだけれど、今回は毒薬の素材として検討してみる。

「えーっと、粉砕した方がいいかなぁ」

 実を選んだ後、粉砕コマンドを選択する。
 さらに色々な素材を適当に処理し、混ぜ合わせたあと、最後に【アシッドスライムの粘液】を加えた。

 すると初めて見る毒薬【ブルーアシッド】というのが出来上がった。
 効果は――『神経を麻痺させ動けなくする。獣系、亜人系に追加ダメージ』なかなか使えそうだ。

 作った実績のおかげで、他の素材でもこの薬を作れるものがはっきりと表示されるようになった。
 調べてみると他の植物系素材でも、結構な種類のものから作れるようだ。

「まぁ、効率化は今度だね。今日は一つ新しいのが出来たから良しとしよう」

 そろそろ攻城戦が始まる時間だ。
 私は【調合部屋】から、みんなの待機する中央の部屋へと移動を始める。

 攻城戦を勝ち進んでいるおかげでクランのレベルは順調に上がり、それに合わせてクランギラも貯まり始めた。
 初めの頃は何も無かった専用スペースも、今では色々なものが設置されている。

「やぁ。サラさん。もう調合の方はいいの?」
「うん。今日の分は十分すぎるほど作ったよ。それと、今日はその他に新しい薬を作ったんだ!」

「へぇ! おめでとう。どんな薬?」
「えーっと、麻痺を与える薬だね。多分獣系と亜人系にしか効かないけど、ダメージも与えられるみたい」

 セシルはこうやっていつも話に乗ってくれるからありがたい。
 私が新薬の説明をする時は、いつもドッグスマイルで最後まで話を聞いてくれる。

 現実では他人が私の話なんかを楽しんでくれるかどうか、いつも不安にあるけれど、セシルを始め他のメンバーもそういう気負いをしないのが嬉しい。
 さらに、ここで人と話すことに慣れたおかげか、現実でも少しだけ人と話すことが怖くなくなった。

「それじゃあ、そろそろ向かおうか。これに勝てば、とうとうS級。そこからはさすがに今よりメンバーを増やさないと無理だろうけど」
「うん! 凄いよね。今まで負け無しだもん。みんな凄すぎる!」

 喜ぶ私にセシルも含め周りからため息が漏れる。
 何か変なことを言っただろうか。

「はぁ……サラは本当に自分のことを分かってないというか……まぁ、そこがいい所なんだけどね」
「まったくさ! サラちゃんは自分の凄さをもっと分かった方がいいよ! この負け無しはサラちゃんのおかげさ!」

「ええ。サラさんはとてもいい人ですが、【薬師】の最高峰にご自身がいることをもう少し自覚した方が良いかもしれませんね」
「と、言うことだけど。サラさん。なんか異論はあるかな?」

 前から居たメンバーが口々に声を出す。
 ギルバートたちも苦笑いしながら、みんなの言葉に頷いて賛同を示していた。

「え? どういうこと?」

 いまいち分からず、呆けた声を上げてしまう。
 その言葉にもう一度みんなは大きくため息を吐いた。

「えーっとね? 今居るのはまだ10人だけど、そのメンバー全員に、複数の、というか全ステータス強化するだけの強化薬を用意出来るクランってどれ位あると思う?」
「え? えーっと、沢山?」

「はぁ……分かってないなぁ。多分ここくらいだよ。カインが言ってたろ? 自分のいた【理想郷】ですら無理だって」
「あ、そういえば言ってたね?」

 前のクランでは40人以上の強化薬を毎回作っていたから、感覚が麻痺しているのだろうか。
 あの時は狩りなどはしなかったから、今とは時間の使い方が違うけれど。

 それにあの時は、せいぜい一人につき一個や二個だった。
 ユースケだけは多かったけれど。

「しかもさ、使う薬の効果は二倍。こんなにアドバンテージがあるんだから、そりゃあ勝てるさ」
「あ、そうか」

 もう普通になってしまったからうっかりしていたけれど、普通の人は自分で薬を使うから、【薬師】の持つスキル【薬の知識】の効果を得られないのだった。

「ということで、説明終わり。じゃあ、そろそろ向かおうか」
「はーい!」

 セシルの合図に元気に返事をする。
 それを見て、みんなくすりと笑っていた。



「それじゃあ、いつものようにね」
「うん。分かった。みんな、よろしくね!」

 いつも通りにコアに触れ、身体に宿す。
 何度も繰り返すけれど、この瞬間はすごく幻想的で好きだ。

「さぁ。向かおう!」

 セシルの合図に私たちは広間を後にし、相手の拠点へ向かうために足を進めた。

「おかしいね。さっきから誰とも会わないし、ポイントも増えてない。こっちの拠点にまだ入ってないのかな?」

 カインが視界の端に表示されるこちらと相手クランのポイントを見て首を傾げる。
 確かにどちらのクランもポイントはゼロのままだ。

「あっちもこっちと同じ戦法かもしれないね。今頃全員で移動しているのかも」
「あ、なるほど」

 そう言いながら私たちは自分たちの拠点を抜け、拠点同士の間にある広場に辿り着いた。
 そして、予想が外れていたことを理解する。

「おいおい。パッと見て、全員いるんじゃないの? 多分50人近くはいるでしょ」

 カインがそう言いながら見ているものを私も見つめる。
 そこには広場を埋め尽くすように相手クランのメンバーたちが、綺麗な陣形を成して待ち構えていた。

殲滅せんめつ戦の戦略か。やっかいだな……」
「どういうこと?」

 カインに聞くと、どうやら全戦力を開始当初から広場に集結させる方法らしい。
 そこから動くことなく、広場に現れた相手をひたすらに打ち倒していく戦略だとか。

 大抵はコアを守る者と、相手の拠点に攻めいる者で戦力が分断されるため、数の有利に立てる。

 コアを置き去りにした、攻撃特化の戦略だとか。
 もし隙間を縫って相手に自分の拠点に攻め込まれてしまうと、かなり不利になってしまう戦略でもあるらしい。

「おやぁ。これはこれは。てっきり捨てられてもう辞めてたと思ったら、こんな所で出会うとはね。全く、あの男といい、もう二度と見たくもないと思ってたのに」
「え!? リディアさん!?」

 明らかに私に向かって話している、妖艶な女性のエルフアバターをしたプレイヤーと目線が合う。
 そこには、以前居たクランのサブマスター、リディアが立っていた。
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