後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞

文字の大きさ
37 / 72

第37話【魔竜】

しおりを挟む
 相手は元S級ランカーを多数擁し、勝つためには自らの犠牲を厭わない戦略すら行う多人数。
 一方こちらは二人だけで、しかもそのうち一人は生産職。

 この絶望とも言える状況を覆す方法があると言って、いったい誰が信じるだろうか。
 それなのに、『勝てるかもしれない』と言った私を見つめ返すセシルの目は、希望に溢れていた。

「何か凄いものを見つけたんだね。サラさん。教えて。どんな作戦があるのかを。俺に何ができるかを」
「うん。ありがとう。セシルのおかげで絶対勝てる。私はそう信じてる。今できたばかりの薬なんだけどね――」

 私はセシルに【神への冒涜】の効果を説明した。
 それを聞いたセシルは驚きの表情を見せる。

「説明文だけだと、具体的な効果は分からないけれど。魔神になれるってことは、あのレアボス、ディアボロスと同じくらいに強くなれるってことかも」
「それは凄いけど……それならサラさんが使えばいいんじゃないかな? そうすれば、サラさんも戦えるし」

 セシルの提案に私は首を横に振る。
 私では使えない、それは使う前からわかり切っていた。

「このゲームの売りを忘れたの? どんなにステータスが高くても、それを操作するプレイヤーのプレイヤースキルが無ければどうしようもないでしょ? 戦闘職じゃない私がそんなステータスを持っても、扱いきれないよ」

 私の説明にセシルは頷く。
 プレイヤースキルが高い低レベルが、プレイヤースキルの低い高レベルを圧倒できる。それがこのゲームの売りだ。

「分かったよ。サラさん。どうなるか分からないから、安全なところに居てね」
「うん。分かった。じゃあ、使うね」

 そうして私は作り上げた薬、【神への冒涜】をスキル【ポーションスリング】でセシルに投げようとした。
 ところが――。

「え? 嘘!? どうしよう。このアイテムはこの場所では使えないって……」
「まさか……そんな制限のあるアイテムがあるなんて聞いたことないけど」

 私は途方に暮れてしまう。
 もしかしたら攻城戦には使えない制限のあるアイテムなのだろうか。

 そうだとしたら、せっかく作ったこの薬も意味をなさない。
 せっかく見出した希望の光を失い、私は泣きそうになってしまう。

「しょうがないよ。でも、新しい薬が調合できたから良かったじゃない。今回は負けてもさ。次、どうすればいいかみんなで考えて。そう考えたら悪いものでもないでしょう?」
「うん……そうだね! ごめん、ありがとう」

「よーし。時間いっぱい逃げるのも嫌だし、こうなったら二人で玉砕しようか? それもいい思い出でしょ?」
「あはは。そうだね。実は私、まだ倒されるってことを経験したことないから。今日が初めてになるのかな」

 私はセシルの言葉で笑顔を戻す。
 セシルも私にドッグスマイルを返す。

「それじゃあ、広場に戻ろうか。きっと、相手も退屈してるよ。最後に大暴れしてやろう!」
「うん!」

 逃げ込んだ拠点から、再びリディアたちが待つ広場に戻る。
 予想通り、リディアたちは態勢を崩すことなく、広場に陣取っていた。

「おや。てっきり時間まで逃げ隠れると思っていたけど、さっさと殺されに来てくれたのかい。嬉しいねぇ。時間の無駄は好きじゃないんだ」
「リディアさん! 今回は負けることになるかもしれませんが、次やるときは、絶対に負けませんから!」

 そう言って、私は毒薬を使ってセシルの援護をしようと、【ポーションスリング】を使うアイテム選択画面を開く。
 すると先ほどと変わっていることが一つだけあることに気付くことができた。

「セシル!! ここなら使える!!」

 先ほどは灰色になっていたハート型の薬が、今は他の薬同様にはっきりと表示されていたのだ。
 詳しい説明をする暇などないから、私はそうだけ伝えると、隣にいるセシルに向かってその薬を投げ付けた。

 薬が当たった瞬間、思いもよらない変化がセシルに生じた。
 私だけじゃなく、相手の誰もが、その様子を驚いた表情でただ眺めていた。

 セシルのアバターはドラゴニュート、竜人と呼ばれる見た目をしている。
 竜と言っても他の亜人アバター同様、その大きさは現実に見かける人のサイズを逸脱しない。

 しかし、今のセシルは、まさにゲームに出てくるドラゴンというべき姿をしていた。
 背中からは大きな翼が生え、その身体は小さな家ほどになった。

 大きく裂けた口には鋭い牙が無数生え揃っていて、身体を覆う鱗も大きく厚さを持ったものに変わっていた。
 そしてその体躯は漆黒に染まっている。

「サラさん! 離れて!!」

 いつも聞いていたセシルと同じ声が聞こえ、我にかえる。
 私は慌てて、魔竜と化したセシルの背後へと走り出す。

「なんだこれは!? 召喚獣? そんなアップデートなどなかったはずだ! ……ええい! 何をぼーっと見ている! 何かは分からないが明らかな敵だ! 倒せ!!」

 リディアが仲間のメンバーたちにゲキを飛ばす。
 その一声でメンバーたちもようやく動き出した。

 リディアが言う召喚獣というのは、強力な力を持つモンスターを召喚するという、多くのゲームで見られるシステムだけれど、自分で言った通り、このゲームには実装されていない。
 この前のアップデート後に実装された、自分を魔神と化すというこの薬を使うのは、恐らくこのゲーム内で私が初めてだろう。

 突如現れた魔竜を倒そうと、相手のメンバーたちが群がってくる。
 それに向かってセシルは口から漆黒のブレスを吹き付け一掃した。

 ドラゴニュートにのみ使用可能な特殊スキル【ブレス】。
 それをセシルが使ったのだろうということは分かった。

 しかし強力な切り札と言われる【ブレス】も、通常ならばさすがに相手を一撃でほうむることなどできはしない。
 それなのにセシルの攻撃を受けた相手のプレイヤーは、そのほとんどが地に伏せた。

「ばかなっ!? この広範囲でしかも一撃で倒れるほどの高火力だとっ!? 馬鹿げている!! なんなんだこいつは!!」

 目の前の惨状に、リディアが狂ったような声を上げる。
 確かにあの新エリアのレアボス、ディアボロスの攻撃ですらこんな火力は無いはずだ。

 そこで私は想像していたことが正しかったと確信を持つ。
 私は自ら作りあげた【神への冒涜】を自分のスキル【ポーションスリング】でセシルに使った。

 ならば、私の職業【薬師】のパッシブスキル【薬の知識】が適用されていてもおかしくない。
 使った薬の効果を二倍にするというスキルの効果は、この薬にも及んだのだろう。

 どういう計算になっているか分からないけれど、おそらくこの薬の効果は、使用した者のステータスを、一時的にディアボロスレベルまで跳ねあげるというもの。
 見た目が魔竜なのは、もしかしたらアバター毎に異なる見た目が用意されているのかもしれない。

 そのステータスを上げる効果が、もし二倍になったら?

 ディアボロスですら私たちクランの全員で戦って、やっと勝てたのだ。
 その強さは、ここにいるパーティ全員を圧倒できるほどになるだろう。

 恐ろしい見た目をしたセシルは一瞬だけ私の方に顔を向ける。
 私が見たのは、いつも通りのドッグスマイルだった。
しおりを挟む
感想 132

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

処理中です...