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私を捨ててまで王子が妃にしたかった平民女は…彼の理想とは、全然違っていたようです。

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 最近王子が、お城から姿を消す事が多々ある。
 
 恐らく彼は、お忍びで城下を訪れている。

 そんな噂が場内に広がった頃…私は、ついに重い腰を上げた。
 
 そして王子の跡をこっそりつけてみると、ある平民の娘と抱き合っている所に遭遇したという訳だ。

「決められた相手との婚約なんて可哀そう…愛は自分で見つけるもの、自分で手にするものです。」

「そうだな…。そういうまっすぐな所が、君の魅力だ。俺の父もきっと理解してくれる…だからもう少し待っててくれ。」

「はい!必ず、私を迎えに来て下さいね?」

 そして二人は、口づけを交わした─。

※※※

 その後も、二人の関係は続いているようだった。
 
 王子としての職務も放り出して…これでは周りの者に示しがつかないわ。

「お前…まだ起きてたのか。」

「王子…まさかこのまま、お休みになるのですか?今日の分の職務が─」

「口うるさい女だ…俺はもう、お前との婚約を破棄する!」

「それは…あの平民の娘を迎えたいからですか?」

「…!気づいてたのか、だったら話は早い。俺は彼女に惚れている…いずれは彼女を、俺の妃にするんだ!」

「そんな勝手が、通用するとでも?」

「あぁ。だってお前は、城の者に嫌われてるだろう?最近、何人もの使用人を辞めさせた癖に…。どうせお前が俺の不在を良い事に、威張り散らし虐めてるんだろう?陰湿な女だな…あの無邪気で明るい彼女とは、大違いだ。」
 
「虐めなど…私は、ただ─」

「言い訳など、聞きたくない!もう、城からも出て行け!」

 王子は私を追い払うと、自室に入って行った。

 職務放棄の末に、私にありもしない言いがかりをつけ、婚約破棄を告げるとは…。
 
 あんな女に溺れては…あなたはもう、破滅寸前よ─。

※※※

「私、本当にお城に行っていいの?」

「勿論。あの女には婚約破棄を告げ追い出したし…城の皆も、喜んで君を歓迎してくれるさ。」

 俺は、彼女の手を引き馬車に乗せた。
 
 今日は城で、彼女の為にちょっとしたパーティーを開く。

 その為に、使用人たちにその用意をしておけと命令してあるからな─。

「…さぁ、入ってくれ。君の為に豪華な料理を用意した。」

「はい…え?」

 立ち止まった彼女に続き部屋に入ると…そこには何も用意されておらず、誰も居ない寂しい空間が広がっているだけだった。
 
「料理は…それに、城の者はどうした!」

 慌てて外に飛び出せば…庭に皆が集まっており、賑やかな声が上がった。

「お前達、務めを果たさず何をやっている!彼女を迎える準備をしておけと言っただろう!?」

 俺は彼女を連れすぐその場に向かうと、使用人たちをきつく叱った。

「そんな事、職務放棄で女と遊んでばかりのあなたに言われても何の説得力も無いわ。そもそもこんな女を迎える為のパーティーなど、くだらない事の為に彼らをこき使わないで。」

 するとそこには、婚約破棄を告げ城から追い出したはずの元婚約者が─。

 何故こいつが、王と共に居るんだ…?

※※※

「父上、見ましたでしょう?こんな生意気な女は、俺にふさわしくない。俺はこの女ではなく…彼女を妃にしたいんです!」

「馬鹿を言うな!こんな娘を、城に入れる事などできるか!」

「私が平民だからですか?そんな差別、良くないですわ!」

「お前のそれは、無邪気などではなく礼儀知らずなだけだ。身の程をわきまえろ、この悪女め!」

「悪女って…一体どういう事です?」

「彼女は、他国から逃げて来た窃盗団の一人です。その可愛さで男を誑かし、金目の物を盗み取る悪女なのです。」

「私、そんな事─」

「もう調べは付いてるの。今度の狙いはこのお城だったみたいだけど…そう上手くはいかないわ。」

 娘はその場で兵に捕り押さえられ、連れて行かれた。

「犯罪者をわざわざ城に招き入れるとは…何たる失態!お前には責任を取って貰う。お前はもう、この城の王子ではない!この城は、お前の弟に任せる事に決めた。」

「そんな…!ならばこの女も…こいつは城の者を虐め─」

「私は役立たずなあなたに代わり、城に忍び込んでいた彼女の仲間を調べ見つけ出し追放したまで。虐めどころか…犯罪が起きるのを未然に防いだのです。」

「もはやこの城に必要なのは、お前ではなく彼女だ。そんな優秀な者を、追い出すはずがないだろう?彼女は、改めて第二王子の婚約者になって貰う。」

「この城は、私と第二王子が守って行きますから…あなたは安心して、退いて下さいね。」

「い、嫌だ─!」

 その後、捕らえられた女は牢に入れられ…先に捕らえられていた仲間と共に処刑された。
 王子に取り入り、城の宝を奪おうとした代償は、余りに大きかったようね。

 そして私を捨てた王子は、この国の外れにある僻地へと送られた。
 愚かな王子に付き従う者は誰もおらず…彼は一人、そこで寂しく暮らして居るわ。

 十分反省したから、城に帰して欲しいと訴える手紙が届いたが…それはもう、叶う事は無いわ─。
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