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第1話 夢とは違う出会い
しおりを挟む人は誰しも、運命のいたずらを夢に見る。
けれど私は――夢を見るたび、それが現実になる。
小さい頃から、ときどき“先の出来事をなぞる夢”を見るのだ。
曖昧な予感ではない。
光景として、感情として、すでに確定した未来。
そしてそれは、たいていの場合、見たいものではなかった。
今も馬車に揺られながら、その夢の続きを見ていた。
そこでは私は、笑っている。
伯爵家の広間。
泣きじゃくる少女を、見下ろしながら。
ひ弱で、何も言い返せない義姉。
その前に立つ義妹の私は、冷たく言い放つ。
「お姉さまなんて、いなくていいのよ」
――そう言うしかなかった。
言葉を選ぶ余裕なんて、もう残っていなかったから。
(……これで、いい)
そう思わなければ、私は進めなかった。
これは犠牲。
目的のために、必要な切り捨てだと。
「……っ」
息を呑み、目を覚ます。
馬車は、すでに止まっていた。
窓の外には、ロジポツ伯爵邸。
夢の冷たさが、まだ胸の奥に張り付いている。
両親が先に降りた。
ロジポツ伯爵――女好きで知られた、今日から義理の父。
そして、その後妻であるジフネ夫人。
美しく、私の母でもある女性。
私はこれまで“愛人の連れ子”として生きてきた。
与えられるのは、いつだって仮の居場所だけ。
だけど、今日からは違う。
伯爵家の一員。
二度と、捨てられない立場になる。
(この家で、必要なものを手に入れる)
覚悟を決め、馬車を降りた瞬間。
磨き抜かれた玄関扉が、爆音を立てて開いた。
「うわあああああああ!! 妹なのだぁぁぁ!!」
巨大な人影が飛びかかってきた。
次の瞬間、世界が上下反転する。
「え、ちょっ――きゃあ!!」
視界が宙に浮き、お姫様抱っこ。
腕が岩のように硬い。
筋肉。
二メートル近い筋肉の塊が、満面の笑みで私を見下ろしていた。
日焼けした肌、短く切った髪。
貴族らしさは、どこにもない。
「かわいい!! 聞いてたよりずっとかわいいのだ、オデット!!」
「は、離しなさい!!」
暴れても、びくともしない。
「私、ジャイアナ! あなたの義姉なのだ! よろしくね、かわいい妹ちゃん!」
(……これが、伯爵家の長女?)
想定していた“おとなしい義姉”とは、あまりにも違う。
「あっ、ごめん! 嬉しくって、つい!」
宝物を扱うように、丁寧に床へ降ろされる。
息を整え、問い返した。
「……あなた、本当に伯爵家の長女なの?」
「うん!」
即答だった。
「貴族らしくないのはね、ちょっと、変な夢を見てね。
きっと、私は別の人間だったのだ」
「……夢?どういうことかしら?」
「そう! 筋トレしてたら急に思い出したのだ。なんかこう……ひたすら槍を投げてた感じ!」
理解が追いつかない。
「な、なんなの? この娘……」
母が呆然と呟く。
「いつものことだ……」
義父が頭を抱える。
ジャイアナは、そんな視線など気にも留めず、にかっと笑った。
「新しい母さまもよろしくなのだー!」
純粋。
疑いを知らない。
力があって、まっすぐ。
――私は、内心で計算する。
(生きるために)
「ふふ、お姉さま。お会いできてうれしいですわ」
ああ、よかった。
これは、都合がいい。
(……使えそう……味方として)
ジャイアナが、ぱっと私の手を取った。
「すっごくかわいい妹ができて、本当に嬉しいのだ!」
触れた瞬間、胸の奥がざわりとした。
夢の中で、私が切り捨てたはずの感覚だった。
――これは、違う。
夢で見た“弱い義姉”とは、あまりにも違う。
(……おかしい)
私の夢は、これまで外れたことがない。
未来はいつも、“そうなる”形で現れてきた。
なのに。
「オデット、これからいっぱい仲良くするのだー!」
無邪気な笑顔。
疑いのない瞳。
――これは、予定された未来じゃない。
胸の奥で、何かが静かに噛み合わなくなっていく。
私が信じてきた未来。
私が選び取ったはずの答え。
そのどれとも、
目の前のこの光景は、合わなかった。
(……ありえない)
――夢とは違う何かが、現実に起きている。
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