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第9話 領主代理
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出入口は、すでに衛兵団が塞いでいた。
「なんだ!? 衛兵どもが来るわけが……」
「……今月分は納めたはずだろう」
昼間から酒をあおっていたガラの悪い男たちは立ち上がることもできず、ただこちらを見ている。
衛兵の人数だけではない。
先頭に立つ二メートルの戦士ジャイアナ。
領主代理として着飾った私。
「……あいつ、ジャイアナだ。武装してるの初めて見た」
「隣の……とんでもねえ美人。誰だ?」
ヒソヒソ話が聞こえる。
外面を整えた効果は、たしかに出ている。
(一番は、私自身に……だけどね)
ヤクザ者の集団を前にするのすら、私には初めての経験。
逃げ腰になりかねない心を奮い立たせるのに、交渉用に整えた服装が助けてくれる。
それに――
「オデット、大丈夫なのだ。私がついてるのだ」
何より、隣に義姉がいてくれる。
恐れる理由は、もうなかった。
(声が震えないよう、呼吸を整える)
私は一歩、前に出た。
命令書を示し、告げる。
「領主代理のオデット・ロジポツです。こちらのグループに、恐喝および強盗の疑いがあります」
声は、落ち着いている。
怒りも、威圧も、込めない。
男たちの視線が、一斉に集まる。
「今回は、あなたたちが集めていた“場所代”。その流れを確認しに来ただけです。ここで聞き取れない場合、全員を連行します」
私が言い切ると同時に、ジャイアナがハルバードの柄をドンと床についた。
沈黙。
誰も口を開かない。
だが――
私は視線を一人に定めた。
年若い男。
緊張しているのか顔色が悪い。
膝が、微かに震えている。
「……あなた」
名を呼ぶように、穏やかに。
「今なら、話せば軽くなるわ」
ぴくり、と肩が跳ねた。
「でも、このまま黙っていたら」
私は背後の衛兵にちらりと視線を向ける。
「詰所へ連行。しばらく、家に帰れないわよ」
沈黙が、重くのしかかる。
「……言ったら、殺される……」
若い男が、耐えきれず口を開く。
「――俺が帰らないと母ちゃんが!
言われた通りに集めてただけだ!」
一気に、空気が崩れた。
「誰に?」
「……屋敷の人間だ」
周囲が、ざわつく。
「名前は?」
「し、知らねぇ! でも、合言葉があって……帳簿も、渡してた!」
(……十分)
私は静かに頷いた。
「いつ? どこで?」
「毎月二回! 裏道の倉庫だ!」
次の瞬間。
「黙れっ!」
別の、バーテンダーの男が立ち上がり、腰の刃に手を伸ばした。
◇◇◇
刃が抜かれるより、ほんの一瞬だけ早く。
金属音が、床に響いた。
巨大な影が、一歩前に出る。
ジャイアナだった。
完全武装の巨体が、男の前に立ちはだかる。
視線が、ぶつかる。
「……それ以上、動くな」
低い声。
男は、完全にすくみ上がった。
次の瞬間、ジャイアナは迷いなく踏み込み、男を床に叩き伏せた。
一撃。
酒場が、静まり返る。
「これ以上、騒ぐなら」
ハルバートの柄を、床に軽く打ちつける。
「全員、相手するのだ」
誰も、もう動けなかった。
(……ありがとう、お姉さま)
私は心の中でだけ、そう呟いた。
◇◇◇
男たちは、次々と拘束された。
帳簿は押収。
証言は記録。
酒場の外では、いつの間にか人だかりができている。
恐れと、期待が入り混じった視線。
ジャイアナが、小声で聞いてくる。
「オデット、これで終わりなのだ?」
私は、首を振った。
「いいえ」
街のざわめきを、背に感じながら。
「これは、金の流れの一部」
(本命は――)
◇◇◇
伯爵家。
シラス執事は、報告書を握り潰しそうになっていた。
酒場の摘発。
証言。
帳簿の押収。
(……早すぎる)
まだ、数週間は様子を見るはずだった。
街に出るとは、想定していなかった。
何より――
(……偶然にしては、手順が揃いすぎている)
額に、嫌な汗が滲む。
「……オデット」
初めて、その名を呟いた。
盤面は、確実に狂っている。
そして、気づいたときには、もう遅い――
「なんだ!? 衛兵どもが来るわけが……」
「……今月分は納めたはずだろう」
昼間から酒をあおっていたガラの悪い男たちは立ち上がることもできず、ただこちらを見ている。
衛兵の人数だけではない。
先頭に立つ二メートルの戦士ジャイアナ。
領主代理として着飾った私。
「……あいつ、ジャイアナだ。武装してるの初めて見た」
「隣の……とんでもねえ美人。誰だ?」
ヒソヒソ話が聞こえる。
外面を整えた効果は、たしかに出ている。
(一番は、私自身に……だけどね)
ヤクザ者の集団を前にするのすら、私には初めての経験。
逃げ腰になりかねない心を奮い立たせるのに、交渉用に整えた服装が助けてくれる。
それに――
「オデット、大丈夫なのだ。私がついてるのだ」
何より、隣に義姉がいてくれる。
恐れる理由は、もうなかった。
(声が震えないよう、呼吸を整える)
私は一歩、前に出た。
命令書を示し、告げる。
「領主代理のオデット・ロジポツです。こちらのグループに、恐喝および強盗の疑いがあります」
声は、落ち着いている。
怒りも、威圧も、込めない。
男たちの視線が、一斉に集まる。
「今回は、あなたたちが集めていた“場所代”。その流れを確認しに来ただけです。ここで聞き取れない場合、全員を連行します」
私が言い切ると同時に、ジャイアナがハルバードの柄をドンと床についた。
沈黙。
誰も口を開かない。
だが――
私は視線を一人に定めた。
年若い男。
緊張しているのか顔色が悪い。
膝が、微かに震えている。
「……あなた」
名を呼ぶように、穏やかに。
「今なら、話せば軽くなるわ」
ぴくり、と肩が跳ねた。
「でも、このまま黙っていたら」
私は背後の衛兵にちらりと視線を向ける。
「詰所へ連行。しばらく、家に帰れないわよ」
沈黙が、重くのしかかる。
「……言ったら、殺される……」
若い男が、耐えきれず口を開く。
「――俺が帰らないと母ちゃんが!
言われた通りに集めてただけだ!」
一気に、空気が崩れた。
「誰に?」
「……屋敷の人間だ」
周囲が、ざわつく。
「名前は?」
「し、知らねぇ! でも、合言葉があって……帳簿も、渡してた!」
(……十分)
私は静かに頷いた。
「いつ? どこで?」
「毎月二回! 裏道の倉庫だ!」
次の瞬間。
「黙れっ!」
別の、バーテンダーの男が立ち上がり、腰の刃に手を伸ばした。
◇◇◇
刃が抜かれるより、ほんの一瞬だけ早く。
金属音が、床に響いた。
巨大な影が、一歩前に出る。
ジャイアナだった。
完全武装の巨体が、男の前に立ちはだかる。
視線が、ぶつかる。
「……それ以上、動くな」
低い声。
男は、完全にすくみ上がった。
次の瞬間、ジャイアナは迷いなく踏み込み、男を床に叩き伏せた。
一撃。
酒場が、静まり返る。
「これ以上、騒ぐなら」
ハルバートの柄を、床に軽く打ちつける。
「全員、相手するのだ」
誰も、もう動けなかった。
(……ありがとう、お姉さま)
私は心の中でだけ、そう呟いた。
◇◇◇
男たちは、次々と拘束された。
帳簿は押収。
証言は記録。
酒場の外では、いつの間にか人だかりができている。
恐れと、期待が入り混じった視線。
ジャイアナが、小声で聞いてくる。
「オデット、これで終わりなのだ?」
私は、首を振った。
「いいえ」
街のざわめきを、背に感じながら。
「これは、金の流れの一部」
(本命は――)
◇◇◇
伯爵家。
シラス執事は、報告書を握り潰しそうになっていた。
酒場の摘発。
証言。
帳簿の押収。
(……早すぎる)
まだ、数週間は様子を見るはずだった。
街に出るとは、想定していなかった。
何より――
(……偶然にしては、手順が揃いすぎている)
額に、嫌な汗が滲む。
「……オデット」
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盤面は、確実に狂っている。
そして、気づいたときには、もう遅い――
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