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第2話 あざとい戦略
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伯爵家に来て三日目。
私は持ち前の愛らしさと“あざとさ”を武器に、順調に使用人たちの心を掴んでいた。
「おはよう、リリア。今日もお勤めご苦労さま」
「オデットお嬢さま、私などに礼だなんて……恐れ多いです」
そう言いつつ、うれしさを隠せていない侍女のリリア。
「ふふっ、恐縮させちゃってごめんなさい……。私、平民として育ったせいで……これから少しずつ学んでいくから、大目に見てね?」
首をかしげてにこりと微笑むと、リリアは感涙しそうな顔になっていた。
(この調子。この家は、下から固めていくのが正解よ。磨き抜いたあざとさで、いずれ伯爵家の権力を握ってみせるわ)
どの使用人にも礼を欠かさず、懐に入るよう心がける。
些細な気遣いひとつで屋敷の雰囲気が変わり、私を見る目が好意的になる。
(そうなれば伯爵家の内部事情にも自然と詳しくなれる。権力を握るには、まず足元から)
――しかし、ただ一人だけ“計算外”がいる。
「キンッ! キンッ! ファイッ!」
廊下を歩くと、外庭からいつもの奇声が聞こえた。
義姉ジャイアナの筋トレ声だ。
(……見つかる前に通り過ぎよう……)
そっと腰をかがめ、窓辺から離れようとした、そのとき。
「おおおーい! オデットーー! おっはよーー!」
「わあああっ!」
反射的に変な声が出た。
ジャイアナが満面の笑顔で窓に駆け寄ってくる。
「大丈夫かぁ? ごめん、嬉しくって急に声かけちゃったのだ!」
ジャイアナはダッシュで駆け寄り、窓に身を乗り出す。
大型犬が飼い主を見つけた時の反応そのものだ。
「だ、大丈夫ですわ……ちょっと驚いただけで」
(くっ……脳筋すぎて、計算がまるで効かない……!)
ジャイアナはいつものように筋肉理論を一通り語り、最後に勢いよく手を掴んできた。
「これからベンチプレス50回やってくるのだ! またあとでなのだ!!」
「あ、はい……お気をつけて」
そのとき、彼女が丸太を“片手で”ひょいと持ち上げ走り去っていく。
(とんでもない力。それに行動が読めなさすぎる。好意的には見えるけど……要注意ね)
◇◇◇
愛人の子から正式に伯爵家の次女となった私は、今後、社交の場に顔を出すことになる。
今日はその“顔見せ”として有力者が開くお茶会に参加していた。
「オデット様って本当に可愛らしいわねえ」
「伯爵家のご令嬢らしくなられて」
「まあ……恐縮ですわ。まだ至らぬところばかりで……」
両手を胸の前で揃え、ほんの少し首をかしげる。
媚びすぎない角度を維持するのがポイントだ。
(――やりすぎず、これくらいの加減で好印象になるのよね)
婦人たちは満足げに頷く。
(やっぱり私、絶好調。順調に味方を増やしていけそうだわ)
お茶会を終え、馬車へ向かう途中。
すれ違った同年代の令嬢二人が、わざと聞こえる声で囁く。
「愛人の子って……どんな気持ちなんでしょうね」
「わたくしなら恥ずかしくて外に出られないわ」
「恥の感覚がないのかもしれなくてよ」
その嘲笑が、鋭く背中を刺した。
私は持ち前の愛らしさと“あざとさ”を武器に、順調に使用人たちの心を掴んでいた。
「おはよう、リリア。今日もお勤めご苦労さま」
「オデットお嬢さま、私などに礼だなんて……恐れ多いです」
そう言いつつ、うれしさを隠せていない侍女のリリア。
「ふふっ、恐縮させちゃってごめんなさい……。私、平民として育ったせいで……これから少しずつ学んでいくから、大目に見てね?」
首をかしげてにこりと微笑むと、リリアは感涙しそうな顔になっていた。
(この調子。この家は、下から固めていくのが正解よ。磨き抜いたあざとさで、いずれ伯爵家の権力を握ってみせるわ)
どの使用人にも礼を欠かさず、懐に入るよう心がける。
些細な気遣いひとつで屋敷の雰囲気が変わり、私を見る目が好意的になる。
(そうなれば伯爵家の内部事情にも自然と詳しくなれる。権力を握るには、まず足元から)
――しかし、ただ一人だけ“計算外”がいる。
「キンッ! キンッ! ファイッ!」
廊下を歩くと、外庭からいつもの奇声が聞こえた。
義姉ジャイアナの筋トレ声だ。
(……見つかる前に通り過ぎよう……)
そっと腰をかがめ、窓辺から離れようとした、そのとき。
「おおおーい! オデットーー! おっはよーー!」
「わあああっ!」
反射的に変な声が出た。
ジャイアナが満面の笑顔で窓に駆け寄ってくる。
「大丈夫かぁ? ごめん、嬉しくって急に声かけちゃったのだ!」
ジャイアナはダッシュで駆け寄り、窓に身を乗り出す。
大型犬が飼い主を見つけた時の反応そのものだ。
「だ、大丈夫ですわ……ちょっと驚いただけで」
(くっ……脳筋すぎて、計算がまるで効かない……!)
ジャイアナはいつものように筋肉理論を一通り語り、最後に勢いよく手を掴んできた。
「これからベンチプレス50回やってくるのだ! またあとでなのだ!!」
「あ、はい……お気をつけて」
そのとき、彼女が丸太を“片手で”ひょいと持ち上げ走り去っていく。
(とんでもない力。それに行動が読めなさすぎる。好意的には見えるけど……要注意ね)
◇◇◇
愛人の子から正式に伯爵家の次女となった私は、今後、社交の場に顔を出すことになる。
今日はその“顔見せ”として有力者が開くお茶会に参加していた。
「オデット様って本当に可愛らしいわねえ」
「伯爵家のご令嬢らしくなられて」
「まあ……恐縮ですわ。まだ至らぬところばかりで……」
両手を胸の前で揃え、ほんの少し首をかしげる。
媚びすぎない角度を維持するのがポイントだ。
(――やりすぎず、これくらいの加減で好印象になるのよね)
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(やっぱり私、絶好調。順調に味方を増やしていけそうだわ)
お茶会を終え、馬車へ向かう途中。
すれ違った同年代の令嬢二人が、わざと聞こえる声で囁く。
「愛人の子って……どんな気持ちなんでしょうね」
「わたくしなら恥ずかしくて外に出られないわ」
「恥の感覚がないのかもしれなくてよ」
その嘲笑が、鋭く背中を刺した。
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