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第38話【提案】
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それからの流れはそんなに長いものではなかった。
圧倒的な力を示すセシルは相手プレイヤーたちをなぎ倒していく。
薬の時間の効果が分からない以上、余裕を見せるわけにもいかない。
セシルもそれが分かっているようで、効率的に倒せる相手から順に倒していった。
「ありえない! なんなのこの強さは! サラ! あなた何をしたと言うの!? ちょっと前まで、ただのお荷物だったはず……そんな装備を身に付けられるレベルではなかったはずよ!!」
「ごめんね。リディアさん。あれはユースケに言われてみんなを騙すために振りをしていただけなの」
「なんですって!? まさか……今までの、あのクランで配られていた薬は……」
「そう。私が幼馴染みの言いなりになって、一人で作ってたものよ。誰にも知られることなくね。今思うと、ほんと馬鹿みたい」
私の言葉にリディアは目を見開いた。
そして叫び出す。
「そんな馬鹿なこと! あの男、どれだけ馬鹿だと言うの!? こんな凄いプレイヤーを隠すなんて! この力を私がきちんと知っていれば!! あのクランがトップに立つのなんて容易かったはずよ!!」
「うん。私も彼は馬鹿だと思う。あの時は気付かなかったけどね。このクランはそれを気付かせてくれた」
私がリディアと話している間にも、セシルによって次々と相手プレイヤーは地に伏せていく。
すでに獲得したポイントは、相手を大きく上回り、私が倒されない限り負けることはなくなった。
「そうよ……今からでも遅くない……一緒に手を組みましょう? あなたの薬の生産能力と、私の戦略を練る力、これが合わさればずっと君臨し続ける【理想郷】だって敵ではないわ」
リディアが突然そんなことを提案してきた。
まるで素晴らしいことだとばかりに、目は爛々と輝き、声にも熱がこもる。
「あなたのクランが大事だと言うなら、いいわ。少し癪だけど私がこのクランを抜けて、入ってあげても良い。人数が少ないみたいだけれど、任せなさい。最適な人員を私が選んであげる。あなたは私の言った通りに薬を生産すれば良いのよ。どう? 素敵でしょ?」
すでにこの場に立っているのは、私とリディア、そして元の姿に戻ったセシルだけだった。
どうやらセシルは私と話を続けるリディアに攻撃をして良いかどうか迷ってしまったらしい。
「ごめんね。リディアさん。私ね。気付いたの。私、あなたのこと嫌いよ」
「……なんですって?」
「だって、リディアさんの話、少しも楽しそうじゃないもの。楽しいのはあなただけ。結局、あなたもユースケと同じだと思うの」
「私を……この私をあんな馬鹿男と一緒にするなんて……」
私の言葉を聞いて、セシルが一歩前に出て、リディアと私の間に入る。
それに気付いたリディアはいつでも動けるようにと身構えた。
「話の結論はついたみたいだな。どうする? このまま時間切れまで待つか。それとも俺と戦って負けるか」
「何を馬鹿なことを……この私が、お荷物なんかに負けるわけないでしょう!!」
リディアはそう叫ぶと、詠唱を始めた。
恐らく狙いは私だ。
コアのことは恐らくリディアは知らないみたいだけれど、私が倒れればコアが破壊され、私たちの負けになってしまう。
そうなれば、せっかく逆転を決めたことが全て無駄になる。
「セシル! お願い!!」
「ああ!」
リディアまでまだ距離がある。
このままではセシルが辿り着く前にリディアの詠唱が終わってしまうだろう。
広範囲攻撃を得意とする【大魔導】のリディアの攻撃から逃れるの難しい。
そして、もともと戦闘職ではない私が、相手の最大火力の魔法を受けて耐え切ることができるかどうかは分からない。
勝つためには詠唱が終わる前に、リディアを倒すしかない。
私は迷わず攻撃力と敏捷を上げるための【魔薬】をセシルに使う。
セシルは出来るだけの速度でリディアに走るが、間に合わないと判断したらしい。
途中で立ち止まり、【竜騎士】の最大火力かつ遠距離攻撃である【青龍破】を放つ。
先ほどの距離では簡単に避けられてしまう可能性があったけれど、あそこまで近付けば避けることはほぼ不可能だ。
だけど、リディアは私を睨み付けるのに見つめ、勝ち誇ったような表情を見せた。
「私が先だったな! 食らえ! ……がっ!?」
放たれるはずだった魔法は、発生することなく終わる。
私が咄嗟に投げた相手に沈黙の状態異常を付与する毒薬【人魚姫の呪い】が当たったためだ。
怒りの表情を浮かべるリディアを、セシルの放った青い光を放つ龍の形をした攻撃が襲った。
攻撃力を飛躍的に高める強化薬の効果を乗せた一撃は、後衛職であるリディアの装甲を見事に打ち破り、リディアはその場で倒れた。
相手クランのメンバー全員を倒したことにより、私たちの勝利が決まる。
私とセシルは、強制移動が開始された他に誰も居ない広場で、ハイタッチを交わした。
圧倒的な力を示すセシルは相手プレイヤーたちをなぎ倒していく。
薬の時間の効果が分からない以上、余裕を見せるわけにもいかない。
セシルもそれが分かっているようで、効率的に倒せる相手から順に倒していった。
「ありえない! なんなのこの強さは! サラ! あなた何をしたと言うの!? ちょっと前まで、ただのお荷物だったはず……そんな装備を身に付けられるレベルではなかったはずよ!!」
「ごめんね。リディアさん。あれはユースケに言われてみんなを騙すために振りをしていただけなの」
「なんですって!? まさか……今までの、あのクランで配られていた薬は……」
「そう。私が幼馴染みの言いなりになって、一人で作ってたものよ。誰にも知られることなくね。今思うと、ほんと馬鹿みたい」
私の言葉にリディアは目を見開いた。
そして叫び出す。
「そんな馬鹿なこと! あの男、どれだけ馬鹿だと言うの!? こんな凄いプレイヤーを隠すなんて! この力を私がきちんと知っていれば!! あのクランがトップに立つのなんて容易かったはずよ!!」
「うん。私も彼は馬鹿だと思う。あの時は気付かなかったけどね。このクランはそれを気付かせてくれた」
私がリディアと話している間にも、セシルによって次々と相手プレイヤーは地に伏せていく。
すでに獲得したポイントは、相手を大きく上回り、私が倒されない限り負けることはなくなった。
「そうよ……今からでも遅くない……一緒に手を組みましょう? あなたの薬の生産能力と、私の戦略を練る力、これが合わさればずっと君臨し続ける【理想郷】だって敵ではないわ」
リディアが突然そんなことを提案してきた。
まるで素晴らしいことだとばかりに、目は爛々と輝き、声にも熱がこもる。
「あなたのクランが大事だと言うなら、いいわ。少し癪だけど私がこのクランを抜けて、入ってあげても良い。人数が少ないみたいだけれど、任せなさい。最適な人員を私が選んであげる。あなたは私の言った通りに薬を生産すれば良いのよ。どう? 素敵でしょ?」
すでにこの場に立っているのは、私とリディア、そして元の姿に戻ったセシルだけだった。
どうやらセシルは私と話を続けるリディアに攻撃をして良いかどうか迷ってしまったらしい。
「ごめんね。リディアさん。私ね。気付いたの。私、あなたのこと嫌いよ」
「……なんですって?」
「だって、リディアさんの話、少しも楽しそうじゃないもの。楽しいのはあなただけ。結局、あなたもユースケと同じだと思うの」
「私を……この私をあんな馬鹿男と一緒にするなんて……」
私の言葉を聞いて、セシルが一歩前に出て、リディアと私の間に入る。
それに気付いたリディアはいつでも動けるようにと身構えた。
「話の結論はついたみたいだな。どうする? このまま時間切れまで待つか。それとも俺と戦って負けるか」
「何を馬鹿なことを……この私が、お荷物なんかに負けるわけないでしょう!!」
リディアはそう叫ぶと、詠唱を始めた。
恐らく狙いは私だ。
コアのことは恐らくリディアは知らないみたいだけれど、私が倒れればコアが破壊され、私たちの負けになってしまう。
そうなれば、せっかく逆転を決めたことが全て無駄になる。
「セシル! お願い!!」
「ああ!」
リディアまでまだ距離がある。
このままではセシルが辿り着く前にリディアの詠唱が終わってしまうだろう。
広範囲攻撃を得意とする【大魔導】のリディアの攻撃から逃れるの難しい。
そして、もともと戦闘職ではない私が、相手の最大火力の魔法を受けて耐え切ることができるかどうかは分からない。
勝つためには詠唱が終わる前に、リディアを倒すしかない。
私は迷わず攻撃力と敏捷を上げるための【魔薬】をセシルに使う。
セシルは出来るだけの速度でリディアに走るが、間に合わないと判断したらしい。
途中で立ち止まり、【竜騎士】の最大火力かつ遠距離攻撃である【青龍破】を放つ。
先ほどの距離では簡単に避けられてしまう可能性があったけれど、あそこまで近付けば避けることはほぼ不可能だ。
だけど、リディアは私を睨み付けるのに見つめ、勝ち誇ったような表情を見せた。
「私が先だったな! 食らえ! ……がっ!?」
放たれるはずだった魔法は、発生することなく終わる。
私が咄嗟に投げた相手に沈黙の状態異常を付与する毒薬【人魚姫の呪い】が当たったためだ。
怒りの表情を浮かべるリディアを、セシルの放った青い光を放つ龍の形をした攻撃が襲った。
攻撃力を飛躍的に高める強化薬の効果を乗せた一撃は、後衛職であるリディアの装甲を見事に打ち破り、リディアはその場で倒れた。
相手クランのメンバー全員を倒したことにより、私たちの勝利が決まる。
私とセシルは、強制移動が開始された他に誰も居ない広場で、ハイタッチを交わした。
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