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7章 これが魔法遣いたちの望みです
23話 十年分の戯曲の上演②
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薄水色の織物の書皮、見慣れた文字。間違いない。
「ど、どうやって手に入れたのですっ」
ニコの一時幽閉に当たり私物は処分されたと聞き、回収は諦めたのに。
「書簡の証拠を押さえたとき一緒に見つけた。前半は君が書いた……夢恋愛戯曲だったんだね」
ソーマが悪びれずに答える。「公爵」本人でなくとも、夢想の物語を読まれるのは恥ずかしい。わたしは顔からつま先まで赤くなった。
「返して、ください、」
戯曲に飛びつくも、腕の長さの違いで届かない。
「どうして? 『私にこうされたいとずっと望んでいたのだろう?』」
情感を込めて実演され、両手で顔を覆う。
「いっそ殺してください……」
「だめだよ。十三回と二周やり直してやっと君の命を守れたのに。この戯曲、実質童貞にはすごく助かる。と言うか」
愉しげだったソーマの声が、ふっと曇った。
「設定にはなかったけど、十年間エドゥアルド公爵に片想いしてたんだね……」
「今はソーマを愛しています」
見当違いに身を引く気配を察知し、間髪入れず告げる。
ソーマが目を瞬かせた。
「このくだりは二度目なのです。わたしは、わたしの死亡ふらぐを壊し、国の安寧に向けて共に闘う中で、ソーマに惹かれました」
戯曲の台詞を口にする彼に、どきどきしなかったと言ったら嘘になる。でも。
「以前の公爵に戻ってほしいとは思いません。ソーマと出会えて、ソーマに想われて、わたしはわたしになれたのです」
「……そっか。僕もユーリィのおかげで僕に戻れた、いや、誇れる僕に変われた」
ソーマが照れ隠しにか、戯曲を開く。
「じゃあ、『私の』――『僕の服を脱がせて』」
台詞をソーマの口調に変えて演じ始めた。
これ以降は、ニコの上書きではない。
興奮した眼差しに促され、ソーマの上衣を肩から落とし、襯衣の釦を外す。
痩せているが貧相ではない、惚れ惚れする上半身が現れた。
(ソーマの証……)
胸もとに残る、滑落事故の傷痕をなぞる。指先に未知の感覚――情欲が灯る。
「『君もぜんぶ僕に見せて』」
ソーマは言うそばから、わたしの上衣の腰紐をゆるめる。襯衣を床に放ったところで、待ちきれずといったふうに抱き締めてくる。
「ソー、マ」
肌が直接触れ合い、呼吸が震えた。服越しの抱擁も心地いいけれど、その比でない。熱く、すべらかでいて吸いつくよう。夢想でなく身をもって理解する。
「気持ちいい、ですね……」
「ふふ、少しこうしてようか」
ソーマはわたしを抱えて寝台の真ん中に移った。本当に痩躯の割に力がある。
「夜、あんまり眠れなかった?」
目ざとく隈を撫でられる。わたしは首を横に振りかけて、やはり頷くことにした。甘やかされたい。
「……はい」
「『今夜も眠らせないけど』。『どこもかしこも可愛い、僕のユーリィ』」
さらに巻き毛に指を絡ませたり、耳たぶを甘噛みしたり、小動物みたいにじゃれつかれる。くすくす笑って受け止める。
もちろん、ただのじゃれ合いとは思っていない。ソーマの手は少しずつ移動して、わたしの下半身へと伸びてきた。
「『もうこんなにして』……。反応、してないね」
戯曲を再現できず、ソーマがしゅんと萎れる。気持ちよくないわけではないと、説明する。
「これまで反応したことはありません」
「自分で触っても?」
「さ、触ったりしません」
「けど、戯曲には『口づけのみでもうこんなにして、どれだけ期待していた? 身体は正直だ』って書いてある」
「おやめください……とにかく、ないのです」
「それじゃ下着を汚しちゃうでしょ」
「いいえ?」
わたしが正直に答えるほど、ソーマは疑う声色になる。
「なるほど。受けには必要ないのか。となると、もしかしてこっちは」
しかし何か閃いたようだ。恒例の謎の単語に小首を傾げるわたしの肩越しに、下衣の中を覗く。
「ひゃ、」
順序を飛ばして秘部を見られると思わず、身体を捩る。
後腔から、くちゅりと甘い水音がした。
「わ、わたしの身体に何が起こったのでしょう!?」
「へえ、『悪い子だ』。『どうしてほしいか言ってごらん』」
はじめての事態に焦るわたしと対照的に、ソーマは嬉々として台詞を再開する。
(わたしは悪い子……そうかもしれません。第二王子なのに王位継承権を手に入れ、今はソーマと……)
後腔と同じく勝手に口に溢れてくる唾液を、こくりと飲み干す。
「ソーマのものを、口で愛撫させてほしいです」
わたしは思いきって、ソーマの下腹部に手を這わせた。
ずっとわたしがしてもらうばかりだったから、少しでも気持ちよくしてあげたい。
「口、で?」
ソーマが目を見開く。さすがにはしたなかっただろうか。
「天使みたいに清楚な子が実はえっちなことたくさん考えてるって、至高だ……」
と思いきや、ソーマは感激しきりだ。
「『僕もそうしてほしいと思ってた』。ええと、こうかな?」
ソーマもわたしと同じ欲を持っていたのは、嬉しい。ただ頁を見ながらなのは……。
「よそ見しないでください」
「なるべくリクエストに応えたくて」
ソーマは謝らず、わたしを脚の間に横たえさせる。
下衣をずらすと、どう収めていたのかと不思議なくらい立派な性器がお目見えした。わたしのものとは形も色もまったく違う。ソーマの匂いが濃くなって、くらくらする。
「無理はしなくていいからね」
わたしはソーマが言い終わる前に怒張を咥えた。ソーマのものなら抵抗はない。
(お、おき……ぃ)
すでに角度を変えていたのがさらにふくらみ、口いっぱいになる。舌を尖らせて先端をつつくと、とろりと甘い体液が滲み出てきた。頬を窄ませて吸い上げる。
「は……、ぅん」
無理どころか愉しくて仕方ない。見せつけるように舌を這わせる。
「ん、ユーリィこそ、上手過ぎない? 自分で触ってもないのに、いいところ、わかるの」
ソーマがわたしの巻き毛をきゅっと握り締めた。
自分でも驚く。夢想の戯曲ですら細かな描写はできていないのに。
「知らないのに、わかります……なぜでしょう」
「やっぱり『受け』だからかな」
「ど、どうやって手に入れたのですっ」
ニコの一時幽閉に当たり私物は処分されたと聞き、回収は諦めたのに。
「書簡の証拠を押さえたとき一緒に見つけた。前半は君が書いた……夢恋愛戯曲だったんだね」
ソーマが悪びれずに答える。「公爵」本人でなくとも、夢想の物語を読まれるのは恥ずかしい。わたしは顔からつま先まで赤くなった。
「返して、ください、」
戯曲に飛びつくも、腕の長さの違いで届かない。
「どうして? 『私にこうされたいとずっと望んでいたのだろう?』」
情感を込めて実演され、両手で顔を覆う。
「いっそ殺してください……」
「だめだよ。十三回と二周やり直してやっと君の命を守れたのに。この戯曲、実質童貞にはすごく助かる。と言うか」
愉しげだったソーマの声が、ふっと曇った。
「設定にはなかったけど、十年間エドゥアルド公爵に片想いしてたんだね……」
「今はソーマを愛しています」
見当違いに身を引く気配を察知し、間髪入れず告げる。
ソーマが目を瞬かせた。
「このくだりは二度目なのです。わたしは、わたしの死亡ふらぐを壊し、国の安寧に向けて共に闘う中で、ソーマに惹かれました」
戯曲の台詞を口にする彼に、どきどきしなかったと言ったら嘘になる。でも。
「以前の公爵に戻ってほしいとは思いません。ソーマと出会えて、ソーマに想われて、わたしはわたしになれたのです」
「……そっか。僕もユーリィのおかげで僕に戻れた、いや、誇れる僕に変われた」
ソーマが照れ隠しにか、戯曲を開く。
「じゃあ、『私の』――『僕の服を脱がせて』」
台詞をソーマの口調に変えて演じ始めた。
これ以降は、ニコの上書きではない。
興奮した眼差しに促され、ソーマの上衣を肩から落とし、襯衣の釦を外す。
痩せているが貧相ではない、惚れ惚れする上半身が現れた。
(ソーマの証……)
胸もとに残る、滑落事故の傷痕をなぞる。指先に未知の感覚――情欲が灯る。
「『君もぜんぶ僕に見せて』」
ソーマは言うそばから、わたしの上衣の腰紐をゆるめる。襯衣を床に放ったところで、待ちきれずといったふうに抱き締めてくる。
「ソー、マ」
肌が直接触れ合い、呼吸が震えた。服越しの抱擁も心地いいけれど、その比でない。熱く、すべらかでいて吸いつくよう。夢想でなく身をもって理解する。
「気持ちいい、ですね……」
「ふふ、少しこうしてようか」
ソーマはわたしを抱えて寝台の真ん中に移った。本当に痩躯の割に力がある。
「夜、あんまり眠れなかった?」
目ざとく隈を撫でられる。わたしは首を横に振りかけて、やはり頷くことにした。甘やかされたい。
「……はい」
「『今夜も眠らせないけど』。『どこもかしこも可愛い、僕のユーリィ』」
さらに巻き毛に指を絡ませたり、耳たぶを甘噛みしたり、小動物みたいにじゃれつかれる。くすくす笑って受け止める。
もちろん、ただのじゃれ合いとは思っていない。ソーマの手は少しずつ移動して、わたしの下半身へと伸びてきた。
「『もうこんなにして』……。反応、してないね」
戯曲を再現できず、ソーマがしゅんと萎れる。気持ちよくないわけではないと、説明する。
「これまで反応したことはありません」
「自分で触っても?」
「さ、触ったりしません」
「けど、戯曲には『口づけのみでもうこんなにして、どれだけ期待していた? 身体は正直だ』って書いてある」
「おやめください……とにかく、ないのです」
「それじゃ下着を汚しちゃうでしょ」
「いいえ?」
わたしが正直に答えるほど、ソーマは疑う声色になる。
「なるほど。受けには必要ないのか。となると、もしかしてこっちは」
しかし何か閃いたようだ。恒例の謎の単語に小首を傾げるわたしの肩越しに、下衣の中を覗く。
「ひゃ、」
順序を飛ばして秘部を見られると思わず、身体を捩る。
後腔から、くちゅりと甘い水音がした。
「わ、わたしの身体に何が起こったのでしょう!?」
「へえ、『悪い子だ』。『どうしてほしいか言ってごらん』」
はじめての事態に焦るわたしと対照的に、ソーマは嬉々として台詞を再開する。
(わたしは悪い子……そうかもしれません。第二王子なのに王位継承権を手に入れ、今はソーマと……)
後腔と同じく勝手に口に溢れてくる唾液を、こくりと飲み干す。
「ソーマのものを、口で愛撫させてほしいです」
わたしは思いきって、ソーマの下腹部に手を這わせた。
ずっとわたしがしてもらうばかりだったから、少しでも気持ちよくしてあげたい。
「口、で?」
ソーマが目を見開く。さすがにはしたなかっただろうか。
「天使みたいに清楚な子が実はえっちなことたくさん考えてるって、至高だ……」
と思いきや、ソーマは感激しきりだ。
「『僕もそうしてほしいと思ってた』。ええと、こうかな?」
ソーマもわたしと同じ欲を持っていたのは、嬉しい。ただ頁を見ながらなのは……。
「よそ見しないでください」
「なるべくリクエストに応えたくて」
ソーマは謝らず、わたしを脚の間に横たえさせる。
下衣をずらすと、どう収めていたのかと不思議なくらい立派な性器がお目見えした。わたしのものとは形も色もまったく違う。ソーマの匂いが濃くなって、くらくらする。
「無理はしなくていいからね」
わたしはソーマが言い終わる前に怒張を咥えた。ソーマのものなら抵抗はない。
(お、おき……ぃ)
すでに角度を変えていたのがさらにふくらみ、口いっぱいになる。舌を尖らせて先端をつつくと、とろりと甘い体液が滲み出てきた。頬を窄ませて吸い上げる。
「は……、ぅん」
無理どころか愉しくて仕方ない。見せつけるように舌を這わせる。
「ん、ユーリィこそ、上手過ぎない? 自分で触ってもないのに、いいところ、わかるの」
ソーマがわたしの巻き毛をきゅっと握り締めた。
自分でも驚く。夢想の戯曲ですら細かな描写はできていないのに。
「知らないのに、わかります……なぜでしょう」
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