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1章 兄の婚約者が様変わりしたようです
3話 夜這いと秘密の手記①
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それから一週間、早まった婚儀に向けて手配や調整に奔走した。
夜、私室で葡萄酒片手にやっとひと息吐く。
(公爵を葬送したのが、遠い昔のようです)
エドゥアルド・ミロシュは禁忌の魔法遣い――その噂を、公爵本人は否定しなかった。結果、そうまでしてフセスラウ統治の片翼となる気概だと、婚儀に懐疑的な者を抑え込んでのけた。
怪我も順調に回復し、客間にシメオンを呼んだりしていたとか。
兄は心強そうだったが、わたしは割り切れない。
(禁忌を犯したのはわたしのため、と言っておられましたが……)
公爵は一度もわたしを呼び寄せなかった。明日、ミロシュ領へ帰るとのことだ。説明の日を改めて設けてくれるのではなかったのか。
蘇生直後の彼らしからぬ台詞、表情、行動の数々を思い返す。
(やはり禁忌魔法の後遺症で、錯乱されていたのでしょう)
心身とも回復するとともに、わたしへの態度ももとに戻ったに違いない。
あの甘い記憶を得られただけで充分――と自らを宥めた、ほんの三十分後。
「……っ」
わたしはなぜ、公爵に組み敷かれているのだろう?
蝋燭も消して寝台に入っていた。首にくすぐったさを覚えて目を開ければ、月明かりに縁取られた公爵と目が合った。くすぐったいのは彼の黒髪のせいだったのだ。
刺繍寝具の上から腰を跨がれ、身動きが取れない。状況を理解するや心音が高まる。
「か、閣下。部屋をお間違えですよ」
「『夜這いにきたのだ』」
夜這い? フセスラウ一の美貌を誇る兄ではなく、わたしを?
(政略結婚を前に気の迷いが……いや。揺り戻しですね)
そんな戯曲みたいな展開はあり得ない。勘違いしかけた浅ましさに頬を赤らめつつ、労わりを込めて返す。
「蘇生魔法の後遺症が癒えていないのですね」
「『違う。わからせてやる』」
違う? よく見ると、わたしを見下ろす紅眼には光がない。
蝋人形のような表情を訝しむうち、骨ばった手が伸びてきて、わたしの寝間着の腰紐を解く。片手なのに淀みない。
「閣下……! おやめください」
直に肌を撫でられた。たとえ片想い相手でも、過ぎた接触に戸惑う。公爵の腕を押し留めようとするけれど、うまく力が入らない。
――「わからせてやる」とは、魔法の呪文なのか?
説明してもらう前に、説明してほしいことが増えていく。
「ん、っ」
愕然とする間に、唇を重ねられた。
生まれてはじめての口づけ。十年間想い続けた人の体温に、とろけそうになる。やわらかく、熱く、吐息が混ざり合う。
「は、ぁ……だ、め」
こうするのを夢見なかったと言ったら嘘になるが、実現してはならない。
公爵は兄の婚約者で、国の行く末を左右する婚儀を控える身。
精一杯の抵抗として顔を逸らす。ぷはっ、と呼吸を取り戻す。
「これ、以上は、どうか……」
掠れ声で懇願した。しかし公爵はわたしの気も知らず、身体のあちこちに唇を降らせてくる。上衣の胸もとがたわむのも構わず、舌先で臍のくぼみをつつく。
「ひぁ、」
痺れのようなものが背筋を駆け抜け、悲鳴が漏れた。未知の感覚で怖い。
ついに下着に指を掛けられる。
「あっ、許されません……っ」
無垢な身体を公爵に暴かれてしまう。受容限界を越え、涙がこぼれる。
途端、公爵がのけ反った。
「くっ――強制力め。さすがBL世界だ」
夜、私室で葡萄酒片手にやっとひと息吐く。
(公爵を葬送したのが、遠い昔のようです)
エドゥアルド・ミロシュは禁忌の魔法遣い――その噂を、公爵本人は否定しなかった。結果、そうまでしてフセスラウ統治の片翼となる気概だと、婚儀に懐疑的な者を抑え込んでのけた。
怪我も順調に回復し、客間にシメオンを呼んだりしていたとか。
兄は心強そうだったが、わたしは割り切れない。
(禁忌を犯したのはわたしのため、と言っておられましたが……)
公爵は一度もわたしを呼び寄せなかった。明日、ミロシュ領へ帰るとのことだ。説明の日を改めて設けてくれるのではなかったのか。
蘇生直後の彼らしからぬ台詞、表情、行動の数々を思い返す。
(やはり禁忌魔法の後遺症で、錯乱されていたのでしょう)
心身とも回復するとともに、わたしへの態度ももとに戻ったに違いない。
あの甘い記憶を得られただけで充分――と自らを宥めた、ほんの三十分後。
「……っ」
わたしはなぜ、公爵に組み敷かれているのだろう?
蝋燭も消して寝台に入っていた。首にくすぐったさを覚えて目を開ければ、月明かりに縁取られた公爵と目が合った。くすぐったいのは彼の黒髪のせいだったのだ。
刺繍寝具の上から腰を跨がれ、身動きが取れない。状況を理解するや心音が高まる。
「か、閣下。部屋をお間違えですよ」
「『夜這いにきたのだ』」
夜這い? フセスラウ一の美貌を誇る兄ではなく、わたしを?
(政略結婚を前に気の迷いが……いや。揺り戻しですね)
そんな戯曲みたいな展開はあり得ない。勘違いしかけた浅ましさに頬を赤らめつつ、労わりを込めて返す。
「蘇生魔法の後遺症が癒えていないのですね」
「『違う。わからせてやる』」
違う? よく見ると、わたしを見下ろす紅眼には光がない。
蝋人形のような表情を訝しむうち、骨ばった手が伸びてきて、わたしの寝間着の腰紐を解く。片手なのに淀みない。
「閣下……! おやめください」
直に肌を撫でられた。たとえ片想い相手でも、過ぎた接触に戸惑う。公爵の腕を押し留めようとするけれど、うまく力が入らない。
――「わからせてやる」とは、魔法の呪文なのか?
説明してもらう前に、説明してほしいことが増えていく。
「ん、っ」
愕然とする間に、唇を重ねられた。
生まれてはじめての口づけ。十年間想い続けた人の体温に、とろけそうになる。やわらかく、熱く、吐息が混ざり合う。
「は、ぁ……だ、め」
こうするのを夢見なかったと言ったら嘘になるが、実現してはならない。
公爵は兄の婚約者で、国の行く末を左右する婚儀を控える身。
精一杯の抵抗として顔を逸らす。ぷはっ、と呼吸を取り戻す。
「これ、以上は、どうか……」
掠れ声で懇願した。しかし公爵はわたしの気も知らず、身体のあちこちに唇を降らせてくる。上衣の胸もとがたわむのも構わず、舌先で臍のくぼみをつつく。
「ひぁ、」
痺れのようなものが背筋を駆け抜け、悲鳴が漏れた。未知の感覚で怖い。
ついに下着に指を掛けられる。
「あっ、許されません……っ」
無垢な身体を公爵に暴かれてしまう。受容限界を越え、涙がこぼれる。
途端、公爵がのけ反った。
「くっ――強制力め。さすがBL世界だ」
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