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またしても妹が!
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それからしばらく過ぎたある日。
とくに用事はなかったけれど、ぼくとデビルは茶トラ先生の実験室へ遊びに行っていて、あいかわらず茶トラ先生の「きちんとした科学的な議論」を聞いたり、ばかばかしい昔話を聞いたり、茶トラ先生がかつて教授をやっていた大学の「ばかたれども」の悪口を聞いたりしながら、茶トラ先生はお決まりのフラスコにコーヒー、ぼくはやっぱりビーカーにジュース、そしてデビルは何と、試験管にメロンソーダを入れ、口をとがらせながら根性でそれを飲んでいた。
それでぼくらがわいわいがやがやとやっていたら、突然、タイムエイジマシンのカーテンが開き、これまた突然、妹の亜里沙が11歳の姿で、だぶだぶの服を着て出てきた。
「おやおや亜里沙ちゃんじゃないか」
「茶トラ先生お久しぶりです。それにしてもみなさん、変な入れ物で飲んでらっしゃること」
「最近わしらの間ではやっておるのだ」
「あらそうですか」
「それで、あ~、亜里沙ちゃんはいつの時代から…」
「50年後からです。だけど、タイムとエイジ、まだ連動していたのね。私また子供に戻されちゃった!」
「そうなんだ。しかし50年後というのは、もしかすると時空的に特別の意味があるのかもしれんな。この前もたしか50年後から…」
「だってその50年後は、茶トラ先生の骨を、妹と一緒に庭に埋めたときだもんね。やっぱり時空的に特別な意味があるんじゃ?」
「人聞きの悪いことを言わん。それで、あ~、また何か事件でも起こったのかい?」
「実は、小惑星アポフィスのことなんです」
「アポフィス? あの、地球に何度も接近すると言われておる、たしか直径は300メートル余りの小惑星で、もし地球に衝突すればそれは相当な被害が…、しかし、将来においても衝突の可能性は極めて低いと言われておる」
「そうなんです。だけど実は私が来た時代に、アポフィスに突然、ある小さな小惑星が…、ええとそれは直径が15メートルほどで、しかもそれは茶トラ先生が茶トラ宇宙望遠鏡で発見したもので、『チャトラ』と命名されたのですが…」
「わしが発見し、チャトラと命名? それに茶トラ宇宙望遠…」
「茶トラ先生、未来はいろいろすごいことをやるみたいじゃん。良かったね。で、未来の茶トラ先生が言っていた新しい研究って、きっとこれだったんだね。で、亜里沙、そのチャトラって星がどうなっちゃったの?」
「実は、そのチャトラがアポフィスに衝突するんです」
「え~!」
「そしてその影響でアポフィスの軌道が変わってしまい、そして地球への衝突コースに入ってしまったそうなんです」
「何だって?」
「それで、チャトラとアポフィスの衝突は、私が来た時代で数か月前のことで、そしてアポフィスの地球衝突までは、あと一週間ほどなんです」
「つまりチャトラってのがアポフィスってのに衝突して、それからアポフィスってのが地球に衝突して、かんかんかんって…、これって考えてみると、まるでビリヤードみてえだな」
「ねえねえ、今からでもアポフィスに核攻撃をして破壊すれば?」
「そうだよ。ぶっ壊しちまえば?」
「いやいや、もしそんなことをして、それでも衝突が回避できなければ、大量の放射能が地球へ降り注ぐことになる」
「それに、ええと、私たちがいる未来の地球では、完全に核廃絶が実現していますので…」
「そうだったんだ! 未来ってすごいじゃん!」
「核兵器のことは、世界でいろいろあったけどね。それで実は、むこうの茶トラ先生が、アポフィスに衝突してその軌道を変えてしまったというチャトラについて、それまでの軌道を詳しく調べたのです。何たって自分が見付けて、自分の名前が付いた小惑星ですし。それで、むこうの茶トラ先生の計算では、実は今、チャトラはこの時代の地球にとても接近しているんだそうです。それは、チャトラが約50年の周期で太陽の周りを長円軌道で回っているからで…」
「チョウエンキドウって?」
「それは細長い軌道のことだ。50年周期だと太陽から遠い時は、おそらく土星よりも外を周回するだろう」
「ええ。そして50年ごとに地球の軌道を横切り、そして50年後に未来の茶トラ先生が発見するのだけど、その50年前のちょうど今の時代に、地球にニアミスといってもいいくらいに接近するそうなんです」
「なるほど。すると現在チャトラは、地球にとても接近しているのだな。だが直径わずか15メートルでは、現在の我々の技術では、地球からの発見は極めて困難だろう。サイズが小さすぎるからだ。我々の使える天体望遠鏡では解像力が…」
「それで、向こうの茶トラ先生がチャトラの精密な軌道計算をやり、これがその資料です…」
それから妹はさらにいろいろと説明をして、茶トラ先生に「よろしくお願いします」と言って、ぼくには「勉強するように!」と言ってから、タイムエイジマシンで50年後へと帰っていった。
それから茶トラ先生とぼくらは、その大きさ15メートルという小惑星チャトラをどうするかについて、少しばかり話し合った。
資料を見ながら茶トラ先生は、
「あ~、未来のわしが計算した資料によると、そのチャトラが地球に最接近するのは今から10日後で、そのときの地球からの距離は、約2万キロメートルで…」
「その資料って、すげえ計算ばっかだな。ややこしい数字がいっぱいで、おれ、よくわかんねえや」
「ええと、ややこしい数字はさておいてさあ、で、いったいチャトラをどうするの、茶トラ先生?」
「そのことについては、今からわしが考える」
「いっそのこと、チャトラ、撃ち落としちゃえば」
「そうだよドカンと一発おみまいして木端微塵に…」
「わしの名前の付いたような小惑星に、そのような手荒なまねはしたくない」
「手荒なまねはしたくないって…、あのさぁ、あのラジコン飛行場のトイレで、ぼくが替え玉になったときだよ。あのとき茶トラ先生は、お父さんを後ろから豪快に羽交い絞めにして、クロロなんとかっていう麻酔薬を浸したハンカチをガバっ!って顔にかぶせて眠らせた上に、ずりずりとトイレの個室へ引きずり込んだじゃん。あれは豪快に手荒なまねだったと、ぼくは思うけどな」
「あれはああするよりほかに手はなかったのだ。しかし今回は、そのような手荒なまねは必要ない」
「じゃ、どうするの?」
「方法は、ないわけではない…」
それで、茶トラ先生の十八番が出たところで、その日ぼくらは解散となった。
とくに用事はなかったけれど、ぼくとデビルは茶トラ先生の実験室へ遊びに行っていて、あいかわらず茶トラ先生の「きちんとした科学的な議論」を聞いたり、ばかばかしい昔話を聞いたり、茶トラ先生がかつて教授をやっていた大学の「ばかたれども」の悪口を聞いたりしながら、茶トラ先生はお決まりのフラスコにコーヒー、ぼくはやっぱりビーカーにジュース、そしてデビルは何と、試験管にメロンソーダを入れ、口をとがらせながら根性でそれを飲んでいた。
それでぼくらがわいわいがやがやとやっていたら、突然、タイムエイジマシンのカーテンが開き、これまた突然、妹の亜里沙が11歳の姿で、だぶだぶの服を着て出てきた。
「おやおや亜里沙ちゃんじゃないか」
「茶トラ先生お久しぶりです。それにしてもみなさん、変な入れ物で飲んでらっしゃること」
「最近わしらの間ではやっておるのだ」
「あらそうですか」
「それで、あ~、亜里沙ちゃんはいつの時代から…」
「50年後からです。だけど、タイムとエイジ、まだ連動していたのね。私また子供に戻されちゃった!」
「そうなんだ。しかし50年後というのは、もしかすると時空的に特別の意味があるのかもしれんな。この前もたしか50年後から…」
「だってその50年後は、茶トラ先生の骨を、妹と一緒に庭に埋めたときだもんね。やっぱり時空的に特別な意味があるんじゃ?」
「人聞きの悪いことを言わん。それで、あ~、また何か事件でも起こったのかい?」
「実は、小惑星アポフィスのことなんです」
「アポフィス? あの、地球に何度も接近すると言われておる、たしか直径は300メートル余りの小惑星で、もし地球に衝突すればそれは相当な被害が…、しかし、将来においても衝突の可能性は極めて低いと言われておる」
「そうなんです。だけど実は私が来た時代に、アポフィスに突然、ある小さな小惑星が…、ええとそれは直径が15メートルほどで、しかもそれは茶トラ先生が茶トラ宇宙望遠鏡で発見したもので、『チャトラ』と命名されたのですが…」
「わしが発見し、チャトラと命名? それに茶トラ宇宙望遠…」
「茶トラ先生、未来はいろいろすごいことをやるみたいじゃん。良かったね。で、未来の茶トラ先生が言っていた新しい研究って、きっとこれだったんだね。で、亜里沙、そのチャトラって星がどうなっちゃったの?」
「実は、そのチャトラがアポフィスに衝突するんです」
「え~!」
「そしてその影響でアポフィスの軌道が変わってしまい、そして地球への衝突コースに入ってしまったそうなんです」
「何だって?」
「それで、チャトラとアポフィスの衝突は、私が来た時代で数か月前のことで、そしてアポフィスの地球衝突までは、あと一週間ほどなんです」
「つまりチャトラってのがアポフィスってのに衝突して、それからアポフィスってのが地球に衝突して、かんかんかんって…、これって考えてみると、まるでビリヤードみてえだな」
「ねえねえ、今からでもアポフィスに核攻撃をして破壊すれば?」
「そうだよ。ぶっ壊しちまえば?」
「いやいや、もしそんなことをして、それでも衝突が回避できなければ、大量の放射能が地球へ降り注ぐことになる」
「それに、ええと、私たちがいる未来の地球では、完全に核廃絶が実現していますので…」
「そうだったんだ! 未来ってすごいじゃん!」
「核兵器のことは、世界でいろいろあったけどね。それで実は、むこうの茶トラ先生が、アポフィスに衝突してその軌道を変えてしまったというチャトラについて、それまでの軌道を詳しく調べたのです。何たって自分が見付けて、自分の名前が付いた小惑星ですし。それで、むこうの茶トラ先生の計算では、実は今、チャトラはこの時代の地球にとても接近しているんだそうです。それは、チャトラが約50年の周期で太陽の周りを長円軌道で回っているからで…」
「チョウエンキドウって?」
「それは細長い軌道のことだ。50年周期だと太陽から遠い時は、おそらく土星よりも外を周回するだろう」
「ええ。そして50年ごとに地球の軌道を横切り、そして50年後に未来の茶トラ先生が発見するのだけど、その50年前のちょうど今の時代に、地球にニアミスといってもいいくらいに接近するそうなんです」
「なるほど。すると現在チャトラは、地球にとても接近しているのだな。だが直径わずか15メートルでは、現在の我々の技術では、地球からの発見は極めて困難だろう。サイズが小さすぎるからだ。我々の使える天体望遠鏡では解像力が…」
「それで、向こうの茶トラ先生がチャトラの精密な軌道計算をやり、これがその資料です…」
それから妹はさらにいろいろと説明をして、茶トラ先生に「よろしくお願いします」と言って、ぼくには「勉強するように!」と言ってから、タイムエイジマシンで50年後へと帰っていった。
それから茶トラ先生とぼくらは、その大きさ15メートルという小惑星チャトラをどうするかについて、少しばかり話し合った。
資料を見ながら茶トラ先生は、
「あ~、未来のわしが計算した資料によると、そのチャトラが地球に最接近するのは今から10日後で、そのときの地球からの距離は、約2万キロメートルで…」
「その資料って、すげえ計算ばっかだな。ややこしい数字がいっぱいで、おれ、よくわかんねえや」
「ええと、ややこしい数字はさておいてさあ、で、いったいチャトラをどうするの、茶トラ先生?」
「そのことについては、今からわしが考える」
「いっそのこと、チャトラ、撃ち落としちゃえば」
「そうだよドカンと一発おみまいして木端微塵に…」
「わしの名前の付いたような小惑星に、そのような手荒なまねはしたくない」
「手荒なまねはしたくないって…、あのさぁ、あのラジコン飛行場のトイレで、ぼくが替え玉になったときだよ。あのとき茶トラ先生は、お父さんを後ろから豪快に羽交い絞めにして、クロロなんとかっていう麻酔薬を浸したハンカチをガバっ!って顔にかぶせて眠らせた上に、ずりずりとトイレの個室へ引きずり込んだじゃん。あれは豪快に手荒なまねだったと、ぼくは思うけどな」
「あれはああするよりほかに手はなかったのだ。しかし今回は、そのような手荒なまねは必要ない」
「じゃ、どうするの?」
「方法は、ないわけではない…」
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