並行世界の殺人~十二人の「私」と連続殺人事件~

yamatsuka

文字の大きさ
10 / 18
第四章

芹川美穂②

しおりを挟む
 私は声の方を振り返った。さっきまで見ていた「寅」の「私」の家の緑の扉が開いて、そこに女の人が立っていた。

 カールさせた髪を後ろでとめ、ポニーテールにし、前髪がくるんと白いおでこに垂れていた。上はピンクのブラウス、下は白のズボンを履いている。

 卵型の顔で、血色のいい唇に、垂れた目。歳は私と同じくらいに見える。

 見るからに可愛らしく、男受けのよさそうな女性で、とても私とは話が合いそうにない。

 でも、そんな彼女が私を見つけ、ベージュのパンプスを激しく鳴らしながら、一目散にこっちまで駆けてきた。

「千歳!」

 彼女は信じられない、といった面持ちで私を見て言った。

「あの、ごめんなさい。私は千歳じゃないんです」

 彼女の表情に、私は申し訳なくなって慌てて言った。

「え、じゃあ……」

 私は再び、自分が何者なのか示す必要に駆られた。

「私、千歳の姉で、音羽……梓と言います。妹が殺されたと知って、ちょうどさっき、遠くから急いで駆けつけたところなんです。あの、失礼かもしれないですけど、あなたは?」

 私はどうにか嘘を絞り出し、彼女を見つめ、彼女が手紙の中で「寅」の「私」が言っていた人たちの中の誰なのか考えていた。彼女はそれを聞くとハッとして、ばつの悪そうに髪を触り、頭を下げた。

「ああ、お姉さんだったんですね。ごめんなさい! 本当にそっくりだから間違えてしまって。はじめまして。あの、私、千歳の友人の芹川美穂といいます」

 芹川は申し訳なさそうにそう答え、慌てて頭を下げた。

「……気にしないでください。私たちはその、双子ですから」

 私は気まずさから彼女から目をそらした。

 とっさに口から出てしまった嘘だけど、取り消すわけにもいかず、このまま突き通すしかないと思った。

「双子なんですか? どうりで……。でも、千歳にお姉さんがいるなんて、初めて知りました」

 芹川は納得した表情をしながらも、私の顔をまじまじと見つめる。

「……千歳とはもう長い間会っていませんから。時々連絡を取ることはあったのですけど、ちょっと色々あって最近はあまり連絡を取れていなかったんです。私のことは、もしかしたら、あまり話す必要がないと思っていたのかもしれませんね」

 私はちらと芹川の方を見ながらあいまいに答えた。彼女は驚きを隠すように口元に手を当て、私から目を離すことなく、真剣に話を聞いている。

 芹川は気まずそうに、私の横で佇んでいる警官の方を一瞥してから、

「お姉さんはここでなにをしていたんですか? なにか、もめていたようでしたけど……」

 と遠慮がちに聞いた。

 私は、警官の様子を伺いながら、どう答えたらいいのかすこし迷った。

「もめていたわけじゃないんです。ただ、ちょっと、私が質問にうまく答えられなかったので……署に同行してほしいと言われて」

 これ以上嘘をつくわけにもいかず、私は正直に話すことにした。

「そうだったんですか? 警察ってそこまでするんですか?」

 芹川はその警官に問い詰めるように迫った。

「誤解ですよ!」

 警官は抗議した。

「私のせいなんです」

 私が割り込んだ。

「なにも考えないまま、ここに来てしまって。誤解をさせたのは私のほうなんです」

 これは本当だったので、私もすんなり言えた。

 芹川も素直に信じてくれたようだった。彼女は、同情の眼差しを私に向け、

「かわいそうに」

 と言った。
 それから、

「彼女はこのあと私と用事があるので、署には行けません」

 警官にそう告げた。

 この明らかな嘘に警官は見るからに不審がっていたが、結局は彼女の勢いに押されたようだった。

 おかげで、私はその危機を脱することができた。

「いいんですか?」

 警官と「私」の家から離れると、私は彼女に言った。

「もちろん。あんな無理矢理言うことをきかされることなんてないですよ」

 その言葉は私にはちょっと耳が痛かった。

「本当にありがとうございます。こんなことをしていただいて」

 私が頭を下げて感謝の意を伝えると、

「そんな、いいんですよ。当然のことです」

 と笑顔で言った。

 だが、そのあと彼女の表情が暗くなった。

「……どうしました?」

 不安になって私が聞くと、彼女は申し訳なさそうに頭を振った。

「ごめんなさい。私、また、勘違いしてしまいました」

 芹川は言葉を途切れさせながらもそれだけ言ってぺこりと頭を下げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

処理中です...