赤い口紅トリック

サッキー(メガネ)

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誘惑とヤキモチと殺人と

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パーティー開始から30分。

今、黒咲さんの演奏によりパーティー会場は和やかな雰囲気に包まれていた。

白「いつ聴いても彼女の演奏は引き込まれますね。…ってちゃんと聴いてますか?如月君。」

如「あぁ、ちゃんと聴いてるよ。」

彼はそう言いながら食事の手を止めない。

僕が知る限り5杯目のワインを飲み終えている。 

恐らく既に酔っている。

白「(どこに行っても彼はブレませんね。)」


?「ねぇ。」

白「はい?」

声をかけられたのでそちらを向くと、スラッとした体型の髪の長い女性が立っていた。

?「あなた、百合花ちゃんの知り合い?」

白「あ、はい。」

?「やっぱり。私は喜多原洋子(きたはらようこ)。喜多原要蔵の娘よ。」

白「(やっぱり?)どうも。黒咲さんの友達の白河圭吾です。あっちでがっついてるのは如月煌太です。」

洋「あなた、百合花ちゃんの彼氏?」

白「…いえ、違いますが。」

洋「じゃあ、あっちの彼?」

そう言って彼女は如月君を指さした。

白「それも違いますね。」

洋「可笑しいわね。彼女、「私の大好きな人が演奏を見に来るんです!」って嬉しそうに喋ってたのに。」

白「(黒咲さん…。)彼女と親しくしていらっしゃるんですね。」

洋「父の紹介で何回か一緒に食事をしたことがあるのよ。」

白「なるほど。」

すると彼女は、急に体を寄せてきた。

洋「ねぇ?良かったら、これから2人で出掛けない?」

白「はい?(この人、酒臭い。)」

洋「なんかこのパーティーつまらないんですもの。ねぇ、良いでしょ?」

洋子さんはそう言ってさらに体を寄せてきた。

僕の腕に彼女の豊満な胸が当たってくる。

大抵な男性なら鼻の下を伸ばすのだろうが、僕はこういう女性が大の苦手だ。

それに、僕は決して顔の良い方ではない。

モテるのはむしろ如月君だ。

一緒に歩いていれば、すべての女性が如月君に見惚れ、彼に声をかける。

それほど彼はイケメンなのだ。

だが生憎、彼は食事とワインに夢中だ。

しかも、彼女は酔っていて最早正常な判断ができない状態のようだ。

僕はとても困り果てていた。


既に黒咲さんの演奏が終わっていることにも気付かずに。



<黒咲side>

演奏が終わった私は、たくさんの人に声をかけられながら、先輩を必死に探していた。

?「百合花君。」

黒「あ、喜多原社長。」

声をかけてきたのは、私をパーティーに誘ってくれた喜多原要蔵さんだった。

隣には、要蔵さんの息子であり、時期社長とも噂されている喜多原将(きたはらまさる)さんがいた。

私は正直、この将さんが苦手だ。

要「素晴らしい演奏だったよ!」

黒「ありがとうございます…。(もう、早く先輩のところに行きたいのに。)」

将「喜多原さん、もし良かったら、一緒にワインでも飲まないかい?3人で。」

要「おお、それは良い。」

黒「あ、すいません。お友達を待たせていますので…。」

要「むぅ。それは仕方ないな。では、また後でと言うことで。」

黒「申し訳ありません…。」


社長たちの誘いをなんとか断った私は、やっと先輩を見つけ出すことができた。

黒「せんぱ…!」

見ると、先輩は洋子さんに言い寄られていた。

黒「…。」

先輩がああいう人が得意ではないことはなんとなく分かっていた。

けど、私の心の中で嫉妬のようなものが渦巻いていた。

黒「(私だってあんなに抱き着いたことないのに!)」

私は近くにあるボトルを手に取り、ワインを1、2杯飲み干した。

お酒は得意じゃないのに。

案の定、すぐに酔いが回ってきた。

黒「(頭がクラクラする。)」

?「黒咲さん。大丈夫かい?」

声をかけてきたのは、清水岳彦(しみずたけひこ)さん。

KITAHARAで専務をやっている人だ。

黒「あ、えっと清水さん。ごめんなさい。大丈夫です。」

清「なんなら、誰か呼んでこようか?」

黒「いえ、本当に、大丈夫です。」

私はそう言ってパーティー会場を後にした。

清水さんは優しい人だ。

けど、今は1人になりたかった。


黒「う~ん。フラフラする…。」

ここは、廊下だろうか。

ちゃんと部屋に迎えているかどうかも分からない。

黒「気持ち悪い…。」

私はその場に座り込んだ。

黒「(ダメ、もう歩けない。)」

だんだん意識が遠退いていく。

?「……さん、……かい?」

黒「(…誰?)」



私はそのまま眠りに落ちた。


<黒咲side end>




白「う~ん。黒咲さんはどこ行ったんでしょうか。」

食事を取り終えて戻ってきた如月君に洋子さんの相手を押し付け、僕は黒咲さんを探してホテル内を歩き回っていた。

携帯に連絡しているのだが、出てくれない。

白「困ったなぁ。」

すると、前から見覚えのある人が歩いてきた。

白「(あの人は、最初の挨拶の時に社長さんの隣にいた人。)…あれ?」

僕は将さんがお姫様だっこをしている女性に見覚えがあった。

白「あの!」

将「ん?誰だい君は?」

白「あ、あなたが今抱えていらっしゃる女性の友人です。」

そう、将さんが抱えている女性は、黒咲さんだった。

将「ああ、そうだったのか。じゃあ申し訳ないんだけど、彼女のこと頼めるかい?」

白「あ、はい。」

僕は将さんから黒咲さんを受け取った。

将「彼女に伝えておいてくれるかい?また楽しもうって。」

白「?はい。」

彼はそう言って去っていった。

白「(どういう意味だったんでしょうか?)」


僕は黒咲さんを近くのソファーに座らせた。

彼女はぐっすりと眠っていた。  

白「(…可愛い。)」
 
 
僕と黒咲さんの出会いは何てことないものだった。

街中でガラの悪い人たちに絡まれていた黒咲さんを、腕を引いて全速力で逃げたことが僕たちの最初だった。

それから話し込むうちに、彼女が同じ高校の後輩だということ。ピアノの天才だということ、そして有名な音楽一家に生まれたのだということを知った。

黒咲さんとはその時からよく話をするようになった。

彼女は他の男性とは普通に話すのだが、僕の前では何か緊張しているよいに見えた。

そして、何かとアプローチをしてくるようになった。

僕も鈍感な方ではないので、彼女が僕に好意を寄せてくれていることにはすぐに気づいた。

けど、それを表に出さないようにしている。

理由は恥ずかしいから。

まぁ、如月君は気づいているようだが。    

白「(バレないかな…。)」

僕はゆっくりと彼女に顔を近づけた。

白「(ん?)」

見ると、彼女の顔は目を閉じたままこわばっていた。

白「…黒咲さん、そのまま寝たふりするなら置いていきますよ?」

黒「…気付いてたんですか?」

白「気付いたのは今さっきです。いつから起きてたんですか?」

黒「先輩の顔が近付いてきたときです。」

白「…。」

黒「…先輩?今キスしてもいいんですよ?」

白「そんな顔真っ赤にして言ってもしませんよ?」

黒「…むー。」


?「キャーーー!」

白、黒「!!」

女性の悲鳴が廊下に響いた。

白「黒咲さん、ここで待っていてくれますか?」

黒「先輩…。」

白「すぐに戻ってきますから。」

黒「…はい。」

僕は黒咲さんに優しく微笑むと、悲鳴の聞こえた方向に走った。

しばらくすると、廊下にへたり込んでいる洋子さんがいた。

白「洋子さん。」

洋「あ、あれ…。」

白「!!」

如「圭吾!!」

将「どうしたんだ!?」

岳「何事だ!?」

他の人も悲鳴を聞いて駆けつけてきた。

如「こ、これは!」

白「…如月君。警察と救急車を呼んでください。」



目の前には、頭から血を流している喜多原要蔵の死体があった。


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